yamaのアジア戦略について聞きに行ったら、アーティストが自分の殻を打ち破る瞬間の目撃談も聞けた➁
2025.08.08


ボカロシーンから飛び出し、2020年にメジャーデビューを果たしたyama。2023年には早くもアジアワンマンツアー『thanks for waiting』を開催し、その後もアジア圏で開催された、複数のフェスやイベントへの出演を経て、2024年末には初の中国ツアー『yama China Tour"SUPER 謝謝"2024』を実施。今年10月には、5つの都市をめぐる2度目のアジアワンマンツアー「yama Asia Tour 2025 『虎視眈々』」の開催を予定している。
積極的にアジア進出を図るyamaは、海外のステージで何を得たのか? yamaの海外展開の現在地と今後のビジョン、そしてビジネスの可能性について、ソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)の藤原慎太郎に話を聞いた。
目次

藤原慎太郎
Fujiwara Shintaro
ソニー・ミュージックレーベルズ
記事の後編はこちら:yamaのアジア戦略について聞きに行ったら、アーティストが自分の殻を打ち破る瞬間の目撃談も聞けた➁
――yamaはデビューから約3年で、1度目のアジアツアーを開催しています。これは比較的早いタイミングでの海外挑戦だと思うのですが、アジアツアーを実現できたのには、どんな背景があったのでしょうか。
そもそものきっかけは、2021~2022年にかけて海外からの注目が高まったことですね。yamaは「春を告げる」がヒットしたことで、幸運なことにメジャーデビューから間もなくして、複数の映像作品でタイアップをいただくことができました。
なかでもアニメ『王様ランキング』(2021年)のエンディングテーマに起用された「Oz.」、アニメ『SPY×FAMILY』(2022年)のエンディングテーマに起用された「色彩」は、両アニメ作品がアジア圏でも大ヒットしたことを受け、その追い風がyamaにも吹くことになりました。
また、国内では「春を告げる」がTikTok動画のBGMとして多く使われることになり、これがムーブメントになって海外にも波及。yamaの知名度がアジア圏で高まっていったという状況です。
yamaはもともと、ボカロPの楽曲を歌う“歌い手”がキャリアの出発点。海外の一部の音楽ファンの間では、ボカロ文化というのは“クールだ”という認識をされていて、yamaのそういったキャリアも興味を持っていただくきっかけになったのだと思います。
――タイアップ、SNS、音楽シーンの変化など、さまざまな後押しがあって、yamaの存在がアジア圏に浸透していっているわけですね。アジアツアー自体は、藤原さんたちが仕かけた企画だったんですか?
いえ、ライブネーション(世界最大級の総合ライブエンタテインメント企業)の方からお声がけいただいたのがきっかけです。また、このツアーと同タイミングに上海で開催された音楽フェス『Simple Life Shanghai 上海簡単生活節』にも呼んでいただき、その後、インドネシアのアニメイベントや、香港、韓国の音楽フェスなどからも声がかかるようになって、yama本人の活動としても、徐々に海外展開というのが具体化されるようになっていきました。
――ライブネーションの方々がyamaに興味を抱いたのは、どういう理由からだったのでしょうか。
そこは、純粋にバイラルの数字ですね。ライブネーションの方々と打ち合わせの場が設けられたとき、自分がyamaを担当していると話したら、その場でSpotifyでの反応を調べてくださって。「これはぜひやりましょう!」と言ってもらって、話がまとまりました。
――2023年のアジアワンマンツアーに続き、2024年末には、広州、上海、北京の3都市をまわる初の中国ワンマンツアー『yama China Tour"SUPER 謝謝"2024』も開催しました。このツアーを開催したということは、中国でもyamaが注目を集めているということだと思いますが、その理由はどこにあると考えていますか。
yamaは、もともと人前に出ることが非常に苦手だったので、ライブやメディアに出演するときには目元を覆う仮面(マスク)を着けているのですが、その姿も注目を集める理由のひとつになっていると思います。
――素顔を見せないスタイルが好評なんですね。
はい。中国では、特に若者世代を中心に同人文化の勢いがとにかくすごくて。休日のショッピングセンターにコスプレをしている方が集まってくるくらい、同人コミュニティが盛んで、アニメ、マンガ、ゲームを中心とした二次創作活動が活発です。
実際、yamaがライブを行なったときも、ファンの方から手づくりの仮面をつけたyamaのぬいぐるみがプレゼントとして届きました。素顔を出さないことが、逆にキャラクター性を高めることにつながっているのかなと。
きっかけはアニメタイアップの影響が強いのは事実ですが、そこからyamaのアーティスト性を深掘りしてくれたのは、中国の同人文化との親和性の高さが影響していると思います。
――藤原さんは、yamaのアジア圏への進出に関して、どのような戦略を考えていましたか?
お話ししたように、アジアツアーもフェスへの出演も、先方からのオファーありきでしたから、そこについては特別に戦略を考えたわけでありません。ただ、yamaのアジア進出がいい方向に迎えば、国内での活動も新しいステージに引き上げることができるかもしれないとは思いました。
――新しいステージとは、具体的にどういうことでしょうか?
yamaは「春を告げる」がヒットして、その後、複数のタイアップをいただけたことで2020年のデビューから順調にムーブメントを起こすことができました。しかし、それをキープするのは簡単なことではないですし、逆に下降傾向になったときに、そこで粘れるような下地を海外に見出しておくことができれば、国内ではyamaのアーティスト性を広げる作業に集中することができると考えたんです。
――アーティストとして、さらなる成長を目指すということですね。
はい。これは、yamaのキャリアの積み方に関わることなのですが、yamaはネットでいきなり火がついたアーティスト。言い換えれば、準備期間なしにヒットしたアーティストなんです。
――2018年の春に、yamaの名義でYouTubeに動画を投稿したことから歌い手としての活動を始め、翌年にはボカロPのくじらの楽曲「ねむるまち」にゲストボーカルで参加し、動画の再生数が一気に1,000万回超え。2020年には初のオリジナル楽曲「春を告げる」がバイラルチャートで1位を獲得して、ストリーミングの累計再生回数が1億回を超えるという注目の集め方でしたね。
yamaは「春を告げる」のあと、すぐにメジャーデビューしたので下積み経験がゼロの状態。それこそ“自分のライブが初めてのライブ体験”というアーティストなので、非常に特異なスタートを切ってるんですね。
そういった状況でありながら、ヒットが生まれているので順風満帆な船出と思われるかもしれませんが、歌い手としてもそうだし、ステージ上でのパフォーマンスもそうですが、やはりアーティストとしての蓄積や下積みがないというのは、時間が経つほど脆くなりがちです。ヒットが一過性で終わってしまってもおかしくないんですね。
そして、どこかでその跳ねっ返しがくるだろうなと予想していて、実際、デビューから3年が経ったころにはその勢いが少しずつ落ち着いてきました。
なので、2023年はアーティストとしての地力を鍛えるために、イベントやフェスに出まくって、年間約100本のライブパフォーマンスをしました。本人にとっては非常にハードな経験だったと思います。
yama - 春を告げる (Official Video)
――それによって本人の意識に変化はありましたか?
かなり成長しましたね。精神的にも肉体的にも強くなりましたし、“どういうライブができるのか”“どういうライブがいいライブなのか”というのを、本人が自覚するようになりました。いいインプットの期間だったと思います。
――“初めてのライブ体験が自分のステージだった”という話がありましたが、それはネット発アーティストならではの現象なのかもしれないですね。
そうだと思います。yamaも歌うことは好きなのに、人前で歌うのは苦手だった。しかも、憧れのアーティスト像はなく、ライブへの意気込みとか、どういうテンションでステージに上がればいいのかもわからない状態だったので、そこをどう気づかせて成長曲線に持っていくかというのも我々の課題でしたね。
――海外でライブをやることについて、本人はどのように考えていたのでしょうか。
最初は正直、戸惑ってましたよ(苦笑)。国内でのライブには慣れてきていましたが、海外となると言葉は通じないし、食べ物も口に合うかわからない。ですが、実際に現地でのライブを経験したら、すごく前向きに切り変わりましたね。
――そうなったきっかけは何だったのでしょうか。
現地で迎えてくれる、お客さんの熱量です。日本のファンの方々は、yamaの世界観を完全に受け入れて、そこについてきてくれる。ライブ中も本人が醸し出す空気感に寄り添ってくれて、盛り上がってほしいところで盛り上がり、静かな曲では黙って耳を傾けてくれます。
でも海外のファンの方々は、そんな空気感なんてお構いなし(笑)。好きな曲だとロックバンドのライブかと思うくらい盛り上がってくれるし、アーティストと一緒になって全力で歌ってくれます。それがyama本人にとっては、かなり衝撃的だったようで、ライブに向かう姿勢としても、かなり感化されていましたね。
――地域によって違いがあるかと思いますが、実際にアジアツアー、中国ツアーを経験したなかで、どんな知見が得られましたか?
今はアジア圏に進出しているアーティストが多くなりましたが、個々のアーティストによって各国の反応に違いがあることは、この数年で実感しています。例えばライブ会場の選定基準として、海外のプロモーターが活用しているのはバイラル、特にSpotifyのリスナー数です。
“バンコクではこれくらいのリスナーがいるから、これくらいのキャパシティにしよう”というように会場が決まるのですが、当然、読み通りにいかないことがあります。なのでバイラルの数字だけを参考にしてブッキングするのは、かなり慎重にならないといけないと気づきました。また、その国と地域の音楽カルチャーにあわせたつもりでセットリストを組んだところ、思ったほど反応が良くなくて盛り上がりに欠けたなんてこともありましたね(苦笑)。
そういう試行錯誤は常に行なっていて、当たり前ですけど、行ってみないとわからないことはたくさんありますし、海外とかアジアとかひとつで括ることは無理な話で、その土地ごとにローカライズは必要。そのなかでハマるところはどこかというのを、丁寧に探っていかなければいけないんだと思います。
後編では、海外におけるyamaの現在地と今後のビジョン、ビジネスの可能性などについて語る。
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修

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