映画監督・西山将貴氏と考える、全天周ドーム型シアター『PULSE DOME』の可能性➁
2026.03.06


2026年1月、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)は、360度全天周特設ドーム型シアターを使ったイベント『PULSE DOME(パルスドーム)』を開催。360度の映像と立体音響による没入型音楽映像体験を、新宿歌舞伎町のど真ん中で提供した。
Cocotameでは、本イベントを体験した映像クリエイターの西山将貴氏、ソニー・ミュージックレーベルズのA&R、そしてソニー・ミュージックソリューションズでイベント制作を手がける担当者たちを招き、ドーム型シアターの開発者たちとの座談会を実施。ゴーグルを使用しない360度の映像空間で、どのようなコンテンツが生まれ、どのようなビジネス展開が考えられるのかを聞いた。
第1弾は、新進気鋭のホラー映画監督として注目を集める西山将貴氏と開発陣の座談会をお届け。ドーム型シアターにおける新たな映像体験をテーマに、それぞれの考えを語る。
目次

西山将貴氏
Nishiyama Masaki
映像クリエイター 映画監督
1999年愛媛県生まれ。14歳のころから自主映画制作を始め、2021年には縦型映画『スマホラー!』で国内の映像コンペティションの最優秀作品賞を受賞。3月6日~12日の1週間、TOHOシネマズ日比谷で期間限定上映されるオムニバス映画『GEMNIBUS vol. 2』内で、短編映画『インフルエンサーゴースト』が公開。自身初の長編ホラー映画『インビジブルハーフ』も、2026年7月31日(金)から全国公開を予定している。本業の傍ら、ゲームデザイナーで脚本家の佐藤直子氏、小説家の背筋氏の3人で、ホラークリエイティブユニット・バミューダ3を結成しており、こちらでの活躍も期待されている。

中居佑輝
Nakai Yuki
ソニー・ミュージックエンタテインメント

赤林勇太
Akabayashi Yuta
ソニー・ミュージックエンタテインメント
先端テクノロジーを活用して、新たなエンタテインメントビジネスの創出を目指すSMEのデジタルイノベーショングループが、ソニーグループ各社とともに開発した360度全天周特設ドーム型シアター。ハイスペックなゲーミングPCや、VRゴーグルなしでメタバースライブが体験できる場として、1月7日~11日までの5日間、新宿歌舞伎町シネシティ広場内にドームを仮設し無料イベントを開催した。ドームのサイズは直径約13m×高さ約7m。半円球型スクリーンに複数台のプロジェクターでVR映像を投影し、音響システムはソニーの立体音響技術を導入して没入感を高めている。本イベントで上映したコンテンツは、きくお「よるとうげ」、Kanaria & LAM 「Kanaria MV 360°VR Edition(demo)」、はるまきごはん「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」、FZMZ「FZMZ LIVE “DEEP:DAWN”」、TORIENA「FRACTURE: REBORN」、キヌ「VTUBER GO TO CITY」、Beyond a bit「Beyond a bit」、月白 累「please, keep my ghost.」といった、ボカロPやメタバース上で活躍するアーティスト、VTuberの音楽映像作品。さらに、月白 累のライブステージではリアル会場の『PULSE DOME』と「VRChat」内のバーチャル会場に同時配信を行なう技術検証ライブも行なった。
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――『PULSE DOME』のイベントで使用した全天周特設ドーム型シアターで使用しているテクノロジーは、中居さん、赤林さんが所属するSMEのデジタルイノベーショングループが中心となって開発したものです。まずは、ドーム型シアター開発の経緯を教えてください。
中居:最初のタネになったのは、数年前、私が「VRChat」でキヌさんのメタバースライブを見て感動したことです。こんなに素晴らしい音楽、映像体験が既に仮想空間で実現されていることに驚いたのと、キヌさんをはじめ、メタバース空間に、ものすごくクリエイティブな才能を持った人たちが集まり、メタバースライブ、いわゆるパーティクルライブ(光の粒子=パーティクルや立体映像を音楽に合わせて動かし、VR空間全体を演出する体験型ミュージックビデオ)や、それ以外にもさまざまなクリエイティブで、新しいエンタテインメントが次々と生み出されていることを知り、感銘を受けました。
と同時に、メタバースで活躍するアーティスト、クリエイターのクリエイティビティが、そのクオリティの高さと反比例するかのごとく、世の中に認知されていないことに愕然としたんです。
どうやったらこの才能を多くの人に伝えられるのか、世の中に気づいてもらえるのかと考えたときに、壁になっているのが、メタバース空間を楽しむためには、高価な機材やVRゴーグルが必要だということ。この壁を壊すために、何ができるかと考えた先に出てきたのが、ドーム型シアターの活用です。
実際に観客が入れるドーム型シアターを作り、そこでボカロアーティストやVRアーティスト、VTuberのクリエイティブなパフォーマンスをVRゴーグルなしで体感してもらおうというのが、『PULSE DOME』というイベントを開催した目的です。
――『PULSE DOME』の開発がスタートしたのは、いつごろですか?
中居:メタバースライブをリアルイベント化する試みは、一昨年からトライしていて。SMEが運営するバーチャルタレント育成&マネジメントプロジェクト「VEE」と共同で、ドーム型シアターと同じようにVR映像を投射できるプラネタリウムを使ったVTuber音楽イベント(『VEE Presents “Seek the Brilliance”』)を2024年の10月に開催しました。
そのうえで、もう一歩踏み込み、プラネタリウムといった固定施設に縛られない、会場を持ち運び、仮設することでVRゴーグルなしのメタバース体験を提供できる“サーカス型メタバース”を実現したいと考えたのです。
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――サーカステントのように、持ち運びが可能なドーム型シアターを作りたいと。
中居:はい。『PULSE DOME』は、イベントや展示会などで使われている既存のドーム型テントを活用しています。今回、新宿に設置したのは直径約13mのものなのですが、ドーム自体は映像投影や音の反射など音楽向けの環境には向かない素材でできていて、スクリーン素材を作り直しています。
また、メタバース空間をリアルに再現するために、16台のスピーカーを設置してソニーの立体音響技術を導入し、既存のモノをカスタムしながら没入体験用ドーム型シアターが完成しました。
――そんな『PULSE DOME』でのメタバースライブを、映像クリエイターであり、気鋭のホラー映画監督でもある西山さんに体験してもらいました。まずは『PULSE DOME』を体験した率直な感想を聞かせてください。
西山:僕の映画でも実写合成によるVFXはよく使っていますし、映画以外の作品でもデジタルをかけ合わせるのは当たり前。なので、僕自身、新しいテクノロジーにはすごく興味があって、『PULSE DOME』の体験もとても楽しみにしていました。
ただ、イベントのお話をいただいたときから、VRゴーグルなしでメタバースを体験できるなら、そんなに素晴らしいことはないと思いつつ、本当にそんなことができるのかな? と半信半疑でいたのも事実です。でも、まさにその通りの空間が歌舞伎町のど真ん中に出現していて驚きましたね。
赤林:西山さんに、そう言っていただけると、本当にうれしいです。でも、気になった点もありますよね。ぜひ、教えてください。
西山:そうですね。ひとつ挙げると、スクリーンの反射は気になりました。半球状のドーム型のフレームに白い素材でスクリーンを作り、360度の映像を投影しているから、どうしても反射が生まれてしまうんですよね。加えて、投影する映像によっては、反射のせいで色や模様がクリアに出ていないところもあったんじゃないかと思います。
ドームがもっと大きいと、暗幕的な暗さとかも作れるようになると思うので、そうすれば、より映画館とかプラネタリウムに近い、完全な没入体験ができるようになりそうだなと感じました。
中居:確かにスクリーンは、懸案事項のひとつでした。本番前に体育館を借りて実験をしたのですが、そもそもスクリーンの素材色が白なのと、全天周型のスクリーンということで、特に明度が白に寄っているシーンや輝度が高いシーンでは、ドームの継ぎ目や立体音響を実現するために設置しているスピーカーが見えてしまうというのは、仕様として免れないところでした。
西山:360度のVR映像を投射するためのドーム型スクリーンで、白地というのもしょうがない部分ですからね。ただ、個人的に気になったのはそれぐらいで。映像体験としては、すごいものを体験させてもらったなと感じています。
例えば、上映されたコンテンツで、キヌさんの「VTUBER GO TO CITY」では、背景が真っ暗でそこにぶわっと文字が浮かぶ演出や、線状の光が天頂に吸い込まれていく演出がありましたよね。あの映像表現はすごかったですね。背景成分が黒だと非常に没入度が高くなるので、自分が天井に吸い込まれるような感覚を覚えました。
――『PULSE DOME』は、ソニーの立体音響技術を採用しています。こちらはいかがでしたか。
西山:音も良かったですね。ドームなので反響は多少あるにせよ、空間全体を音が包み込んでいるようで臨場感の方が勝っていると僕は感じました。音楽と映像が織り成す没入感をしっかり感じることができましたね。
中居:今回は16台のスピーカーで立体音響を再現していて、ドームのトップに1台、上部に4台、周囲に11台を配置した構成にしています。これも事前に検証して決めたのですが、ソニーのエンジニアは意外と“6台ぐらいでもいいのでは”という意見だったのですが、『PULSE DOME』に参加していただいたクリエイターの方々に試聴してもらって、最終的に“16台でいこう”ということになりました。
――『PULSE DOME』は、半球状のドーム型シアターなので、基本的に映像を見上げることになります。映像が上から降ってくる体験とともに、立体音響によって上から降ってくる音を浴びる体験もできるわけですが、いっぽうで、足元で感じる音圧は弱いという声もありました。これは音が降ってくる体験を重視した仕様ですか?
中居:いえ、当初は低域用のウーファーを床に設置して、足元の音圧もしっかり感じていただく予定でした。ただ、『PULSE DOME』を広場に設置して、テストで音を出したときに、音の振動が激しいと近隣のお店からご連絡を受けまして……。
まさかと思ってスタッフが周りのビルの上階にある飲食店に行って確かめところ、グラスのなかの飲み物に波紋ができていると……。調整を試みたのですが、ご迷惑をおかけすることになってはいけないので、結局、ウーファーのレベルを下げました。
――そんな事情があったんですね。
中居:いい勉強になりました。今後は周囲の環境に配慮しながら、よりクオリティの高い音響をデザインしていけたらと思っています。
――今回のVRコンテンツは、『PULSE DOME』用に新規に作ったものですか? それとも既存のコンテンツですか?
中居:半々というところですね。西山さんがおっしゃったキヌさんの「VTUBER GO TO CITY」は、キヌさんが普段「VRChat」でライブをされているものを『PULSE DOME』用にカスタマイズしてもらったものです。同じくFZMZときくおさんの映像は、我々が制作し「VRChat」で公開されたものをカスタマイズして上映しました。ボカロP・はるまきごはんさんの作品は、『PULSE DOME』用にメタバースのクリエイターの方々にお願いして新たに制作したものになります。
――メタバースのクリエイターの方々とは、どういう経緯で接点が生まれたのでしょうか。
中居:我々が、夜な夜な「VRChat」に潜り込んで、皆さんとお友達になることから始めました(笑)。そこから“実は、僕らで『PULSE DOME』というのをやっていてコンテンツを作ってみませんか?”とお願いしていきました。
西山:デジタルなのか、アナログなのか、よくわからないですね(笑)。
中居:そうなんです(笑)。ちなみに、以前の記事で一緒にインタビューを受けていただいた「VRChat」のワールドやイベント制作などを手がけるクリエイティブチーム「MIGIRI」のタカオミさんたちにも全面的に協力いただいています。
――先ほど、キヌさんの映像について話がありましたが、『PULSE DOME』の映像表現でほかに気づいた点などはありますか?
西山:きくおさんの「よるとうげ」の映像で、空間を細い線で縁取ったようなシーンが出てきますよね。そこに柱とかの立体物が出てくるんですが、あの映像を見たときに、それまで認識していたドームの高さと比べて、立体物が5倍ぐらい大きく見えたんです。空間の奥行きがめちゃくちゃ広がったんですね。
立体物を使った表現で高さとか大きさを出す場合、太い線だとドームの丸みのところで歪んだように見えてしまうのですが、細い線だとそれが気にならなくて。映像表現として大きな武器になることに気づきました。
だから、ドーム型シアターの特性として、今回の『PULSE DOME』のサイズ感なら、左右ではなく高さ方向に観客の視線を振っていくほうが、体験価値が上がる気がしましたね。
きくおVRChatワールド『よるとうげ』
――ドーム状の空間をどう映像表現に利用するか? という、新たなアイデアも必要だということですね。
西山:そうですね。そもそも“見渡す体験”として、『PULSE DOME』は映画館やプラネタリウムよりも優位性があるなと感じました。映画館もプラネタリウムも座席があることが前提で、映画館であれば正面のスクリーン、プラネタリウムであればドーム型スクリーンに目線が集中していくわけですが、座席に座わって固定されると、首を左右に動かせる角度は60度から80度ぐらいにロックされます。
つまり、360度全天周の映像を体験してもらうことができない仕様ですが、『PULSE DOME』ならそれができる。特に今回は、立ち見のスタイルだったので、よりそれが効果的で、自分が自由に周りを見渡せるのも新しい体験だと思いました。
中居:実際に試す方はいらっしゃらなかったのですが、一部の公演ではドーム内を歩き回ることも可能なレギュレーションにしていました。
西山:その“見渡す”という体験そのものを、コンテンツの内容に落とし込めるのが、『PULSE DOME』の面白いところですよね。
赤林:その意味で、“見渡す”体験をとても効果的に使っていたのが、ボカロP・はるまきごはんさんの「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」だったと思います。
複数の楽器ごとにキャラクターが出てきて“こっちにいるキャラクターはここで音を鳴らす、あっちのキャラクターの音は向こうで鳴る”と、360度の映像と立体音響をうまく使いこなしていました。なので“音が鳴る方をみんなが見る”という、普通の音楽ライブにはない体験がありました。
来場者アンケートにも、“360度という特性をもっとうまく使えるのでは?”という声も寄せられていたので、今後はクリエイターの方々のクリエイティブも変わっていくと思います。
西山:バーチャルリアリティとはよく言ったもので、VR映像であっても360度の映像を見せるというのは、実に難しいことなんですよね。なぜなら、メタバースは空間丸ごとVR映像でできていますが、結局のところ、人間の目では後ろは見えない。つまり、振り向かせる仕かけがコンテンツに必要になってくるということ。
僕はゲームが大好きで、VRゴーグルも持っていますが、自分自身のVRコンテンツ体験として印象に深く残っているのは、カプコンの「バイオハザード」シリーズで『バイオハザード7』の本編へと誘う短いドラマが描かれたVRタイトル『KITCHEN(キッチン)』(2016年発売)です。
『KITCHEN』という作品は、自分自身の身体が椅子に縛りつけられているという設定で映像がスタートします。両手も手首で縛られているのですが、これを疑似体験させるためにゲームコントローラーを両手で持つということが強制され、その姿勢になるという仕かけもものすごく上手かった。
動けないという設定を現実とVRでリンクさせつつ、視点だけは動かし続けることができて、ホラー体験を提供するというアイデアが秀逸でしたね。すべてが理に適っていてVRの入門としてめちゃくちゃ良かったですし、新たな恐怖体験を得ることができました。
赤林:VR映像は空を飛んだり、深海に潜ったり、人が普段体験できないことを実現させる動性のコンテンツが多いですが、『KITCHEN』はその真逆でありながら、体験価値としては非常に高いものがありましたね。
中居:『PULSE DOME』の場合は、自由に見渡す体験を重視したのですが、確かに視線の誘導という体験設計も大事な要素になりますね。
西山:ただ、音楽ライブやライブ映像というのは、映像作品やゲームとはまた違う考え方になると思います。なぜならオーディエンスがそこで求めているのは、“アーティストが歌う姿”であり“自分が好きな曲”であって、恐怖体験ではない。
となると、そのアーティストが歌っている場所がメインステージであれば、そこを中心に映像デザインが設計されていく。そうなると観客の視線はおのずと固定されていくんですね。“アーティストのライブを見に来た”のか“映像を見に来た”のかで、お客さんのマインドセットは変わりますが、音楽ライブはアーティストを中心に視線が誘導されるので、必然的に対象を見つけることができる。メタバース空間を360度フル活用したとしても、その本質を外すことはできないし、それが正しいのだと思います。
『PULSE DOME』というハードがあるから、それに合わせたコンテンツを作るのではなく、こういう体験をファンの人たちに提供したい、ファンの人たちを楽しませたいから『PULSE DOME』を活用するという考え方ですよね。
――そのマインドがなければ、エンタテインメントと言えないですよね。
西山:そうですね。そのうえで、僕が今回拝見したきくおさん、FZMZ、キヌさんの映像は、どれも自分がミュージックビデオに入り込んだような体験ができました。好きなアーティストが巨大になるなど、その迫力を体験するだけでもファンの皆さんにとっては大きな価値があるのではないかと感じました。
後編では、全天周ドーム型シアターでどんなコンテンツが生まれるのか? その可能性について語る。
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©Test 8 Pictures © 2025 TOHO CO., LTD.
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
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