データアナリスト:データを通してヒットの理由を裏付ける、ファン心理を深掘りするアナリティクスの面白さ
2025.08.25


2025.07.25
さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。
第19回は、ソニーミュージックグループ内で音楽ライブにフォーカスしたテクノロジーの研究開発に取り組む、開発エンジニアの内山稜凱に話を聞いた。
目次

内山稜凱
Uchiyama Ryoga
ソニー・ミュージックエンタテインメント
──内山さんは新卒でソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)に入社し、ITエンジニアとしてデジタルイノベーショングループのEdgeTechに配属になりました。現在は、どのような業務を行なっていますか。
EdgeTechはエンタテインメントの現場で起きている課題に対してテクノロジーの側面からソリューションを提案したり、最先端テクノロジーを活用して新たなビジネスを生み出したりすることをミッションとするエンタメビジネスにおけるITテクノロジーのR&D部門です。
そのなかで私がいるチームは、音楽ライブにフォーカスした研究開発を担っていて、入社以来ずっとこのチームに在籍しています。
──現在のチームに配属してから3年目に突入していますが、実際に働いてみてどうですか?
もともと就職活動でソニーミュージックグループにエントリーしたのもロックバンドやライブが好きだったからなので、ライブ現場の課題解決に取り組む今のチームの仕事にとてもやりがいを感じています。
何よりここ数年、音楽ライブ×テクノロジーのシナジーが高まってきていることが、仕事への大きなモチベーションになっています。例えば、ラスベガスの球体型エンタテインメント施設「Sphere」や、ロンドンで開催されているアバターライブ「ABBA Voyage」といった革新的なライブエンタテインメントが世界で次々に制作されていることにワクワクしますし、音楽ライブ×テクノロジーには大きな可能性があると感じています。
──内山さんにもそうした未来のライブエンタテイメントを生み出したいという思いがありますか?
それが究極の目標で、自分なりに漠然と思い描いている構想もあります。ただそれを実現するには自分の知識も技術もまだまだ未熟ですし、このチームでキャリアを積んでいきたいと思っています。
──入社から現在までで、特にどんな業務が印象に残っていますか?
入社直後に行なわれた研修で手がけたプロジェクトですね。半年かけてエンタテインメントとテクノロジーを融合させたアイデアを、企画立案から要件定義、実装、価値検証まですべてひとりで行なうというプログラムで、私はARグラスを用いて、難聴の困りごとがある方にも快適にライブを楽しんでもらえる体験システムに取り組みました。
私にとってライブの大きな魅力は、ライブ会場だからこそ感じられる一体感だと考えていますが、何らかの理由によって、その感動を得ることが難しい方もたくさんいらっしゃいます。テクノロジーを活用することで、音楽ライブにインクルーシブデザインの発想を組み入れ、誰もが楽しめるライブ空間を作ることに挑戦してみたいと思ったのが企画を立案したきっかけです。
──その企画で難聴という困りごとにフォーカスしたのは、音楽と聴覚が密接な関係にあるからでしょうか。
そうですね。ただ音楽の魅力は耳で聴く音だけでなく、目で読む歌詞にも詰まっていますし、ライブの感動というのは耳から入ってくる演奏だけではなく、その場でしか体感できない空気感、同じアーティストや音楽を好きな者同士で同じ空間を共有する一体感というのもあります。
私が研修で作ったのは、目の前で披露されている楽曲の歌詞をリアルタイムでARグラスに表示するシステムで、ひとりでも多くの人がライブを楽しめる空間づくりを目指しました。
──プロジェクトの評価はどうでしたか?
実用には課題がたくさんありますが、いろいろな気づきを得ることができました。なかでも意外だったのが、ライブのテクニカルスタッフの方からも“使い勝手が良さそう”というフィードバックをいただけたことです。
というのも、ライブの照明スタッフの方は曲のタイミングに合わせて照明の切り替えをする際、プリントアウトした歌詞を確認しながら行なっているんですね。そのほかにもライブの舞台裏では、歌詞を頼りに行なっている作業が複数あります。
そんなとき、ARグラスで目の前に歌詞が表示されれば煩雑さが解決され、両手が空くことでオペレーションの精度を上げることができるかも、というコメントをいただいて。現場を熟知したスタッフの方からの指摘や意見はとても学びが多いと感じました。
──アクセシビリティへの配慮は、どの業界でも取り組まなければいけない課題で、進化も求められます。
インクルーシブデザインなどを用いて、“誰もが楽しめるように”という考えはエンタメ業界でも広がりつつあると感じています。だからこそ、エンタメ企業のエンジニアとして、より多くの人が楽しめるエンタテインメントを届けるテクノロジーのあり方を、これからも考え続けていきたいと思っています。
──音楽が好きでソニーミュージックグループに入社したとのことですが、もともとITエンジニアを志望していたのですか?
はい。大学で情報工学を専攻していたこともあり、就職活動はITエンジニア志望で行なっていました。なので、受けた企業もSIer企業(システム開発を担う会社)ばかりで、エンタメ企業で受けたのはソニーミュージックグループだけでした。
ただ、ソニーミュージックグループが第1志望だったものの、UVERworldをはじめ、好きなバンドが所属しているからという完全にファン目線な動機でしたし、内定をもらうことは難しいと思っていたので、記念受験的な意味合いが強かったんです。
──大学ではどのような研究をしていましたか?
感情認識AIと音楽プレイヤーを掛け合わせて、その日の気分に合わせて自動でプレイリストを生成するシステムを研究していました。研究とは別の話になりますが、趣味でバンドを組んでいたこともあり、大学時代は興味の赴くまま好きなことをやっていましたね(笑)。
──音楽に強い思い入れがありながら、就職活動ではソニーミュージックグループのほかにエンタメ企業に目を向けていなかったのはなぜですか。
エンタメ業界でエンジニアがどのような役割を果たせるのか、イメージできていなかったのが一番の理由です。むしろ入社してみて、“こんなところにもITエンジニアの活躍の機会があるのか”と驚くことのほうが多いです。
自分が所属するEdgeTechという部門には、ライブ×テクノロジーのほかに、AIの研究開発を行なうチームや、アニメ制作現場のDX化推進に取り組んでいるチーム、あるいは高精度のスキャン技術を活用して新しいエンタテインメントを生み出そうとしているチームなど、さまざまな取り組みがあります。
──部署の雰囲気やスタッフの皆さんのパーソナリティはいかがですか?
ひと言で言うと“キャラクターが濃い人”が多いですね(笑)。個々にイメージがあるというか、“野球ならこの人が詳しい”“アイドルのことならこの人に聞いてみよう”みたいに自分の好きなジャンルへのこだわりや深い知識を持っている人が多いので、チーム内で話していても話題が尽きず、飽きないです。実際、個人がひたすらコードに向き合うよりは、エンジニア同士、会話を通して実装を進めていくことがよくあります。
──そのなかで内山さんはどんな存在ですか?
私自身は、イメージが一番薄いタイプだと思っていますが、部署内では“バンドの人”として認識されているのかなと思います(笑)。実際、学生時代にはバンドでドラマーをしていましたし、音楽でもバンドが好きなので。自分の好きなエンタテインメントに、自分の持つ技術を全力で注ぐことができる、これが自分にとって一番のやりがいだと感じています。
──エンジニアの働き方として、エンタメ業界特有だと感じるのはどんなことですか?
エンタテインメントが生まれる現場ベースでの開発を重視していることですね。自分が所属するチームでも、アリーナからライブハウスまでなるべく多くのライブ会場に足を運ぶようにしています。
現場で働いているさまざまなセクションの人たちとのコミュニケーションを通して課題を吸い上げ、テクノロジーによる解決を模索、提案するということを日々行なっています。現場との近さや関わりの多様さは、エンタメ業界のエンジニアならではだと思います。
──ITエンジニアとして、大好きなライブの制作現場に関わることができるのは、確かに内山さんにとってやりがいが大きそうですね。
はい。昨年から『Beat LAB』というライブイベントにも携わっています。『Beat LAB』は、私が所属しているチームが主催となり、毎年2月と9月に関東のZeppで開催している招待制のフリーライブです。次回は9月2日にZepp Haneda (TOKYO)で行なう予定ですが、本公演の主宰として、ブッキングやアーティスト周りの調整、フライヤー制作などを担当することになりました。
もともと主宰を担当していた先輩が異動になったことをきっかけに、ほかのスタッフと比べてバンドのライブに関する知識がある自分が引き継ぐことになったんです。また『Beat LAB』は、エンタテインメントに関するテクノロジー開発を行なっているチームに実証実験の場を提供するという目的でスタートしているので、ITエンジニアとして親和性もありました。
ただ、技術的な実証実験を行なうとしても“ファンの皆さんに楽しんでもらえるライブを作る”ということを一番に考えています。どんな仕事をやるにしても、音楽ファンとしての自分の原点を大切にしたいですね。
──ITエンジニアとしてソニーミュージックグループで実現したい野望はありますか。
先ほども言った“次世代ライブ体験を生み出したい”という個人的な野望はありますが、それはまだまだ先の話になるとして、僕たちのチームが目標に掲げているのが“ヒットを生み出すこと”です。
ソニーミュージックグループからは音楽やアニメといった多くのコンテンツが生まれていますが、エンジニアの発想で生み出せる感動体験もあると思いますし、それを目指して精進しているところです。
──先ほど「エンジニアがエンタメ業界で活躍するイメージが学生時代にはなかった」と言っていましたが、内山さんたちのチームから社会的インパクトのあるヒットが生まれたら、状況も変わるかもしれないですね。
確かにエンタメ業界におけるエンジニアはどんな仕事をしているのか、世間に伝わりづらいところはあると思います。その意味でもヒットを生み出すという実績は何よりもの説得力になると思いますし、今後はさらに、エンタテインメント×テクノロジーの追求を深めていきたいですね。
文・取材:野本由起
撮影:冨田 望


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