アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』音楽制作チームが語る――映像と融合した“音楽”の魅力①
2025.02.14


2009年に上演され、演劇、戯曲集、短篇小説集、コミカライズ、劇中歌コンサートなどを展開し、耽美な世界観で人気を集める『TRUMPシリーズ』。
その初のアニメ化作品として制作されたアニメ『デリコズ・ナーサリー』について、舞台『TRUMPシリーズ』担当のワタナベエンターテインメントの加藤美秋氏と、アニメ『デリコズ・ナーサリー』チーフプロデューサーであるJ.C.STAFF松倉友二氏に話を聞いた。
後編では、アニメ制作に込めた思いと、15周年を迎えた『TRUMPシリーズ』の今後について語る。
目次

加藤美秋氏
kato Miaki
ワタナベエンターテインメント
『TRUMPシリーズ』原作担当

松倉友二氏
Matsukura Yuji
J.C.STAFF
アニメ『デリコズ・ナーサリー』チーフプロデューサー
記事の前編はこちら:アニメ『デリコズ・ナーサリー』の制作関係者に聞く――映像で魅せる『TRUMPシリーズ』の新たな美①
――アニメ『デリコズ・ナーサリー』の制作について詳しくお聞きします。舞台作品のアニメ化はそれほど多く前例があるわけではないと思いますが、実際の制作現場はどんな様子でしたか。
松倉:大変でしたね(笑)。原作に愛情を持っているからこそ錦織監督のプレッシャーも大きかったと思います。しかも作品の内容もすごく濃いですし、絵もカロリー高めで。赤ちゃんを描かなくてはいけないし、戦闘シーンもあるし、それらの制作を上手く軌道に乗せるためには、この作品ならではのシステムをしっかりと作らなくてはいけない。企画が立ち上がった当初は、自分と現場のプロデューサーでそこに注力していました。
――アニメ『デリコズ・ナーサリー』は『TRUMPシリーズ』の新作とはいえ、アニメスタッフは演劇の『TRUMPシリーズ』を受け継ぎながら、新たな作品を作らないといけない。つまり、演劇をアニメ化するという課題に向き合ったのではないかと思いますが、いかがですか?
松倉:演劇というエンタテインメントは、役者さんの肉体性によって、作品を持ち上げていくものだと思うんです。舞台美術や照明があったとしても、最終的には役者さんが全部を表現するわけですから。
対して、アニメには肉体性は存在しなくて、すべて絵で表現しないといけない。当たり前ですが、演劇とアニメは組み立て方が全然違うので、舞台と同じことをアニメができるのかと言われるとできないんです。
でも錦織監督はアニメにはない肉体性の部分を、舞台とは違うやり方で表現していくところが素晴らしかったですね。脚本に書いてあることを一度しっかり飲み込んで、そのうえでアニメの演出として組み立て直していく。彼はそういうことができる監督で、自分は20年以上一緒にやらせてもらっていますが、今回も期待に応えてくれたと思います。
――アニメを制作するうえで、皆さんが考えていた『TRUMPシリーズ』として大事にしていたことはどんなことですか?
加藤:『TRUMPシリーズ』を制作するときに、世界観やキャラ感、ビジュアルの部分はもちろんですが、それ以外で私たちが心がけていることは、物語の伏線やネタバレをこちらから示唆しないこと、敢えてわかりやすく見せないことなんです。
お客様がご自身で想像をして、先の展開を考えてくださるのはもちろん有難いことなのですが、ご覧になったお客様の予想や期待をいい意味で裏切っていきたい。その驚きや衝撃が大きな観劇体験だとも思うので、先の展開や、既出の情報であってもほかの作品で判明する事実などを匂わせすぎないようにすることを、細かく監修させていただきました。
松倉:『TRUMPシリーズ』は世界観の作り込みやキャラクターの関係値がとても深くまで練り込まれているんですよね。最初に舞台を見たときは、その全貌が見えなくて。アニメを作りながら、そこを学んでいった感じがあります。
そしてアニメとしては、その世界観を取りこぼさないように作っていくのが大変でしたね。『TRUMPシリーズ』をよく理解されている、錦織監督を中心にしっかりと作り込んでもらいました。
それと、舞台は、ワンショット(ひとつの被写体、この場合は、ステージを中心にした撮影)じゃないですか。そのワンショットの雰囲気を保ちながら、アニメの画面を作っていくということも大変でしたね。アニメだと場所の移動や時間の流れを描かないといけないので、舞台では表現されていないところを描く必要があって。
加藤:アニメ制作チームの皆様が、原作が舞台であることをとても大事にしてくださっていたので、その点は本当に大変だったと思いますが、アニメとしての表現ややり方を原作サイドも納得できるかたちで示してくださったので、こちらとしてもすごく勉強になりました。
――加藤さんは、どれくらいアニメの現場や制作状況をご覧になっていたのでしょうか?
加藤:最後の編集まで、とても細かく監修の機会をいただきました。実際に絵を描かれている現場にいたわけではありませんし、アフレコにもすべて立ち会ったわけではないのですが、静止画が少しずつ動き出して、色がついて、次回予告もついて……という過程は監修のなかでリアルタイムに見させていただきました。
私はアニメ制作の現場を全く知らなかったので、絵コンテの読み方から、どういった役割のスタッフの方がいるかというところまで、すべて勉強の日々でした。いろいろと監修させてはいただいたのですが、だからといって私たちの判断が“正解”というわけではないし、アニメが“別物”というわけでもなくて。今回のアニメ化によって新しい気づきをこちらもいただき、『TRUMPシリーズ』に新しい解釈が加わったなという感覚がありました。
何より錦織監督をはじめ、アニメ制作チーム、宣伝に至るまでのプロデュースチームの皆様が、本当に『TRUMPシリーズ』に愛情を持って携わってくださっていたのもうれしかったですね。
――演劇では舞台美術や小道具がありますが、アニメで美術(背景)やプロップを作るときに舞台の資料を参考にしていたのでしょうか。
松倉:今回、錦織監督は美術やプロップの作り込みにかなり長い時間をかけてこだわっていた印象があります。
加藤:特に記憶に残っているのは、アニメで建物や美術を作るにあたって「この世界の地図はありますか?」と聞かれたことです。
これは『TRUMP』のコミカライズの際にもリクエストをいただいたことでした。この町は都会的だとか、この村は森のなかにあるといったような大まかなことは、舞台を作るうえでなんとなく設定されているけれど、距離感や建物の大きさまで知りたいということで。
確かに、漫画やアニメは美術が抽象ではなく具象になるし、画面のなかで人物が移動もする。末満さんから聞いてきた色々なイメージや情報をもとに、手描きで地図のようなイラストのようなものを書いて、“ここからここまで馬車で何日の距離”のようなことも矢印をひいて、それを末満さんにチェックしていただいたんです。
結果、末満さんにもツッコまれたのですが、私があまりにも地図を描くのが下手で、縮尺がめちゃくちゃに……。でも、そのままアニメ制作チームにお渡ししましたね(笑)。
また、クランの間取り図も末満さんに作ってもらいました。デリコ邸(主人公ダリ・デリコの屋敷)などの建物を、3DCGで部屋のなかまで見られるように作ってくださったことも衝撃的な体験でした。
松倉:最近のアニメでは3Dで室内のセットを作り、それでカメラ位置を考えて画面の構図(レイアウト)を決めていくんです。そのために、かなり精巧な屋敷のなかを3Dで作りました。その3Dができたときに、デリコ邸はこういう構造になっています、というデリコ邸のツアーも行ないました。
アニメって全部を作らなくちゃいけないメディアなんですよね。キャラクターも建物もセットも絵で全部を起こさなくちゃいけない。例えば、今回は地図を加藤さんたちに作っていただきましたが、それがアニメのなかに直接出るわけじゃない。でも、作品を作るうえで地図は必要で。
地図があることで、その建物から何が見えるか、建物から建物への移動はどれくらい時間がかかるかがわかるんです。時間経過や太陽の日差しの向きなど、細かい表現には地図が欠かせないんですね。そうやって一つひとつの表現をするために、たくさんのことを一緒に決めていきました。
――今回『デリコズ・ナーサリー』では、『TRUMPシリーズ』においても初登場のキャラクターたちがいます。新たなキャラクターはどのように作っていったのでしょうか。
加藤:初登場のキャラクターは、末満さんから“こんなイメージです”と詳細にお伝えして、アニメ制作チームの方々に具現化していただきました。
舞台で既に登場しているキャラクターに関しても、「役者と同じにしてください」ということは一切言わずに、これまでの舞台、コミック、今回のシナリオから構築されるキャラクター性を、荒野さん(キャラクター原案)の解釈や持ち味とミックスして描いていただきました。大人4人とメインの子どもたちはかなり早い段階でデザインができていました。
――登場人物の衣装についても、新たにデザインをされたのでしょうか。
加藤:そうです。まず役者さんが舞台で着ていた衣装を資料として、アニメ制作チームの皆さんにお渡ししてイメージを踏襲していただきつつ、今回のアニメ化にあたっての追加のイメージ資料もお渡しして。うまくバランスを取ってもらいながらデザインしていただきました。
そういった資料がないキャラクターももちろんいたのですが、そこはアニメ制作の皆さんにイチからご提案いただいたものを、監修させていただいたかたちです。
――オンエアされ、そして間もなく最終回を迎えるアニメ『デリコズ・ナーサリー』を見た感想はいかがでしたか?
加藤:とにかく気合の入った作画に毎週感激しています。また、特に8話のジュラスの回想シーンなど、演劇的表現のシナリオをテレビのなかのアニメ表現で見るのは新鮮で、とても面白い感覚でした。
アクションもキャラクターのイメージ通りで。舞台の殺陣もキャラクターの性格や関係性を意識しながらつけていくものですが、それはアニメでも、絵や動きの美しさのみならず、同じように意識されている表現なのだなと思いました。
あと、子どもたちがとにかくかわいいですよね(笑)。子どもたちもきっちりと個性があって、大人たちがメインのシーンでも、裏で何やら遊んでいる。一つひとつの仕草や表情の動きにリアリティも感じます。そういうところにもアニメスタッフの皆さんの愛情を感じました。
松倉:錦織監督は実際にお子さんがいらっしゃるので、彼の子育て経験の積み重ねがいかされているのかもしれませんね。
――それでは最後に、15周年を迎えた『TRUMPシリーズ』の今後について教えてください。
加藤:まずは末満さんの頭のなかにある世界が始まりなので、私ひとりがそれを語ることはできませんし、私たちもどうなるのかわかりきっていませんが、まずは現在のクオリティを保ちながら伸ばしながら、今後も作品をさまざまな方面に展開し、より多くの方に楽しんでいただけるシリーズに成長していけたらと思っています。
また、先日発表になりましたが、末満さんと音楽家の和田俊輔さんとで『繭期幻想樂団』と題して、“たった一曲で完結するミュージカル”という新しい音楽プロジェクトも始動しました。
『TRUMPシリーズ』にはシリーズ世界の時系列年表があるのですが、そこに並んでいるタイトルだけでも、まだまだ作品化されていないものがたくさんありますので、舞台はもちろん、小説やコミックも含めて、多様なメディアミックスでお届けしていけたら楽しいですね。
そして図らずも15周年というこのタイミングで、アニメという多くの方に見ていただきやすいメディアで、作品をお届けできたことはとても良かったなと思っています。
実は、今回私が原作担当者としてこだわったのは、エンドロールなんです。スペシャルサンクスに「舞台『TRUMPシリーズ』歴代キャスト・スタッフ」と入れさせてもらったんですね。
末満さんが、ワタナベエンターテインメントや私が関わる前からこのシリーズを一緒に作ってきた方々もたくさんいらっしゃいます。単なるいちスタッフのエゴかもしれないですけれど、これまでの舞台作品の積み重ねをもとに、心して監修に携わらせていただきましたので、この15年間で関わってくださったキャスト、スタッフの軌跡を何か記したいと思いました。
そして、ファンの方々を含め、舞台から始まったシリーズで、そこから続いてきた作品だということをアニメを見てくださった方々に伝えられたらとも思っていました。
次の20周年に向けて、お客様やキャスト、スタッフ、関わってくれた方々が幸せになれるようなシリーズであれたらうれしいなと思っています。そして、またアニメ化ができたら最高ですね。
松倉:それはもう、ぜひ! 舞台で皆さんが作ってくださったものがあるから、僕らも今回アニメを作ることができました。アニメ化を通して『TRUMPシリーズ』の魅力を伝えられていたら私たちもうれしいです。
記事の前編はこちら:アニメ『デリコズ・ナーサリー』の制作関係者に聞く――映像で魅せる『TRUMPシリーズ』の新たな美①
文・取材:志田英邦
撮影:干川 修
©末満健一/デリコズ・ナーサリー製作委員会
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