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連載Cocotame Series

Room X

宮本笑里× 天野つばめ――『ニライカナイ』という物語から生まれた音楽

2023.08.09

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異職の者同士が出会うことで生じる化学反応。そこから生まれる新たな作品やカルチャーについて、当事者たちが語らう対談連載「Room X」。

今回はヴァイオリニストの宮本笑里と、小説家の天野つばめの対談をお届けする。今年3月から4月にかけて、小説投稿サイト『monogatary.com』において『宮本笑里 コラボコンテスト』が開催された。“あなたにとって特別な場所・残したい風景”をテーマに物語を募集し、天野つばめの『ニライカナイ』が大賞を受賞。この物語のイメージをもとに宮本笑里がイメージ曲を作曲し、8月発売予定のアルバム『image23』に同曲が収録される。

物語と音楽のコラボレーション。そこにはどんなプロセスがあったのだろうか? ふたりが作品に込めた想いや制作の背景、互いの作品への印象について語り合ってもらった。

  • 宮本笑里プロフィール画像

    宮本笑里

    Miyamoto Emiri

    ヴァイオリニスト。東京都出身。14歳でドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第1位入賞。その後は、小澤征爾音楽塾、NHK交響楽団などに参加し、2007年『smile』でアルバムデビュー。さまざまなテレビ番組、CMにも出演するなど幅広く活動中。2022年7月にデビュー15周年を迎え、記念アルバム『classique deux』をリリース。 使用楽器はDOMENICO MONTAGNANA 1720~30でNPO法人イエロー・エンジェルより貸与されている。

  • 天野つばめプロフィール画像画像

    天野つばめ

    Amano Tsubame

    東京都出身。2020年夏より執筆開始。『タイムカプセルに恋文を』で「第1回らくむぎ出版コンテスト」優秀賞受賞(つむぎ書房より出版)。『世界を壊す爆薬』で「きみの物語が、誰かを変える。小説大賞」短編賞を受賞。『静かな夜は有料です』で「ノベマ!第36回キャラクター短編小説コンテスト」最優秀賞受賞。『空の魚』で「WonderWord×monogataryコラボコンテスト」の優秀賞を受賞するなど活躍している。
     
    monogatary.comでのプロフィールはこちら(新しいタブで開く)

物語が音楽を引き出してくれる

──『monogatary.com』のコラボコンテストでは、宮本さんも応募作品を読んで選考されたそうですが、参加してみていかがでしたか?

宮本:すべての応募作品のなかから、絞られた20作品ほどを読ませていただきました。私は日ごろから本を読むのが大好きなので、とても楽しみにしていて、あっという間に読み終わってしまったのですが(笑)。なかでも天野さんの作品、『ニライカナイ』がひときわ目に止まりました。読んだあと穏やかな気持ちになり、物語の風景や空気感がわあっと頭に浮かんできて、本当に素敵だなって。

天野:ありがとうございます。今回の『ニライカナイ』に限らず、私はいつも映像が頭のなかにあって、それを文章で書いていくというやり方で進めているのですが、“あなたにとって特別な場所・残したい風景”というテーマを見て、はじめに思い浮かんだのが家族旅行で行った沖縄の海でした。

大賞受賞作『ニライカナイ』全文はこちら(新しいタブで開く)

宮本笑里画像1

──宮本さんも海が好きだと伺いました。

宮本:そうなんです。私も天野さんと同じで、家族旅行で沖縄に行ったことがあって。あの海の美しいブルーを『ニライカナイ』を読みながら思い出しました。それに加えて、音楽や楽器に関わる言葉も登場していたので、曲のイメージも膨らみやすかったですね。

──『ニライカナイ』のイメージ楽曲を作曲するにあたって、どのようなプロセスがありましたか?

宮本:私は日常生活のなかでふとメロディが浮かんでくるというタイプではなく、「曲を書こう!」と思って考え始めるタイプなので、いつも作曲に時間がかかってしまうのですが、今回は読んでいる最中から音楽のイメージが頭のなかで広がって、アイデアがあふれてきました。今まではそういうことってあんまりなかったんです。

──いつもの作曲方法とは違いがあったと?

宮本:そうですね。普段はまず自分で曲のテーマを決めるところから始まるので、「どこに絞っていこうか」という迷いがあって。例えば以前、“海”をテーマに、イタリアのカプリ島をイメージした「Marina Grande」という曲を作ったことがありました。

そのときは、「オーケストラと共演したいな」とか「教会で弾いたらどんな響きになるだろう」といったように、時間をかけて考えをめぐらせてから、やっとイメージがまとまって書き始めることができました。

ところが今回は、素敵な物語を読んで、そこから音楽でどう寄り添えるのかと考えたら、すんなりイメージがまとまったんです。メロディも、これまでで一番速いくらい、ぱっと浮かんで。もちろん、そこから仕上げまでは丁寧に時間をかけましたが、私のなかでは新しい刺激をもらえました。『ニライカナイ』という物語から音楽を引き出してもらえたというか、そこで響くべき音を誘導してもらった感じでしたね。

天野:宮本さんにそんなふうに言っていただけるのは、とてもうれしいです。

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──ヴァイオリンとギターという編成は、はじめから決められていたのでしょうか。

宮本:一番最初のデモ音源は、ヴァイオリンとピアノで作っていました。でも物語のなかに出てきた“アコースティックギター”という単語が鮮明に頭に残っていて。仕上げの段階では、ヴァイオリンとギターのデュオのほうがよりイメージに合うと感じていたので、こちらを提案しました。壮大で大きな編成より、『ニライカナイ』に出てくるふたりが語り合うような、日常的で穏やかな空気感を音楽でも表現できたらと思って作りました。

天野:本当に細かい描写まで汲み取っていただいて感激しました。イントロから“まさに沖縄”という心を掴まれるメロディが入ってきて。そこからフレーズが繰り返されるのですが、“つづいていく物語”という、私がテーマとして伝えたかったものをしっかり表現してくださっていると感じました。母なる海のような懐かしさを感じる、とても優しいメロディです。

宮本笑里 『ニライカナイ』GIFアニメMV 60分Version

テーマから言葉を連想して、組み合わせていく

──天野さんは、『monogatary.com』に120作品以上投稿されていて、ヒューマンドラマや恋愛、ファンタジーなど、これまでに多彩な作品を書かれています。今回の『ニライカナイ』では、沖縄の伝承をベースに、出会いと別れを繰り返す“僕”と“清香(きよか)”の、生涯にわたる純愛を描かれました。この物語は、どのようにして生まれたのでしょう?

天野:お題が提示されているときは、そこから連想される言葉、例えば“永遠”とか“悠久”などを、頭のなかでメモしていきます。今回は“あなたにとって特別な場所・残したい風景”というテーマだったので、環境保全の視点から“サステナビリティ”といった言葉についても調べてみたり。そこからさらに“めぐり合い”“輪廻転生”“運命”と連想していって……そうしていくうちに出会ったのが『ニライカナイ』という、沖縄の伝承でした。

キーワードを並べていくと、頭のなかに物語が浮かんでくるので、絶対に書きたいシーンと、最初と最後のシーンを繋げていくように書いていきます。あらかじめ考えている部分と、書きながら思い浮かぶ部分の割合はそのときどきですが、書きたいところから書いていくというのは、いつもと変わりませんでした。

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──連想を重ねて、最後にピースを組み合わせていく。まるでパズルや地図のようですね。宮本さんも、作曲においてそのように素材を組み合わせていくことはありますか?

宮本:ボイスレコーダーに録音しておいて、「ここはサビだな」「ここはAメロだな」と思いながら聴き返したり。バラバラに作って、最後に組み合わせるといったやり方で作曲することが私も多いですね。私は歌が下手なんですけど(笑)、作曲するときはまず歌ってみて、そのあと、楽器で弾きながら音を探っていきます。誰でも口ずさめるようなメロディだと、聴いてもらったときに心地良いんじゃないかなと思って。

──天野さんは、『ニライカナイ』で今までの作品と異なることにチャレンジしたり、執筆の上で苦労したことはありますか?

天野:チャレンジというのとは違うかもしれませんが、登場人物の幼少期から晩年に至るまでの長い人生を描いたのは初めてでした。その点で苦労したのが、冒頭のおじいちゃんと孫のセリフ回しで……。

このシーンでは、物語の情報的な部分と情緒的な部分、両方を入れないといけなかったのですが、情報的なセリフは下手な入れ方をすると、お説教みたいな硬い表現になってしまいがちです。このシーンでは、おじいちゃんが孫に語りかけているので、あまり難しい言葉は使えないし、自然な会話文になるようにしなくてはいけない。すごく大事なシーンだったので、最後まで推敲に推敲を重ねました。

宮本:だから私は『ニライカナイ』に惹かれたのかもしれません。描かれているシーンの映像は頭のなかにはっきりと浮かぶのに、読み手側が想像をめぐらせる余白も残されていて。冒頭のシーンでも、おじいちゃんと孫の日常がリアルに浮かんできました。私は最初の1文で、物語の世界観に入り込めるかどうかが決まってしまうことが多いんですが、『ニライカナイ』についてはすっと入り込めましたね。

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──やはり“掴み”の部分は重要ということですね。

天野:キーワードとして挙げた“めぐり合い”とか“運命”というとドラマティックに盛り上がるイメージがあると思うんですけど、『ニライカナイ』はあえて穏やかな雰囲気で物語を進めていけたらなと思っていました。

過去の人々……誰かのおじいさん、おばあさんが残したいと思ったもの。そして、それを受け継ぎ「これからも残していこう」という想い。そのふたつの側面を見せていきたい、それを大切にしていこうというメッセージを込めました。

──受け継いできたものを「これからも残していきたい」という思いは、クラシック音楽とも通じるものがありますね。

宮本:そうですね。例えばヴァイオリンやチェロのような楽器は、何百年も前から人から人へと渡って大切にされつづけてきた存在で。私が今お借りしてる楽器も、これから何年たっても残っていってほしいです。

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『monogatary.com』というあたたかなコミュニティ

──宮本さんから天野さんに質問したいことはありますか?

宮本:今回のことがきっかけで、天野さんがこれまでに書かれた詩や物語など、いろんなものを読ませていただいたのですが、本当にたくさんの引き出しを持っていらっしゃってすごいなと。その幅広さって、一体どこから引き出されてくるのですか?

天野:引き出しが多いなんて、自分では自覚がなかったです(笑)。でも、そうですね……漫画やアニメなど、創作のためというわけではなく、趣味で読んだり見たりしたものの影響がやっぱり大きいと思います。

──ちなみにおふたりは普段、どんな本を読まれることが多いですか?

宮本:私は特にこのジャンルだけ読むということはなくて、手に取って、気になるものがあればどんな本でも読みます。そのなかで特にというのを挙げると、赤川次郎さんの作品は、小学生のころからよく読んでいました。最近では辻村深月さんの作品や、心理学に関連した本を読むことが増えてますね。

天野:私もいろいろな本を読みますが、宮本さんと一緒で辻村深月さんが大好きです。特に『スロウハイツの神様』(辻村深月著)は傑作だと思っています。あとは、湊かなえさんの作品も大好きでよく手に取ります。

──天野さんは、いつごろから小説を書こうと思われたんですか?

天野:2020年からですね。コロナ禍によってステイホームで外出がしづらくなったときに、さまざまなコンテンツに触れる機会が増えたので、自分でも書いてみようと思ったのがきっかけです。『monogatary.com』に投稿し始めたのは、2020年の夏ごろだったと思います。最初に投稿した作品は、今はもう消してしまったんですけど、ガールズバンドのお話でした。

宮本:天野さんが書くガールズバンドの物語、読んでみたいですね!

天野:じゃあ、どこかでこっそり(笑)。

──逆に天野さんから宮本さんに質問したいことはありますか?

天野:音楽に携わっていて、今までで一番うれしかったこと、楽しかったことはなんですか?

宮本:ヴァイオリンを毎日何時間も、何百回も練習して、時には皆さんに見えないところで泣いてしまったりもしながら音楽をやってきましたが……、やっぱりコンサートで演奏して、お客さまが笑顔で聴いてくださっているのを見たときに、一番の幸せを感じますね。これは音楽に限らず、天野さんもそうですし、“誰かに喜んでもらいたい”と思って何かに取り組んでいる方たちには、共感してもらえることかなと思います。

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──それでは、天野さんが小説を書いていて今までで一番うれしかったことは?

天野:はがきでファンレターをいただいたことですね。

宮本:手書きのお便りですか! それは素敵ですね!

天野:はい、そのときは人のぬくもりのようなものが感じられて、うれしかったですね。あと、『monogatary.com』でいただくコメントも、すごく活発で。読者の皆さんがお互いに「良かったです! 面白かったです!」とやり取りし合うようなあたたかさがあって、『monogatary.com』のそういう空気感が好きなんです。それと、これは『monogatary.com』の楽しい機能なんですが、ユーザー同士で挿絵を送り合うことができるんですね。小説を読んで、ファンアート的に、挿絵を描いてくださる方がいらっしゃって、そういうクリエイティブからも刺激をいただいています。

──それでは最後に、おふたりが「残していきたい、これからもずっと見ていきたい」と思う風景を教えていただけますか?

宮本:私は海も好きですが、緑も大事だなと思います。日ごろは時間に追われて忙しく過ごしていますが、木々のある空間に身を置くだけで心が洗われる瞬間というのがありますよね。なのでやっぱり、今、目の前にある自然を大事にする、自分たちで傷つけてしまったものは、自分たちの手で治していく。

絶対に残していかなくてはけないもの、次の世代の人たちに引き継がなくてはいけないものを、みんなで守っていけたら良いなと感じますね。

天野:宮本さんと重なるんですけれど、海と対になるものと言ったら、山ですよね。山からあふれる水が川になり、川が流れていった終着点が海。だからこそ、山の自然、風景も守っていきたいです。今回、『monogatary.com』の皆さんのおかげで、改めてその点にも気付きを得ました。また、このようなチャンスをいただけたらチャレンジしたいと思います。

文・取材:加藤綾子
撮影:増田 慶

関連サイト

宮本笑里 オフィシャルサイト
https://www.emirimiyamoto.com/(新しいタブで開く)
 
天野つばめ X
https://twitter.com/tsubameamano?s=20(新しいタブで開く)
 
『monogatary.com』
https://monogatary.com/(新しいタブで開く)
 
『monogatary.com』Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/c/monogatarycom(新しいタブで開く)
 
『image』シリーズ オフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/image/(新しいタブで開く)

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