ソニーミュージックの新オーディション『The Global Playground Audition』――開かれた門戸は海外に通じる【後編】
2023.08.08
2023.08.08
「オーディション ~原石の発見」は、ソニーミュージックグループが関わるさまざまなオーディションをピックアップし、開催の舞台裏、求める才能、そこに込められたスタッフの思いなどを掘り下げて聞く連載企画。
今回は、海外の音楽フェスへの出演を目指す新オーディション『The Global Playground Audition』を取り上げる。本オーディションの第1弾は、アジアの音楽フェス「Maho Rasop Festival」(タイ)、「ROVING NATION FESTIVAL」(台湾)の出演権を懸けて、新しい才能を募集。世界に打って出たいと考えているアーティストを探している。
インタビュー前編では、オーディション開催に至るまでの経緯とオーディションのコンセプト、そして担当者たちが出会いたいと考えている才能について話を聞いた。
天野ジャック
Amano Jack
ソニー・ミュージックエンタテインメント
佐藤勝好
Sato Katsuyoshi
ソニー・ミュージックエンタテインメント
大坪麻夕子
Otsubo Mayuko
ソニー・ミュージックエンタテインメント
小泉千夏
Koizumi Chinatsu
ソニー・ミュージックエンタテインメント
『The Global Playground Audition』は、世界で活躍できる才能を発掘するため、ソニー・ミュージックエンタテインメントの新人発掘・育成を担う部門であるSDグループを主体としたチームが主催する新オーディション。目指すは、海外の音楽フェスへの出演で、第1弾はアジアの音楽フェス「Maho Rasop Festival」(タイ)、「ROVING NATION FESTIVAL」(台湾)への出演権が懸かっている。
 
■募集期間
2023年7月10日(月)18:00~2023年8月21日(月)17:00
 
■募集要項
・年齢制限なし
・国籍不問(但し日本国内在住に限る)
・ジャンル・形態不問
・ライブ審査に参加できる方
・フェスティバルの本番日の両日またはいずれかの日程に参加できる方
・特定の事務所/レーベルと契約のない方
 
■応募方法
『The Global Playground Audition 2023』オフィシャルサイトの応募フォームから
※詳細情報はオフィシャルサイトに記載
──新たに始まった『The Global Playground Audition』は、海外の音楽フェスへの出演を懸けたオーディションです。このプロジェクトが発案された背景を教えてください。
ジャック:今や音楽業界でもグローバル、海外展開という言葉を耳にしない日はありません。そんななか、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)で新人を発掘、育成する我々SDグループは、国外を主戦場として世界規模で活躍できるアーティストを見つけられているのかという自問自答がありました。
それに加えここ数年、アイドルを除いて“メジャーデビュー”というプライズが、今の若い人たちに刺さらなくなってきているとも感じていました。ひと昔前だったら、レコード会社からの“デビュー確約”という言葉に魅力を感じる人は多かったかもしれません。でも、今は「デビュー? いや、興味ないし」「曲を作って、SNSにアップしてみんなに聴いてもらうだけで満足」という人が増えています。であるならば、そういう人たちにも興味を持ってもらえるプライズは何か? と考えたのが『The Global Playground Audition』を立ち上げるきっかけでした。
──国内で開催されるフェスへの出演権を懸けたオーディションというのは事例がありますが、海外フェスへの出演権というのはあまり聞いたことがありません。
ジャック:そうですね。海外音楽フェスへの出演権ということでは、国内ではまだ事例は少ないと思います。メジャーデビューへのニーズが少なくなってきていると言いましたが、実は「デビューには興味がないけど、フェスには出たい」という声はよく聞くんです。実際、ソニーミュージックグループも携わっている『出れんの!?サマソニ!?』をはじめ、国内フェスへの出演権を懸けたオーディションは好評で、コロナ禍で開催できなかった年もありましたが、毎年多くの応募があります。
この事実を踏まえ、さらにグローバルに視野を広げれば、アーティスト、クリエイターの心はもっとワクワクするかもしれない。チーム内にも海外でライブや音楽事業に関わるスタッフがいたので、みんなで相談しながら今回のオーディションを実現させました。
小泉:私はジャックさんと同じSDグループに在籍していますが、最初に企画を聞いてシンプルに楽しそうだなと感じました。韓国から日本に来てすごい人気を獲得するアーティストもいるので、逆に日本のアーティストが海外で話題を集めることも充分あり得ます。海外フェスに出演するアーティストと出会えるのが、今からとても楽しみですね。
──プロジェクト自体は、いつごろ発足したのでしょうか。
ジャック:もう3年ぐらい前から、ギャーギャー言ってました(笑)。ただ、私にはそんな企画を実施した経験も海外とのコネクションもなかったので、大坪さん、佐藤さんのように海外でバリバリ活躍しているスタッフから情報を収集して、フェス出演の確約も取ってもらい、ようやく実現できました。私ひとりでは到底実現できなかったプロジェクトです。
──大坪さんは、SMEのREDエージェント部に在籍しています。改めてREDはどのような部門なのでしょうか。
大坪:REDは、ネットクリエイターや海外展開を目指すアーティストなどが所属するSME内のレーベル兼エージェント・マネジメントを行なう部門です。所属アーティストは、YOASOBIをはじめ、ねぐせ。などのバンドやシンガーソングライター、ラッパーとジャンルはさまざまで、すりぃ、稲葉曇、ChinozoなどボカロPが多数所属しているのも特徴です。
また、海外ツアーを行ない、世界各国、各地域でのフェスにも多数参加しながら、海外アーティストとも積極的にコラボしている、アーティストも所属しています。RED内にはほかにも、音楽作家が所属する楽曲部や、2.5次元の舞台を中心に活動する俳優たちが所属しているアクターズマネジメント部などもあります。
──ジャックさんから、大坪さんは海外での経験が豊富という話がありましたが、海外でどういった経験を積まれたのでしょうか。
大坪:私は、10代のころから欧米やアジアに長く住んでいた経験があって、それがキャリアのベースになっています。その上で、SMEではREDに所属していたアーティストがバンコクに移住し現地で活動をするという日タイ混合グループのプロジェクトに携わっていたことがきっかけで、去年から今も頻繁にタイに行っています。そこでタイの方々とのつながりが生まれ、さらに東南アジアにもネットワークが広がり、いろいろな情報が入ってくるようになりました。
そのようなこともあって、今回のオーディションではアジアのフェス開拓を担当しました。また、最近は所属アーティストの海外ツアーや海外フェスへの出演が増えてきたので、帯同してアジア各地や欧米などを飛び回っています。
──佐藤さんは、SMEのライブクリエイティブグループで新規イベントの立ち上げ、ライブ制作などに携わっていると伺いました。海外での案件も増えているのでしょうか。
佐藤:はい。基本的には国内アーティストが海外で行なうライブ制作がメインですが、コロナ禍でグッと抑えられていたグローバルのミュージックシーンが、ここに来て一気に動き出しています。去年は、サウジアラビアから声が掛かり、アニソンアーティストのライブイベントを2カ月開催しました。その期間はずっと現地に滞在し、毎週日本から入れ替わりでやって来るアーティストを迎え、ライブをして……を繰り返していました。
私は、ソニーミュージックグループに入る前は東北地方に拠点を置くイベンターの会社に勤めていたので、海外とのコネクションはまったくなかったんです。でも、サウジアラビアのイベントなどを経て、ノウハウを得ることができ、海外でのイベント制作の機会が増えていった結果、ジャックさんから「『The Global Playground Audition』を一緒にやろう」と声を掛けていただきました。
──『The Global Playground Audition 2023』でオーディションに通れば、タイのバンコクで開催される「Maho Rasop」、台湾の「ROVING NATION FESTIVAL」に出演できることになります。それぞれのフェスの特徴、なぜこのふたつと組むことになったのかについて教えてください。
ジャック:実を言えば、最初は「できるだけ大きいフェスに出られたほうが良いだろう」という考えで、タイ国内のいくつかの大型フェスを検討しました。ただ、規模が大きいとそれだけコストもかかってくることがわかり、『The Global Playground Audition』で我々がやりたいこととは、離れていってしまうのではと感じていたんです。
そんななか、“国籍、ジャンルなど関係なく良い音楽を届けたい!”という強い意思を持ち、同じ熱量で会話できたのが、このふたつのフェスのオーガナイザーたちだったんです。
佐藤:大坪さんを通じて出会ったタイの「Maho Rasop」チームは、我々と同じ目線で、かつ楽しんでオーディションに取り組んでくれる方々だと思えました。ジャックさんが求めているのはきっとこういう方々だ、と肌感覚でわかったので彼らを紹介しました。
ジャック:それで即断即決して、先方にも出演枠を確保してもらったんです。
──「Maho Rasop」と「ROVING NATION FESTIVAL」は、それぞれどのくらいの規模の音楽フェスなのでしょうか。
大坪:「Maho Rasop」は去年2日間の開催で、合わせて約1万人を動員していて、今年も同じくらいの規模での開催ですが、昨年よりも海外からのアーティストが多くラインナップされています。そのため、お客さんもさまざまな国や地域から来場することが予想されています。
「ROVING NATION FESTIVAL」は2020年が初開催でしたが、3日間で4万5,000人が来場した台中最大規模のフェスです。また、去年までは台湾のアーティストのみで構成されていましたが、コロナ禍が明けた今年は、海外アーティストのブッキングにも力を入れています。
──「Maho Rasop」は、音楽性に強いこだわりを持つラインナップが特徴ということですが、どのような特色があるのでしょう。
大坪:「Maho Rasop」は、インターナショナルインディーフェスティバルというコンセプトを掲げていて、いわゆるBillboardのランキングトップ100に入るような大ヒット中のアーティストではなく、独自の世界観を音楽で表現し、グローバルの舞台で勝負できる実力派のアーティストを厳選しているようです。去年はコロナ禍だったためアジア圏のアーティストが多かったのですが、今年は欧米やオーストラリアのアーティストもラインナップに上がっています。
ジャック:「Maho Rasop」のホームページを開いてもらうとわかるんですが、エッジが立っていて、カルチャー感が漂ってくる良い雰囲気なんです。何というか……音楽ファンの心をくすぐってくる良い匂いがするんですよね。
大坪:タイも現在エンタメが盛り上がっているので、それこそ音楽フェスは無数に開催されているんですが、割と似たようなラインナップが多いんですね。そんななか、「Maho Rasop」は流行に左右されない顔ぶれが並んでいるんですよね。音楽好きな人たちが突き詰めたラインナップと言えると思います。
──かつて、オーディションはデビューの登竜門とされていましたが、SNSという活躍の場ができたことで、アーティスト側の意識も変わってきているのでしょうか。オーディションを開催するにあたってどのような点に難しさを感じますか。
ジャック:やはりインターネットの影響力は無視できませんね。誰もが世界に向けて自ら発信できるようになったので、今では世界に10億人のDIYアーティスト、クリエイターが存在すると言われています。そして彼らの意識としては、配信=世界デビュー。なので、インターネット、SNSが普及する以前とは、オーディションをめぐる環境も大きく変わっています。
小泉:SNSでの作品発表が定着して、自分の姿を表に出さなくても活躍できることが証明されました。顔は出さずに、歌声だけでデビューするアーティストも急激に増えています。「私はSNS上で活動したい」「表には立ちたくないけど歌は歌いたい」と、アーティストが生まれるプロセスの幅も広がったと感じます。
ジャック:ただ、SNSがここまで普及する以前から、オーディションで大ヒットするアーティストを発掘するのは難しかったんです。告知すれば人が集まるかと言ったら、そんなに甘いものじゃない。来ない人は来ないですからね。
小泉:普段ライブハウスで活動している方々のなかには、企業が運営するオーディションはハードルが高いと感じる方もいるようですし。
ジャック:あとは、オーディションに応募するという行為自体がクールじゃないと考える人もいますよね。「お前らが見つけに来いよ」というアティテュードの人たちも当然います。でも、我々は欲張りだから、あらゆる才能と出会いたい。そうなったときに、何が最善なのかを常日頃から考えているんですよね。今回のオーディションは、試行錯誤しながら立てた作戦のうちのひとつ。あとは、実際に開催してどんな出会いがあるか、ワクワクしながら進めています。
──コロナ禍を経て、新人の発掘、育成方法も大きく変わったのではないかと思います。SDグループとしても、時代に応じて新人発掘の在り方を模索しているんですね。
ジャック:そうですね。コロナ禍前は、ともかく足で稼ぐ! 全国のライブハウスに通ってなんぼ。でも、コロナ禍では行きたくても、そもそもライブがほとんど開催されなくなってしまって。そのため、ネット上の情報に頼らざるを得なくなり、ほぼPCとスマホ頼みになっていました。小泉なんて、2020年入社だから大変だったよね?
小泉:はい。入社後、約1カ月で緊急事態宣言が発令され、出社できなくなりました。学生時代はライブハウスが大好きで、「SDグループで良いアーティストを見つけたい!」と張り切っていたのに、そもそもライブハウスが営業していなくて……。SNSをチェックする日々でした。
ジャック:そういった社会様式の変化も踏まえて、SDグループでは新たな新人発掘企画をいくつか立ち上げました。TikTokの皆さんと一緒にクリエイティブ・コミュニティ「アトリエプロジェクト」を始めたり、ネットクリエイターとの出会いの場となる「Puzzle Project」を運営したり。コロナ禍が収束するまでは、完全にネットに振り切りましたね。
だからこそ今、ライブができるようになって、その揺り戻しが来ているように感じていて。これまで抑えつけられていた反動で、溜めていたものがバーンと弾けて、今みんなめちゃめちゃ元気にライブをやっているじゃないですか。オーディションにも、ぜひ、そのパワーをぶつけてほしいですね。
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──コロナ禍が助走期間になり、今このタイミングで才能を開花させる方もいるかもしれませんね。
ジャック:その期待はものすごくあります。約3年という決して短くない時間でインプットされたものが、アウトプットされ始めていると思うので、オーディションで我々と出会ってもらって、混ざり合い、良い意味で爆発を起こしたい。
と同時に、コロナ禍で割を食ってしまったという人たちもたくさんいると思います。それまでせっかく良い流れで来ていたのに、急にストップがかかって、横ばいの状態がつづいてしまっている。そういった方々がカムバックしてくれることも願っています。
佐藤:私はライブクリエイティブグループで、そこまでオーディションに深く携わった経験はないのですが、新しい才能、逸材と出会うのが非常に楽しみです。音楽配信の在り方も急激に変わりましたし、今では地球の裏側に自分の音楽を一瞬で届けられる時代です。気合の入り方、見せ方の強弱は人それぞれですが、音楽の可能性を感じる出会いを期待しています。
──改めて、今回のオーディションではどんな方たちと出会いたいですか?
小泉:「私の、俺の音楽を聴いてくれ!」というアーティストに出会いたいです。「海外フェスの出演は通過点。ここから世界のトップに這い上がってやる」「自分たちの音楽を絶対に世界に届けるんだ」という気概のある方たちに出会えたらうれしいです。
──応募要項は国や地域のレギュレーションの問題で、日本在住という縛りだけはありますが、それ以外の出身、年齢はもちろん、形態もバンド、ソロなど自由ですよね。
ジャック:あらゆる音楽形態を歓迎しますし、何よりも驚きたい。とにかくドキドキしたいし、そのドキドキを一緒に世界に伝えたい。アーティストの“伝えたい”という気持ちに、我々の“伝えたい”という想いを上乗せして世界に届けられたら最高ですね。
──オーディションでは複数の才能が見つかる可能性もあります。そういう場合は、複数組で出演するのでしょうか。また、選ばれたアーティストは両方のフェスに出られるのでしょうか。
ジャック:その点については、フェスの主催者も含めた協議になります。今のところ、どちらのフェスも確保しているのは1枠ですが、臨機応変に対応していければと思います。どちらのフェスに出演するかも、両フェスの関係者との話し合いですね。
大坪:選考段階からフェスの主催者にも加わっていただくので、我々の主観だけでなく双方で協議しながらの判断になります。
ジャック:もうひとつ、私から伝えたいことがあります。海外フェス、海外展開と聞くと「その土地の言語が喋れないとダメなのでは?」と考える方もいると思います。でも、語学力については一切気にしないでください。以前、アメリカで「SXSW」のオーガナイザーと話したのですが、彼らは「英語で歌えなきゃいけないなんて、1ミリも思ってない」と言うんです。「日本のアーティストの魅力はそこじゃない。言語なんかまったく気にする必要はないよ」と言われましたし、一緒に「SXSW」に出演するアーティストのコンテストを開催した際、彼らが選んだのも日本語詞のアーティストでした。
もちろん外国語が喋れること、理解できることは武器になりますが、言語を壁だとは思わないでください。わからなければしっかりサポートします。そのために我々がいるので。
大坪:昨年「Maho Rasop」に出演していた日本人アーティストの春ねむりもほとんどが日本語詞ですが、海外フェスでは一瞬でその場にいる人たちを全員虜にします。彼女の楽曲、歌声、そしてそのパフォーマンスは、本当に世界各地で高く評価されていますね。
ジャック:ひとつの理想形だよね。
春ねむり HARU NEMURI「生きる / Ikiru」(Official Music Video)
大坪:そうですね。それと海外のフェスは、アーティスト同士の距離やスタッフとの距離がすごく近いんです。現地で出会った異なる国や地域のアーティストが意気投合し、「じゃあ、一緒に曲を作ろうよ」とコラボが生まれることも多々あります。
海外フェスは、アーティストにとっても新たなコラボが生まれる刺激的な場です。興味を持ってもらえたら、ぜひ気軽に応募してください。
文・取材:野本由起
撮影:増田 慶
「Maho Rasop Festival」公式サイト
https://www.mahorasop.com/
 
「ROVING NATION FESTIVAL」公式サイト
https://rovation.co/
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