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技術者たち ~エンタメ業界が求めるエンジニアの力~

開発エンジニア:刺激的な出会いを経験し、世界の広さを知ったエンジニアがAIを使って描く楽しい未来予想図

2025.03.25

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さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。

第15回は、エンタテインメント分野における生成AIの活用法を検討し、技術開発に取り組む前原健太郎に話を聞いた。

  • 前原健太郎プロフィール画像

    前原健太郎

    Maehara Kentaro

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

エンタテインメントビジネスにおける生成AIの活用法を研究

──前原さんは、最新テクノロジーを活用して新しいエンタテインメントビジネスを生み出すソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のEdgeTechプロジェクト本部で、AIチームに所属しています。こちらではどんな研究開発を行なっていますか。

生成AIを使ってソリューションやプロダクト、サービスを開発し、ソニーミュージックグループのビジネスに活用できないかを研究、検討する部署です。

自分を含むエンジニアと、AIに関するニュースや生成AIを活用することへの法的、倫理的リスクなどをリサーチし、レポートしてくれるリサーチャーも在籍しています。

柄物のニットを着た前原健太郎

──前原さんは、どんな業務に携わっているのでしょう。

いろいろな技術を調査し、自分で手を動かしながらプロトタイピングを行なっています。生成AIを使ったラッパー(あるプログラムの動作を制限するためのプログラムまたはスクリプト)を作って、エンタテインメントビジネスに貢献できないかなどを検討しています。

──生成AIをDXによる業務の効率化に役立てるのか、それとも新しいエンタテインメントを生み出していくのか、どういった形でビジネスへの貢献を目指しているのでしょうか。

個人的に形にしていきたいのは後者です。ただ、現時点では生成AIに関する法的な整備や世界共通のルールづくりが進むなかで、人それぞれ異なる倫理観や生成AIに対する懸念にも丁寧に対応していかなければいけないので、具体的にどんな活用法があるのかを探っている最中ですね。

そのうえで、直近の取り組みとしては生成AIを多言語プロモーションに活用できないかなど、言語の壁を取り払うDXに近い研究も行なっています。

嘘がきっかけでソニーグループに入社

──学生時代にはどんなことを学んでいましたか?

高校卒業後、イギリスの大学に進学して政治、哲学、経済を学ぶコースに入りました。もともとその学科に行くつもりはなかったんですけど、イギリスの首相だったデーヴィッド・キャメロンがこのコースを卒業していたんですよね。「首相も通った道だから、僕も偉くなれるんじゃないか」と思って(笑)。

──英語が得意だったのでしょうか。

高校1年生のときにカナダに留学していましたが、英語力は人並みです。自分としては、日本の大学に進学しようと思っていたのですが、母親から「それはNG」と言われてしまって……。

──当時は、将来何になりたいと思っていましたか?

母親がサッカークラブのマンチェスター・シティが大好きだという理由から、マンチェスターの大学に行こうかと思ったくらいなので、具体的に希望した進路はなかったんです。

マンチェスターの大学は国際開発学が有名らしく、この分野を学んで国連に行けば意味のある人生を送れるかなと思ったこともあったんですが、「やっぱりデーヴィッド・キャメロンのほうが社会的地位は上だよな……」と思ったんですよね(笑)。それが進学の決定打でした。なので、何になりたかったかと言われたら、政治家だったのかもしれないです。

笑顔で話す前原健太郎

──卒業後、就職先はどのようにして決めたんですか。

就活の時期になると、たくさんの日本企業がイギリスに来てくれるんですね。ここでも特にやりたいことはなかったのですが、コンサルだったらどの企業でもいかせる能力が身につくのではないかと思って、エントリーしてみました。

事前にオンライン面接を受けて、ロンドンで5社の対面面接を受けることになったのですが、その日の朝がものすごく寒かったんですよ……。これは会場まで行けないなと思って、全部ブッチしちゃったんです。各社に電話して「駅で滑って足を折っちゃって……」と言い訳しました。信じてもらえたかどうかはわかりませんが。

──嘘だと思ったでしょうね(笑)。

ただ、各社に連絡していたら、「では、日本に帰ったら改めて面接しましょう」と言ってくれた会社がひとつだけあって。それが、ソニーグループでインターネットの広告ビジネスを手がけるSMN社でした。

幅広い先端技術を扱えるSMEに転職

──新卒で入社した企業では、どんな業務に関わっていましたか?

入社当初は、営業や自社プロダクトの運用を担当していました。そこからしばらくして、親しくなった社内のエンジニアの方の助言があって、オンライン講座でScala(スカラ)というプログラミング言語を学びました。

「Scalaを開発したマーティン・オダースキーの講座をすべて終えたら好きなことをやっていい」と言われて。頑張って履修して、次のステップに進みました。ただ、今考えてもなぜScalaを学ぶように言われたのかわからないんですよね。社内でも使っていませんでしたし、メジャーなプログラミング言語でもないので(苦笑)。

──前原さんとしては、初めてプログラミング言語を学んだわけですよね。面白さは感じましたか?

当たり前なんですが、プログラムって正しく組めば動くんですよ。単純明快で気持ちのいい世界だなと思いました。人を巻き込む折衝は難しいけれど、コンピュータ相手なら割り切って仕事ができる。人としゃべるのも好きなんですが、これはこれでいいなと率直に思いました。

──その後、ソニーミュージックグループに転職したきっかけは?

インターネット広告以外の分野も身につけたいと思い、転職を考えました。前職の会社にはソニーグループから出向されている方も多くて、いろいろと話を聞きながら情報収集をしていたところ、SMEのEdgeTechプロジェクト本部を紹介していただきました。

──EdgeTechプロジェクト本部では、AIのほかにもライブの自動撮影システム、アニメ制作のDXプロジェクトなど幅広いエンタテインメントテクノロジーを扱っています。どんなところに魅力を感じましたか?

先端技術を扱うチームがいろいろあると聞いて、その幅の広さに魅力を感じました。僕はエンジニアとしてまだまだ新米でしたから、いろいろな技術を習得したくて。そこで3年ほど前に転職しました。

ノリと勢いでAI技術を一から習得

──いくつかあるチームのなかから、AIの研究開発チームに配属となりましたが、AIには興味がありましたか?

そうですね。今後のキャリアを考えたら有意義だと思いました。今は生成AIでコードを書ける時代ですから、エンジニアとしてその領域を学べるのはありがたかったです。

──生成AIについては、入社してから学んだのでしょうか。

入社後に独学で学びました。ノリと勢いで詰め込んだ感じです(笑)。

──生成AIの活用に向けて、部署内ではどのように業務を進めているのでしょうか。

エンジニアが技術を検証したうえで、良い結果が出たものがあればチームに共有し、実際に使えそうな技術を洗い出します。その後、グループ内でその技術を活用できそうなチームを探して提案します。ポジティブな反応があれば、その方面の技術を深堀りする。反応が悪かったら、ほかの技術に移るという感じです。なんだか、花に集まる蜂みたいですね……(苦笑)。

──ソニーミュージックグループは、音楽に限らず、アニメやキャラクター、ソリューションなど幅広い事業領域を手がけています。生成AIの活用を考えるうえで、それぞれの業界に関する知識も必要だと思いますが、その点はどのように対応していますか。

自分は社歴が浅いので業界知識は少ないのですが、同じチームにはもともと洋楽やマーケティング部門にいた先輩もいて。そういう先輩から“この技術は、こういうところで使えると思うよ”とアドバイスをもらいながら、仕事に取り組んでいます。

刺激的な人たちとの出会いが仕事を楽しくさせる

──仕事をするうえで、どんなときに楽しさを感じますか?

幅広い技術に触れられるのはもちろんですが、一番大きいのは人との出会いが刺激的だということ。ソニーミュージックグループには、エンジニアに限らずそれぞれの分野で「どうしたら、そんな発想が出てくるのか」と思うような人が多いので、話をしながら日々刺激を受けています。

──具体的な例を教えてください。

例えば、A&Rとして音楽のヒットを生み出している人は、日々面白いことを探して、そのなかからやっと見つけたひとつを精査して磨いて……を繰り返すことでヒットを生み出しています。そういう人たちと話ができるのは、個人的にすごく楽しいですし、いろいろな気づきを得られますね。

にこやかな表情で語る前原健太郎

──身近にもそういった刺激を受ける人はいますか?

同じAIチームの先輩がそうですね。その先輩はものすごく努力をする人で。AI関係の論文をすべて読み込み、そのなかで使えるものがないか日々精査しています。さらに、音楽業界でもキャリアを積んでいて、絶対音感をいかした音楽クリエイターでもあるので、話をしていてすごく面白いんですよね。ほかにも、海外経験が豊富で自分の世界を強く持っている人とか、自分にとってはすごく恵まれた環境だなと思います。

エンタテインメントの制作はAIに置き換えられるのか

──これまでに携わったプロジェクトで、特に印象に残っているもの、自分の糧になったものはありますか?

どれもいい経験でしたね。お金をかけずに短いスパンで必要なものを作るには、自分の手を動かすしかありません。フロントエンド、バックエンド、インフラ、すべてを自分で見るという状態が、自分にとっては心地いいと感じています。知識も広がりますし、エンジニアとして経験値を重ねている実感を持って取り組めています。

──最初にも挙がりましたが、特に生成AIはものすごいスピードで進化を続けるいっぽうで、環境整備がそれに追いつかず、使う側の倫理観任せになっている現状があります。エンタメ業界で働くエンジニアとして、AIとエンタテインメントの共存についてはどう考えていますか?

エンタテインメントって、何でもありの世界だと思うんですね。例えば、アートを例にして考えると、地球に木をさすだけで「これは芸術です」と言えるくらい自由な世界だから面白いんだと思います。

ただ、表現の枠組みがある程度決まっていて、パターン化できるジャンルはAIでリプレイスされる可能性が高いです。例えば、音楽で考えると曲の作り方には一定の法則があるので、今後、生成AIの技術が進化しやすいジャンルだと言えます。とはいえ、圧倒的な才能を持つアーティストやクリエイターをAIに置き換えることはできません。そこは技術が進化しても、変わらない部分だと思っています。

エンタメ企業である以上、技術で“楽しい”を実現したい

──AIチーム全体のビジョンについても教えてください。先ほどプロモーションなどへの技術活用を進めつつも、まだ壁があるということでしたが、今後の展開をどのように考えていますか?

やっぱりエンタメ企業のエンジニアである以上、“楽しい”“気持ちいい”といった抽象的な領域をテクノロジーで達成してみたくて。

今は生成AIをコンテンツ制作に活用したいとは思いつつも、世の中の理解とルールづくりがもっと進まないと、具体的な事例に結びつけるのは難しいと思っています。そんな状況なので、今は星飛雄馬のように大リーグボール養成ギブスをつけてエンジニアリングをせざるを得ないのですが、何か面白いものを生み出せないか常に考え続けていきたいです。そうすれば、いざギブスが外れたときに、消える魔球も投げられるようになっていると思うので(笑)。

──そのために、アイデアの種を考えていたりもするのでしょうか。

AIとは関係なく、日常で面白いと思ったことをメモするネタ帳を書いています。あとは、読んだ本の面白かった箇所、イケてる表現も、全部メモするようにしています。いつか何かの種になればと思って。

手を使い話す前原健太郎

今はいろんな人の話を聞いたり、本を読んだり、映画を見たり、たくさんお腹に入れているところ。最終的に自分の血肉にしてアウトプットできたらいいなと思っています。

──多くの人が抵抗感を感じない形で、AIをエンタテインメントに活用できるといいですよね。

当たり前ですけど、世界を良くするため、人の生活をもっと楽しくするためにAIを活用したいので、目先のことではなく大きなスケールで物事を考えたいです。もちろんソニーミュージックグループの枠組みでビジネスを考えることも大事ですが、世の中にとって何が本当に良いことなのか、どうすれば面白くなるのか常に考えていかないと、時間はあっという間に過ぎて行ってしまう気がして。

1、2カ月先を見て田植えをしたって、青い草が育つだけでお米は収穫できませんよね。それに数年先を見据えて邁進していけば、その過程で生まれるものもあると思います。そういう視座を持って仕事をしていきたいです。

若いときこそたくさん失敗したほうがいい

──最後に、エンジニアを目指す人たちに向けてアドバイスがあればお願いします。

僕なんかのアドバイスが役に立つのかどうかはわかりませんが……強いて言うなら“死ぬほど恥ずかしい思いをして、たくさん間違えた方がいい”ということでしょうか。

年を取れば取るほど、間違えたときの転落幅が大きくなっていくと思うんですね。でも若いころの失敗は、全然大したことじゃない。取り返しがつく若いうちにすさまじい数のミスをして、それを笑い話にしたり挽回したりしてほしいです。失敗から学ぶことは多いですから。

エンタテインメントを手がけるソニーミュージックグループでは、クリエイティブな挑戦が求められます。それは僕らエンジニアも同じで、だからこそ根源的でプリミティブな人の感情を呼び起こす、トリガーになるようなテクノロジーを開発したいと考えています。クリエイティブなことを考えて挑戦したいというエンジニア志望の方には、ソニーミュージックグループは楽しい環境だと思うので、ぜひ、僕らの仲間になってほしいと思います。

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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