アニメ『デリコズ・ナーサリー』の制作関係者に聞く――映像で魅せる『TRUMPシリーズ』の新たな美①
2024.11.27


2003年に初掲載され、今もなお愛されつづけている、緑川ゆきによる「夏目友人帳」。本作品はアニメとして、2008年に第一期の放送がスタートし、これまでに80話(特別編OVA含む)+劇場版が制作されてきた。
アニメシリーズの監督、総監督として携わってきた大森貴弘総監督は、この作品へどんな想いを込めてきたのか。10月7日に放送が開始された第七期の魅力と作品づくりへの想いを語る。後編では、この16年の間にアニメ制作の現場において、デジタル技術が普及するなど大きな変化が起きているなか、「夏目友人帳」の現場で変わったもの、変わらないものを聞いた。
※本インタビューは9月11日に行ないました。
目次

大森貴弘
Omori Takahiro
アニメーション監督、演出家。代表作に『夏目友人帳』『地獄少女』『バッカーノ!』『デュラララ!!』など。
記事の前編はこちら:アニメ「夏目友人帳」第七期放送開始―――大森総監督が振り返る、ともに歩んだ6,000日①
――16年にわたって作られてきたアニメ「夏目友人帳」。大森総監督の印象に残っているエピソードはどんなものがありますか?
昨年、「リバコメ!!×TVアニメ『夏目友人帳』アニメ化15周年記念イベント」というイベントがありまして(2023年12月2日開催)、そのときにファン投票で人気のエピソードが選ばれたんです。
上位に選ばれたエピソードのなかには主人公の夏目貴志とニャンコ先生が活躍しない回もあったんですよ(人気投票第1位は第五期 第十話「塔子と滋」、人気投票第3位は第三期の第四話「幼き日々に」がらランクイン)。やっぱり、イベントにきてくれるお客さんはこだわったエピソードを選ばれるのだなと思いつつも、監督としては意外でしたね。
――イベントにくるファンの方々は、作品に対する熱量が高いためにそういった結果であっても納得できます。貴志やニャンコ先生ではなく、周りのキャラクターを推しているファンも多く、作品が隅々まで愛されている証拠でもありますね。
イベントがあるたびに感じているのですが、「夏目友人帳」のファンの方々は「ここだけの話ですよ」と言ってお話しすると、ちゃんと約束を守ってくださいますし、内輪話やネタバレが外に出たことがないんです。リテラシーの高い、作品愛の強い皆さんが集まってくださるので、僕らもとても助かっています。
さらには、作品に対する読解力もすごく高いので、少し演出的に行間が多めになって、説明が足りないような表現をしてもきちんと汲み取ってくださるのは、作り手側としても有り難いですし、意図が通じたという手応えを感じます。

――アニメ「夏目友人帳」では、アニメオリジナルの話数もいくつかありますね。
初期のころは原作が連載を始めたばかりだったので、アニメ化できる原作の話数が足りなかったため、オリジナルを入れていきましょうという判断になりました。何よりも有り難いことに、原作者の緑川ゆき先生がアニメオリジナルのエピソードを望んでくださっていて。“このキャラクターたちで遊んでみてください”“私も見てみたいです”と、アニメ版のファン目線で応援してくださっているんです。
――原作者から「見たい」と言ってもらえるのは、アニメの作り手にとって最高の誉め言葉ですね。
その通りです。緑川先生はアニメの「夏目友人帳」もすごく応援してくださっていて、わざわざご自身のSNSアカウントを開設して、リポストもしてくださるんです。
――オリジナルエピソードを作るときは、緑川先生とはどのようなやり取りをされているのでしょうか。
僕は「夏目友人帳」のドラマCDの脚本を書くこともあるのですが、そういうときは先生とかなり細かくやり取りをしながら脚本を作らせていただいています。こちらから提案するベースのエピソードを受け入れてくださって、そのうえで「こういうときのこのキャラクターはどんなことを言うんでしょうか」「こっちの言い回しのほうが良いかもしれません」といったやり取りを重ねていくなかでアイデアをいただいています。
――アニメ「夏目友人帳」は16年間、ほぼ変わらないスタッフで制作をつづけていることも特徴だと思いますが、その点をどのように感じていますか?
これだけ長い間一緒にやっているので、スタッフ間で目指す方向性がズレないという良さがありますね。何も言わなくても「ここまでは表現としてありだけど、これ以上は原作の世界観を損なうのでNG」という認識を共有できているのが、チームの強みだと思います。
そのうえで「夏目友人帳」のキャラクター像も、チーム内でしっかりとでき上がっているので、いろいろなアイデアが出てくるというのも特長だなと。各自から出てくるアイデアが良い意味で作品のアクセントになっているのではないかと思います。
――現場のスタッフの方々が長年携わることで、作品を熟知し、より良い作品ができるんですね。
第七期までつづけてこられたことで、朱夏(「夏目友人帳」を第五期から手がけるアニメ制作会社)のスタッフも頼もしくなっていて、社内スタッフを中心に作っていけるようになったんです。長く作っていくうちに、そういう良さも出てきましたね。
――第七期では大森さんが総監督、『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』で監督を務められた伊藤秀樹さんが、新たに監督を担当されています。
伊藤さんはタッチが柔らかくて、とても優しい映像を作る方なんです。僕は一歩引いた立場で現場を見ていたので、作品ととことん向き合った伊藤監督は大変だったかもしれないけど、今回は伊藤監督の良さ、とても柔らかい部分が出ていると思いますね。
――ほかのメインスタッフはこれまでと変わらない顔触れです。音楽の吉森(信)さんは第一期から心情に響くような音楽を手がけられていますが、吉森さんとの音楽にはどんな魅力がありますか。
実は、これまで吉森さんが「夏目友人帳」のために作ってくださった楽曲は120曲ぐらいあるんです。吉森さんには「夏目友人帳」よりも前から別の作品で音楽をお願いしていて。初めてメインでご一緒したのが、アニメ『学園アリス』だったのですが、それまではただの飲み友達だったんですよ。
吉森さんは原作に対する読解力がすごく深いんですよね。もちろん各期で音楽メニューという発注書を作って、こちらのイメージの概要も書いて吉森さんに新曲をお願いしているんですが、本人いわくタイトル(曲名)とだいたいの希望分数(音楽の尺)さえわかれば、あとはもうスコア(楽譜)にできるとおっしゃっていて。事前に原作をしっかりと読み込んでいるから、そういったことができるのだなと思っています。
ときに、はっちゃけすぎて作品内で使えないような楽曲ができ上がることもあるんですが(笑)、そういう冒険心をいつまでも忘れることなく、作品のための音楽を試行錯誤してくれている。最近は、「自分の作った音楽を映像のなかでどう使ってくれても良い、全部お任せする」とまで言ってくれています。
――美術監督の渋谷幸弘さんも第一期からご一緒されています。
このシリーズが始まったころは、アニメ業界全体がアナログの環境から、デジタルの環境に移行する時期で、映像の解像度もまだ定まっていなかった時期だったんです(テレビ放送の地上波デジタルの完全移行は2011年7月)。
デジタル化が進むなかで渋谷さんは紙の質感にずっとこだわられていて。スタッフがデジタルの作画環境になっても、渋谷さんは基本的に水彩画で描きつづけていらっしゃる。最終的な仕上げでデジタルを使ったとしても、水彩のタッチをすごく大切にされているんですよね。
第六期からは三宅(真央)さんという美術監督も入ってくださって、うまく幅を広げながらも美術のテイストを守りつづけてくださっています。おふたりに刺激を受けながら、我々も「あの話数の夕焼けってどんな感じでしたっけ」「あのときの特殊な設定は」というように、過去に作ったものを参考にしながら、新しいものを作りつづけています。
――今、アニメの制作現場の環境が変化しているというお話がありましたが、「夏目友人帳」の現場ではこの16年間にどんな影響がありましたか?
急激な変化があったわけではないんです。もともと紙で描いていたものを、そのタッチをいかして映像にしていましたし、どちらかというと僕もそういう映像が好きなタイプなので。だから、デジタルであろうが、紙であろうが、作品の質が変わるわけじゃないと思っています。
ただし、第七期の制作中に顕著だったのは、デジタルの動画が増えてきたことによって、線の細さが変わってしまうことでした。紙と鉛筆で描いていたときは、紙と鉛筆の限界があって、どんなに細く描いても、細くはなりすぎなかった。
でも、デジタル作画だと本当にギリギリまで細くできるんです。なかには必要以上に細い線で上がってくる動画もあって。「夏目友人帳」に登場するキャラクターはシンプルなデザインになっているので、線をある程度太くして、線の抑揚がわかるようにするほうが良いと思っています。線の持っている力を大事にしていて、その線が細くなりすぎるとどんなに丁寧な動画であっても採用することが難しくなるんです。
――アニメ「夏目友人帳」の優しくも繊細なテイストは、線の抑揚によって表現されていたんですね。
ほかにもデジタル化したことで、配色できる色数の選択肢が膨大になりました。「夏目友人帳」らしい色をどう維持していくかも大事なことだなと思っています。
――ついに第七期のオンエアが開始されました。大森総監督がこのシリーズで注目してほしいのはどこになりますか?
実は第六期は、謎を残したままというか、少し座りの悪い終わらせ方をしてしまったんですよね。第六期が終わったあと、すぐに第七期を作ることができるだろうと思っていたので、そうしてしまったのですが、予想以上に時間がかかってしまい、ファンの皆様に心苦しかったです。なので今回、無事に作ることができて良かったと率直に思っています。
――作品とのお付き合いも長くなりました。まだまだ「夏目友人帳」はつづいていくと思いますが、今後の目標はありますか?
自分のキャリアとしても一番長く携わっている作品になりましたし、原作と一緒に並走しながらアニメ「夏目友人帳」もここまで来ることができました。これからの話になりますが、いずれ原作が結末を迎えたときに、アニメもファンの皆さんに満足していただける形でエンディングを迎えることができたらと思っています。
――16年の歴史のなかで、「夏目友人帳」をご覧になっているファンの方々も増えていると思いますし、まだまだこれからの展開を楽しみにしていきたいと思います。
イベントの会場に行くと実感するのですが、なかには親子でご覧になっている方がいらっしゃるんですよね。あまり流行に左右されるような作りにはしていなかったので、長く楽しんでいただけるものになって良かったなと思っています。どのエピソードからご覧になっても、見やすい作品ですし、この先もずっと楽しんでもらえるとうれしいです。
記事の前編はこちら:アニメ「夏目友人帳」第七期放送開始―――大森総監督が振り返る、ともに歩んだ6,000日①
文・取材:志田英邦
撮影:増田 慶
©緑川ゆき・白泉社/「夏目友人帳」製作委員会
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