再始動後のオアシスについて知っておきたい11のこと②
2025.10.02


2025.10.02
ノエルとリアム、ギャラガー兄弟の電撃的な和解により16年ぶりに再始動をはたし、現在、開催中のワールドツアー『Oasis Live '25』で世界を熱狂させているオアシス。そんな彼らを長年サポートしてきた日本のソニーミュージックの担当者たちに、オアシスについて知っておきたいことを聞いた。
本稿では、いち早くイギリス公演を見に行ったソニー・ミュージックエンタテインメントの小沢暁子と、ソニー・ミュージックパブリッシングの石毛克利が、再始動後のバンドのコンディションや現地の熱狂を語る。
目次

小沢暁子
Ozawa Akiko
ソニー・ミュージックエンタテインメント

石毛克利
Ishige Katsutoshi
ソニー・ミュージックパブリッシング
(写真左より)リアム・ギャラガー(Vo.)、ノエル・ギャラガー(Gt./Vo.)。ノエルとリアムのギャラガー兄弟を擁する、英国・マンチェスター出身のロックバンド。1991年結成。1994年、1 stアルバム『オアシス』(原題:Definitely Maybe)を発表し、一躍人気となる。「リヴ・フォーエヴァー」「ホワットエヴァー」「ワンダーウォール」「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」などのヒット曲を世に放つも、たびたび兄弟の不仲が報じられ、2009年に活動を停止。その後、15年の長きにわたりバンドは休眠状態となるが、奇跡的に兄弟の和解が成立し、2024年8月にバンドの再始動を発表。2025年7月4日に行なわれたカーディフ(ウェールズ)を皮切りに、16年ぶりのワールドツアー『Oasis Live '25』を開催中。
記事の後編はこちら:再始動後のオアシスについて知っておきたい11のこと②
――オアシスの再始動ワールドツアー『Oasis Live '25』がいよいよスタートしました。世界中のファンが待望したツアーの概要を教えてください。
小沢:昨年の8月26日に、“27.08.24”“8am”という文字だけの動画が突然、オアシス、ノエル・ギャラガー、リアム・ギャラガー、それぞれのSNSのアカウントに投稿されました。
そして翌27日にオアシスの再始動が発表され、同時に『Oasis Live '25』の皮切りとして、2025年夏のイギリスとアイルランドでのツアーが決定。追って日本も含むヨーロッパ以外のワールドツアーのスケジュールも発表されました。
――当然ながら、チケットはものすごい争奪戦だったんですよね。
小沢:会場は7~10万人規模のところばかりでしたが、すべて即ソールドアウトでした。最初にイギリスとアイルランドでのツアーのチケットをオンラインで売り出したところ、世界中から1,400万人の応募が殺到したそうです。
チケットの販売については、当然、大手のコンサートプロモーターが手がけていて、大争奪戦になることは想定していたものの、それをはるかに凌駕する数字で……。今まで見たことがないくらいの、どのアーティストよりも大きなニーズがあったようです。
――ワールドツアーの幕開けとなった7月4日、5日のカーディフ公演の模様を聞かせてください。
小沢:ウェールズの首都、カーディフでの2日間の公演はプリンシパリティ・スタジアムという7万4,500人収容の会場で行なわれたのですが、特に初日は独特な雰囲気がありました。
まるでネタのように、「本当にライブをやるの?」「ツアー初日の前にケンカして終わっちゃうんでしょ」みたいなことを言われていましたけど、でも蓋を開けてみたら、感動的な兄弟の様子やバンドのコンディションの良さが見えて、みんなすごく安心したと思うんですよ。
――オーディエンスの盛り上がりは相当なものだったのではないでしょうか。
小沢:ライブのオープニングアクトの一番手をキャストが務めたんですが、彼らが出てくる前から、ファンが「Live Forever」を大合唱してるんです。その熱気たるや、ものすごくて……キャストのメンバーが動画を撮ってSNSにアップしていました。
次に出てきたオープニングアクトは、元ザ・ヴァーヴのリチャード・アシュクロフト。彼はヘッドライナー級のアーティストで、普通に考えるとオープニングアクトをやるなんてあり得ないんですよ。でも、オアシスとは昔からの親交もあり、ギャラガー兄弟が敬愛するリチャードの漢気というか、再始動するオアシスへの敬意を込めて務めたんだと思います。
リチャードの曲でオーディエンスが大合唱して、場が完全に温まった状態でいよいよオアシスの登場。そこで、ノエルとリアムが手をつないで出てくるっていうね。その場にいた人たち全員の待望の瞬間ですよね。本当に素敵な光景でした……。
――そのときのふたりの写真がSNSを通じて全世界を駆けめぐりました。
小沢:舞台裏のエピソードを少しお話しすると、初日のカーディフでは事務所社長が開催したプレ・ドリンクパーティーなる、関係者がライブの前に軽く集まれる場所があり、私たちもお招きいただいたのでお邪魔したんです。すると、そこはもう同窓会のような場になっているわけですよ(笑)。
米国のSony Music Groupでチェアマンを務めるロブ・ストリンガーやオアシスのキャリアでの重要人物デイヴ・マッシーも来ていて、30年以上前から付き合いのある人たちがみんな集まり“良かった、良かった!”って喜んでいるんです。
ライブが始まったら、私の前の席にいたロブは最初から最後まで立ちっぱなしで楽しんでいましたね。そういうところにも、オアシスが持っている特別なものを感じました。いろいろな人が、いろいろな思いを持ってあそこにいたんだなって。
――メンバーのコンディションを含め、再始動後のオアシスのライブはどうでしたか?
小沢:あの場にいた全員が驚いたと思うんです。というのも、今まで見たどのオアシスのライブよりも素晴らしかったから。贔屓目を完全に抜きにしても、今のオアシスは過去最高だと思える仕上がりでびっくりしました。“懐かしいね”“良かったね”と胸をなで下ろすような安心感ではまったくなくて、誰もが納得するセットリストと完璧な演奏でしたね。
とにかくリアムの声のコンディションがいいっていうのが一番大きくて。1996年のネブワースとか、かつてのオアシスにもいいライブはたくさんありましたが、そのどれとも比べようがないぐらい、別次元に行っちゃってたっていう実感がありました。
――そこまでバンドのパワーがあったと。
小沢:はい。当然、昔よりも音響システムが良くなっていたりはしますけれど、全然そういうテクニカルなことじゃないんです。ひとつのバンドが成熟していく理想的な姿というものを、目の前で見せてもらったような気持ちになりました。
――バンドメンバーもオアシス史上、最強の布陣と言われています。
小沢:ノエル(Gt./Vo.)はずっと安定してますし、ゲム・アーチャー(Gt.)もアンディ・ベル(Ba.)もずっとやっていて。ポール・“ボーンヘッド”・アーサーズ(Gt.)は最近リアムのバンドに参加していたから、そこでアップデートされていたと思います。ジョーイ・ワロンカー(Dr.)だけが新しいメンバーですが、彼もすごいキャリアの持ち主なので、バンドとしては何の問題もなくて。とにかく、リアムがあそこまで仕上げているっていうのが今回のキモでしたね。
――当初はリアムの歌に対して不安視される声もありましたよね。
小沢:そうなんです。でも今回、リアムの歌の何がすごかったかというと、キーを一切変えずに歌い切っているんですよ。実は16年前の最後のころのライブでは、「スーパーソニック」などの曲で高いキーの箇所はオクターブ下げたりして、ちゃんと歌えていなかったんです。それが今回はしっかり歌えていて、さすがにちょっと泣きそうになりました。
――再始動に向けて、リアムは相当気合いを入れたんでしょう。
小沢:そうだと思います。お酒も飲まず、喉は大事にしていると聞いてます。ただ、彼は自分がどんな努力をしているのかってことは一切表に出さないんですよ。そんなことを言っても、ファンは興醒めするだけだと。
――パブリックイメージではストイックな印象は、正直、皆無なんですが(苦笑)、かなりの節制をしないと、ボーカリストとして喉のコンディションはキープできないものです。
小沢:そう。だからリアムは、実はストイックなんだと思います。もちろんノエルは大いにそういうところがありますし。ただ、頑張ろうと思っていてもうまくいかないのがこれまでのリアムだったんですね。すごくやる気はあるけど、つい怠け心が出ちゃうみたいな(笑)。
――人間らしいですね(笑)。
小沢:今回は「これがやりたくて、やりたくてしょうがない」「これができなかったら死んだも同然」「オアシスしかオレのバンドじゃない」ってことを、リアムは何度も言っています。彼は思ったことをすぐ口に出す人なんで、これは本心だと思います。
しかも、16年前は自分がバンドを潰した一因を作ったっていうこともわかってるし、今回自分がうまくやることができたら、バンドはこれからも続いていくっていうこともわかってる。それが彼の今の隠れた努力につながっていると思います。
――本当の意味でリアムも大人になったと。
小沢:やっぱりいろんな経験を経て、自分にとってオアシスが本当に必要だって心から思えたんじゃないですかね。そこに辿り着くまでの時間は、本人にとって重要で必要なものだったんだと思います。
――今回、小沢さんはノエルとリアムに直接コンタクトは取れたんですか?
小沢:いえ、再始動してからはまだ会えてないんです。オアシスをマネジメント(Ignition Management)するスタッフたちも、ツアー開始当初は限られた人しか会わないようにしていたそうです。というのも、これは奇跡的な再始動だし、しかも今、兄弟の仲が非常にうまくいっている。それを周りも崩したくないんですよ。
マネジメントはデビュー当初からずっと変わっていないので、何をすべきなのか、何をしてはいけないのかが全部わかっています。そのうえで、今はかなり気を使っていると思いますね。それは、今回のツアーの成功という短期的な話ではなく、今回うまくいったらオアシスはこの先も続くかもしれないという、希望や未来を見据えてのことかもしれませんね。
――兄弟だけのスペシャルな時間を見守る時期なんでしょうね。
小沢:まさにそうだと思います。一応、アンディとかゲムには「来たよ!」って挨拶しましたけどね。カーディフは最初でしたし、まずはライブを成功させなきゃいけないというプレッシャーもあったでしょう。それがとてもハッピーな形でうまくいったと。
ツアーが始まってしばらくは、ノエルはまったく外出していなかったのですが、マンチェスターで外食に出かけ、ようやくダブリンでパブに繰り出したそうなので(笑)、少しずつ彼らのペースが戻ってきたかなと思いつつ、私たちも見守らせていただきます。
――ちなみに、ひとつ気になっていたのですが、再始動のときに発表されたふたりが並ぶアーティスト写真。あれは、別々に撮って合成されたものなのでしょうか。
小沢:いえ、あれはふたりでスタジオに入って撮られた写真で、合成ではありません。
――なるほど……それを聞くと、あの写真の見え方がまた変わってきますね。再始動を決めた、あのタイミングでのふたりのやり取りがどんなものだったのか……。
小沢:そう、気になりますよね。でも、それはふたりの間でだけのことなので、周りが詮索したり、あれこれ言ったりするのは野暮なんだと思います。
――最初にオアシス復活を見届けたカーディフのオーディエンスは、どんな反応でしたか?
小沢:現地に行くまでは、初日のお客さんは“プラチナチケットを手に入れられてラッキー!”みたいな、優越感に浸りながら集まってくるんじゃないかと思っていたんです。でも、不思議なくらいにそういった雰囲気はなかったですね。
あの会場にあふれていた空気とか感情って何だったんだろう? って考えると、“ジョイフル”、喜びでしかないなって。それは今回のツアーすべての公演に共通する話なんですけどね。あんなに幸せそうな人しかいないライブって、見たことがないんですよ。全員が喜びを噛み締めてるっていう、きわめて珍しいライブでした。
ちょっと人生哲学みたいな話になってしまいますが、人間って、その場、そのときがどれだけ重要な時間なのか、リアルタイムではなかなか認識できていないと思うんです。コンサートに行っても、そこまで感じることって少ないじゃないですか。
――だいたい“楽しかった!”“最高だった!”で終わりますよね。
小沢:そう。実際、私たちも活動休止前のオアシスと接していたときは、そういう感覚でした。2009年にフジロックに来たときに、いつも通りにみんなと話して“バイバイ”ってハグして別れて、その1カ月少しあとにバンドが止まってしまったわけで。
――2009年7月24日がフジロックで、同年8月28日にノエル脱退で休止となりましたね。
小沢:あのとき苗場にいた人間で、まさかバンドがこんなに長い休みに入るなんて思った人はいなかったと思う。オアシスに限らずですが、誰にでもいきなり何かの終わりが来ることってあるじゃないですか。
それは人として生きていくなら仕方ないこと。そして、そうなってみて初めて、日常の当たり前のことが当たり前じゃなかったんだってわかる。刹那的に生きろという話ではないんですが、オアシスとの時間をもう少し大切にできたかもしれないといった思いが、きっとファンのなかにもあったのではないかと。
――当時、オアシスは兄弟がケンカしながらも、なんだかんだ続いていくのかと思ってました。
小沢:ねぇ、それがまさかの16年ですよ(苦笑)。だから今回、若い世代はもちろん、30代でもオアシスを初めて見るという人が多いんです。リアルタイムで見てきた中年層だって、もう二度と見れないと思っていたかもしれない。だからこそ、バンドが帰ってきてくれたありがたさと喜びを、みんなが噛み締めてたのかなって。
――感動の再会であったと。
小沢:会場にいる自分のこの時間、1曲1曲がすごく大事なんだって、誰もが感じていたと思います。全部知ってる曲だし、2時間がほんの一瞬なので、1秒も無駄にできなくて……。しかも16年分の思いがあるから、みんな思いっきり歌い上げるんです。
――全曲がオレたちのアンセムという感じで、オーディエンスが大合唱し続けるのって、オアシスのライブの特徴ですよね。
小沢:まさにそうですね。今回改めて思ったんですけど、海外アーティストに限らずですが、ライブに行くと「あのヒット曲が生で聴けて良かった~」とか思うじゃないですか。でもオアシスの場合は、ヒット曲うんぬんじゃないんですよ。ヒット曲だろうと、アルバム曲だろうと、全部の曲がそれぞれにとって“オレの曲”“私の曲”なんです。
オーディエンス一人ひとりが「この曲がいかに私の人生を救ってくれたか」「この曲が自分の血となり肉となってる」みたいなことを思ってる。全部がマイソングみたいな感じだから、どの曲でも歌えるのかなって。しかも、ステージのふたりをあんまり見ずに歌ってるっていう(笑)。
――ステージを見ないで、みんなで輪になって踊ってる映像もSNSにかなり上がってました。
小沢:今回のライブからリアムはサッカーのマンチェスター・シティFCのサポーターがやるポズナンをオーディエンスにやらせ始めました。リアムに言われたなら当然、みんなステージに背中を向けて踊ります(笑)。でも、それもオアシスのライブの一体感を象徴するイベントなんですよね。
そういう感じだから、“崇拝してるスターを生で見てるぜ”っていう優越感がないのかなって。どっちかというと、オレの歌、私の歌を作った人たちと会う、すごくでっかいオフ会みたいな(笑)。“この歌を信じてきて間違いなかった!”という、仲間たちとの集まりって感じがしました。
――オアシスは心の距離感の近いバンドってことですね。
小沢:そう。だからどんなに大きくなっても、相変わらずファンは「オレたちのオアシス」って言ってるし、全然“オアシス様”にはならない。まあ、泣いてるおじさんはいっぱいいましたけどね。オアシスのライブは、どのアーティストとも違う独特な空気が流れています。
文・取材:土屋恵介
撮影:干川 修
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