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芸人の笑像

えぐろ:“建築女子あるある”ネタで話題の一級建築士芸人の素顔①

2025.02.26

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ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)所属の芸人たちにスポットを当て、ロングインタビューにて彼らの“笑いの原点”を聞く連載「芸人の笑像」。

第20 回は、芸歴約1年にして『ぐるナイ年越し おもしろ荘2025』に出演し、建設現場監督という経歴をいかした“建築女子あるある”ネタで注目を集めたえぐろ。彼女はなぜ、一級建築士資格を持つスーパーゼネコン勤務から、畑違いの芸人へと転身したのか? お笑いとの出会いから、建築士を目指した学生時代、そして芸人になるまでの異色の経歴と、芸人としての次なる目標を聞いた。

  • えぐろプロフィール画像

    えぐろ

    Eguro

    1998年9月15日生まれ、埼玉県出身。血液型O型。2023年12月より芸人としての活動をスタート。一級建築士の免許を持つ“建築女子”。2月27日放送の『見取り図の間取り図ミステリー』に出演する。

記事の後編はこちら:えぐろ:“建築女子あるある”ネタで話題の一級建築士芸人②

お笑いの洗礼を受けたのは家族で観たなんばグランド花月

ヘルメットに手を当てて笑顔のえぐろ

この日、取材現場にやってきた、えぐろ。「インタビューをしていただくのは生まれて初めてで……私でいいんですかね?」とはにかみながら、黒目がちな瞳でキョロキョロと周りを見渡す。

見ると、彼女を一躍有名にした“建築女子”ネタ中の土木作業着姿とは真逆のカジュアルな普段着の肩には、黒いソフトギターケースが背負われている。まるで軽音楽部の学生といっても通じそうなバンドマン姿に驚いていると、ギターケースを床に置きファスナーを開いて取り出したのは……ピカピカのスコップ!

「“建設女子”のネタでスコップを使うんですけど、生のまま電車で持ち歩くのは危ないし迷惑。どう運ぶのがいいかな? って思っていたら、SMAの先輩、や団さんがコントで使うスコップをギターケースで持ち歩いているとスタッフさんに教えてもらったんです。サイズもぴったりだし、背中に背負えるし、すごく便利なんですよ。まさかスコップが入っているとは誰も気づかない。おかげで職質されたことはないです(笑)!」

身振り手振り芸を披露するえぐろ

芸人になる前、大手ゼネコン社員時代は、職人を束ねる建設現場の現場監督を務めていたというだけあって、話す口調もハキハキと小気味がいい。私服姿のままだと、まさかこの子がお笑いをやっていると当てられる人はそういないだろう。そんな“芸人らしからぬ”えぐろが、初めてお笑いの洗礼を受けたのは、小学校中学年のこと。家族旅行で行った大阪で、偶然入ったなんばグランド花月(NGK)の寄席公演だった。

「本当に普通の家族なので、せっかく大阪に来たんだから吉本のお笑いを観てみよう! と、ただの観光でなんばグランド花月に行ったんです。だからチケットも当日券。席もバラバラだったので、たまたま空いてた最前列のど真ん中に私が座ることになりまして。

一番びっくりしたのが、中川家さんの漫才。ツバが飛んでくるくらいの距離で観た漫才は、すごく迫力があって面白かったんです。もちろんテレビで漫才を見たことはありましたけど、劇場で観て初めて“生身の芸人さんってすごい! ああいうのやってみたい!”と感動しました。吉本新喜劇という存在も、そこで初めて知りました」

ものづくりへの興味から建築学科に進学

腰に手を置いてこちらを見つめるえぐろ

そこから彼女はお笑い漬けの毎日に……となったわけではなく、初めて芽生えたお笑いへの気持ちは、えぐろの胸の奥にしまわれていった。なぜなら、小学生の彼女には、お笑いよりもっと夢中なものがあったからだ。それがのちの仕事にも大いに関係する、ものづくり愛だった。

「工作が大好きだったんです、小さいころから。家にあった工具とかネジとかを使って木の切れ端をつなげて、ぐらっぐらの家を組み立てたり(笑)。そういうのを続けてるうちに、ものづくりがどんどん好きになっていって。将来はものづくりができる仕事に就きたいと思うようになりました。

結局は、大学の建築学科に進んで一級建築士の資格を取ってゼネコンに勤めることになるんですけど……大学受験のときは機械学科とか土木学科とか、ものづくりに関われそうな学科をたくさん受けたんです。そのなかで運良く受かったのが建築学科だったっていう。でも大学で建築の勉強をするうちに、“やっぱ建築いいじゃん!”ってなりました(笑)」

“建築いいじゃん”の前につく、“やっぱ”にも意味がある。

「私、昔から工事現場が大好きだったんです。小学校1年生くらいのときに、登下校の道に工事現場があったんですけど、ガードマンさんに毎日話しかけたり、現場の泥とかを流すハイウォッシャーに触らせてもらったりしてました。高校時代も、学校の隣で建設工事が始まったときは、もうずっと窓から工事現場を見てて。今日はどこまで進んだとか、こういう作り方をしてるんだとか、毎日ワクワクしながら写真撮ってました(笑)」

手を広げて満面の笑みをみせるえぐろ

女子校に通っていた中高時代は、校舎の窓から身を乗り出して工事現場の様子を見ているような学生だったというえぐろ。その姿を想像すると、なんだか微笑ましい。ちなみに学生時代、“お笑い”への思いはどうだったのだろうか。

「やっぱりちょっと心のなかにあって、大学を受験するときにも頭の片隅で、“NSC(吉本総合芸能学院)に入りたいな”とも思っていたけど、自分としてはあまりに突拍子がないことだったので、行動には移せませんでした」

「腰より上に!」と書かれたカラビナ

お笑いにも心引かれながら、えぐろは“建築いいじゃん!”のほうの思いを真っ直ぐ伸ばし、大学の建築学科に進む。大学時代にはひとり旅も経験した。

「昔から、ひとりで何かをすることにワクワクする人だったので、東南アジア……ラオスやカンボジアやタイをリュック1個でひとり旅したのはいい思い出ですね。怠け者なので、誰かと一緒だと相手に全部任せて何にもしなくなっちゃうから、自分で計画したほうが楽しいなと思って。

女の子ひとりだと危なそうなので、髪の毛も極限まで短くして、洋服もお兄ちゃんが着古したヤツを着て。英語もちゃんと話せるわけじゃなかったけど、カタコトとジェスチャーで乗り切りました。一応、東南アジアのなかでも治安の良さそうな街を選んで2週間くらい行ってたんですけど、親が心配しちゃうから友達と一緒に行くって嘘ついてました(笑)」

建築学科生らしい旅も経験した。

「大学ではボランティアサークルに入っていたので、ネパールで家を建てる活動にも参加しました。それも2週間くらいだったかな。向こうは物価も安いし、楽しいし、本当は学生時代にもっとたくさん海外に行ってみたかったですね」

スーパーゼネコンに就職し郊外の大型施設の建設に従事

真剣な表情のえぐろ

そんな大らかな学生時代を経て、憧れの大手建設会社に就職が決まる。所属部署は入社時に希望を出すシステムだったそうだが、えぐろが選んだのはもちろん現場。大学卒業と同時に国家資格である一級建築士試験を受験することはできるが、一級建築士の免許を登録するには2年以上の実務経験が必要なのだ。

「工事現場が大好きだったし一級建築士の免許も欲しかったので、もちろん現場監督を希望しました。社内の面接でも、『工事現場に出たいです!』と力説して(笑)。

スーパーゼネコンが関わる現場ってとにかくデカいところばかりなので、私が配属されたのも東京近郊の大型施設。2年間、ずっと同じ現場で働きました。実家から通うのはちょっと大変だったので、社宅で憧れのひとり暮らしもできて楽しかったし、職人さんたちにもかわいがっていただけ……てたのかな? アイスや飲み物をおごってもらってましたね(笑)」

念願の現場監督として忙しい日々を過ごすようになったえぐろ。だが次第に「このままでいいのか?」という思いが心に忍び込んできた。

「結局、会社には3年間いて一級建築士の免許も取ったんですけど……途中から、SMAの先輩のやす子さんとか四千頭身さんとか、テレビで自分と同い年の芸人さんが活躍しているのをよく見るようになって、ザワザワしてきちゃったんです。私、芸人になりたいんじゃなかったっけ? って」

しゃがんで一点を見つめるえぐろ

そして気がつけば、このまま会社員を続けるメリットとデメリット、自分が芸人になったときのメリットとデメリットは何かを考え込むようになった。

「ノートにその2つを書きだしていったんです、毎日。そしたら、自分のやりたいこと=芸人になるメリットのほうがどんどん増えていったんです。絶対に楽しいし、1日に働く時間をお金を稼ぐためだけじゃないものに使える。人間関係でやきもきすることも少なそう。芸人を目指すメリットのほうが多いじゃん! となって、一度は挑戦しなきゃと思って、上司に『芸人になりたいので会社辞めたいです』って言ったんです」

えぐろの報告に、さすがの上司も驚いたという。

「びっくりして、『ちょっとコーヒー飲んで頭整理してくるわ』って言われました(苦笑)。もしこれが同業他社への転職だったら止められたかもしれないですが、あまりにも異業種だったので理解してくれましたね」

見よう見まねで作ったコントでSMAの面接へ

メジャーでハートの形をつくるえぐろ

気持ちが固まった彼女は、“コレだと決めたら即実行”の行動力を発揮。養成所に通うには翌年4月まで待たなければいけなかったが、すぐに芸人になりたかった彼女は、随時オーディションを行なっていたSMAの芸人募集を見つける。

「一応、ほかの養成所説明会にも申し込んではいたんですけど、まだ会社に辞めると伝える前にSMAの募集を見つけたんですよね。やす子さんがSMAに所属していたのは知っていたので、ここだ! と、さっそく満員電車のなかでスマホから応募しました。そうしたら結構すぐに返事が来て、来週の水曜日に面談をしますと。有給使って休みを取って、初めて千川の“Beach V”に行ったんです」

スコップを持って笑顔をみせるえぐろ

“Beach V”はSMA芸人のライブが毎日のように行なわれているホームグラウンド。東京メトロ有楽町線、副都心線・千川駅から徒歩数分。元ライブハウスだっただけあって、通りから階段を下った地下にあり、毎週2回ほど芸人募集に応募してきた人のオーディションと所属芸人のネタ見せが行なわれている。そこにえぐろは単独乗り込んだ。

「まず……すごく入りづらかったです(苦笑)。階段にも、壁にずらーって並んで黙々とネタの練習をしてる人がいっぱいいて。実際は、ネタ見せに来ている方がほとんどだったんですけど、アレ? もしこれがみんなオーディション受ける人だとしたら、ライバルめちゃくちゃいっぱいいるじゃん! ってビビりました(笑)。

面談でも、ネタなんか書いたことがなかったから、見よう見まねで作ったコントをやって。作家さんやネタ見せに来ていたSMAの芸人さんが見てる前だったので、めっちゃしんどかったです。人前でコントをやるのはもう無理!! って思いましたね。そのあとで、現場監督話をいろいろとさせてもらったら……なんだかよくわからないうちに、ふんわり所属が決まってました(笑)」

後編では、念願のお笑いの道へ踏み出した彼女の現在とこれからを聞く。

後編に続く

文・取材:阿部美香
撮影:遠藤勇司

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