イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

海外エンタメビジネス最前線

日本発のVTuberカルチャーを世界へ! グローバルVTuberプロジェクト『PRISM Project』が届けたいこと【前編】

2023.10.25

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

“楽しむ”ことは国境を越え、文化を超え、言語を超える。グローバルに注目を集めるエンタテインメントビジネスを手掛ける人々にスポットを当てる「海外エンタメビジネス最前線」。

アニメ、ゲーム文化とYouTuber文化が融合し、魅力的な2次元&3次元キャラクター(アバター)が配信者となって活動する日本発祥のVTuber及びバーチャルライバー・カルチャー。その市場は“VTuber元年”と呼ばれた2017年より拡大と成長をつづけ、今では国内にとどまらず、北米を中心としたさまざまな国や地域で人気が加速している。

そんななか、2021年にはAnotherBall株式会社(以下、AnotherBall)によって、英語圏向けVTuberマネジメントプロジェクト『PRISM Project』が立ち上げられた。『PRISM Project』には、世界各国、各地域から18名(2023年10月時点)のVTuberが所属しており、2022年5月には、AnotherBallからソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が事業譲渡を受ける。現在はソニーミュージックグループの海外事業の一環として、『PRISM Project』はさらなる市場拡大に取り組んでいる。

前編では、海外で日本発のVTuberがどのように捉えられ、どのようなマーケットが構築されているのか、本プロジェクトを牽引するプロデューサーが最新事情を語る。

  • ブレンデンプロフィール画像

    ブレンデン・シンデウルフ

    Brandon Schindewolf

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

良い声を持つVTuberは配信以外のエンタメにも挑戦できる

――『PRISM Project』の運営と制作がSMEに移管され、約1年半が経ちました。プロデューサーであるブレンデンさんは、どのような経緯でこのプロジェクトに参加されたのですか?

それをお話しするには、私が日本のサブカルチャーに興味を持った経緯から知ってもらったほうが良いかもしれません。私はアメリカ出身で、『ドラゴンボール』をはじめとした日本のアニメに出会ったのは小学生時代。当時はそれが日本で生まれたものとは知らなかったのですが、大好きでよく見ていました。

そんな私が、日本の文化に深く興味を持ったのは高校生のころです。当時はNetflixがゲームソフトのレンタルビジネスをやっていて、偶然、遊んだアクションゲーム『戦国無双』がとても面白く、戦国時代をはじめとした日本の歴史に興味を持ちました。

また、『戦国無双』には日本語音声も収録されていることを知り、私の大好きな武将キャラクター・明智光秀の声を聴くと……とてもカッコ良くて、演技力も素晴らしかったんですね。演じていたのは、人気声優の緑川光さん。そこから日本語にも興味を持つようになり、大学でも日本語を専攻して卒業論文では本能寺の変をテーマにするほどでした。

ブレンデン画像1

――すっかり日本文化の虜になったんですね。

はい。日本のアニメにも詳しくなり、すっかり“オタク”になりましたね。そうなると、やはり日本で日本のサブカルチャーやエンタテインメントに携わりたい。特に声優さんとご一緒できる仕事がしたいと思いましたが、当時は、日本のエンタテインメント企業が国外在住の外国人を採用することはほぼなかったんです。そこで、まずは英語講師として2011年、東日本大震災の10日後に来日して、そこから数年間、茨城県で英語を教える仕事をしていました。

――東日本大震災の10日後の来日というのは、アメリカのご家族が心配されたのではないですか。

そうですね。特に母からは「行かないでほしい」と強く引き止められました。ただ、私の祖父母がふたりとも高校の教師をしていて、「東日本大震災という大きな災害が起きてしまった今だからこそ、日本の子ども、学生たちにネイティブの英語を教えられる英語講師が必要なのでは」と後押しをしてくれたんです。その言葉に勇気をもらって、予定通り来日することにしました。

――まだまだ日本国内が大混乱しているときに、すごい決断をしましたね。

祖父母の言葉と自分自身もこのチャンスを逃したくないという強い想いがありました。ただ、私がアメリカで住んでいた地域は地震がない土地だったので、日本に来て初めて地震を体験して、やっぱり怖いものなんだと実感しましたね。

――そこからどのような経緯でエンタテインメント業界に携わるようになったのですか。

これも偶然なんですが、大学時代の友人がラジオ局のプロデューサーになっていて、たまたま声優さんの番組を担当していたんですね。そこに英語と日本語が喋れるアニメオタクとして、準レギュラー的に私を呼んでくれまして。そこからその声優さんの芸能事務所ともつながりができて、6年間の英語講師生活ののち、声優のマネージャーとして仕事をするようになったんです。

その後は、国内で人気が上昇していたVTuber業界、今携わっている『PRISM Project』にまつわるマーケティングリサーチの仕事を経て、昨年の11月にSMEに入社。外部から携わっていた『PRISM Project』に、SMEの社員として注力することになりました。

――もともと日本のサブカルチャー、エンタテインメントについて見識が高く、“声”にまつわる仕事にも携わっていたブレンデンさんですが、VTuberカルチャーについてはどのように捉えていましたか。

私自信もオタクなので、しゃべったり歌ったり、生配信でインタラクティブな反応をしてくれるアニメのキャラクターというのは、とても魅力的に感じましたね。しかも絵や映像のなかだけでなく、その存在をしっかり認識できるというのは、そういうカルチャーが好きな人にとってはうれしいことです。YouTuberが、友達のように感じられて人気が出るのと同じように、アニメファンとVTuberとの相性は、すごく良いものだと思います。

ブレンデン画像2

――キャラクターに血が通っている感覚を、共有できますからね。

だから人気が高まる可能性というのは、最初から感じていました。VTuberが生まれた当時、私は声優のマネジメントをしていましたから、生身だろうがバーチャルだろうが、良い声を持つタレントが生配信のみならず、声優に挑戦したり音楽に挑戦したりする流れは、絶対に来るだろうと見込んでいたんです。VTuberという存在が確立してからは、ますますその流れが顕著になりましたね。

日本発祥のVTuberは海外でどう見られているのか

――日本国内では、にじさんじやホロライブなどの大手VTuberプロダクションが牽引する形で、数万人の観客を動員するVTuberイベントや人気VTuberによるリアルライブも人気を博しています。アーティストやタレントと同じようにVTuberが大手企業のCMに起用されるなど、新世代のタレントとしての認知度もかなり高くなりましたが、海外でVTuberはどのように認知されているのでしょうか?

海外ではまだメインストリームのコンテンツではないですね。先ほど、アニメファンとVTuberは親和性が高いと言いましたが、アニメの視聴者層とVTuberのコンテンツを見ている層が一致しているわけではないです。

例えばアメリカで人気のあるアニメは、『ドラゴンボール』『NARUTO -ナルト-』『ONE PIECE』などの少年漫画系ですし、「Anime Expo」のような大きなイベントに何万人も人が集まっているといっても、ここに来場するのは日本でいうライトユーザーの割合が多いと感じます。VTuberというまだ海外ではニッチなコンテンツを見ているユーザーが日本に比べると少なく、CMなどに起用されるのにはもう少し時間がかかるイメージです。

ライトなアニメ好き外国人と、個性的な世界観や少年漫画系アニメには出てこないようなキャラクターデザインで活動しているVTuberが出会う機会があるとすれば、例えば、自分が好きなゲームを実況しているライバーを検索していたら、たまたまVTuberがゲーム実況している動画があった! というぐらいだと思います。

――アメリカを含めた英語圏の一般的なアニメファンとVTuberが出会うタイミングは、まだ多いわけではないというわけですね。

そうですね。そもそも今、世界的にも人気のある『推しの子』のようなビッグコンテンツは別として、日本で人気のある美少女系のアニメやゲーム、男女アイドル育成系や女性向けの乙女ゲームなど、かわいらしいビジュアルがメインのコンテンツに、積極的に手を出すアニメファンは、アメリカではまだ少ないんです。

なので、VTuberに触れてこなかったユーザーがたまたまVTuberを見かけて、自分好みのキャラクターデザインで、おしゃべりも面白いと感じて、ハマっていくというパターンが多いでしょうね。よく使われる英語表現に『不思議の国のアリス』に由来する「go down the rabbit hole」=“ウサギの穴に入る”という言葉があるんですが、まさにそれ。隠されし不思議な新しい世界に入ったような感覚ですね。そこから、お気に入りのVTuberが所属するプロダクションのほかのメンバーを見に行ったり、“箱推し”になったり。日本でいうところの“沼る”人が出てくるというパターンです。

――『PRISM Project』以外でも、海外ファンに向けて活動をしているVTuberは多いのでしょうか。

ブレンデン画像3

そうですね。2019年あたりから、国内大手プロダクションでも英語圏を含め、数多くのVTuberを輩出しています。そのほかにも中小規模の事務所に所属するVTuberもいますし、インディーズ系といいますか個人勢と呼ばれるフリーのVTuberも無数に存在しています。それこそ、正確な数字で実態を把握するのが難しい状況になってきました。

というのも、日本のVTuberの主な活動場所はYouTubeになりますが、アメリカではTwitch(ライブストリーミング配信プラットフォーム。ゲーム配信に特化しているのが特徴)も盛況なので、まとまった実態が日本国内より把握しにくいのです。YouTube勢とTwitch勢では、文化にも違いがありますしね。

――どのような違いですか?

YouTubeのほうは、日本と同様にアイドル系のVTuber文化に強く影響を受けていますので、キャラクターデザインも日本のアニメに近いですし、おしゃべりの生配信や歌の動画など、エンタメ系コンテンツが多いです。

いっぽうTwitchで活動するVTuberは、ゲーム配信文化がベースにあるので実況配信が圧倒的に強い。そしてTwitch勢は、キャラクターのデザインにもう少し西洋アニメのテイストが感じられるVTuberがいます。もちろん、日本のキャラクターデザインやアニメのテイストから生まれた業界でもありますので、そのような見た目でTwitch配信をメインにするアメリカのVTuberも存在し、多様化はどんどん進んでいます。

――英語で話すVTuberの人気も高まってきているのでしょうか。

はい、それは肌で感じますね。アメリカでも日本と同じように、ホロライブ、にじさんじのVTuber人気は高まっています。私も現地に行きましたが、今年7月にはアメリカのロサンゼルスで北米最大のアニメイベント「Anime Expo 2023」が開催されました。

その会場近くの数千人を収容できるYouTubeシアターで「ホロライブEnglish」メンバーのリアルライブがあったのですが、チケットが発売1時間ほどで完売するほどでしたし、公式、同人系を問わずVTuberのグッズを狙って会場に来ているユーザーが大勢いるという感覚だったので、VTuber全体の盛り上がりを感じましたね。

――海外ではニッチな存在だったVTuberカルチャーが近年、アメリカで盛り上がってきている背景には、何があると思いますか。

VTuber業界だけでなく、日本のアニメがクランチロールなどを通じて、ほぼリアルタイムで海外に配信され幅広い人気を獲得するようになったことも大きく関係しています。そして、やはりコロナ禍の影響もとても大きかったと思います。

クランチロールのサブスクライバーは今も増えていますし、配信される日本アニメの本数も増えました。そして、我々が屋内での生活を余儀なくされたコロナ禍において、配信で見やすくなった日本のアニメやアニメから派生したYouTubeのコンテンツを視聴する機会が多くなり、VTuberに対する認知度や興味も深まったのではないかと分析しています。その流れは今もつづいています。

――海外でも人気が拡大しつつあるVTuber。改めて伺いますが、ブレンデンさんはVTuberの魅力はどこにあると考えていますか。

配信者、ライバーとしての魅力は、やはりトーク力の高さですね。そしてタレントを見た目ではなく、人格で理解できることだと思います。多様性を重視すべきだと強く思っていますが、特にバーチャルの世界においてタレントの容姿というのは、もう関係ないと思うんですね。人種もそうですし、ジェンダーもそう。

普段の我々の生活では、対面で話すからこそ、見た目や性別、人種なども含めて相手のことを理解しようとしますが、VTuberは見た目がアニメの女の子でも男の子でも動物でもなんでも、中身はそうじゃないかもしれない。もしかしたら中身がロボット、AIかもしれないというところまで時代は進んでいますから。

ブレンデン画像4

――受け取り手にとっては、想像力を膨らませてくれる楽しさもありますしね。

そうです。日本のVTuberもそうですが、『PRISM Project』のメンバーもそれぞれが独自の世界観を持っています。未来から来た宇宙人のエージェントだったり、悪魔と人間のミックスルーツだったり、オカルト好きの犬神だったり、時空を超えて地球に到達したアイドルVTuberだったり……。

設定もさまざまですが、そこからファンの皆さんが2次創作を始めたりもできますからね。そういう日本的な文化が、アメリカにも浸透してきたことは、『PRISM Project』の発展にとっても、好ましい状況だと感じています。

後編につづく

文・取材:阿部美香
撮影:干川 修

関連サイト

『PRISM Project』公式サイト
https://www.prismproject.jp/(新しいタブで開く)

連載海外エンタメビジネス最前線

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!