フジファブリック・山内総一郎が語る――“青春”の真っ只中にいるデビュー20周年の今【後編】
2024.04.13
2024.04.12
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
2024年4月14日にデビュー20周年を迎えるフジファブリック。2月28日にニューアルバム『PORTRAIT』をリリースし、4月14日にはLINE CUBE SHIBUYA、8月4日には東京ガーデンシアターでの単独公演、そして11月10日には大阪城ホールにて、くるり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONを招いた3マンと、3本のアニバーサリーライブを開催する。
今回は、音楽活動に対する想いと、その未来を、バンドを代表して山内総一郎(Vo.&Gt.)が語る。
前編では、ニューアルバム『PORTRAIT』の楽曲制作の裏側や、そこに込められた想いを明かす。
フジファブリック Fujifabric
(写真左から)金澤ダイスケ(Key.)、山内総一郎(Vo./Gt.)、加藤慎一(Ba.)。2000年、志村正彦を中心に結成。2009年、志村正彦が急逝し、2011年夏より3人体制で本格始動。奇想天外な曲から心を打つ曲まで幅広い音楽性が魅力の個性派ロックバンド。2月28日にニューアルバム『PORTRAIT』をリリースし、2024年4月14日にデビュー20周年を迎える。
揺るぎないポップネスをその軸に持ちながら、ひとつの枠組みに囚われない自由な発想とミュージシャンとしての確かな技量で、次々に彩り豊かな楽曲を世に送り出しつづけ、音楽リスナーはもとより同じシーンで活躍するアーティストたちからも絶大な支持を得ているバンド、それがフジファブリックだ。
2023年には3作連続配信限定シングルをリリース。そのうちの1作である「瞳のランデヴー」では、中毒性の高いリズムや歌詞で人気の4人組バンド・フレデリックとのコラボレーションが大きな話題となり、その後リリースした最新シングル「プラネタリア」でTVアニメ『新しい上司はど天然』のオープニングテーマを務めるなど、常に注目を集めてきたフジファブリックが2024年、メジャーデビュー20周年を迎える。
「歩いてきた道はけっして平坦なものではなかったですし、わりと独自の道と言いますか、それなりに大変なこともたくさんありましたけど、こうして20年、つづけられているというのは素直にうれしいですね。バンドのこれからとか、自分の人生のことを考えても、この20周年というのはすごく大きなポイントになるだろうなって感じています」
大きな節目を前にした今の心境をVo.&Gt.の山内総一郎に尋ねてみると、実にまっすぐな言葉が返ってきた。5周年、10周年、15周年と節目ごとに、山あり谷ありの道のりをともに歩んでくれるファンや、いつも支えとなってくれているスタッフへの感謝を、アニバーサリーライブなどを通じて表現してきたフジファブリック。
単に「ありがとう」と伝えるだけではなく、そのたびに新たにチャレンジする姿勢を示すことで、その先につながってきたと山内総一郎は振り返る。20周年のアニバーサリーイヤーとなる2024年の第1弾の活動として、2月28日にリリースされた12作目のオリジナルフルアルバム『PORTRAIT』もまた、チャレンジングな試みやワクワクするようなアプローチがふんだんに施されている。フジファブリックの現在進行形な進化はもちろん、今なお計り知れないその可能性と未来をもしっかり感じさせる会心の一作と断言したい。
「20年という節目はすごく意識して何年も前から準備をしていたんですよ。大きなアルバムを作るっていう気概みたいなものはメンバー同士でも感じて、制作していましたね。15周年から20周年の間にはコロナ禍もありましたし、そのなかで2021年にリリースした前作アルバム『I Love You』は応援してくれている皆さんに対しての愛情を表現しようと作ったコンセプトアルバムだったこともあったので、今回はあえてコンセプチュアルなものにはせずに、今のありのままのバンドの姿を見てもらいたい、まずはそれが重要だろうと考えて制作を始めたんです」
『PORTRAIT』
【収録内容】
<CD>
アルバム制作にあたって掲げたテーマが“原点回帰”だ。辞書を紐解けば“基本に立ち返ること。初心に立ち戻ること。そもそもの事の起こりに再び忠実になること。(実用日本語表現辞典より)”とあるが、フジファブリックの“原点回帰”はただ初心に返るだけのそれではなかった。
「ひと言で言うと、20年分をすべて詰め込もう、みたいなことなんですけど、それは過去の焼き直しをしようってわけではなくて。むしろ焼き直しはしない、常に挑戦していくというのが、そもそもの僕らの姿勢としてあるんですよね。なのでサウンドも、歌詞につづる言葉も、焼き直しではなく、今、新しく世に出すオリジナルアルバムとして自分たちが思っていることを正直に書いていこう、と。20年間、積み重ねてきたからこその、今のありのままを」
そう山内総一郎が語る通り、今作に収められた楽曲からは、いつにも増してメンバーのリアルな心情やバンドとしての在りようが浮かび上がってくる。
「自分のなかで物語をつくり上げて、それをモチーフに音楽をつくっていくのも非常に楽しいんですけど、今回はとにかく“フジファブリック”を歌ってみようと思って。自分たちの今までの活動を歌にしてみたり、自分がそのまま感じていることを歌ってみたり。そういう意味ではブルージーだったりもするんですけど。すべてにリアリティがあるような、そういうものを書きたかったんです。
特にメンバー同士でそんな会話はしてないんですけどね。3曲目の『Portrait』という曲だけは、“終わらない青春の歌にしよう、自分たちのことを書こう”って、この曲の作詞をした加藤(慎一)と話しながら制作しました」
“向かい風に 吹かれたとしても/夢想の輝きは 消えたりしないよ”“空っぽな僕が 何者かになれたのは/同じ景色を 見てきたからさ”、歌詞にそうつづられた「Portrait」は、自分たちの歩みを慈しみ、色褪せることのないバンドへの情熱を、柔らかくも力強いアンサンブルに昇華させたミディアムバラードだ。
「ホントいまだに青春の真っ只中にいるような感覚なので」と笑う山内総一郎の言葉からも20年を経て辿り着いたフジファブリックの今がとても良い状態であることがうかがえる。いっぽうで、山内が作詞作曲を手がけた「音楽」には、その過ぎるほどストレートなタイトルにも体現されている通り、彼の音楽への尽きることなき愛情がこれでもかとばかりに滲み、独白めいた滋味深い歌声も相まって聴く者を揺さぶる。
フジファブリック『Portrait』
「アルバムをリリースしてから、いろんなところですごく良い反応をいただいているんですけど、ちょっと不思議というか意外というか、『音楽』を好きだと言ってくれる人がめちゃくちゃ多いんです。もちろん良い曲だと思ってつくりましたし、音楽への感謝という意味も含めてこういう曲もアルバムにはほしいと思って入れたんですけど……最近だとフレデリックのメンバーや秦基博くん、くるりの岸田(繁)さんや(奥田)民生さんも、アルバムを聴いてくださったアーティストの方にお会いするたびに“『音楽』が良かった”と言っていただくので、ちょっとびっくりして(笑)」
おそらく、もっとも山内総一郎の“ありのまま”が込められた楽曲であり、音楽を愛する同志としての共感が多くの賛同を呼んでいるのだろう。ちなみにこの曲は今作で唯一、フェイドアウトで終わるのだが、そこにも意図があるのだと山内総一郎は明かす。
「もともとはカットアウトで終わる曲だったんですけど、レコーディングをしている途中で楽曲の世界に余韻があったほうが良いんじゃないかなって……ほんと思いつきなんですけど。やっぱり自分というのは気持ちも含めて揺れ動いているものだし、月並みですけど、調子の良いときもあれば悪いときもあるわけで。
この曲も最初は落ち込んでいるけど、でも音楽を聴けるだけマシやなって思って、そこからいろいろ思い返していくなかで、たくさんのアーティストに救われてきたなとか、いろんな音楽に救われてきたなとか、なかなか良い曲ができなくて苦しいけど、でも届けられる人がいること自体、幸せやなとか、メンバーという仲間がいるだけありがたいやんって、最後は勇気に変わっていくんですよ。
ただ、だからといって勇気のままつづくわけでもなく、やっぱりまた落ち込んだりもするんですよね。そのサイクルを表現したくてフェイドアウトにしたんです。勇気が出て完結ではなく、もっと落ちるときもあれば、逆にむちゃくちゃアガるときもあるっていう。でも長々聴かせるものでもないからサクッと終わってるんですけどね」
ここまで読んで、なるほど『PORTRAIT』というアルバムはフジファブリックの内省にフォーカスした作品なのかと思われたとすれば、申し訳ないがその判断は早計だ。むしろ、ここにきてまだこれほどにも伸びやかな音楽表現ができるものかと目を見張る。
さっそく今作に触れてどアタマから気持ち良く裏切られてほしい。何せ1曲目の「KARAKURI」からしてプログレッシブロックを彷彿とさせてスリリング。かと思えばつづく「ミラクルレボリューション No.9」は山内総一郎いわく「パンチのあるダサカッコ良いダンスナンバーをつくろう」と生み落とされたフジファブリックのなかでも屈指のアッパーチューン。
ラストを締めくくる「ショウ・タイム」に至ってはロックオペラ的な迫力を携えつつ、フジファブリックが持ち合わせているカラフルさとキテレツさを表現した音像に乗せたパワフルなメッセージでもって聴き手の胸を容赦なく撃ち抜くのだから堪らない。しかも「KARAKURI」「ショウ・タイム」はそれぞれ5分を超える大作ときた。
「このサブスクリプションの時代に1曲目から5分超えの楽曲を持ってくるなんて、ソニーミュージックの皆さんもよく許してくれたと思います(笑)。でもフジファブリックのこれまでの文脈も、よく理解してくださっているので。いろんな色の曲があるなかの1曲として捉えてもらえるのは本当にありがたいです。
アルバムのなかには配信限定やシングルとしてリリースした曲も入っていますけど、アルバムとして聴いてもらうことでまた景色が変わると思うんですよ。それはシングルや配信曲として作っているときから、ざっくりですけど念頭に置いていたので、僕らとしてはやっと本来の曲順になったという気持ちだったりもするんです。既発曲も実は『PORTRAIT』という作品の一部だったんだって感じてもらえたらうれしいですね」
アルバムタイトルが表わしている通り、まさしくフジファブリックの肖像画と呼びたい今作。しかも、それは一方向からのみ見た彼らの姿ではなく、ある種、キュビズム的とも言えそうな多面性を備えているところがまたこのバンドらしい。
「確かに多面的な見え方がするアルバムになっているとは思います。でもそこまで意図して構築したわけではなくて。自分たちでフジファブリックの肖像画を描いたらどうなるか、そこと対峙してみたらどんな気持ちになるか、考えながら曲づくりを進めていったわけですけど、自分でつくっておきながらまだまだ見ていなかった角度があるなって感じますから。
さっきの曲順の話にもつながりますけど、この並びになることで新たな表情が見えてきたりもしていますし。あと、このタイトルにしたのは抽象性を重視したかったっていうのもあります。“ありのままの姿”ではあるんだけど具体的なイメージにも縛られない、何かしら抽象性のある言葉で節目を説明できて、自分たちが納得のいくタイトルはないかなと思ったときに『PORTRAIT』という言葉がしっくりきたんです」
抽象性という意味ではジャケットのアートワークも非常に印象的だ。“フジファブリックの肖像画”でありながら、使われているのは外国人女性の写真であり、しかもマーブル模様のオブジェクトで目元が隠されたこのジャケット写真にはどんな狙いがあるのだろうか。
「自分たちの肖像画と対峙するようにして書いた曲はありつつも、見てほしいのはそこではなく、聴いてくれた人がここに自分の肖像画を投影できるようなものになったら良いなと思っています。フェイドアウトの話でも言いましたが、肖像っていうのも本当に抽象的で、姿形もそうだし、心の形も常に変わっていくと思うんですよ。
このオブジェクトにしてもどんどん変化していきそうじゃないですか、アメーバみたいに。そういう変化も含めて、あなたの肖像を感じてもらえたら良いな、と思います。『ショウ・タイム』のなかで“見せてあなたのショウ・タイム”っていう歌詞があるんですけど、ここも、この一瞬一瞬っていうのは、全部あなたのショウ・タイムなんだよっていう気持ちで書いているので」
文・取材:本間夕子
フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at LINE CUBE SHIBUYA 2024『NOW IS』
日程:4月14日(日)
会場:LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at TOKYO GARDEN THEATER 2024『THE BEST MOMENT』
日程:8月4日(日)
会場:東京ガーデンシアター
アニバーサリーライブ『フジファブリック20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE at OSAKA-JO HALL 2024 「ノンフィクション」』
日程:11月10日(日)
会場:大阪城ホール
『SMA 50th Anniversary presents 山内総一郎×斎藤宏介セッションライブ 山斎-SANSAI-』
日程:4月30日(火)
会場:EX THEATER ROPPONGI
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