yamaのアジア戦略について聞きに行ったら、アーティストが自分の殻を打ち破る瞬間の目撃談も聞けた①
2025.08.08


2023年より積極的にアジア進出を図るyamaは、海外のステージで何を得たのか? yamaのA&R、マネジメントを担当するソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)の藤原慎太郎が語る。
後編では、海外におけるyamaの現在地と今後のビジョン、そしてyamaが自分の殻を打ち破ったエピソードを聞いた。
目次

藤原慎太郎
Fujiwara Shintaro
ソニー・ミュージックレーベルズ
記事の前編はこちら:yamaのアジア戦略について聞きに行ったら、アーティストが自分の殻を打ち破る瞬間の目撃談も聞けた①
――昨年、開催した中国ワンマンツアー『yama China Tour"SUPER 謝謝"2024』でまわった、広州、上海、北京の3都市では、それぞれどんな反響でしたか?
特に熱量が高かったのは、上海、北京ですね。チケットが完売するのも早かったので、その点からもファンの期待値が高かったと感じました。
――ファン層はどういう構成になっていましたか。
日本とあまり違いはなくて。10代が最も多く、次いで30代、20代と続きます。日本でもインディーズ時代やデビューしてしばらくは10代が大半でしたが、有難いことに今は30~40代のファンの方が増えてきています。
――国内で30~40代のファンが増えている理由は、どこにあると分析していますか。
yama自身のストーリーに共感してくれる方が多いからだと思います。もともと“人前に出るのが苦手、表舞台に立ちたくない”というところからスタートして、それを経験によって克服し、アーティストとして成長していくyamaの姿を、積極的にファンの皆さんに見てもらってきました。
それを僕は“モラトリアム期間”と呼んでいるのですが、初期は本当に“自分”を知られたくないところから始まり、ようやく自我というものが生まれてきた。そんなyamaが葛藤しながらも成長していく過程を応援したいと思ってくれる方が、ライブにも足を運んでくれています。yama本人も、そこに対してポジティブになっていて、“自分”をもっと知ってもらおうというフェーズに入っていますね。
――やはり海外と国内では、ファンの目線が違うということですね。
海外の方に興味を持ってもらうきっかけとなるのは、やはりストーリーよりも楽曲の方が大きいので、そうなるのは必然かなと。yamaの個性はセンシティブな面がありますし、そこを正しく理解してもらうには、日本語の細かいニュアンスまで理解できないと難しい。
だから、プロモーションの仕方も日本と変えています。先ほど中国の同人文化との親和性の話をしましたが、yamaのストーリーをアピールしていくのではなく、もっとわかりやすくIPとして見せていくやり方のほうが効果的かつ、ファンの方に喜んでもらえるのではないかと考えています。僕の理想は、PUFFYが展開していたIP戦略ですね。
――2000年代にPUFFYが北米進出を果たした際は、メンバーを主人公にしたカートゥーンアニメ『Hi Hi Puffy AmiYumi』を全米で放送し、アニメ主題歌を含むアルバム『Hi Hi Puffy Amiyumi』で全米メジャーデビューを飾りました。
ポップな形でのキャラクター化ですよね。あとは、今ならバーチャルアーティスト化というのも考えられます。アーティストをIP化すると、それに伴ったストーリーも展開しやすくなるので、チャレンジしてみたいことのひとつです。
――ライブグッズなど、マーチャンダイジングの面では、どのような傾向を感じていますか?
グッズ類については、事前に日本ほどの需要はないと聞いていたので、かなり慎重に考えていました。実際、これまではTシャツやタオルなど、必要最低限のラインナップしか用意しなかったのですが、予想以上に好評だったので、ラインナップも見直す必要があると思います。これも現地に行ってわかったことですね。
あと、グッズのことでいうと、中国に行ってみて驚いたのが、ファンの皆さんがライブ会場の外で、自作のファンアイテムを無料で配布していたこと。それがファン同士の重要なコミュニケーションになっていて、ファンダムの醸成にもつながっている。この熱量は、中国ならではの文化でしたね。
――日本でもコミケや同人イベントなどで、自作アイテムを無料で配布する人はいるので、まさに同人文化が反映されているんでしょうね。
そういうことだと思います。著作権とか諸々に触れない限りはとてもありがたいことなので、むしろそういった文化をいかして、アーティストもファンも両者がハッピーになれる取り組みができるのではないかと。おおいに検討の余地がありますよね。
――yamaは、これまでのアジアツアーや中国ツアーの経験で、海外ライブに対して前向きになっていったそうですが、今年10月からは、2度目のアジアツアー「yama Asia Tour 2025 『虎視眈々』」の開催が発表されました。ソウル、台北、高雄、シンガポール、香港をまわるこのツアーでは、どんなyamaの姿が観られるでしょうか。
これは本人にも言っていたことなんですが、それこそデビューしてからしばらくの間、yamaのライブパフォーマンスは、生のステージを観ているはずなのに、ステージと客席の間に1枚幕があるような……なんと言うかモニター越しにDVDの映像を見ているような感覚だったんです。
「それじゃあ、お客さんを熱狂させられないよ」とずっと伝えていたんですが、その壁はなかなか壊せなかったんですね。でも、その壁がついに取っ払われるときがきて……それが、昨年末の中国ツアーの2日目、上海でのライブだったんです。
このときのyamaのパフォーマンスは、本当にすごくて……歌を一方的に届けるのではなく、お客さんと対話するように歌っていました。まさに、アーティストとファンが会場で一体になるライブ、素晴らしかったですね。実はこれまで、あまり本人を面と向かって褒めたことがなかったんですけど、このときばかりは「いいライブだったよ」と伝えました。
最初は嫌がっていた海外のツアーですが、まさか、そこでひとつ大きな壁を乗り越えられるとは思いませんでしたね。そして、このときの経験を国内のライブにも反映できるようになり、昔と比べると今は格段にいいライブができるようになっています。
――yamaが打ち破った殻は、音楽制作にも影響しそうですか?
音楽に対する意識も変わってきたと思います。yamaはもともとボカロの世界で活動してきたアーティストですが、本人が好きな音楽ジャンルは、実はR&Bだったり、Y2K的なブラックミュージックだったりするんです。
ただ、これまでは「春を告げる」のインパクトが強かったこともあり、そこを求められ続けて数年間を過ごしていました。その意味でも、求められる楽曲と本人がやりたい音楽との間に歪みが生まれ、yama自身も葛藤しているところがあったんですが、ライブで殻をひとつ破れたことで、もっといろいろなことに挑戦していこうと、前向きに考えられるようになったようです。これから発表していく楽曲も、どんどん変わっていくと思います。
――ライブ興行、ファンダムの形成については、まずは現在、人気の高い中国を中心にアジア圏での地固めをしっかりやっていきたいという話がありましたが、今後の海外でのライブ戦略は、どう考えていますか?
正直、我々もまだ試行錯誤が続いている状態なので、その先はまだハッキリ見えていないのですが、考え方としては、日本国内でライブをきっちりとやっていったうえで、さらにアジアを回り、そこからアジア以外にも進出できればというのが理想です。
個人的に、yamaのライブを届けてみたいエリアもいろいろありますし、本当に未知数ではありますが、挑戦は続けていきたいですね。
――yamaのほかに海外進出が見えているアーティストはいますか?
これまでも積極的に海外を目指していたYOASOBIが、今年はヨーロッパ単独公演を成功させています。世界のボカロカルチャーを牽引しているYOASOBIが、精力的に世界市場を開拓してくれているのも、同じ文脈から活動を始めたyamaのようなアーティストにとって、とても励みになります。yamaもそこを目指せるように、引き続きサポートしていきたいと考えています。
それと、これも自分が担当しているバンドで恐縮ですが、ALI(ALIEN LIBERTY INTERNATIONAL)は完全に仕上がりましたね。それこそ、彼らもアジアツアーをやっていますし、よく海外のフェスにも呼ばれていて、9月にはアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されるフェスに出演します。
また、ALIは韓国でも人気が出始めていて。去年、日韓のアーティストが出演する大型イベント「WONDERLIVET(ワンダーリベット)2024」に出演させてもらったところ、パフォーマンスが好評だったんですね。
それで、今年はワンマンをやってみたんですが、チケットが即完しまして。非常にいい手応えを感じています。今、彼らがやっている音楽、ライブは本当にめちゃくちゃカッコイイので、ぜひ、生で観てもらいたいですね。
――最後になりますが、改めてyamaのさらなる海外進出に向けた展望を教えてください。
自分がネットでyamaと初めて出会ったとき、その声に癒されたんです。この声は、絶対に世に出さなきゃいけないものだと思ったし、世界に通用する声だと本気で思っています。だからこそ、yamaの新しい一面も見せていきたいですね。
例えば、今のyamaの音楽は、日本的な楽曲が多いので、雰囲気を変えたもの……それこそ、yamaの声だったらChill Music(チルミュージック:まったり過ごすための音楽)をやっても面白いなと。今、世界の音楽ではChill Musicが王道になりつつありますからね。
あとは、先ほども言いましたがIP化です。仮面を着けているのはyamaのアイデンティティであり、見た目の個性でもあるので、キャラクターとしてもしっかり打ち出していければと考えています。
記事の前編はこちら:yamaのアジア戦略について聞きに行ったら、アーティストが自分の殻を打ち破る瞬間の目撃談も聞けた①
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修

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