TVアニメ『夏目友人帳』第七期放送開始―――大森総監督が振り返る、ともに歩んだ6,000日②
2024.10.21


2003年に初掲載され、今もなお愛されつづけている、緑川ゆきによる「夏目友人帳」。本作品はアニメとして、2008年に第一期の放送がスタートし、これまでに80話(特別編OVA含む)+劇場版が制作されてきた。
アニメシリーズの監督、総監督として携わってきた大森貴弘総監督は、この作品にどんな想いを込めてきたのか。10月7日に放送が開始された第七期の魅力と作品づくりへの想いを語る。
※本インタビューは9月11日に行ないました。
目次

大森貴弘
Omori Takahiro
アニメーション監督、演出家。代表作に『夏目友人帳』『地獄少女』『バッカーノ!』『デュラララ!!』など。
記事の後編はこちら:アニメ『夏目友人帳』第七期放送開始―――大森総監督が振り返る、ともに歩んだ6,000日②
――TVアニメ『夏目友人帳 漆』(第七期)のオンエアが2024年10月7日から始まりました。第一期(2008年7月8日オンエア開始)から数えると実に16年つづく長寿シリーズになっています。大森総監督は「夏目友人帳」がここまで愛される理由は何だと考えていますか?
アニメ「夏目友人帳」は基本的にお話が1話で完結して、すごく見やすい構成になっています。しかも、つづけて見ていくと大きなストーリーが見えてきますし、話数を重ねた現在でもまだ明かされていない謎がある。そういうところが多くの方々に長く楽しんでいただけている理由なのかなと思っています。
ただ、長くつづいていますが、前回の放送から7年くらい時間が空いていますし、16年のうち半分はお休みをいただいていた感じもあるんですけどね。
――16年前を振り返ってもらいたいのですが、最初に『夏目友人帳』のアニメ化のお話が大森総監督のところにきたときのことは覚えていますか。
はい。元々は現、朱夏(当時ブレインズ・ベース)の佐藤由美プロデューサーが、この原作をぜひやりたい、と当時のANXのプロデューサーに声をかけたところ、すぐに白泉社にアタックしてくれたそうです。その際、ちょうど本作に注目していた代理店のADKなどと、委員会での製作提案をしたそうで。別作品で一緒に仕事をしていた僕に声をかけてくれたことで、アニメ化に携わることになりました。
ただ、そのときは原作が生み出す空気感や雰囲気をアニメで表現するのは、正直、難しいだろうなと思っていました。さらに当時はまだ原作の連載が始まったばかりで、原作者の緑川ゆき先生も考えながら描かれているところでしたので、こちらもキャラクターの立ち位置や登場のタイミングを調整させていただきました。
――アニメ化にあたっては、原作を細やかに調整されていったんですね。
当初、原作での主人公の夏目貴志は、少し超然とした雰囲気でミステリアスな印象のある少年でしたが、もう少し身近にいるような、普通の少年だけど“妖が見えてしまう”という一点だけで、周りの人々と距離ができてしまっているという方向にさせていただきました。
原作では銀髪なのですが、映像で銀髪にすると、見た目の部分でどうしても周りから浮いて見えてしまうため、アニメでは貴志の髪色を明るい茶髪にしています。さらに貴志の友人として、西村(悟)や北本(篤史)だけでなく、紅一点として笹田(純)も転校させるのをやめて、日常ドラマが見やすくなるように調整をしました。(※注:原作では笹田は転校してしまうが、アニメではクラスメイトとして登場している)
――緑川ゆき先生とは細やかなやりとりをされたのだと思いますが、緑川先生とお話した印象を教えてください。
とにかく優しく思慮深い方という印象でしたね。初めてお会いしたときは、美術スタッフやキャラクターデザイン、妖怪デザインなどメインスタッフのみんなでご挨拶に伺いました。その際に作品についていろいろな質問をさせていただいたのですが、とても誠実に答えてくださったことが印象に残っています。あまりに熱心にお答えいただいたので、僕らと会った翌日には、緑川先生が知恵熱を出されてしまったと聞きました(笑)。
そうやって対面して感じた印象だけでなく、「夏目友人帳」という作品そのものにも、先生の人柄の良さがにじみ出ているなと感じています。特にアニメ制作に入って、各話の絵コンテを切るようになってから気がついたのは、緑川先生は“読者を楽しませたい”という考えを強くお持ちだということです。
作品のあちこちにちょっとしたいたずら心を混ぜていたり、作品の構成に意外で面白い仕かけを入れていたり、読者が楽しくなるような要素を入れている。非常に読者に寄り添われている方なのだなと感じています。
――「夏目友人帳」の舞台のモデルは熊本県の人吉市だと言われています。大森総監督も人吉へロケハンに行かれたそうですね。
僕は監督デビューをした作品からロケハンは欠かさずやっているんです。ロケハンをする意味のひとつは、作品のモデルとなった現場を見るというだけでなく、美術監督をはじめとするスタッフとともに話をしながら現地を歩くことで、イメージの共通認識を持つということだと思っています。
もちろんアニメ『デュラララ!!』のように現地の景色や位置関係をそのまま作品に使うこともありますが、「夏目友人帳」はそこまではしていなくて、熊本の人吉の雰囲気を全体的にふわっと使わせてもらっています。
――熊本県の人吉市はどんな街だったのでしょうか。人吉の街並みや風景は、アニメ本編にはどのように反映されていますか?
記憶に残っているのは、そこで暮らす人たちの人柄の良さですね。特に中学生や高校生とすれ違うと、必ず挨拶をしてくれるんです。緑川先生にそのことを尋ねると、人吉は地形的に盆地で昔から周囲の勢力から攻め込まれることを警戒していた風土だったそうです。
だから、初めて見た人に挨拶をすることで、相手がどんな人なのかを確認するという儀礼が習慣化しているそうなんですね。「なるほど、あの挨拶にはそういう意味もあったのか」と思いつつも、やっぱり中高生の子たちに笑顔で挨拶されたらうれしいですよね(笑)。それと、同じく周囲を警戒するという理由のためなのか、住宅の周りにある垣根が低いんですよ。
――垣根が低い?
そうです。東京の住宅にある垣根はだいたい180cmや170cmくらいの高さで、背伸びをしたってなかなか覗き込めないと思うんです。ところが、人吉の垣根は胸元くらいの高さ、周囲が見渡せるようになっているんですね。高くして侵入を防ぐというより、挨拶同様に周囲の状況を把握することで自衛する、という習慣が根付いてるんですね。そういったところは「夏目友人帳」の美術においても、大事にしてきたところのひとつです。
――アニメを制作するときは、原作のどんなところを大事にされていたのでしょうか。
原作の「夏目友人帳」では各話ごとに、貴志のモノローグ(心の声)をとても印象的に使っているんです。その扱い方がひとつのポイントだなと思っていました。貴志のモノローグは2層になっていて、登場人物の感情を表わすモノローグと、それとは別に感情のモノローグがぽつんと入ってくることがあります。
ただ、そのふたつのモノローグをひとつの文章で組み立てようとすると、意味がつながらなくなってしまう。そこでモノローグを整理して、2種類のモノローグのどちらを使うかを選択することで、セリフ(シナリオ)を構成しています。
セリフとして使わなかった場面は、絵で見せていくようにするんです。片方は言葉で聞かせて、片方はキャラクターの表情で見せていくというような、映像ならではの表現をしています。
また、モノローグの語り方もナレーション的な喋り方が良いのか、もっと感情的な語り方のほうが良いのか。そのあたりはシナリオを作る段階で決め込み、収録のときに夏目貴志役の神谷浩史さんと相談をして、「ナレーションに近い硬さが欲しい」「ナレーションとモノローグの中間あたり」と、バランスを細かく調整しながら収録をしています。
――大森総監督は「夏目友人帳」シリーズで監督としてだけでなく、音響監督も務めています。キャストの皆さんの自由な演技も魅力的な「夏目友人帳」。本編に登場する中級妖怪たち、通称「犬の会」の会話シーンはダジャレやアドリブなど、楽しい会話が繰り広げられていますよね。
「犬の会」の登場シーンの収録は、ほとんどキャストの皆さんにお任せしていますね。最初のころは「そのダジャレは、意味がよくわかりません」と突き返したりもしたんですけど(笑)。最近は中級妖怪・一つ目役の松山鷹志さんが座長のように現場を仕切っていて、「犬の会」のパートの原稿(アドリブ用のセリフ)を全部考えてきてくれて、スタジオの外で打ち合わせをしてから収録を始められるんです。そういう楽しい収録ができるのも、「夏目友人帳」の現場の魅力のひとつです。
――主人公の夏目貴志は普通の人には見えない妖の姿を見たり、声を聴くことのできる能力を持っている少年です。第一期から彼を描いてきて、変化や成長を感じるところはありますか?
第一期のころも、第七期のときも彼の周りには友人たちがいて状況は大きく変わっていません。ただ彼自身がその周りの友人たちにどれくらい心を許すか、というところが変わっています。
おそらく最初のころはもっと硬く、相手に気を許せない感じが態度に出てしまっていたと思います。それがだんだん慣れてきて、今では多少のことがあっても冗談で紛らわせるとか、そういう柔らかさが出てきたように感じています。
妖たちに対する彼の気持ちもだんだん変化していて、現在(第七期)は割と妖たちと人間の友人たちが、貴志の気持ちに近い存在になっていると思います。祓い屋に接するときは緊張感を持っているけれど、だんだん気持ち的には開いてきている。
特に的場(静司・妖祓い屋、的場一門の若き頭首)に対しては冷静にどんな人なのか理解するような一面を見せていますし、成長のようなものを見せているところじゃないかと思います。第七期は、登場人物たちの意外な一面が見えるシリーズだと思っているので、貴志の変化だけでなく、そういった人々の見え方の変化も楽しんでもらえたらなと思いますね。
――現在は貴志のパートナーである妖・ニャンコ先生も、貴志と長い時間を過ごすうえで腐れ縁のような関係になっています。ニャンコ先生の正体は上級の妖・斑。貴志が死んだら友人帳を受け継ぐという約束で行動をともにしていますが、ニャンコ先生も変化しているのでしょうか。
ニャンコ先生もすごく変わってきていると思います。たぶん、貴志という存在がニャンコ先生を柔らかくしているんでしょうね。実は第七期で久しぶりに自分の目的を「お前が死んで、友人帳を譲り受けることだ」なんて言い直したりするんですが、そんなことを忘れているくらい、貴志との関係が自然になっている。自分の目的がネタになってしまうというのは、ある意味で良い関係ですよね。
――登場人物たちの変化を描くことは、大森総監督にとってはどのような難しさ、面白さがありますか?
もともと僕は、人の心の動きや表情の変化、佇まいの変化を描きたくて、映像の仕事を始めたところがあるんです。「夏目友人帳」に限らず、どんな作品でもキャラクターの変化を描くことはすごく楽しいです。作品のなかで、人の心の動きをじっくりと描くことこそが、この仕事の醍醐味だなと思っています。
後編では、アニメーション制作の現場のデジタル技術の普及を含め、「夏目友人帳」の現場で変わったもの、変わらないものを語る。
文・取材:志田英邦
撮影:増田 慶
©緑川ゆき・白泉社/「夏目友人帳」製作委員会

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