楠木ともり:殻を破った先に見えた声優とアーティストへの道②
2024.10.11


2024.10.11
連載4回目は、アニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(以下、『GGO』)の主人公・レン役をはじめ、さまざまなアニメ作品で活躍する声優・楠木ともり。
2020年には歌手としてもメジャーデビューを果たし、自ら作詞、作曲を手がけるシンガーソングライターとしてマルチに活躍中だ。そして10月4日からは6年間の沈黙を破り、彼女の代表作のひとつ『GGO』の2期がスタート。楠木ともりが“これまで”と“今”そして“これから”を語る。
目次
楠木ともり Kusunoki Tomori
1999年12月22日生まれ。身長155cm。趣味:作詞・作曲、音楽を弾く、聴くこと、画材屋さんめぐり、ゲーム、ネットサーフィン。特技:絵を描くこと、トランペット。2016年10月にソニー・ミュージックアーティスツ主催アニメオーディション『第5回アニストテレス』にて特別賞を受賞。2018年にはTVアニメ『メルヘン・メドヘン』にて初主演。以降、アニメ『GGO』など数々の作品に出演。2019年3月、『第十三回声優アワード』にて新人女優賞を受賞。2020年8月にはアーティストとしてSACRA MUSICよりソロメジャーデビューを果たした。
記事の後編はこちら:楠木ともり:殻を破った先に見えた声優・アーティストへの道②
10代でデビューを飾って以来、愛らしいルックス、明朗なトークスキル、フレッシュかつ堂々たる演技で、たくさんの声優ファンから愛されながら活躍の場を広げてきた楠木ともり。彼女を語るうえで、周囲の仲間たちからよく出てくるワードのひとつが“しっかり者”と評される性格だ。
「“しっかりしてる”は……よく言われますね。子どものころも、親からはよく“正義感が強い子”だと言われていました。それはたぶん、私の家が厳しかったからだと思うんですね。何か悪いことしたらちゃんと怒られるし、ゲームをやりすぎたら、即没収されてましたし(苦笑)。そういう育ち方をしたので、ズルをしたり、意地悪をしたりというのが、ちょっと許せなくて」
そんな彼女の性格がよく伝わってくるのが、中学時代、生徒会長を務めていたというエピソードだ。小学校時代からクラスでは何かと“代表”を頼まれることが多かったというが、中学校でもその真面目な性格を教師に見込まれ、生徒会役員にならないかと声をかけられた。しかし、本人には迷いもあった。
「中学は吹奏楽部に入っていたんですけど、吹奏楽部で生徒会長もやってます! となると “真面目の塊”すぎるじゃないですか(笑)。少しとっつきにくい印象になってしまうのではないかな……? という心配もあって、すぐには決められませんでした。
でも……実は、私の姉も同じ学校で生徒会長と吹奏楽部を両立していたんです。姉という前例がいるし、生徒会を経験しておくのは良い経験にもなりそうだなと、思い切ってやってみようと、引き受けました」
彼女の“真面目の塊”の一翼を担ったのが、吹奏楽での経験だというのも、なるほどとうなずける。よく言われることだが、楽団のアンサンブルが命の吹奏楽部は一見、穏やかな文化部のように思えるが、実は毎日の厳しい練習の積み重ねが必要とされる部活。今ではアーティスト活動にも積極的に取り組んでいる楠木ともりの音楽への感性とスキルも、そこでしっかりと磨かれた。
「吹奏楽部に入ったのは、先に始めていた姉の影響でした。音楽も幼少期からずっと好きで、ピアノも姉と一緒に習っていたし……という、本当に軽い気持ちで、小学校の管楽器クラブに入ったのがきっかけです。名だたる強豪校! というわけではなかったですが、中2のコンクールでは金賞をいただいたことがあります」
担当していた楽器は吹奏楽の花形、トランペット。
「トランぺットはとても人気があるんですけど、音が目立つから上手いか下手かもすぐわかる。何かと怒られてばかりでしたけど(苦笑)、3年間めちゃめちゃ頑張りました」
部活も頑張り、生徒会も頑張り、もちろん勉強も毎日の生活も真面目に頑張りつづけた楠木ともり。だが、高校に入ると転機が訪れる。それまで一生懸命つづけてきた吹奏楽から離れ、次に彼女が選んだのは、音楽は音楽でも軽音楽部でのバンド活動だった。
「中学後半くらいから、ちょっとした反抗期が始まったんです。そのころになると“自分のなかでの正しいこと”が芽生えてくるんですよね。高校受験も親の進めもあって、頑張って進学校に行ったんですけど、周りの子はみんな優秀で、リーダーシップもあって、私が頑張ってリーダーを務める必要はもうないし、勉強ももう頑張らなくても良いと思うようになって。じゃあ、もう自分が楽しいと思うことだけ、やってて良いよね! と、真面目キャラを脱ぎ捨てました(笑)」
そして軽音楽部で組んだバンドでは、ボーカルを担当する。
「私はボーカルを担当していて、ときには歌いながらキーボードも弾いていたんですけど、アニソンとボカロ曲のカバーバンドだったので、キーボードをコピーするのがめちゃめちゃ難しいんですね。なので、文化祭のステージなどではキーボードのサポートを入れました。
やっていた曲は……例えば『リゼロ』(『Re:ゼロから始める異世界生活』)の鈴木このみさんによる主題歌「Redo」とか、ボカロだとDECO*27さんの『愛迷エレジー』『モザイクロール』とか。メンバーみんなで意見を出し合って決めていたので、有名なアニソンだからやろうとかじゃなく、本当に好きな曲を片っ端からカバーしていましたね」
小さいころは「アニメは好きでしたけど、アニメカルチャーにどっぷりハマってはいなかった」という彼女だが、好きなアニソンがたくさんできるほどによくアニメを見るようになったのは、中学校2年生から。きっかけは、2002~2003年にかけて放送されていた美少女戦隊ものTVアニメ『東京ミュウミュウ』。1999年生まれの楠木ともりにとっては、懐かしの作品だ。
「母から、『これ覚えてる?』って、オープニング映像を見せられたんです。放送当時、私はまだ3歳とかなんですけど、すごく記憶に残っていて、気になって1話から52話まで全部見直したんです。そのときに、アニメは大人になってから見ても面白いんだ! と気づいたんですね」
当時の彼女は、ちょうどオタクカルチャーに興味が湧いてきた時期。そんなとき、声優・楠木ともりという花が咲くきっかけとなったアニメの再放送に出会う。それが、2009~2010年にかけて放送されていたCLAMP原作の『こばと。』だった。
「主人公のこばとを演じられていた花澤香菜さんの声に、ひと聴き惚れしました。もちろん、アニメにはキャラクターの声を担当する声優さんがいらっしゃることは知っていましたが、そこで初めて“職業としての声優”というものを意識するようになったんです。小学校の学芸会でしか“演技”には触れてこなかったけど、興味が湧いてきて、声優さんって良いなと、漠然と思い始めました」
同時に、彼女のなかにもうひとつ“アニメに関わる仕事”として、長年慣れ親しんできた音楽という側面から憧れを抱いたのが、アニソンシンガーだ。ただし「そこに至るまでも、ちょっとした遍歴があるんですけど……」と彼女は言う。
「姉がL’Arc~en~Cielをよく聴くようになってから、私もハマっていって。L’Arc~en~Cielをはじめ、SCANDAL、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とか、いろんな邦ロックをひと通り聴くようになったんです。
もともと父親が大の音楽好きなので、小学校に上がる前から車のなかでスピッツやBONNIE PINKさんを、一緒にずっと聴いて歌っているような子どもでした。そして中学生でハルカトミユキの音楽に出会い、手紙のように言葉が伝わってくる歌詞に感動して、歌詞というものに注目するようになり……好きな音楽をもっと掘り下げるタームが始まって、パスピエや女性ボーカルのバンドをよく聴くようになりました」
そんな時期に出会ったのが、アニソンだったのだ。それまで聴いてきたジャンルの音楽にはない新鮮で強烈なアニソン体験に、彼女は“自分だけの音楽”を直感した。
「中学校2年生くらいですかね。親戚から“お姉ちゃんの影響受けてるね”ってポロっと言われたことがあるんです。たぶん何の悪気もなくて、“姉妹仲良いね!”くらいの言葉だったんですけど、ハッとしました。習いごとも部活も同じ道を歩んでいるし、聴いている音楽も同じ。私自身には何の個性もないじゃない! と思って、誰の影響も受けない音楽を私も見つけたいと思っていた時期に出会ったのが、アニソンやボカロでした。
アニソンの、独特の気分が上がる旋律感だったり、ストリングスが入っていて重厚感のあるサウンドだったり。LiSAさんのバチバチにロックな感じや、鈴木このみさんの激しい楽曲が大好きで、周りがなんと言おうと私はこれが好き! なものを、アニソンのなかに見つけることができたんです。そんな流れもあって、当時は声優とアニソンシンガーが、私のなかでの憧れの仕事になりました」
そのときどきで、深掘りする音楽にも変化はあるそうだが、ちなみに今こだわって聴いている音楽を聞いてみると?
「最近は……インパクトのある音楽を1周回って、今はアンビエントミュージックやエレクトロニカが好きです。私の『山荷葉』という曲でアレンジをしていただいたコンポーザーのarabesque Chocheさんがやられているユニット・Chouchouがきっかけで、いろいろな曲をネットで探しては聴いていますね」
アニメ声優、アニソンに興味を持ち、「真面目に生きるのを辞めた」高校時代。精神的にも変化が訪れ、今の楠木ともりが生まれるきっかけとなった大胆な行動を起こすことになる。2016年、高校2年生のときに、現在所属するソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)主催のオーディション企画『アニストテレス』の第5回大会に出場し、特別賞を受賞する。
「昔から音楽とか美術とか芸術系の教科が大好きだったから、将来自分がやりたいことはそっちの方向だなと漠然と思っていたので、高校生になると、親にも“私は声優になりたいから、大学に行かずに声優の養成所に通いたい!”と相談したんです。でも親からは、猛反対するわけではないけど、大学は行っといたほうが良いんじゃない? と言わましたね」
両親としては、声優になりたいというのは一時の気の迷い。周りが受験勉強を本格的に始めれば、娘の気も変わるはずだと思っていたらしいのだが?
「ヘンに刺激すると、なおさら私が反発するだろうから、時が過ぎるのを待とう、みたいな感じだったんですよね(苦笑)。でも、私としては“親に反対されているわけじゃないし、いいや、自分で挑戦してみちゃおう!”と思って、いろんなオーディションを探していたときに、姉が見つけてくれたのが『アニストテレス』の募集でした。
募集要項を見ると、アニメ作品に携りたい人なら、歌でも声優でも何でもOK! とあったので、おお、私にぴったりじゃん! と。演技はまったく素人でしたから、声優か歌手かでいうと、アニソンシンガーになれたら良いな! と思って応募しました。書類審査、2次審査に通って、お客さんを入れたファイナルステージまで進んだとき、両親としては、かなり焦っていたみたいです(苦笑)」
そこからSMAの預かり所属となり、楠木ともりの新しい人生がスタートする。だが本人としては、喜び勇んでこれから声優として頑張ります! という心境でもなかったそうだ。
「まだ高校2年だし、ちゃんと進路は考えないといけない時期で。事務所にお世話になることにはなりましたけど、いきなり仕事がもらえるわけでもない。オーディションの翌年からは、ありがたいことにモブ役などをいただけるようにはなりましたが、立場も預かり所属だし、声優で本当にプロとしてやっていけるかどうか、自分の将来を100%そこに捧げて大丈夫か? と考えると、私もちょっと怖いかな? という思いではありました。なので現実的なことも考えて、興味のある美術系の学科がある大学にも行こうと決めて、受験勉強を始めたんです」
しかし運命は、彼女を手放さなかった!
「オーディションに受かったんです、しかも主役の。それが鍵村葉月ちゃんを演じさせていただいた『メルヘン・メドヘン』で、その後もゲームの『きららファンタジア』が決まり、『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』も決まり、『GGO』の主演も決まり……と、ありがたいことにオーディションのうれしい結果が届いて、お仕事のことを考えると受験は無理だなとなったんです。両親も、そのときには“それも自分が決めた道だから、やりたいことなら、堂々とやってみなさい”と言ってくれて、声優の仕事を本気で頑張ろう! と決めました」
後編では、自ら作詞、作曲を手がける音楽活動への気持ちと、現在放送中の『GGOII』の見どころや自身の演技のへの想いを聞く。
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
5th EP「吐露」
発売日:11月6日(水)
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