堂島孝平【後編】×竹内朱莉(アンジュルム)対談Part2「竹内さんが歌うからこそ成立するものにしたかった」
2023.06.14
ソニー・ミュージックアーティスツ 他
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
今回は、自身の活動だけでなく、楽曲提供やサポートミュージシャンなど、多岐にわたる活躍を見せるシンガーソングライターの堂島孝平をフィーチャー。ポップソングの旗手として「葛飾ラプソディー」など数々の作品を発表しつつ、好きなものが次々と仕事に繋がってきた彼のバランス感覚とは。
中編は、堂島孝平が敬愛し、卒業シングル「行かなくちゃ」を提供した竹内朱莉(アンジュルム)との対談Part1。堂島孝平がアンジュルムと出会いハマっていった経緯と、交流が語られる。
堂島孝平 Dojima Kohei
1976年2月22日生まれ。茨城県出身。1995年2月21日、シングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビュー。1997年にリリースしたアニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のオープニングテーマ「葛飾ラプソディー」がヒットとなる。また、KinKi Kids、藤井フミヤ、乙葉、THE COLLECTORS、PUFFY、藤井隆、A.B.C-Z、Sexy Zone、Negicco、坂本真綾、アンジュルムら数多くのアーティストへの楽曲提供も行ない、近年ではKinKi Kidsの共同プロデューサーとして、レコーディングだけでなくコンサートメンバーとしても活動中。2023年6月21日より、ライブツアー『KOHEI DOJIMA TOUR 2023「POP dB」』がスタート。
竹内朱莉(アンジュルム) Takeuchi Akari(Angerme)
1997年11月23日生まれ。埼玉県出身。血液型O型。特技:書道・硬筆(正師範)。2011年にスマイレージに加入し、2019年よりアンジュルム(2014年にスマイレージより改名)の2代目リーダーとなる。公式ニックネームはタケちゃん。6月21日の横浜アリーナ公演をもってグループを卒業する。卒業ソロ曲「行かなくちゃ」を収録するアンジュルムのシングル「アイノケダモノ/同窓生」は6月14日リリース。
――(前編からつづく)まず、堂島さんがアンジュルムにハマった経緯から聞かせてください。
堂島:時期でいうと、2021年1月ごろですね。2020年の暮れぐらいから、アンジュルムを知るようになっていくんですけど、もともとはスタッフと「新しくて面白い女性グループいないかなぁ」という話をしていて。ちょうどコロナ禍でいろんな活動が制限されてメンタルが弱っていた時期だったんですけど、そこで、スタッフが教えてくれたのがアンジュルムだったんです。グループの存在は前から知ってたんですけど、ちゃんとパフォーマンスを見たのは、そのときが最初だったんですね。
――ちなみに最初に見た映像というのは?
堂島:初代リーダーの和田(彩花)さんの卒業コンサートですね。1曲目が「赤いイヤホン」だったんですけど、そこから何曲か見て、結構なショックを受けて。今もずっと思ってますけど、とにかくパフォーマンスがカッコ良かったんです。
竹内:いやあ、うれしいですね。「コロナ禍でファンになりました」って言ってくださる方はいらっしゃるんですけど、メンタルが下がり気味というときに、自分たちのパフォーマンスを見て、気になる存在になれたのはすごくうれしいなって思います。和田ちょの卒コンの「赤いイヤホン」は、自分たちでも「あれはカッコ良かったな」って思っていたので、伝わって良かったと思いますね。
――気持ちが落ち込んでる時期に出会って、ハマっていったわけですね。
堂島:そうですね。日本にこんなカッコ良いグループがいたんだなって思ったのがひとつと、あと、元気をもらう上で大きな要因だったのは、とにかくうるさかった、ってことですね(笑)。
竹内:あはははは。
堂島:そこからいろんな関連動画を見ていくんですけど、アンジュルムはずっとうるさいんですよ。特に2期と3期の皆さんがすっごくうるさい。でも、そのユーモアのあり方というか、振る舞いですよね。アンジュルムっていうグループのプロとしての振る舞いみたいなものに、すごくエネルギーをもらいました。
竹内:今、「プロとして」って言ってくださったんですけど、良く聞こえるように言ってくださってありがたいなと思います。私たちは、ただただ普通に楽屋のテンションのまま表に出ちゃってるだけなので。そういうふうに見てもらって良かったですね。
堂島:それがすごいと思うんですよ。アンジュルムは、与えられた場にいるだけという感じがしないんです。いつの時代のアンジュルムも自分たちの意志でそこに立ってる。それが、平たく言うと“楽屋の雰囲気そのままでいられる”っていうグループなわけじゃないですか。そんなのなかなか作ろうと思っても作れないし、すごいことだなって思いますよね。
竹内:いやあ、ありがとうございます。うれしいですね。
――堂島さんは、2021年3月14日に行なった自身のYouTubeチャンネルでの生配信の途中からアンジュルムへの想いが溢れ出して、“アンジュルム大好き配信”となりました。3月28日には幕張メッセで行なわれた『Hello! Project ひなフェス2021』に自身でチケットを購入して参加し、その後は生配信をするたびに、アンジュルムの曲を口ずさむようになりましたが、そういった活動がメンバーの耳に届いたのはいつごろでした?
竹内:『Hello! Project ひなフェス2021』に来ていただいたあとくらいですね。みんなで楽屋にいるときに、メンバーの川村文乃ちゃんだったか上國料萌衣ちゃんだったか、どちらかが「すごい人がめっちゃアンジュのファンになってる」みたいな話をしていて。「KinKi Kidsさんのライブに絶対いる人が、アンジュのことめっちゃ言ってる」みたいな。それで、その動画の配信を見たのかな? そしたら面白くて。みんなで「堂島さんに会ってみたいな~」って話してました。
堂島:そうですね……そもそも配信自体が自分の活動のコンテンツだったので、好きな気持ちを発信しているというよりも、漏れちゃっているというような感じで。出さないようにしたいんですけど、出ちゃうっていうのがそのころから始まったんですよね。
竹内:しかも、生配信で歌ってくださったのが、すごい前の曲だったから。「なんでこの曲なの?」ってみんなで盛り上がってました。
――ギターでイントロを弾いていた「マナーモード」(2019年)ですよね。
堂島:あんまりコピーやカバーをやらずにここまできたんで、ほかの人の曲をギターで弾けるようになってるっていうのが、自分にとっては本当に異常なことなんです。いろんなミュージシャンがいると思うんですけど、僕は作るほうが好きなタイプだったので。
竹内:そうなんだ。へぇー。アンジュルムのメンバーも堂島さんの生配信を楽しみにしてましたし、みんなでいつも見てましたね。
堂島:そんなこと全然知らなかったので……。これも自分のなかでは珍しいんですけど、仕事と関係なく好きになってるじゃないですか。だから裏を返すと、仕事にしなくていいものを好きになれた喜びみたいなのもあって。勝手に好きになってるっていう。だから、アンジュルムの皆さんと仕事をしてみたいなんていう気持ちはもちろん全然ないままやってたし、届いてるとも思ってなかったんで。それを見られてたと思うと……。
――でも、同年6月に出演されたYouTube番組『豪の部屋』では「アンジュルムへの提供曲のストックがある」と語っていました。
堂島:アンジュルムのコンサートの映像をずっと見ていたら、自分が作ってきた曲のストックに対して「これアンジュルムっぽいな」って感じるような脳にどんどんなっていったという。提供したいとか、歌ってほしいってことじゃなくて、自分ひとりで遊びとしてそういうことをやっていたんです。自分の作曲活動のなかにもアンジュルムが浸透してるっていう意味で言ってたんですけど。
――しかもこのとき、アンジュルムは歴史が長いグループなので、「間に合ってたらミュージシャンやめてた可能性がある」という発言もありました。
堂島:そうですね、アンジュルムになりたいなと思い始めたころだったから。
竹内:(手を叩いて)あはははは。
堂島:なんで自分は、ソロでデビューしちゃったんだろ? って。アンジュルムになれるものならなりたかったのに、ぐらいな時期だったんですよね。
竹内:すごすぎる! めっちゃ面白い!!
――(笑)その2カ月後、2021年8月12日に放送されたBSスカパー!『アンジュルム竹内朱莉デビュー10周年記念特番〜朝まで生竹内!』(通称:なまたけ)に堂島さんがゲスト出演されました。
竹内:番組サイドから堂島さんに声を掛けてくださって、そこで初めてお会いして。堂島さんが入るタイミングとメンバーがいるタイミングが被るのはわかっていたので、みんなで「絶対に『マナーモード』を歌ってもらおう」って話してて。私たちはすごい楽しみでした。いつ来るんだろう、いつ来るんだろうみたいな感じで待ってて。
堂島:いやー、僕はすごい尊敬してる大好きなグループの人たちと初めて会うという緊張と、演者として呼ばれたからにはちゃんとやらなきゃいけないっていうその狭間で、自分が分裂してるのがわかって。
長い廊下を歩いてスタジオに向かってたら、90度曲がっている角のところから、竹内さんと上國料さんと川村さんが3人で顔出してて、それが忘れられないですね。全然カメラが回ってないところで「ちょっと待って! ヤメてー!」って絶叫しちゃって。もう、どっちの自分かわからなくなっちゃって。演者としての自分だったら、「おはようございます」って言えば良いだけなのに、やっぱり「ちょっともう、無理」ってなって。
――(笑)
堂島:廊下で3人が花道を作ってくださって。そこを通ってスタジオのブースに入ってギターのサウンドチェックをしようとしてたら、いきなり「『マナーモード』やってください!」って言われて。それで「マナーモード」のイントロを弾いたら、「本物だー!」って言われるんですよ。
――本物に?
堂島:意味わかんないですよね。本物に「うわー、本物だー!」って言われるっていう。極めてアンジュルム的な歓迎でしたね。気付いたら、もうエネルギーの渦のなかに放り込まれてた感じで。
――そのときに、竹内さんが自身のバースデーイベントへの出演やアンジュルムへの楽曲提供をお願いしたんですよね。
竹内:そうですね。ほぼ冗談ぐらいのつもりで言ってたんですけど。
堂島:それがなければ、今、こうはなってないと思います。
竹内:もう勝手に口から出てきてましたね。「曲作ってください」とか、「今度のバースデーイベントにも出てください」とか、勢いのまま、ほぼノリみたいな感じで言ってました(笑)。
まさか本当に出てくださると思ってなくって。自分のイベントも、今年は何しようかなって思ってたら、堂島さんから「そういえば、あの件どうなりました?」ってマネージャーさん伝いに言ってきてくださって、あ、本当にやって良いの? って思って。それで、「じゃあお願いします!」みたいな感じで実現しましたね。だから、堂島さんが言ってくださらなかったら、イベントはそのまま普通にひとりでやってたと思います。
――堂島さんはスケジュールを空けてたんですね。
堂島:いや、出ないんだったらファンクラブでチケット入金をしないといけないから。
竹内:そっちか!
堂島:入金の期限が迫ってたので、「どうなってますかね?」って聞いて(笑)。もちろん、番組のなかでのリップサービスで言ってくれてるってこともわかっていて、でもやれるんだったらやったほうが良いかなっていう気持ちがあったんですよね。
僕、あんなにギターを練習したことないです。あのときも自分が分裂していて、楽屋で「帰りたい」って言いながらも、練習の手は止まらない、みたいな。
――(笑)そのバースデーイベントでは、『なまたけ』でもセッションした「君だけじゃないさ...friends」に加えて、「七転び八起き」「私の心」「忘れてあげる」の4曲をセッションしました。
堂島:あれはほぼリハーサルなしだったんですよ。慣れてるんだったらわかるんですけど、ギター1本のスタイルはあまりやってないっていう状態で、本番でやってのけちゃう。すごくカッコ良いとも思ったし、竹内さんの誇りも感じました。ちゃんとステージの上に立つ人として、絶対に成立させるっていうプライドに感激しましたね。
竹内:ありがとうございます。めちゃくちゃ楽しかったです。このときがすごく楽しかったから、なんかまた機会があったらやりたいなって思ってました。
――そして、翌年の2022年5月にリリースしたシングルに収録されている「愛すべきべき Human Life」で楽曲提供をしています。
アンジュルム『愛すべきべき Human Life』Promotion Edit
堂島:なんて言ったら良いんだろう。自分が好きなものの一部になるってことじゃないですか。それは、これまでにあまり経験のないことだったので、何度も何度も「これで合ってるんだろうか?」と自問して作ってました。
最初は、「やりたくない」って思ってたんですよ。それは、嫌な仕事ですっていう意味じゃなくて、受け取る側としてその存在の大きさを知っているグループの、発信する側に回るっていうことに対して、そこは知らないでいたいという気持ちがあって。
ただ、5月に発売された竹内さんのソロ写真集でもダブル編集長をやられた蒼井(優)さんと菊池(亜希子)さんが、かつてアンジュルムのムック本『アンジュルムック』を作った際に「これは私たちの使命です」って言ってるのを見て、「あー、これは使命なんだ」って気付いて、腹くくってやったっていう。
竹内:あははは。すごい! そこも繋がってるんですね。
堂島:そうなんです。好きになったっていうことは、自分の場合は、イコールこれをやるっていうことなんだなと思ってやりましたね。使命感みたいなものがめちゃくちゃありました。
竹内:ありがとうございます。歌詞を見た瞬間から、もうアンジュの曲じゃんって、みんなで言ってて。普段の私たちがやってる、ちょっとしたことが描かれてたり、いつも私たちが言ってるような言葉が入ってたりするのを見て、すごい感動しました。しかも、まだライブで声出しができない時期だったんですけど、「これ、声援ありだったらめっちゃ盛り上がるじゃんね」って言ってたんです。
堂島:普段からアンジュルムの皆さんが「アンジュが好き」っていう気持ちを自分たちですごく発信していて。そういう発言が多い割には、曲のなかで「アンジュ最高」って歌う曲はあまりないかもしれないなと思って。
声出しできないからこそ、“And you/And you”=“アンジュ/アンジュ”っていうふうにご本人たちが言えちゃえば、成立するかなと思って。確かに、声出しを見据えて、ライブでさらに機能するようになっていくんではないかとも思いました。
――今ではライブで欠かせない曲になってますね。
竹内:ラストの曲だったり、後半の盛り上がるところだったり、絶対に入る曲になってますね。しかも、今、声出しができるようになって、ファンの方も楽しそうに「アンジュ! アンジュ!」って叫んでるので、すごく楽しいです。
あと、ほどよくちょっとふざけられるのも良いんですよ。バキバキに踊らなきゃいけない楽曲が多かったりするなかで、一番アンジュの素の部分をステージ上で見せられる1曲になったので、本当に好きですね。
堂島:うれしい……。マジでうれしいです。この曲を初披露するコンサートを観に行ってたんですね。初披露するとは聞いてたんですけど、どのタイミングでやるかはまったく知らないまま観ていて。そしたら終盤まで出てこなくて、もう「46億年LOVE」や「大器晩成」とかのアンセムがきて……。そこまですごく楽しかったのに、後半ぐらいから、「あれ? いつやるんだ?」って不安になってきて。そしたら最後の最後が「愛すべきべき Human Life」。もう本当に吐き気がしましたよ。
竹内:あはははは。
堂島:観てたけど、観た気がしないというか、不思議な感覚はありましたね。周りのファンの人たちがどう反応するんだろうかっていうところも含めて、もうちょっと楽に観ていられる曲順でやってくれれば良いのに。本当に最後の最後にやるから。
竹内:オーラスでしたね。初披露のときの公演が始まる前の円陣では「堂島さんが来てるから今日は頑張ろう」ってみんなで言いました。
堂島:あ、すみません、吐き気というのはやっぱナシにして。そういうふうに思ってもらってたんなら、全然さわやかに観てました。「最高!」と思って観てました(笑)。それは冗談としても、その後のライブであの曲が機能してるのを見て、うれしいっていう感覚を少しずつ実感するようになりましたね。
文・取材:永堀アツオ
撮影:干川修
アンジュルム「アイノケダモノ/同窓生」
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