スピーディーハンター:武術+お笑いで魅せるハイブリッド芸人コンビ①
2025.04.10


今年、芸歴12年を迎え、ピン芸人日本一決定戦『R-1グランプリ2025』にファイナリストとして出場するヒロ・オクムラ。後編では、ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)に所属してからの道のりを聞く。
目次

ヒロ・オクムラ
Hiro Okumura
1989年7月13日生まれ、奈良県出身。血液型A型。身長165㎝。2013年4月より活動開始。趣味はプロレス観戦、特技は外国の子役のうっすらとした顔マネ。2024年、三福エンターテイメント(プロダクション人力舎所属)とのユニット、今夜も星が綺麗で『M-1グランプリ』準決勝進出。3月8日放送の『R-1グランプリ』にはファイナリストとして出演する。
記事の前編はこちら:ヒロ・オクムラ:スーツにネクタイと達者なしゃべり――コンビもピンも絶好調の注目芸人の実像に迫る①
Wニードロップでは結成の2015年から『M-1グランプリ』にも出場。2017年にはSMA NEET Projectへと移籍する。今でこそ人気芸人を輩出しているSMA。2017年当時もバイきんぐやハリウッドザコシショウらが賞レースで勝ち、注目を集めつつはあったが、当時はまだまだほかの事務所で辛酸をなめたベテラン芸人が最後の砦として辿り着く、“芸人の墓場”の面影があった。
「当時所属していた事務所の看板芸人で、とてもお世話になっていた弾丸ジャッキーさんが解散されて、僕らも上の先輩がいなくなったことが悲しくて、事務所を抜けたんです。そこからいろんな事務所に打診したんですけど……僕はまだ芸歴数年で若いけど小橋さんはもうベテランやったんで、コンビとしての年齢を理由に断られてばかりでした。
そこで、小橋さんにどうしましょう? と泣きついたら、ほなSMAにメールしろ! と。すぐ返事が来て“Beach V”に面接に行ってみたら、小橋さんと面識のある方に『やっと来たんスか』って言われたのを覚えてます(笑)」
面接当日からそのままWニードロップはSMA所属となり、その週末にはBeach Vで毎週開催される事務所ライブに出演を果たす。既にネタを練り上げていた彼らは、6クラスに分かれ、それぞれのクラスの観客人気投票の上位が上のクラスに昇格するシステムの「SMAトライアウトライブ(笑)」で1位を獲りながら、ガンガンと勝ち上がっていった。
「それまでのネタの貯金があったんで、あれ、僕らいけるやん! という手応えがありました。僕はSMAのことはよう知らなかったんですけど、賞レースでもすごい結果を出す先輩がちょうど出てきてた時期だったので、事務所自体も勢いがあってライブのお客さんも増えて、いい時期に入れたなと思いました。
一緒にトライアウトライブに出ていたのも、錦鯉さん、や団さん、だーりんずさん、ロビンフットさん、マツモトクラブさんと錚々たる皆さん。ペーペーの僕がそんななかにポンと放り込まれて戦え! って言われて、ほんま強くなりました」
しかし、『M-1グランプリ』でも2回戦止まり、賞レースではなかなか結果を残せず……という日々が続いていた2020年。Wニードロップは、ヒロ・オクムラにとっては最長だった5年というコンビ歴の幕を閉じる。
「これはもう悲しいだけの話ですね。事務所ライブのSMAホープ大賞でも2位になれたり、いい感じでやらせてもらってたんですけど、相方が痛風を患っててライブも休みがちになったりして。僕、根が真面目なんでそういうとこでちょっと揉め始めたり。
小橋さんももう40歳で、3度目の結婚やら就職の話やらがあって、人生を考えたい時期やったんですよね。真っ当な幸せを掴むためならと僕も納得して解散を決めたら、世の中がコロナ禍になり……結局、小橋さんは結婚も就職もコンビもなくなってしまいました。
まぁ、ご本人は漫才師こそ辞められましたけど、西口プロレスなどで元気にやられているので、良かったですけどね」
Wニードロップ解散後、ヒロ・オクムラは、再び大の苦手にしていたピン芸人としての活動をスタートせざるを得なくなった。コンビ時代、小橋がライブを休演するときにやっていたピンのフリップ芸や漫談で、しばらくしのいでいたそうだ。
「でも、マジでヤバかったです。SMAも辞めようと思ってました。まずコロナ禍に入って、お客さんの前でライブができなくなったんですよ。そうすると、ネタを見せるのも芸人前しかない。ただでさえ緊張するし、芸人ってやっぱり人のネタではそう笑わないやないですか。
しかもコンビのときは相方がめっちゃ年上やったんで、周りもそれなりに気を使ってくれてたんですけど、僕は“じゃないほう”やったんで、ピンになって、お前ひとりで何ができんねん? という空気を勝手に感じて。そういう洗礼を一気に食らって、めっちゃ辛くて、心が折れかけてました」
その洗礼のおかげか、ヒロ・オクムラの芸人魂にここでようやく火が着く。2020年、『R-1ぐらんぷり』(当時)に出場し、これだけはやりたくないと心に決めていたひとりコントネタで、いきなり準々決勝進出を果たす。
「2020年にやっと『R-1』で勝ちたいと思って、『R-1』を目指せるネタとしてひとりコントを作ろうと決めました。そのころにはSMAに賞レース経験者の先輩がたくさんいたので、賞レースでの戦い方は全部、SMAの先輩に教わりました。
ネタも、どんなお客さん相手でも関係なしに何十回もライブにかけて、1ミリずつ直して準々決勝に行けたって感じです。やっぱり賞レースで勝つには、そういうやり方が一番なんやなとわかりました」
今年初めてファイナリストとして決勝戦に挑む『R-1グランプリ2025』のネタも、同じように去年から今年にかけて、ライブで懸命に磨き続けてきたそうだ。
「今年のR-1ネタは、もう100回以上やってますね。Beach VではSAKURAIさんとかと、芸人同士でネタの見せ合いもします。ほんとSMAの先輩は良くしてくれるんです。
野田ちゃんさんなんか、僕を絶対に甘やかしませんしね。入ってすぐからいじってくれて、『お前がウケてても俺は認めないからな!』とか言うんですよ(笑)。野田ちゃんさんのような方がいじってくれたから、上の先輩とようしゃべれるようになったっていうのもあります。
AMEMIYAさんからも、営業でご一緒させていただいたときに、『いいネタだ、頑張れ』と言ってもらえて、ほんまうれしかったです」
そんなエピソードからも、SMAの先輩芸人たちにかわいがられているヒロ・オクムラの姿が目に浮かぶ。
「あと、コウメ(太夫)さんがインタビューで“オススメの後輩芸人は?”と聞かれて、“イベントで一緒になった子でMCをやってくれて、おしゃべりが達者だった彼は今後いいと思う”って答えてて。
お客さんが“あれはオクムラさんのことだと思う”って教えてくれて見てみたら、“名前は忘れた”って書いてあったんですよ! ちょっと調べればわかることなのに! 正直すぎてめっちゃ笑いましたね」
「芸人の笑像」の連載にこれまで登場した芸人たちも口を揃えて、アットホームで先輩後輩の垣根がなく、温かい事務所だとSMAのことを語っていたが、「SMAの先輩の背中を見て育った」と言うヒロ・オクムラにとっても、SMAはとても居心地がいい場所のようだ。
「僕はお酒が飲めないんで、ライブの打ち上げとかにもまず行かないんですよ。そもそも根っこが芸人気質じゃないんで、すぐ家に帰りたくなっちゃいますし。ほかの事務所だとどうなのかわからないですけど、“あ、すいません、お疲れした!”って帰っても許してもらえる雰囲気があって、僕はめっちゃSMAが好きです。
もしかしたら、先輩は内心“あいつなんなんや!”って思ってるかもしれないですけど、怒られたことはない。何かやるときも、“絶対に参加しろ”とも言われない。やっぱり皆さん優しいんやと思います。
SMAって野武士集団なところがあるから、僕は全然SMA芸人っぽくないし、そもそも芸人っぽくないんですよ(苦笑)。でも、そういう人間がおっても許してくれるのがSMA。ほんまに多様性の事務所やと思います」
そんなSMAの自由さもあり、ヒロ・オクムラは他事務所に所属する芸人とのお笑いユニットでも精力的に活動中だ。それが『M-1グランプリ2024』で準決勝進出を果たした、“今夜も星が綺麗”。プロダクション人力舎所属のピン芸人・三福エンターテイメントと2020年に結成。公式YouTubeチャンネル『今夜も星が綺麗ですね』では、毎日、ふたりで生配信を行なっている。
「まだコンビ時代に僕がピンで呼ばれたライブの企画で、たまたま三福さんと漫才をする機会があって、やってみたら楽しかったんです。そこで関係性ができたのと、コロナ禍に入ってライブもできなくなったんで、ふたりでZoomを始めたんですよ。
いつも僕ら19時からライブ本番っていう生活が体に染みついてたんで、何もせずにその時間、家にいるのがおかしな感じで。誰に見せるわけでもなくZoomで毎日30分くらい話すってことをしてたんです。
それである日、どうせだったら生配信しようとなり、お笑いライブも徐々にできるようになった時期に、僕もコンビ解散したし、三福さんとコンビで『M-1』に出てみようか、漫才やってないときは配信しようか、ってなって、なんやかんやもう4年続いてるんですよね」
念願の漫才ができる今夜も星が綺麗での活動にも、ヒロ・オクムラは手応えを感じているようだ。
「僕らがやってるのはコント漫才なんですけど、三福さんとのコンビは楽しいので、このままやっていけたらうれしいなと。周りは不思議がっていますけどね、YouTubeチャンネルも自由にしゃべれなくなるのが嫌だから収益化もしてないし、お前ら一体、何を変なこと延々とやってんねん! って。でも僕も三福さんも、意味わからないって言われることにちょっとうれしさがあるんで(笑)。
まずは『M-1』ファイナリストを目標に、このコンビは続いていくと思います。もちろん今年も『M-1』にはエントリーしますし、コンビでライブもたくさん出ます。今年は本当に漫才にとっても大事な年やと思ってます。去年が準決勝敗退やったんで、今年はぜひその上に行きたいですね」
その前に、ピン芸人のヒロ・オクムラには大舞台が待っている。2025年3月8日に行なわれる『R-1グランプリ2025』決勝大会だ。
「去年の『M-1』 で敗者復活戦に出られて、僕の顔を知ってくれる人も増えて、今度は『R-1』の決勝。ほんまええタイミングやなと思います。ただ、あんまりまだ実感がなくて。今年、特別めちゃめちゃいいネタができたという感覚もなかったから、予選でも“あれ? なんかいつもよりウケてる気がするな?”ていう感じ。
だから、決勝進出者発表のときの僕のリアクションも、めちゃめちゃうれしかったんですけど、ビックリしちゃったんですよね(苦笑)。その後の記者会見でも、もっとはしゃぐもんかと思っていたら、意外と冷静でしたね。MCの霜降り明星さんや、普段お目にかかれない売れっ子さんたちと会えているのがもううれしくて、『R-1』にお笑いファンが紛れ込んでるみたいな感じになってました(笑)」
同じ事務所の先輩・マツモトクラブと一緒にファイナルに出られるというのも、彼にとってはうれしいできごとだという。
「それが正直、一番うれしいことかもしれないです。SMAからふたり同時に決勝に行けるなんて、なかなかないことですからね! ほかにもチャンス大城さんやハギノリザードマンさんは、ずっと地下ライブで一緒だった方々なので、並ぶことができてうれしいです」
既に決定している出番順も、ヒロ・オクムラがトップでマツモトクラブがトリ。それもまた、偶然とはいえ運命的だ。トップバッターに対するプレッシャーはあるかと聞くと……。
「僕は『R-1』があるからピンネタを頑張ってこれた。だから、トップバッターとしていいネタを披露することで恩返しができたら、という気持ちですね。もともと人と戦うことが苦手なので、『絶対負けへんからな!』とか『優勝します!』ってことは言えないんですけど(笑)、全体として盛り上がる大会になればいいなって思ってます。
決勝進出が決まって、『R-1』の密着カメラマンさんがついてくれてるんですけど、初めてなんですよね、自宅に誰かが来たのは。友達もあんまりいないし、彼女もここ5年いない(苦笑)。仕事に行くときもほとんどが自転車移動なんで、カメラマンさんにもドン引きされましたけど、すごく応援してくれているんで、そういう皆さんのためにも、全力で頑張りたいと思います!」
記事の前編はこちら:ヒロ・オクムラ:スーツにネクタイと達者なしゃべり――コンビもピンも絶好調の注目芸人の実像に迫る①
文・取材:阿部美香
撮影:遠藤勇司

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