イベント制作チームと考える、全天周特設ドーム型シアター『PULSE DOME』の可能性①
2026.04.23


ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が開催した、360度全天周特設ドーム型シアターで、メタバース映像を体験するイベント『PULSE DOME(パルスドーム)』。
本イベントを実際に体験したエンタテインメント業界の専門家たちと、『PULSE DOME』の開発陣が、全天周映像空間のリアルな活用法とビジネス的な展望を語り合った。
シリーズ第2弾、A&R(音楽企画制作)と開発陣の座談会後編では、音楽ビジネスにおけるドーム型シアターの具体的な活用法を考える。
目次

神戸克磨
Kanbe Katsuma
ソニー・ミュージックレーベルズ

小山裕誠
Koyama Hiroaki
ソニー・ミュージックレーベルズ

菊田省吾
Kikuta Shogo
ソニー・ミュージックレーベルズ

中居佑輝
Nakai Yuki
ソニー・ミュージックエンタテインメント

赤林勇太
Akabayashi Yuta
ソニー・ミュージックエンタテインメント
先端テクノロジーを活用して、新たなエンタテインメントビジネスの創出を目指すSMEのデジタルイノベーショングループが、ソニーグループ各社とともに開発した360度全天周特設ドーム型シアター。ハイスペックなゲーミングPCやVRゴーグルなしで、メタバースライブが体験できる場として、1月7日~11日までの5日間、新宿歌舞伎町シネシティ広場内にドームを仮設し無料イベントを開催した。ドームのサイズは直径約13m×高さ約7m。半円球型スクリーンに複数台のプロジェクターでVR映像を投影し、音響システムはソニーの立体音響技術を導入して没入感を高めている。本イベントで上映したコンテンツは、きくお「よるとうげ」、Kanaria & LAM 「Kanaria MV 360°VR Edition(demo)」、はるまきごはん「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」、FZMZ「FZMZ LIVE “DEEP:DAWN”」、TORIENA「FRACTURE: REBORN」、キヌ「VTUBER GO TO CITY」、Beyond a bit「Beyond a bit」、月白 累「please, keep my ghost.」といった、ボカロPやメタバース上で活躍するアーティスト、VTuberの音楽映像作品。さらに、月白 累のライブステージではリアル会場の『PULSE DOME』と「VRChat」内のバーチャル会場に同時配信を行なう技術検証ライブも行なった。
記事の前編はこちら:A&Rチームと考える、全天周ドーム型シアター『PULSE DOME』の可能性①
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――ここからは全天周ドーム型シアターの活用法で、より具体的なアイデアを挙げていってもらいます。
菊田:音楽のシチュエーションに合わせた演出は、ドーム型という点でいかせそうだと思いました。去年、東京ドームで久石譲さんのオーケストラコンサートを観たんですが、曲に紐づいた映像が流れるという演出があって、すごく感動したんです。
近年、アニメやゲーム作品を中心に、作品の映像とオーケストラの演奏が融合したライブコンサートが人気を博していますが、個人的にはそういったコンサートを観るのが、このときが初めてで。音楽に加えて、映像が目の前に広がることで、こんなにも没入感が変わってくることに驚きました。ドーム型シアターでも、曲にまつわる綺麗な景色をリアルタイムで動かして360度で見ることができれば、よりすごい体験ができそうだなと思います。
赤林:メタバース上のCG映像に関しては、現状、3DCGのモデリング作業に、時間とコストが結構かかるんです。なので、新規でコンテンツを制作する際は、それなりの初期費用を用意しないといけないというのが、ひとつの課題だったりしますね。
菊田:『PULSE DOME』自体を演出装置と考える手もありますよね。ドームの中心にステージを作って、映像に包まれながら歌うアーティストの姿を観てみたいです。平面のLEDビジョンより、かなりの迫力が生まれると思います。
赤林:実は、『PULSE DOME』にDJアーティストを入れて、音楽に合わせた映像をドームに投影することも考えていました。
菊田:それも面白いですね! もし、この間より大きな『PULSE DOME』で、そんなクラブイベントを開催していたら、僕、必ず行きますよ(笑)。
中居:今回使用したドームは、4段階で下から2番目のサイズです。一番大きなサイズであれば、スタンディングで700~800人は収容できるので、クラブイベントの新しい形として提案することもできそうですね。そのうえで、DJプレイを「VRChat」にも中継するとか、活用方法はまだまだ広げられそうだなと。
神戸:それこそ、音量のことを気にしなくていいフェスに持っていけば、かなり没入感の高いクラブ音楽を体験させる場を生み出せそうですよね。今回、体験させてもらったコンテンツのなかにも、そういう力を持った映像体験がいくつかありました。すごく盛り上がると思いますね。
――ちなみに、今回のイベントの反省点も聞かせてください。
赤林:一番の反省点は、音声トラブルですね。午前中に開催した関係者内覧の回で、音声が出なかった事案と、1回限りの上映で、イベントの目玉コンテンツにしていた月白 累のライブでも音声が出ないというトラブルが発生しました。
中居:もう、現場に来ていただいた月白 累のファンの方々には、お詫びして回りたかったです。本当に申し訳ありませんでした。
――原因はなんだったんですか?
中居:音響系のソフトウェアがフリーズしました。今回、参加していただいた映像クリエイターの方々が、非常にこだわって映像を制作してくださったんですが、その分、納期がギリギリになってしまって、本番でかなりの容量のデータを一気に動かしたら固まってしまいました……。
菊田:でも、優しい空間になりましたよね。ライブ映像が「VRChat」のほうにも流れていたから、止めるということもできなかったわけですけど、月白 累さんがトラブルに気づいて、会場にいる人たちを気遣うMCをしたり、録画したライブパートを再度上映することになって待機時間が発生しても帰る人がいなくて、なんか温かい雰囲気になりました。
中居:“新しいことに挑戦しているから”という理由、そして何より月白 累のファンの皆さんが温かい目で見てくださったから、場が荒れることは一切ありませんでしたが、エンジニアサイドとしては言い訳のできない状況を作ってしまったので、今後の運営に必ずいかしていきたいと考えています。
――皆さんの担当アーティストが『PULSE DOME』を活用するとしたら、どのような展開が考えられますか?
神戸:自分が携わっているアーティストでいうと、yamaとスカイピースは相性が良さそうだなと思いました。yamaに関しては、もともとボカロカルチャーの出身であることや、仮面をつけてアーティスト活動をしているという個性をいかして、これまでの活動に加えてIP化も進めるという話があります。
またスカイピースもYouTuber出身のアーティストということと、彼らの元気なイメージがポップなIP化に向いているなと考えています。そういうアーティストを、メタバース上でキャラクターとして確立させ、生身ではできないパフォーマンスや、世界観を伝えるコンテンツを提供できると面白い展開ができそうだなと思いましたね。
この場合、全天周ドーム型シアターというのは、あくまで手段でしかなく、アーティストのIP化を起点に、メタバースとコンテンツの展開があって、それを披露する場が『PULSE DOME』という考え方です。
――コンテンツというのは、メタバースライブを開催するということですか?
神戸:というよりも、例えばyamaなら、ライブ会場の近くにドーム型シアターを設置して、ライブの世界観に入り込めるモノローグのコンテンツや、終演後にはエピローグのようなコンテンツを味わえる場所があったら、ファンの人たちもうれしいと思うんです。
また、今回体験したFZMZの「FZMZ LIVE “DEEP:DAWN”」の冒頭で、ライブ会場に向うシーンがあったんですが、ファンの方々はライブ会場に向かっているときからワクワクを感じていますよね。これは、それと同じだと思って。
没入感の高い映像には、こういう活用方法もあるんだと気づいたのと同時に、担当するアーティストのコンテンツに落とし込んだときの、具体的なイメージがわいてきました。ただ、『PULSE DOME』を活用したビジネスを組み立てようとすると、動員数や上演回数を上手く調整する必要があると思うので、そこは今後、相談させてもらいたいところですね。
――メインとなるライブを『PULSE DOME』で開催するのではなく、リアルのライブやイベントに付随したグッズ的なオプションコンテンツとしてなら、比較的取り組みやすいということですね。
神戸:そうですね、現実的に10分尺くらいだとしても、やはり一番に考えるべき点は“一度に捌ける人数”だと思います。例えばZeppツアーで各会場に2,000人ほどを集客した場合、開場から開演までの間に全員が体験してもらえるにはどうすればいいか、料金設定はいくらにするのか、考えることはいろいろありそうです。
ひょっとしたらドーム型シアターではなく、VRゴーグルで展開したほうが、採算があうということもあり得るのかなと。
中居:お伝えした通り、今回使用したドームは直径約13mの中型サイズでしたが最大サイズのものは直径約27m、これで700~800人の収容が可能になります。
神戸:ですよね。ただ、それだけのサイズのものを建てられるスペースがある会場となると、開催できるアーティストは限られてきます……。やっぱり、ドーム型シアターという視点でとらえると、フェスとかに置くほうが現実的なのかもしれない。
小山:収容人数と料金設定、そしてコンテンツの内容と尺は、うまくバランスをとらなければいけないところですね。でも、全天周ドーム型シアターでしか味わえない体験があることは間違いないので、しっかりアーティストに紐づいたコンテンツができれば、お金を払ってでも見たい人は、確実にいると思います。
中居:ドーム型シアターで一番お金がかかるのは、やはり建築費と機材費です。そこのコストを抑えようとするなら、全国に300以上あるプラネタリウムを会場にするというのが、最も現実的かもしれません。
そこに立体音響をはじめとした『PULSE DOME』のテクノロジーと、我々がつながりを持つメタバースクリエイターの方々のコンテンツ制作ノウハウを融合させれば、しっかりとしたビジネスが展開できると思います。
赤林:ネットを活用した複数会場での同時開催というのも可能です。ただリアルタイムライブだと、モーションキャプチャー技術との連動はまだ課題が多いので、もう一歩先のイノベーションを待っている段階ではあります。
小山:確かに22/7のキャラクターライブでも、そこは課題のひとつでした。バーチャルアーティストだとモーションキャプチャーに必要な機材だけではなく、モーションキャプチャー専用のスタジオなど、特別なセットアップが必要です。それがもっと手軽になれば、ドーム型シアターの可能性はもっと広がるのだと思います。
――今回はA&Rの視点で意見を出してもらいましたが、それらを踏まえてドーム型シアターや『PULSE DOME』に導入されているテクノロジーの活用法が見えてきた点もあると思います。開発サイドの中居さん、赤林さんとしては、今後、どういったビジョンを持っていますか。
中居:『PULSE DOME』の開発を始めて3年目に突入していますが、皆さんからのアイデアにもあったように、出口はひとつではないと感じています。今回のイベントでは、ドーム型シアターを使っていますが、ビジネスのところで話が出たように、直近でビジネス展開をするならプラネタリウムのほうが実施のハードルが低いし、収益構造も見えやすい。
今回、イベントのタイトルとして『PULSE DOME』と名づけましたが、『PULSE DOME』の本質は、あのドームではなく、そこで得られる映像体験であり音楽体験です。ドーム型シアターであることに固執する気はそもそもないので、そのときどきでベストな方法論を見つけていきたいです。
そのうえで、このプロジェクトの起点になってくれた、メタバースクリエイターの方々のクリエイティブが『PULSE DOME』や、ほかのサービスでもいいので世の中にもっと認知され、活躍の場が広がってくれるとうれしいですね。
赤林:レベルの高いクリエイターさんは本当にたくさんいらっしゃるので、皆さんが担当されているようなアーティストとのマッチングが生まれ、メタバースライブの魅力をさらに広げられたらいいですね。
小山:あと、お茶の間レベルに新しいものを広めるなら、もっとユーモアを持ったクリエイターの存在が重要かなと思いました。例えば、ゆるキャラブームではふなっしー、ヴィジュアル系からはゴールデンボンバーが出てきたように、もっとユーモアを含んだクリエイティブが生まれれば、メタバースに触れたことがない人も、“なんだこれ!?”と興味を持ってもらえるかもしれません。それでいうと、22/7のバーチャルライブは、ちょっと真面目に作りすぎたかもしれません(苦笑)。
菊田:子ども向けのキャラクターコンテンツから、何かを生み出すという考え方もあるかもしれないですね。VRゴーグルは、年齢制限がありますが、ドーム型シアターやプラネタリウムなら関係ないので、子どもの心を掴むIPやコンテンツを活用するのも考えてみたいところです。
中居:『PULSE DOME』は、まだまだ課題はあるものの、これまで積み上げてきた知見や技術的な蓄積も大きくなってきています。我々の技術を使ってトライしてみたいことがあれば、ぜひお声がけください。情報交換をしながら音楽領域で一緒に面白いクリエイティブを作っていけたらと思います。
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文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
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