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エンタメビジネスのタネ

人気ボカロPが集結する『VOCALOCK MANIA』が実践する新世代フェスの作り方【前編】

2024.06.05

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今や日本の音楽カルチャーには欠かせない存在となったネット発クリエイター・ボカロP。彼らをフィーチャーした新世代&新感覚の音楽イベントが『VOCALOCK MANIA』だ。2023年に『ver.0』と『ver.1』を開催し、2024年1月には『VOCALOCK MANIA ver.2』を東京ビックサイトTFTホールにて成功させ、今年8月には、2日間に分けて『VOCALOCK MANIA ver.3 OSAKA/TOKYO』が開催される。このイベントを主催しているソニーミュージックグループのスタッフに、そのコンセプトやヒストリー、そして今後目指すものを聞いた。

  • 梅川昂大プロフィール画像

    梅川昂大

    Umekawa Kodai

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 小暮春吹プロフィール画像

    小暮春吹

    Kogure Ibuki

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 八鍬 涼プロフィール画像

    八鍬 涼

    Yakuwa Ryo

    ソニー・ミュージックソリューションズ

記事の後編はこちら:人気ボカロPが集結する『VOCALOCK MANIA』が実践する新世代フェスの作り方【後編】

『VOCALOCK MANIA』はボカロPの活躍の場を広げる取り組み

VOCALOCK MANIA キービジュアル

――まずは、イベントの企画立ち上げから参加しているオーガナイザーの梅川さんに聞きます。ボカロPをフィーチャーしたリアルイベントとしてこれまで3回開催されている『VOCALOCK MANIA』ですが、開催の経緯を教えてください。

梅川:私と小暮さんが所属しているREDは、もともとソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の新人発掘・育成部門であるSDから派生したセクションで、例えば2.5次元舞台で活躍するアクターやラッパー、バンド、映像クリエイター、作詞家、作曲家など、さまざまなジャンルの才能の発掘と育成やマネジメント、エージェント契約を行なっています。

その一環として、数年前からボカロPのマネジメント、エージェント契約を手がけるようになり、きくお、すりぃ、NOMELON NOLEMON、一二三など多彩なボカロPやネット出身クリエイターが所属しています。そんななかで、若者世代に圧倒的な人気があり、現在の音楽シーンに欠かせない存在となっているボカロPたちの活躍の場を広げる取り組みのひとつとして企画したリアルイベントが『VOCALOCK MANIA』です。

伏し目がちに話す梅川昂大

――八鍬さんはエンタテインメントのソリューションカンパニーであるソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)からの参加となりますね。

八鍬:はい。私はSMSのライブ&イベント事業部に所属していて、『VOCALOCK MANIA』は『ver.0』からスタッフとして参加しています。主にステージ周りの制作を手がけています。

真剣なまなざしの八鍬涼

――その『VOCALOCK MANIA』シリーズは2023年からスタート。皆さんのなかでは、どういったイベントにしたいと考えていたのでしょうか。

梅川:わかりやすく言うと“ボカロPが主役となるフェス”ですね。ボカロPはその名の通り、作詞や作曲、編曲を手がけて、ボーカロイドを歌手に起用して楽曲を発表しているクリエイター。REDにも10数組のボカロPが所属していますが、彼らのほとんどはネット上で個人活動をしています。

そんなボカロPたちが一堂に会して、全体として取り組める催しがあったらどうだろう? という発想でした。ファンとのコミュニケーションも図れて、ショウアップ要素もちゃんとある音楽フェスを理想としました。

会場に来たからこその生体験とレア感を提供

VOCALOCK STAGEでパフォーマンスするヒトリエ

VOCALOCK STAGE/ヒトリエ

――『VOCALOCK MANIA』は2023年1月の『ver.0』からスタート。即売会、ボカロP選曲のDJタイム、人気ボカロPが自身の楽曲を解説するトークショウのプログラムを実施し、昨年8月の『ver.1』では、バンド演奏によるライブステージが加わりました。

梅川:はい。『ver.0』のときはかなり手探りな状態でしたが、我々が目指す“ボカロPが主役となるフェス”としてのパッケージは、回を重ねるごとに確立されていっていると思います。来場者の皆さんからも、開催ごとに非常に満足度が高かったという評価をいただいています。

小暮:私は『ver.0』には観客として参加していたんです。その視点から言っても、ボカロP好きにとって『VOCALOCK MANIA』は、貴重なトークなども聞けるレア度の高いイベント。これまで、リアルイベントでそういう機会は得られなかったので、ファンのニーズにもすごく寄り添っていて、とても楽しいイベントだと思います。

白い服を着た小暮春吹

――そして2024年1月に開催された『ver.2』は、さらにスケールアップ。東京ビッグサイトTFTホールの3ホールを使って、ライブ&DJの「VOCALOCK STAGE」、楽曲解説&対談の「MANIA STAGE」、即売会の「VOCAMANI MARKET」を行ない、そのほか「協賛ブース」「VOCAMANIカラオケ」のコーナーを設置するなど、コンテンツを増やしたイベントに成長しました。

梅川:3回目となる『ver.2』は過去最大規模で、内容もかなり音楽フェスに近づけることができましたね。メインブースも3カ所用意し、「VOCALOCK STAGE」では昼12時過ぎから約8時間にわたってライブやDJプレイを披露。「MANIA STAGE」では13時30分から19時過ぎまで、人気ボカロPと若手ボカロPが対談形式で楽曲を解説するトークショウを展開しました。

「VOCAMANI MARKET」では、『ver.0』や『ver.1』でもファンに大好評だった、ボカロP本人とも触れ合える即売会を行ないました。それぞれのステージやブースを自由に行き来して楽しんでいただけるようになり、まさにフェスらしい内容を実現できたと思います。

MANIA STAGEにて行われた和田たけあき×晴いちばんの対談

MANIA STAGE/和田たけあき×晴いちばん

VOCAMANI MARKETの様子

VOCAMANI MARKET

――タイムテーブルやプログラムを参照しながら、次はどこを観に行こうとワクワクしながら会場を回遊する、音楽フェスならではの楽しみがありますね。

梅川:まさに、そういう感覚で楽しんでいただけたと思います。集客のほうも『ver.0』と『ver.1』は数百人単位でしたが、3回目となる『ver.2』ではチケットもソールドアウトし、1,200人以上の方に来場していただきました。

――意外だったのは、普段ネットを介してデジタルなフィールドで活躍されているボカロPのイベントなのに、過去3回ともリアル会場のみの開催で、ネット配信は一切していないことです。

梅川:それは『VOCALOCK MANIA』としてのこだわりですね。プログラムのなかにはボカロPに制作ツールを表に出して楽曲解説をしていただくコーナーもあるので、そこは大勢にネタバレしたくないという方もいらっしゃる。何より、我々が大事にしているのは、会場に来たからこその生体験とレア感。なので、これからも配信は考えていないです。

――そんなフェスらしいフェスを実感できた『ver.2』では、これまでにない試みも多数実現したそうですね。

梅川:『ver.2』での一番の進化は、協賛ブースを設けたことですね。実際にボカロPがよく使用している音楽制作ツールを販売している6企業に出展いただきました。ステージイベントで楽曲解説を見聞きしたあと、協賛ブースに来れば、実際の音楽制作ツールに直接触わって、使い方も教わることができる。『VOCALOCK MANIA』をきっかけに、クリエイター志望者が増えてくれれば良いなと企画したものです。

YAMAHAの協賛ブース

ギターが3本並ぶAddicToneの協賛ブース

もうひとつ盛り上がりを見せていたのは、まさにフェスらしさが感じられたカラオケブースです。JOYSOUNDに機材の協力をいただいてミニステージを設置しました。最初は、本当に皆さんが人前に出て歌ってくれるのかな? と、自分たちで企画しておきながら心配もしていたんですが……。

八鍬:機材のトラブルもなく、終日、行列が絶えなかったですね。おひとりで来られている方もたくさんいらっしゃったんですけど、皆さん楽しそうに歌ってくださっていて。ファンコミュニティとしての力をとても大きく感じました。

JOYSOUND協力のカラオケブース

初期段階ではライブステージの転換中に、ユーザー参加のカラオケをやっても良いのでは? というアイデアも出たのですが、機材や配線の準備が大変なので、カラオケブースという形をとらせてもらったんです。でも『ver.2』の盛況ぶりを見ると、次回はもっと規模を大きく、派手にやっても良いんじゃないかという手応えがありましたね。

今年1月のver.2では、みきとP、夏代孝明、水槽、ヒトリエらがライブ演奏

――ステージイベントのほうで、特に印象的だったことは何でしょうか?

梅川:『ver.0』から、SMEならではのボカロPフェスの目玉のひとつとしてステージイベントは企画してきましたが、『ver.2』の「VOCALOCK STAGE」のアクト数は過去最多でした。

オープニングアクトのSEE、みきとP、夏代孝明、水槽、ヒトリエの5組がライブを行ない、その間にr-906、ねじ式、鬱P、など7組がDJとして参加。総勢12組が、約8時間の間、入れ替わり立ち替わり、ステージでパフォーマンスを繰り広げるという、非常に密なプログラムをあえて組みました。ライブとライブの間の転換の時間をDJタイムにすることで、お客さんが暇になってしまう時間を作りたくなかったんです。

八鍬:そのぶんタイムスケジュールはカツカツになってしまいますから、制作としては正直30分押し、40分押しくらいにはなるかもしれないと覚悟していたんです。ところが実際は、驚いたことに誤差ゼロで終わったんです。普通のフェスでは、なかなか考えられない。

なぜそうできたんだろうと考えてみると、出演者の皆さんは、自分がそこで何をすべきかが頭のなかにちゃんと入っていて、セルフディレクションに長けているからなんですね。イベント前の打ち合わせも、人によってはマネジメントを介さず直接やり取りしていた方もいて、制作や運営の裏方仕事にもとても理解が深い。そこはやはりクリエイターだからこそだなと、改めて思いました。

――クリエイターのフェスならではのこだわりポイントというのは、どういったところですか?

八鍬:ライブステージに関しては、どう演出したらアーティストのライブと差別化を図れるか、です。そこは、照明チームやテクニカルチームとじっくり話をして詰めています。ボカロPらしさが見えて、機材も注目されるよう、わざとステージのムービングライトを隠さず、機械が動いているのをお客さんに見せることにもこだわっていますし、DJタイムは各演者がスクリーンで投影するVJ映像をそれぞれ作ってくるので、それを最大限に活かす照明、演出を工夫したり。それぞれの演者のイメージややりたいことがいかされるよう、1組1組としっかり話し合っています。

真剣な表情で語る八鍬涼

――通常の音楽フェスとは演出のこだわりも違うんですね。

八鍬:はい。アーティストライブだと、バンドの演奏を邪魔しないことが一番ですからね。それでいうと『ver.2』には、ボカロPのレジェンド的存在、wowakaが結成した人気バンド、ヒトリエが「VOCALOCK STAGE」のトリを飾ったんですが、あえて映像を背負わないというのが演者側の希望でした。なのでヒトリエのステージは、あえてライブハウス感を強調する照明を工夫しました。

ひと口にボカロPといっても、生バンドで見せたいという方もいれば、ボカロ曲ならではのメカニカルな見せ方が似合う方もいる。生のステージでありながらバラエティに富んだ内容が楽しめるのは、『VOCALOCK MANIA』ならではの楽しみですね。

後編では、注目のボカロPや、8月に開催される『ver.3』について語る。

後編につづく

文・取材:阿部美香
撮影:古里裕美

イベント情報

『VOCALOCK MANIA ver.3 OSAKA』フライヤー画像

『VOCALOCK MANIA ver.3 OSAKA』
日程:2024年8月17日(土) 13:30OPEN/14:00START/20:00CLOSE
会場:club JOULE(大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2-4F)
出演者(DJ):r-906、水槽、バーバパパ、柊キライ、YASUHIRO(康寛)、yuigot、DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ

『VOCALOCK MANIA ver.3 TOKYO』
日程:2024年8月26日(月) 16:30OPEN/17:00START/21:00CLOSE
会場:Zepp Shinjuku (TOKYO)(東京都新宿区歌舞伎町一丁目29番1号 東急歌舞伎町タワーB1F)
出演者(LIVE):かいりきベア、すりぃ、水野あつ、和田たけあき

6月8日(土)正午より一般チケット発売開始
https://l-tike.com/vocalockmaniavol3(新しいタブを開く)

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