サブスク時代に則した温故知新とは? 『MUSIC Liverary』が目指すアーティストプロモーションの新たな形
2025.10.10


2025年2月より、ソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)のレガシープラスが運営する新たなYouTubeチャンネル『MUSIC Liverary(ミュージックライブラリ)』。そこには昭和、平成を彩ったさまざまなアーティストのミュージックビデオ(以下、MV)がずらりと並び、日本の音楽史の広大な図書館(ライブラリ)が構築されつつある。
大量のMVをデジタルアーカイブとして残しつつ、新規リスナーの獲得も目指すこのプロジェクトの立ち上げリーダーを務めたのは、アンティノスレコード、エピックレコードジャパン、SMEレコーズなどの音楽レーベルで約30年にわたりアーティストを支え続けてきたベテランプロデューサーだった。
現在はレガシープラスで『MUSIC Liverary』の拡充に奮闘する長谷川景が、プロジェクトの“これまで”と“これから”について語る。
目次

長谷川 景
Hasegawa Kei
ソニー・ミュージックレーベルズ レガシープラス
ソニー・ミュージックレーベルズが持つ豊富な音源、画源資産を多角的に活用したカタログビジネスを展開するレガシープラスが立ち上げた新規YouTubeチャンネルプロジェクト。レガシープラスが所有する楽曲、所属するアーティストのMVを中心に、アーカイブとしての機能と、新たなリスナー獲得のための企画の両面を展開する。
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──まずは、『MUSIC Liverary』プロジェクトの立ち上げの経緯と狙いを教えてください。
初めに、SMLのなかで、僕が2年前から所属している音楽レーベル・レガシープラスというセクションについて少し話をさせてください。
ここはもともと音楽レーベルではなく、音楽商品の通販を旗艦ビジネスにする会社だったんですが、音楽ビジネスの様式が大きく変化するなかで、分社化していた各レーベルを統合。SMLという会社に音楽ビジネスを集約する流れがあるなかで、過去の音楽カタログを中心にしたビジネスを展開するレーベルとして設立されました。
その成り立ちも相まって、スタッフはみんな音楽に詳しく、“この時代の音楽はいいよね”“この楽曲が素晴らしいよね”で通じ合える、独特の文化があって。部署としての雰囲気も良く、それ自体は素晴らしいことなんですが、ひとつ気になったことがあったんです。
それがサブスクやSNSなど、音楽の売り方の主流がデジタルに移行した今、音楽レーベルとしてアーティストと楽曲をどうやって売り出していくのか? 音楽のサブスクで1回でも多く再生回数を伸ばすために何をしなければいけないのか? YouTubeでひとりでも多くの人にチャンネル登録をしてもらうためには何が必要なのか? ここにフォーカスした施策やビジョンが、すっぽり抜け落ちていたのです。
CDのパッケージが“グッズ”に変わり、売り上げを落としている現状を鑑みたときに、これではまずい。デジタルでちゃんと稼げるように、やり方を変えていかないといけないと感じました。ここまでがひとつ目のきっかけです。
もうひとつは、ここ10年あまりで誰もがスマホをひとり1台ずつ持つようになって、音楽もMVも、持ち歩けるものじゃないとダメな時代になったということです。仮にMVを1本撮影したら、それをパッケージ商品に落とし込むことも大事ですが、動画サイトやSNSでいかに発信していくかが今はさらに大事で、もはやマナーになったと言ってもいいですよね。
──確かにそう思います。
僕がレガシープラスに異動してきたときは53歳だったのですが、驚いたことに、ここでは当時、それでも下から数えて2番目の若さでした(笑)。そこまでスタッフの年齢層が上となると、“SNSのハッシュタグとは何か”“YouTube ショートとは何か”といった説明から始めないといけないこともあって……つまり、部門としてデジタルメディアにかなり疎かったんです。
レガシープラスでは、キャンディーズ、YMO、松田聖子(原稿内敬称略)など、“昭和のスター”とも言うべきレジェンドアーティストの方々の音源、画源を大量に保有しています。そのすべてが我々にとって宝物ですが、スマホで見てもらえる状態へのアウトプットがなかなか進んでいませんでした。
現在進行形でレーベルに所属し、次々と新曲をリリースするアーティストであれば、自発的にSNSで発信したり、動画のチャンネルを持ったりすることもできますが、そうでない場合は宝の持ち腐れとなり、音源もMVも埋もれていってしまいます。さらには、今後もどんどんアーカイブしていかないといけない。ではそのアウトプット先をどうするか?
年齢を問わず、誰もが持っているスマホで見ることができるもの。かつ、基本的には無料というハードルの低さ。それに最適なプラットフォームはどこかと考えていくと、自然とYouTubeに辿り着きました。
『MUSIC Liverary』のYouTubeチャンネルはこちら
──現在のような形で、独自のYouTubeチャンネルを立ち上げた理由を教えてください。
ソニーミュージックのオフィシャルYouTubeチャンネル・Sony Music (Japan)は、現在280万人以上の登録者がいますが、仮にそこに動画をアップしていく場合、レガシープラスが保有する古い楽曲だと、人目につくようにするのが結構難しいんですね。置いておくことはできても、見つけてもらいにくい。
それが社会現象レベルで話題になった楽曲であれば、自動的におすすめに上がることもあると思いますが、そうでなければ、なかなか難しいでしょう。それだったら、アーカイブを残すためのYouTubeチャンネルを自前で持ってしまうのがいいんじゃないか? と考えました。
昔の楽曲にもどんどん触れてもらえる、可能性を作るためのチャンネル。パッと見たときに「あ、この曲もあの曲も、懐かしいものが全部ここで見れるじゃん、このチャンネル何だろう?」と思ってもらえるようなもの。
前例がなかったので、果たしてそれが実現可能かどうかはわかりませんでしたが、“もしダメだったら次の手を考えよう”くらいの気持ちで。去年の6月くらいから、僕ともうひとり、レーベル内でデジタルの知見を持つ担当者に声をかけて、立ち上げの準備を始めました。
──それが『MUSIC Liverary』の始まりですね。ちなみに、チャンネル名の“Liverary”は造語になりますが、どんな意図でつけたのですか?
たくさんのビデオを集めた図書館、あるいはCDの倉庫というイメージから“Library”という言葉を使いたいというのが先にありました。ここにレガシープラスというレーベル名そのものを盛り込む考え方もあると思うのですが、“Legacy”(遺産)という言葉だとちょっと大きすぎるというか、“往年のもの”という意味合いが強く出すぎてしまうなと。
レガシープラスは1970~1990年代の楽曲の専門レーベルというわけではなくて、例えば今年25周年イヤーのCrystal Kayや来年デビュー30周年のPUFFYなど30代以下の皆さんにも馴染みのあるアーティストや楽曲も扱っています。“過去だけでなく、現在進行形でもある”、そういうことも匂わせていきたかったので、アクティブなもの、生きているものを表わしつつ、音楽とも密接な“Live”を組み合わせた“Liverary”という造語にしました。
──懐かしい楽曲のMVを次々に公開し、アーカイブを進めていくにあたって、どんな部分に注力していますか。
僕はYouTubeというものを、とりわけ『MUSIC Liverary』に関しては“検索ツール”だと考えています。つまり、音楽を楽しむメディアそのものは別のところにあってもいい。アップするMVは、パソコンの画面で見ていただいても十分なクオリティで常に仕上げてはいますが、まずは“スマホで気軽に使える検索ツール”を作ることが先決だと考えました。
そこで重要になってくるのが、MVを時代ごとにまとめた再生リストです。『MUSIC Liverary』では、“2000年以降”“1990 年代”“1980年代”“1970 年代”というふうに分けているんですが、こうして時代ごとに縦軸さえ分けてしまえば、レーベル内のもので、その時代に当てはまるものであれば、ジャンルを問わずアーティストの楽曲を入れてもいいというものにしました
こういう分け方って、実はほかのチャンネルだとなかなかできないことで。アーティストごとのチャンネルだったら、発表した楽曲の新~旧順で並べるのが普通。分類するにしても、基本的には“MV”“LIVE”“Lylic Video”というような分け方になります。
そしてレーベルが作るチャンネルだと、所属アーティストの新しいMVが出るたびに、それがトップの目立つ位置に載っていく。古いものは必然的にどんどん下がっていってしまうので、そういう状態から見つけてもらうのは難しくなってしまいます。
そしてコンテンツホルダー側の人が勘違いしがちなのが、チャンネルを訪れた人の動向として、チャンネルのトップページにない情報、コンテンツを、掘ってもらえると思ってしまうこと。これがダメなんです!
皆さんも思い返せばわかると思いますが、おすすめで出会ったチャンネルに行って、目当ての動画のサムネイル以外にタッチしますか? よほど興味があるか好きでないと、そこまでしないですよね。まずチャンネルのファーストビューでどれだけバラエティーと情報を見せるかということを常に考えでいます。
だから、“深さじゃなくて面積で見せる”というのが、『MUSIC Liverary』の構成のポイントです。せっかく来てくれたお客さんをがっかりさせたくないので、“最初の1回”のチャンスでどれだけの情報を持って帰ってもらえるかという工夫は徹底しています。
──実際にこのチャンネルを訪れているのは、どんなユーザー層なのでしょうか。
今って、テレビを中心に昭和~平成ブームがすごいことになっていて、懐かしい音楽がほぼ毎日のように取り上げられている状態ですよね。これがラッキーなことに、チャンネルの再生数に大きく反映されています。
そうやって皆さんが家でテレビを見ていて、例えば爆風スランプが取り上げられたとき、スマホで“爆風スランプ”を検索するとします。そこから僕らが用意しているMVに辿り着いてもらえるように、丁寧に動線を作っておく。それが先ほどの検索ツールとしての役割なんです。
ちなみに、そうやってテレビで紹介されるということは、MVやジャケット写真の貸し出し依頼がメディアからレガシープラスに事前に届くわけです。つまり僕らは、いつ、どこで楽曲がオンエアされる可能性があるかを放送前に知ることができる。僕らが始めたことのひとつに、それらをオンエア前に全部リスト化するようにしたということもあります。
メディアの方々が欲しがっている楽曲を常に把握して、定例会議で指差し確認するようにしたんです。そうすることで、毎年どの時期にどの素材の依頼が多くなるなどの傾向も見えてくるようになりました。
『MUSIC Liverary』のトップページに表示される動画って、実はそうやってメディアの露出があるたびに細かく並び替えているんです。これをすることで、世の中で話題になっているような楽曲が常にトップに並び、目につきやすい状態にできる。些細なことのようですが、1円もかけずに効果が出せるので、地道に徹底しているポイントです。
──昭和から平成の音楽が今、これだけ多く取り上げられていることについては、どのように分析していますか?
自分たちの学生時代とか、しがらみがなく自由だったころとか、恋人と別れて悲しかったときのこととか、それぞれの思い出を思い返すために音楽を聴く、そういう楽しみ方をしている人がすごく多いんじゃないかと思います。であれば、僕らレガシープラスとしては、その人たちの思い出に寄り添い、リマインドしてあげられるようなことが大事なのではないかとすごく思っていて。
今のテレビがこうして昭和や平成を取り上げるのも、バブルも含め、いろんなことが盛り上がっていた時代に学生だった人たちが50~60代になって、その人たちに対して「覚えてますか?」とか「そうだったんだ!」と気づきを与えることで共感を得られるからですよね。そういう雰囲気と連動したものを考えるといいんじゃないか、というのは『MUSIC Liverary』の在り方におけるポイントでもあります。
──新規リスナーの獲得にあたっては、ショート動画も重要なポイントになっているのではないかと思います。
ショートに関しては、昔のレコード会社で言うところの“カラオケ対策”のようなもので、今は“TikTok対策”に変わりましたね。例えば、松田聖子のことを知らなくても、NewJeansのハニのカバーがきっかけで「青い珊瑚礁」を知ったという若いお客さんがたくさん見に来るということがありました。
そういう若い人たちにとって、懐かしいとか、自分の親より年上のアーティストであるというようなことは関係がないわけです。さらに、そうやって人目につくことによって、ほかの楽曲も聴いてもらえる可能性が生まれる。これは、結果的にアーティストプロモーションもできているということに加えて、MVのフル尺動画への誘導にもなります。だからショートはすごく大事にしていて、どのショート動画にも必ず歌詞を表示するように作っています。
──こうして聞いていると、ソニーミュージックのなかでもさまざまなアーティストの名前が挙がりますが、関わるアーティストが多いことによる苦労もあるのではないでしょうか。
素材は本当に山ほどあるので、確かに大変ですね。何しろ、現在はレーベルに所属していないアーティストや、今は担当者がついていないアーティストもたくさんいますから。
毎週、レーベル内のストリーミング再生回数上位100曲のリストが配布されるんですが、そのチャートを見るたび、トップ10に入る人気の楽曲なのに、そのアーティストの担当者がいない状態というのも多くて、実はすごく気になっていたんです。
それはつまり、YouTubeの概要欄を整えたり、MVやショートをアップするために必要な事務手続きをする人がいないということだったりしますが、かと言って、音源、画源は存在するが現在は稼働していないアーティストや数年に1回ベスト盤が出るか出ないかというアーティストすべてに、担当者をつけるというのも無理な話です。
だから、“担当じゃないけど、僕が全部やるから”と手を挙げて、ひたすらデータ入力をすることにしました。Whiteberryとか、ZONEとか、いろんなアーティストのデータ入力をひたすら……。
でも、その作業を経て動画が公開できるようになると、半年後には、チャートのトップ100上位に上がってくる楽曲となり、現在は季節によって多少の変動はあるものの、TOP50位圏内までのMVとショートがアップされていないものはほぼなくなったはずです。
地味な作業と言えばその通りですが、例えばPUFFYが来年デビュー30周年を迎えるというタイミングなのに、過去の楽曲に触れてもらえる準備ができていないのではもったいない。周年イヤーで注目を浴びるという絶好のチャンスの前に、まずファンデーションは整えておかないと。そういう気持ちで、楽曲情報を打ち込む日々でしたね(笑)。
記事の後編はこちら:サブスク時代に則した温故知新とは? 『MUSIC Liverary』が目指すアーティストプロモーションの新たな形
文・取材:柳 雄大
撮影:干川 修
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