映画監督・西山将貴氏と考える、全天周ドーム型シアター『PULSE DOME』の可能性①
2026.03.06


ソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)のレガシープラスが運営するYouTubeチャンネルとして始動した『MUSIC Liverary』。プロジェクトリーダーへのインタビュー後編では、『MUSIC Liverary』発の独自コンテンツから、サブスク時代における価値観の変化、ミュージックビデオ(以下、MV)の存在意義にまで話題が及んだ。
目次

長谷川 景
Hasegawa Kei
ソニー・ミュージックレーベルズ レガシープラス
ソニー・ミュージックレーベルズが持つ豊富な音源、画源資産を多角的に活用したカタログビジネスを展開するレガシープラスが立ち上げた新規YouTubeチャンネルプロジェクト。レガシープラスが所有する楽曲、所属するアーティストのMVを中心に、アーカイブとしての機能と、新たなリスナー獲得のための企画の両面を展開する。
記事の前編はこちら:昭和~平成音楽ブームを受け止めるMVの巨大図書館『MUSIC Liverary』が生まれた至極真っ当な理由
──『MUSIC Liverary』独自のコンテンツとして、往年の著名な楽曲に新規制作の映像をつけるというものがあります。いくつか拝見したなかで、久保田早紀(原稿内敬称略)の「異邦人」のアニメーション・ミュージックビデオは出色の作品だと感じました。
あれ、いいですよね!
久保田早紀「異邦人」アニメーション・ミュージックビデオ
──こうして新しいビデオがつくことで、昔の楽曲という感じがしなかったのが新鮮で。初めて聴いた人にとっては、いい意味であれが何年に作られた楽曲なのかわからないのではないかと。
その通りだと思います。「異邦人」は1979年に発売された楽曲ですが、音楽の主流がストリーミングになっている今、そういった発売日だとか、アルバムにおける曲順が何番目というような情報はお客さんにとって、さほど重要ではなくなっているように思います。皆さんにとっては、“その日に出会った新曲”なんです。
新規制作の映像施策で大事なことは、そもそもMV全般がそういうものではありますが、ちゃんと“音に対して画をつけている”ということです。これが逆になると、“画に対するBGM”になってしまう。楽曲にマッチした画をつけているから、そのような感想を持っていただけるわけです。
同じように映像を新規に作ったものでは、五輪真弓の「恋人よ」のリリックビデオなども、見ていると気持ちを持っていかれてしまうような印象的なできになりました。僕自身、あれを見たことが五輪真弓というアーティストに改めて興味を持つきっかけにもなりました。
五輪真弓「恋人よ」OFFICIAL Lyric Video
──こうした映像が、レーベル公式で新規に制作されているというのは面白いですね。
もともとは、楽曲に辿り着いてもらうための検索ツールという意味で、どの曲でもYouTubeに何らかの映像を置いておきたい、というのが狙いだったんです。1980年代以前の楽曲でMVが存在していないものだと、今まではただ映像がないという理由で何も載せていなかった。だったら、その楽曲に映像をつければいいんじゃない、というシンプルな話です。
ただ、この試みはYouTube上では一定の効果を上げているのですが、ほかのメディアに目を向けてみると、テレビでは使ってもらえないという弱点があります。画を新しくつけると、懐かしいものではなく、逆に新曲のように受け取られてしまうという性質があって、本人出演もなく、当時を振り返ることができないとなると、テレビとは相性が良くないということがわかりました。
今は、そういったことへの対策も同時に進めていて、過去のアーティストのライブなどの映像商品から、そこに入っている楽曲を“みなし”でMVとして登録し始めています。これによって楽曲が動画のアーカイブに残っていくし、テレビ局から映像の貸し出し依頼があればマネタイズにもつながりますから。
まさに久保田早紀の「異邦人」も、この方法でご本人と社内から許諾をもらい、1984年のコンサートから『MUSIC Liverary』に映像をアップしたばかりです。フルバージョンとともに同時にショートでもアップできているので、見つけてくださった人には「おお!」と思っていただけたんじゃないでしょうか。
久保田早紀「異邦人」(フェアウェル・コンサート 1984.11.26)
──先ほど“その日に出会った新曲”という言葉が出ましたが、今は“新譜と旧譜の境目がなくなった”とか、“邦楽と洋楽のすみわけも必要ない”といった価値観が広がっています。そういう状況に対して、ビジネス的に課題だと考えることや、逆にチャンスだと捉えている部分はあるのでしょうか。
もちろん、ものづくりに携わる立場からすれば、その曲が生まれた時代背景とか思い入れはあるし、新しい価値観に違和感を覚えることもありますよ。でも基本的には、“それが今のトレンドだったらいいんじゃない?”というのが僕の考え方です。
僕個人としては、仕事だけじゃなく、ファッションでも、人間関係においても、流れに逆らう必要はないと思って生きてきました。そうやって30年で流れ着いたのが今というだけなんですけどね(笑)。
今は、世の中の音楽の主流がストリーミングになって、アルバムの曲順も関係ないし、いつ、どこで発売されたかも関係なくなっている。でも逆に、あと何年かしたら、“曲順からパッケージまで、手に取る人のことをこんなに考えて作っていた時代の音楽があったんだ!”と再評価されるときが絶対に来るから。それは信じていますね。
いっぽうで、誰もがプレイリストを作れて、それを共有できる時代になったことで、そういうものと僕らの仕事との差がほとんどなくなったというのは、気をつけておくべきことだと思います。レーベルは楽曲の権利こそ保有していますが、以前ほど特別なものではなくなったというか。今は、一般のユーザーに比べて少しだけイニシアティブがある存在でしかない。
僕らの業界ではよく、「ユーザーの視点で考えよう」という話をしますが、そう言いながらも、業界側の目線で考えてしまっている人がまだまだ多い。本当にユーザー側の視点になったときに、それが楽しんでもらえるものなら、今は正解と考えていいんだと思います。
──サブスクリプションサービスやSNSの普及で、楽曲やMVが、これまでのシングルやアルバムといった枠組みを越えてひとり歩きするようになりました。こうした状況で、アーティストや楽曲の持つストーリーを伝える方法についてはどのように考えていますか。
YouTubeで動画を見ていて「気になる」「もっと知りたい」と思ったとき、動画の概要欄をタップしますよね。そこに、収益化への導線として各配信サービスへのリンクを入れてあるのは当然として、『MUSIC Liverary』が公開しているMVやショート動画では、各楽曲のオリジナルの発売日や歌詞の全文をはじめとした情報もきちんと入れてあります。ファーストビューの1歩先に入っていただければ、そこにはちゃんと資料性のあるものが用意してあるわけです。
もちろん全員は見ない情報だとも思っていますし、情報過多にならないように気をつけていますが、興味があって見に来た人に対しての受け皿は常に整えておくということですね。さらにそこから先の、“楽曲が発売された当時はこんな風景が広がっていた”というような情報は、ユーザー各自のエンジョイメントでいいんじゃないかなと。
──扱っているコンテンツは懐かしいものであったとしても、発信の仕方はちゃんと今のやり方に沿ったものにしているということですね。
それが一番大事なことかもしれません。温故知新にするのか、懐古主義にするのかのどちらかなんですよ。これまでのレガシープラスは懐古主義でものを考えることが多かったから、今は今なりの発信の仕方をして、温故知新にもっていけたらなと。
古着屋さんに例えて話をすると、昔は6,000円だったデニムジーンズが、20年寝かせていたら8万円で売れてしまう、みたいなことがときどきあって。何十年か前に現役で活動していたアーティストや古い楽曲が、今の時代になって、違った角度で価値を見出されるっていうことがあるんです。そういうタイミングに備えて僕らは何をすればいいか? と考えたときに、スマホですぐに見られるところに動画があるのはやっぱり重要なことだと思いますね。
──『MUSIC Liverary』の現状とこれからについて、今はどんなことを考えていますか?
いわゆる熱心な音楽ファンというよりは、非音楽コンテンツに興味がある人の目につくように誘導することを心がけています。レガシープラスが権利を持っている楽曲はここ数年、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」に登場する機会も多くて。
僕が担当してきたものだと、藤井隆の「ナンダカンダ」、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」、爆風スランプの「Runner」もそうでしたね。特に藤井隆の「ナンダカンダ」に関しては、25年前のリリース当時も担当をしていたので、こうやって楽曲が今でも親しまれているということは個人的にも非常にうれしいですね。
YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」のように分母が大きいチャンネルで楽曲が取り上げられると、同じYouTubeのプラットフォームだから、『MUSIC Liverary』もおすすめに上がるチャンスになります。そうやって人が来てくれたときに、動画やチャンネルのトップページにこだわって情報を見せることは徹底していきたいです。
それと今年2月のチャンネル立ち上げから数えて約8カ月になりますが、まだ有料の広告も打っていない状態で、“とりあえず登録しておこう”という人が5万人いるんですよね。チャンネル登録をすると、プッシュ通知なんかも来るようになりますし、登録者にとっては意外とカロリーが要ることだと思うんですよ。
それでも5万人の人が、20~30年以上前のMVが並んでいるチャンネルをフォローしてくれているということは、ここにどんどん物(コンテンツ)を増やしていったら、もっと喜んでもらえるかなというモチベーションにつながっています。
──次の成長に向けたステップは、どのように進んでいくことになりそうですか。
まずは登録者数10万人が目標ですね。そこまで行ったら、チャンネルの外側でも何らかの変化が起こるかもしれないな、というのはイメージしているところです。
あとはやっぱり、僕も55歳ですから、もう5年も経つと定年を迎えるわけです。そのときにどういう状態になっているかはわからないですが、YouTubeのチャンネルさえ残しておけば、誰かに引き継げるメディアになるなと思っていて。
これまでレーベルで自分が発掘したアーティストや、担当したアーティストを引き継いでいくことも大事ですが、時代がどんどん移り変わっていくなかで、“自分が立ち上げたメディア”というものをひとつぐらい残しておいてもいいんじゃないか? ということも考えながら、チャンネル運営を続けています。
──改めて、MVという媒体が持つ面白さは、どんなところにあると考えますか?
楽曲と歌詞があって、そこにMVで画がつくことで、作者の意図というか、制作陣の“こういう世界観を見せたい”という表現を見ることができる。これはシンプルに、音だけを聴くことに比べて立体的な楽しみ方ですよね。その1段階先に、「次はライブで本物を観てみたい」という欲求があると思うので、MVはそのふたつの中間にある、ある種の一番重要なステップだと思います。
──私は音楽に初めて触れた1990年代からMVというものがすごく好きで、当時のテレビCMや歌番組などから流れてくる数十秒間だけでも、その楽曲のイマジネーションを広げてくれる貴重な存在だと感じていました。
あのころと比べると、今は音楽が、聴くほうも見るほうもポータブルなものになって、その点ではいい時代になりましたよね。しかも最近は、音だけで楽曲を聴くより先に、MVから入るという人の方が圧倒的に多いですから。そう考えると、MVはできるだけいっぱい作った方がいいですよ。
アーティストが歌ったり、演奏をした瞬間の姿をアーカイブしておくという意味でも、映像を撮っておくのって大事なことだと思います。
──最後に、『MUSIC Liverary』というチャンネルを通じて長谷川さんが目指していることを教えてください。
僕らがやらなきゃいけない仕事は、やっぱり“アーティストプロモーション”なんですよ。つまり、最終的にはアーティストの楽曲を聴いてもらうことにつなげたい。そのためのライブラリを作っていくためにはMVが必要で。だから、それがない場合は映像を作るし、あるけど長年眠ってしまっているものは、どんどん掘り起こしていきたい。
いい作品なのに、アウトプットが少なくて外に出て行けていないというもの、それをもう一度発信することが今の僕の仕事だと思っているから、今のトレンドに則したやり方でそれらを出していきたいんです。
その手段にもっともマッチしたのが今はYouTubeで。自らチャンネルを立ち上げることで、フットワーク軽く、自分たちでコントロールできるものにしたい。そうしてできあがったのが、現在の『MUSIC Liverary』だということですね。
記事の前編はこちら:昭和~平成音楽ブームを受け止めるMVの巨大図書館『MUSIC Liverary』が生まれた至極真っ当な理由
文・取材:柳 雄大
撮影:干川 修

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