楠木ともり:殻を破った先に見えた声優とアーティストへの道①
2024.10.11


2024.10.11
連載4回目は、アニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(以下、『GGO』)の主人公・レン役をはじめ、さまざまなアニメ作品で活躍する声優・楠木ともり。
自ら作詞、作曲を手がける音楽活動への気持ちと、現在放送中の『GGOII』の見どころや自身の演技のへの想いを聞く。
目次
楠木ともり Kusunoki Tomori
1999年12月22日生まれ。身長155cm。趣味:作詞・作曲、音楽を弾く、聴くこと、画材屋さんめぐり、ゲーム、ネットサーフィン。特技:絵を描くこと、トランペット。2016年10月にソニー・ミュージックアーティスツ主催アニメオーディション『第5回アニストテレス』にて特別賞を受賞。2018年にはTVアニメ『メルヘン・メドヘン』にて初主演。以降、アニメ『GGO』など数々の作品に出演。2019年3月、『第十三回声優アワード』にて新人女優賞を受賞。2020年8月にはアーティストとしてSACRA MUSICよりソロメジャーデビューを果たした。
記事の前編はこちら:楠木ともり:殻を破った先に見えた声優・アーティストへの道①
デビューから1年で主演作も決まり、声優としてキャリアをスタートさせた楠木ともり。周囲からも若手の新星として期待を集め、まさにシンデレラストーリーを地で行く活躍の場を与えられたものの、「運良く出演できる機会をいただいたので……のちに、当たり前のことでものすごく苦労しました」と言う。
「養成所にも通っていないし、事務所に入ってからもボイストレーニングしか経験していなかったので、いきなり現場デビュー。しかも『メルヘン・メドヘン』では主役をやらせていただいたのですが、ネガティブな感想もいただいて……まずそこで心が折れたのを覚えています(苦笑)。
現場でも、音響監督さんから“もうちょっと明るい感じで”と言われて……、頭では理解できても、自分の何がどうダメなのかもわからないし、どうしたら良いかもわからない。ただ、自分が下手なことだけはわかるので、周りの先輩に助けていただくことばかりで。だから、お仕事を始めてからの数年間は、“自分の仕事が世に出るたびに、また何か言われてしまうのではないか……”というメンタルで過ごしていました」
しかし、持ち前の真面目さ、しっかり者で負けず嫌いの性格が、彼女をへこたれさせなかった。
「何があっても、とりあえず私はベストを尽くそう! と考えるようにしていました。現場では先輩方の演技に学び、現場に入れないときは、フルボイスのゲームをやる。ゲームならセリフを一つひとつ繰り返し聴くことができるので、それを参考にすることで、キャラクターの表現方法を増やしていけるなと思ったんです。とにかく引き出しを増やしたくて、とにかくインプット、アウトプットをやるというパワースタイルで、ひたすら自主訓練をしました」
実直に膨大な練習量をこなして上達する。まるで吹奏楽部の楽器の練習と一緒ですね? と言うと、「ほんとにそうですね! あのころの経験があって良かったです」と笑う。その当時の彼女は、共演者の先輩たちの優しさにも救われたそうだ。
「最初に現場のことを教えてくださったのは、日笠陽子さんでした。初めてのアフレコが『戦姫絶唱シンフォギアAXZ』で襲われて叫ぶ役だったのですが、私は養成所経験もないのでマイク前にどう立ったら良いのかもわからなかったんです。それを日笠さんにご相談したところ、テストと本番で同じマイクに入れるように台本にメモしたら良いとか、本当に細かいところから丁寧に教えてくださって。日笠さんとはその後も、いろいろな作品でご一緒しているのですが、いつも気にかけてくださっていて、感謝しかないです」
ほかの作品でも、「共演者の皆さんが本当に優しくて、拙かった私が何とかここまでやってこられたのも、そんな皆さんのおかげです」と真摯に語る楠木ともり。普段は優しく温かいアフレコ現場だが、本番になるとプロフェッショナルがぶつかるピリッとした緊張感が漂う。その感覚は「吹奏楽に通じるものがある」とも分析する。
「1曲をより良く作るための指揮者が、監督さんや音響監督さんで、その理想を実現するために、私たちがキャラクターを演じていく。お互いのお芝居を聞き合って、すごい瞬発力を発揮して、一瞬でその場面を作り上げていく環境は、みんなで演奏を合わせて曲を完成させていく吹奏楽に、すごく似ていますね。
主役デビューをさせていただいた当時は、ほんとに毎日が1,000本ノック! で、辛いと思ったこともありましたが、今思うと、最初から叩き込むやり方は自分には合っていたと感じます。それも、吹奏楽部でやってきたことのおかげかもしれないですね」
『アニストテレス』オーディション合格から、悩みや不安をストイックな自主練で克服しながら、着々と実力を蓄えて出演作を増やしている楠木ともり。出演する作品には常に、新しい芝居へのアプローチや作品への心構え、キャラクターの解釈など、一つひとつ必ず吸収できることがあり、思い入れがあると語る。
「世間で人気な作品とか、何かと注目される作品のほうが、名前が前に出る機会が多いのは確かですけど、演じている身としては、どの作品も大好きだし、得られるものもそれぞれ違うので、ネームバリューだけでは語れないというか……。一つひとつの現場に、今はすごく重みを感じて向き合わせてもらっています」
そんな彼女の最新出演作が、10月4日より放送、配信がスタートした『GGOII』。シリーズ第1期は2018年4月からオンエアされ、約6年ぶりにシリーズが帰ってきた。
舞台は、腕に覚えのある猛者たちが激しい銃撃戦を行なう『ガンゲイル・オンライン』と呼ばれるVRMMO(仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)。現実では高身長がコンプレックスで、ゲームのなかでは小さなもうひとりの自分となってVRゲーム空間に降り立った小比類巻香蓮こと“レン”が、仲間たちと熾烈なチーム対抗デスマッチ「スクワッド・ジャム」に挑む。
「6年ぶりに2期をやります! と聞いたときは、やったー! といううれしさと同時に、正直、怖い! という気持ちが湧いてきました」
うれしいけど怖い。なぜ彼女はそう思ったのか。
「さっきお話したことにも関係するんですけど、6年前の私は何にも考えず、ただガムシャラにレンちゃんを演じるしかなかったんです。1期の演技を今聞くと、もちろん拙いところはたくさんあるんですが、そのガムシャラ感や自分のお芝居の素直さが、レンちゃんのナチュラルさに、すごくフィットしていたなと思います。
でも、それからいろいろな経験値を私が積んだことで、お芝居をしながら“ここはどう言おうかな?”と考えられる……考えてしまうようになっている。その時点で、前と同じ気持ちでレンちゃんに向き合えるだろうか? と、怖くなったんです」
6年ぶりの新作に向かう難しさと緊張を感じていたのは、ほかのキャストも同じだったようだ。
「第1話の収録は、2期でチームメイトになる私、ピトフーイ役の日笠陽子さん、エム役の興津和幸さん、フカ次郎役の赤﨑千夏さんのメインキャスト4人での収録から始まったんですけど、皆さんも私と同じで結構そわそわしていた感じで(苦笑)。
スタジオに入るときも、集合時間より結構早く着いてしまったんですけど、赤﨑さんも早く来ていらして。“私、すごく緊張して、なんか震えちゃいます”って言ったら、大先輩の赤﨑さんも“ちょっと緊張するね”なんておっしゃっているんですよ。そしてドキドキしながら本番が始まったら……4人でマイク前に並んで声を吹き込み始めた瞬間、こう……6年前がぶわーっと戻ってくる感じがありました。すごく不思議な感覚でしたね」
そして時を経たからこそ、彼女が演じるレンという主人公の魅力、作品の魅力にも、改めて気づくことがあるという。
「昔は、レンちゃんの可愛さと劇中バトルの殺伐とした雰囲気とのギャップが、作品の魅力だと思っていました。今もそこは変わらないですけど、1期を振り返って、自分の演技も含めてのレンちゃんを考えると、現実の香蓮からレンちゃんになったときに、ばっさりキャラが切り替わるんじゃなくて、香蓮でありながら今はレンちゃんとしてゲームを楽しんでいる感じ、その塩梅が魅力だなと思うんです。
ゲームのなかと現実というふたつの世界があるから、そこを生きるキャラクターがちゃんと思考して生きてる感じが伝わってくる。アニメのなかだけど、嘘がない感じ。そこから伝わるワクワク感がとても素敵だし、レンちゃんも含めて、登場するキャラクターたちがとても魅力的なんだなと、改めて思います」
演じ手としても、成長したからこその芝居ができるようになったそうだ。
「無理して1期に寄せるんじゃなく、私が今できる、今演じられるレンちゃんをここで表現したほうが、作品にとっては良いはずだと心に決めて挑みました。昔は自分のなかに選択肢はひとつしかなかったですけど、今だったらこうも演じられる、こうしたほうがベストだという選択肢も選べるようになりました。その両方ができるからこそのレンちゃんを、2期では見ていただきたいですね」
アニメ『SAO オルタナティブ ガンゲイル・オンラインⅡ』キャラクターPV|レン
物語としての見どころも、2期は1期とはまた違う面白さがあるという。
「1期のバトルとはルールも変わっているので、今までが野生的な戦いだとすると、今回はすごく理性的だし戦略性も高くなっています。ガラッと雰囲気が違う戦いが楽しめますし、前は敵だったピトフーイが仲間になったことで、同じチームの4人のかけ合いも、まるで漫才みたいで面白いんです。
近距離戦を担えるのがレンちゃんひとりなので、なんでいつも私ばっかり! って、ずっとワーワー文句を言っているんですが、チームメイトによしよしされながら可愛がられているところも、見どころです(笑)。前作をご覧いただいた方はもちろん、2期から見ていただいても絶対に面白いので、ぜひたくさんの方にご覧いただきたいです!」
声優活動と並行して取り組んでいるアーティスト活動も、楠木ともりの“表現”の一翼を担っている。もともと音楽に造詣の深かった彼女は、2020年8月にEP『ハミダシモノ』でメジャーデビューする前から、インディーズ活動も行なっていた。
「アコースティックのライブに出演したり、音源を出させていただいてはいたんですけど、やはりメジャーデビューが決まったときは、これで多くの人に歌の作品も届けることができる! と、すごくうれしかったです。
ただ、高校時代にバンド経験などはありましたが、そのときはカバーばかりやっていたので、曲づくりというのは初の経験。慣れ親しんできたロック、バンドサウンドをメインにして、歌詞にはメッセージ性のある曲を歌っていきたいというイメージだけはハッキリしていたんですが、どうしたらそういう曲を作れるのかは、わかっていなくて。周りの皆さんに、いろいろ相談させていただきながらのデビューでした」
やりたい音楽がはっきりとあり、歌詞にもこだわりを持っていた彼女は、初EPから全曲の作詞を担当。TVアニメ『魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』のエンディングテーマに起用された表題曲「ハミダシモノ」以外の3曲では、作詞、作曲の両方を手がけるという鮮烈なデビューを飾った。
「初タイアップで自作の歌詞を歌わせてもらえるなんて、スタッフさんもすごい決断をしてくださったと思います……。今歌詞を読み返すと、ホントに遊びがなくてガチガチなんですけど、すごく頑張りました。
言い方は難しいですけど、私にとって音楽活動はお仕事ではなく“好きなこと”をつづけている感覚なんです。その大事な趣味を、プロフェッショナルな環境でやらせてもらえるなんて、幸せですね」
頑張り屋でしっかり者の彼女は、11月6日リリースの5th EP「吐露」も全曲を作詞、作曲。アーティスト性を遺憾なく発揮している。
「今年5月に出したシングル『シンゲツ』は、大好きなL’Arc~en~CielのTETSUYAさんにプロデュースしていただいて、これ以上はないんじゃないか? と思うくらい、すごくリッチな楽曲にしていただいたんです。その次に何をしたいか? を考えたとき、昔やっていた音楽を、まだメジャーでは実現してなかったなと思ったんですよね。
だから『吐露』は、もっと生々しい、自我が思い切り出た1枚にしたくて、初めてEP全体のコンセプトや、自分が書きたい楽曲のコンセプト、アートワークまで全部を考えて、スタッフさんにプレゼンして決まったものなので、丸ごとセルフプロデュースさせてもらっています。
編曲も私が好きな方々にお願いして作っていただいたので、結果的に、今までの概念を覆すような生々しい尖り方の楽曲が多くなりました。やりたいことを詰め込むことができて、すごく満足しています」
楠木ともり「シンゲツ」Music Video【Sound Produced by TETSUYA (L’Arc-en-Ciel)】
声優としての表現も、アーティストとしての表現も、どちらも楠木ともりにとっては大切なものだと彼女は言う。これからも、声優としては幅広く、音楽では尖りながら、両方をしっかりと地に足をつけてやっていきたいと瞳を輝かせる。
「以前は、“声優・楠木ともりのことを調べたら、アーティスト活動もしてたんだね”という出会い方をしてくれる方が多かったんですが、最近は“アニメの主題歌を歌っている楠木ともりは知っているけど、芝居のほうは知らなかった”という方も増えてきました。それだけ、両方の活動が確立できてきたのかな? と思っています。
それぞれの活動で、作品、キャラクター、音楽を通じて、少しでも楠木ともりに興味を持ってもらえるよう、皆さんに楽しんでいただけるよう、これからも精いっぱい頑張ります!」
楠木ともりLove Say you -恋するVoice-
記事の前編はこちら:楠木ともり:殻を破った先に見えた声優・アーティストへの道①
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
©2023 時雨沢恵一/KADOKAWA/GGO2 Project
5th EP「吐露」
発売日:11月6日(水)
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