笠原昇、斎藤はるか、柏田弘晶の刷り―ショット
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連載Cocotame Series

エンタメ業界を目指す君へ

プレッシャーはあるけど楽しい仕事――アニプレックス・フィギュア開発チームの話【前編】

2024.05.22

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アニメの企画、制作から始まり、現在では、ゲームや実写映画の制作、ECサイトの運営などさまざまなビジュアル&キャラクタービジネスを展開しているアニプレックス(以下、ANX)。

今回は、そんなANX内でキャラクターフィギュアの企画、開発に取り組むチームをフィーチャー。企画立ち上げから始まり、原型師との緻密なやり取り、工場との何往復にもおよぶ製造工程の調整など、フィギュアがファンの手元に届くまでの舞台裏と、そこに込めている思いを聞いた。

前編では、フィギュアが商品として完成するまでの工程を現場の視点から解説してもらう。

  • 笠原昇の正面写真

    笠原昇

    Kasahara Noboru

    アニプレックス

  • 加藤が作ったぼっちざろっくのソフビフィギュア

    加藤隆弘

    Kato Takahiro

    アニプレックス

  • 齋藤の正面写真

    齋藤はるか

    Saito Haruka

    アニプレックス

  • 柏田弘晶

    Kashiwada Hiroaki

    アニプレックス

記事の後編はこちら:プレッシャーはあるけど楽しい仕事――アニプレックス・フィギュア開発チームの話【後編】

フィギュアの開発を志してアニプレックスに入社した異なる経歴を持つ4人

――今回は、ANXでフィギュアの企画、開発を担うチームの皆さんに集まってもらいました。まずは、それぞれの担当と経歴を教えてください。

笠原:自分が担当しているのは、「BUZZmod.(バズモッド)」というアクションフィギュアシリーズです。「『鬼滅の刃』竈門炭治郎」(2023年3月発売/販売期間終了)から始まり、これまでに25アイテムを展開してきました。

私はANXに入社する前、別の会社でアクションフィギュアの開発や玩具の開発を担当していたので、その経歴をいかしてANXでもアクションフィギュアの自社開発に取り組んでいます。

劇場版シティーハンター 天使の涙エンジェルダストの冴羽獠のアクションフィギュア

「BUZZmod.」シリーズの最新商品は、『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』の冴羽獠(2024年11月発売予定/注文受付期間:2月11日~5月31日/税込価格:1万2,000円)

「BUZZmod.」シリーズのこれまでの全ラインナップはこちら

加藤:私はスケールフィギュア※1に限らず、ソフビ(ソフトビニール)フィギュア、デフォルメフィギュア、ノンスケールフィギュア※2など幅広く担当しています。

自分は前々職で、フィギュアや雑貨、ソフビなどの企画、制作を手がけていて、その後、フィギュアメーカーに転職して、アニメ作品のスケールフィギュアをつくっていました。そこでアニメというエンタテインメントに改めて魅力を感じてANXに転職、現在に至ります。

※1:対象物の設定サイズをもとにフィギュア化したものがスケールフィギュア。豪華な仕様の商品で、価格も高価になることが多い。
※2:設定サイズをもとにせず、商品そのもののサイズ感をある程度統一させたものをノンスケールフィギュアという。ANXにおいてノンスケールフィギュアは手ごろな価格の商品として展開している。

齋藤:私も同じチームで、スケールフィギュア、ノンスケールフィギュア、雑貨などを担当しています。そして、私も実は前職でフィギュアを扱う会社にいまして、美少女フィギュアを企画する部署で働いていました。

そのときに、ANX作品のフィギュアを企画担当したことがあり、商品の監修でよくANXを訪れることがあったんです。それがきっかけでANXという会社や手がけている作品に興味を持ち、中途採用で入社しました。

柏田:自分も加藤さんと同じチームでスケールフィギュアやデフォルメフィギュアの制作を担当しています。ANXでの社歴は入社2年目で、前職は出版関係の営業でした。まったく別の職種だったんですが、もともとアニメやフィギュアが好きだったのと、たまたまソニーミュージックグループの求人を見かけて応募したところ採用されて。そこから運良くANXのフィギュア部門に配属されました。

フィギュアの企画から量産までの流れを解説

――改めて、ひとつのフィギュアができるまでの流れを教えてください。皆さんはフィギュアの開発過程でどのような業務を担っているのでしょうか。

加藤:最初はわかりやすくフィギュア化の企画をまとめるところからスタートします。どのキャラクターの、どの衣装を、どのポーズでフィギュア化するのか。さらにそれが、どのジャンルのフィギュアにマッチするのかを考えていきます。

例えば『「ぼっち・ざ・ろっく!」後藤ひとり 承認欲求モンスター』だったら、かわいらしい質感のあるソフビ。動きを楽しんでもらいたいならアクションフィギュアの「BUZZmod.」。フィギュアとしての迫力や精工さを前面に押し出したいなら、スケールフィギュアといった具合に、まずは具体的なフィギュアの仕様を考えます。

その上で、ソフビだったら比較的短い期間で発売が可能、スケールフィギュアやアクションフィギュアだと、どんなに頑張ってもそれなりの時間がかかるというように、フィギュアのジャンルによって発売されるまでのリードタイムが違うので、そういった商品の特性も含めて計画していきます。

そこからANXのライセンス部門にも入ってもらって、アニメの制作サイドと密にやり取りをしつつ、フィギュアのデザインや造形をつくってくださる原型師さんとも打ち合わせを重ねて、具体的に詰めていきます。

ぼっちざろっくのソフビフィギュア

加藤が担当した、TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」後藤ひとり 承認欲求モンスター ソフビフィギュア(2024年6月発売/販売期間終了)

――原型師の方とはどのようなやり取りをしているのでしょうか。

齋藤:原型師さんはそれぞれ得意なジャンルをお持ちです。例えば美少女系が得意な方、男性フィギュア系が得意な方、メカ系が得意な方などにわかれているんですね。私たちはそれぞれの原型師さんが過去に手がけられた作品などを見たり、自分たちが持っているコネクションを活用したりして、そのフィギュアの企画にふさわしい原型師さんにお願いするようにしています。

加藤:原型師さんは職人気質な方が多くて、会社単位でのお付き合いというより、企画の担当者と原型師さんとの信頼関係で仕事をしてくださる方が多いんですね。長いお付き合いの原型師さんとご一緒すると、我々もその方の得意な持ち味を理解していますし、仕事もやりやすい。

齋藤:加えて、新たな才能との出会いも求めています。例えば、「ワンダーフェスティバル」というフィギュアの大型イベントがあるのですが、そこで出展をしている原型師さんのブースに私や柏田さんが行って、直接お声がけするということもやっています。

柏田:イベントの前はいろいろな原型師さんのX(旧Twitter)を見て、そこであがっている自作フィギュアの写真を見ながら、どんな方に声をかけるかチームで相談もしています。当然、上手い方には、依頼が殺到して業界内で取り合いになるので、実績のある方たちとの信頼関係の強化と新規開拓を並行して進めている感じです。

笠原:原型師さんはいろいろなルーツの方がいらして。美術大学を卒業してこの道に進む方もいれば、会社に所属して原型師としての腕を磨く方もいる。昨今では自分が作った造形物をSNSで発信することで、原型師としての仕事を引き受けるようになったという人も増えています。この辺は、音楽アーティストやイラストレーターなどとも同じ動きですね。

――原型師さんにフィギュアの制作をお願いした後はどのような流れになるのでしょうか。

加藤:原型師さんにつくっていただいた原型を、ライセンス担当に確認してもらってOKが出ると、そこからデコマス(デコレーションマスター)と呼ばれる彩色された原型の制作に入ります。

デコマスの確認が終わるとプロモーション用の商品撮影を行ない、そこからは宣伝ですね。アニメの宣伝チームと連携しながら、フィギュアをどのタイミングで告知して、どのように見せていくか。国内に限らず、海外も含めて、打ち出し方を詰めていきます。

ここまで来て、いよいよECサイトのアニプレックス オンラインなどで受注を開始しますが、それと並行して、金型用原型の準備などを行ない工場に発注、量産に入っていきます。

――工場は海外にあるんでしょうか。

加藤:そうですね。スケールフィギュアなどの量産はクレーネル(アニプレックスグループのフィギュアメーカー、ANXの100%子会社)にお願いすることが多くて、クレーネルを経由して海外の工場で量産してもらっています。

量産に入る前にT1(テストショット、工場が生産した形状サンプル)をチェックしたり、製造が進むごとに細かく作業工程をチェックしたりして、商品のクオリティを守る作業もこのタイミングで行ないます。

この工程も非常に重要で、ここで工場の方たちとしっかりコミュニケーションを図っておかないと、量産品の品質がぶれてしまったり、不良品が発生してしまったりします。それこそミリ単位で修正をお願いし、製造ラインで誰に作業してもらっても均一に仕上がるように調整してもらい、どうしても品質を保つのが難しい場合は、テストショットまで立ち返って、造形を変更するなどの対応も行ないます。

齋藤:原型師さんとも何往復もやり取りを行ないますが、こちらは“どうやったらすばらしい造形にできるか”にフォーカスしているので楽しさもあります。しかし、工場とのやり取りはお客様の手元に届く商品の品質にダイレクトに響くので、日々、プレッシャーを感じながら作業を進めています。

思い入れやこだわりを立体化して得られること

――皆さんはこれまでいろいろなフィギュアを手がけられていましたが、ご自身の手がけたフィギュアで思い入れの強いもの、自信作などがあれば教えてください。

齋藤:私は、アニメ『その着せ替え人形(ビスク・ドール)は恋をする(以下、着せ恋)』の「喜多川海夢 1/7スケールフィギュア」(2023年10月発売/販売期間終了)ですね。

実は「着せ恋」のフィギュア化は世界最速で、ほかのメーカーさんよりも早く展開できたんです。アニメのシリーズ放送が終わって早い段階で受注を開始することができたので、かなり反響も大きくて。私がANXに入社してから関わってきたフィギュアのなかで一番のヒット商品になりました。

――「着せ恋」のフィギュアを世界最速で出せたというのは、やっぱりANX社内での連携が大きかったのでしょうか。

齋藤:もちろんそういった環境の影響もあります。加えて、私が「着せ恋」の原作を読んでいて、アニメ化の話が立ち上がったときから、フィギュア化をしたいという話を社内でしていたんですね。

そういう思いもあったので、良いタイミングで社内のライセンス担当者に相談ができましたし、現場の作業としても原型やデコマスの制作をかなり短期間で進めて、他社よりも早くライセンスの監修を受けることができたというのも要因になります。

真剣な表情で話す齋藤はるか

――柏田さんが手がけられたフィギュアで思い入れの強いものは?

柏田:自分で企画から量産まで初めて手がけたフィギュアが『TVアニメ「リコリス・リコイル」錦木千束 1/7スケールフィギュア』(2024年3月発売/販売期間終了)『TVアニメ「リコリス・リコイル」井ノ上たきな 1/7スケールフィギュア』(2024年5月発売/販売期間終了)だったんです。

それまでは加藤さんの企画を引き継いだり、サポートをしていたりしたんですが、『リコリス・リコイル』に関しては最初から最後まで関われたので思い入れも大きいですね。『リコリス・リコイル』はオリジナルのアニメ作品だったので、原作もないですし、どんな反響があるのかもわからない。

笑顔で話す柏田弘晶

放送前からいろいろな情報をもらってはいたのですが、フィギュア化の企画に踏み出すのはなかなか勇気が必要だったんです。でも、アニメ放送の第1話を見たときに、これは話題になるなと確信できて。そこから急いで制作に取りかかり、何とか2022年度内に受注を受けつける(受注開始:錦木千束2022年12月、井ノ上たきな2023年3月)というスケジュールになり、スケールフィギュアとしては比較的短い期間で開発を完了させることができました。

実際、反響も大きかったですし、受注期間中に追加特典としてパフェ(劇中で井ノ上たきなが作る、独特なホットチョコパフェ)が付属することを発表できたのも良かったです。

リコリス・リコイルの主人公2人の写真

写真左からTVアニメ「リコリス・リコイル」錦木千束 1/7スケールフィギュア(2024年3月発売/販売期間終了)、TVアニメ「リコリス・リコイル」井ノ上たきな 1/7スケールフィギュア(2024年5月発売/販売期間終了)

――加藤さんが思い入れのある商品は何ですか?

加藤:私はANXに転職してきて10年目なので、思い出深いフィギュアはいろいろあるのですが……そのなかで、ピックアップするのならば『ディズニー ツイステッドワンダーランド リドル・ローズハート 1/8スケールフィギュア』(2021年8月発売/販売期間終了)ですね。

ディズニー ツイステッドワンダーランド リドル・ローズハート 1/8スケールフィギュア

ディズニー ツイステッドワンダーランド リドル・ローズハート 1/8スケールフィギュア(2021年8月発売/販売期間終了)

女性層からの支持が熱いタイトルのフィギュアでもつくり込んだ高額なフィギュアは、なかなか販売数が伸びにくいというマーケットの分析があったんです。そういった情報があるなかではありましたが、企画を立ち上げて進めたところ、このフィギュアでは枢やな先生(『ディズニー ツイステッドワンダーランド』原案・メインシナリオ・キャラクターデザイン)から多大なご協力をいただくことができ、まるでジオラマのようにフィギュアをつくり込むことができたんです。

そして受注が始まったところ、信じられないくらいの数の受注がありまして。自分でもびっくりするくらいの反響がありました。

――ファンの方々にしっかり届いたという手応えがあったんですね。

加藤:そうですね。その後、ほかのキャラクターの展開にもつながる確かな手ごたえがありました。

――笠原さんの思い入れのあるフィギュアはどちらですか?

笠原:私はやはり「BUZZmod.」シリーズですね。このアクションフィギュアのラインをゼロから立ち上げることができたのは良かったなと。そういう意味では、シリーズ第1弾商品の「BUZZmod.鬼滅の刃 竈門炭治郎」(2020年12月発売/販売期間終了)は、特に思い入れ深いです。

アクションフィギュアで普段遊ばない人にはわかりにくいんですが、アクションフィギュアって飾って楽しいだけじゃなく、動かして楽しいというところが魅力なものなんですよね。そういう『楽しいアクションフィギュアをちゃんと作ろう』というまっすぐなコンセプトで、「BUZZmod.鬼滅の刃竈門炭治郎」は布の羽織を着せたり、布のなかにも鉄芯を通して、ポージングできるようにしました。結果として、お客様からも好評をいただき、そこから2~3ヵ月ごとに商品を展開して、今は25商品まで達成できています。

笑顔で話し笠原昇

後編では、ANXならではのフィギュアづくりや、今後のビジョンについて、それぞれが思いを語る。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
©北条司/コアミックス・「2023 劇場版シティーハンター」製作委員会
© TYPE-MOON / FGO PROJECT
©福田晋一/SQUARE ENIX ·「着せ恋」製作委員会
©Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11
©はまじあき/芳文社・アニプレックス
©Disney

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