アニメプロデュース会社・HAYATEの現在地から紐解く、日本のアニメを世界に届けるスキーム
2026.03.13


2026年1月、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が開催した、360度全天周特設ドーム型シアターを使ったイベント『PULSE DOME』。
Cocotameでは、本イベントを体験した映像クリエイターの西山将貴氏、ソニー・ミュージックレーベルズのA&R、そしてソニー・ミュージックソリューションズでイベント制作を手がける担当者たちを招き、ドーム型シアターの開発者たちとの座談会を実施。ゴーグルを使用しない360度の映像空間で、どのようなコンテンツが生まれ、どのようなビジネス展開が考えられるのかを聞いた。
第1弾の後編では、映像クリエイターの西山将貴氏と開発陣が、全天周ドーム型シアターで、具体的にどんな映像表現が考えられ、それによってどんなコンテンツが生み出せるのか? その可能性について語り合った。
目次

西山将貴氏
Nishiyama Masaki
映像クリエイター 映画監督
1999年愛媛県生まれ。14歳のころから自主映画制作を始め、2021年には縦型映画『スマホラー!』で国内の映像コンペティションの最優秀作品賞を受賞。3月6日~12日の1週間、TOHOシネマズ日比谷で期間限定上映されるオムニバス映画『GEMNIBUS vol. 2』内で、短編映画『インフルエンサーゴースト』が公開。自身初の長編ホラー映画『インビジブルハーフ』も、2026年7月31日(金)から全国公開を予定している。本業の傍ら、ゲームデザイナーで脚本家の佐藤直子氏、小説家の背筋氏の3人で、ホラークリエイティブユニット・バミューダ3を結成しており、こちらでの活躍も期待されている。

中居佑輝
Nakai Yuki
ソニー・ミュージックエンタテインメント

赤林勇太
Akabayashi Yuta
ソニー・ミュージックエンタテインメント
先端テクノロジーを活用して、新たなエンタテインメントビジネスの創出を目指すSMEのデジタルイノベーショングループが、ソニーグループ各社とともに開発した360度全天周特設ドーム型シアター。ハイスペックなゲーミングPCや、VRゴーグルなしでメタバースライブが体験できる場として、1月7日~11日までの5日間、新宿歌舞伎町シネシティ広場内にドームを仮設し無料イベントを開催した。ドームのサイズは直径約13m×高さ約7m。半円球型スクリーンに複数台のプロジェクターでVR映像を投影し、音響システムはソニーの立体音響技術を導入して没入感を高めている。本イベントで上映したコンテンツは、きくお「よるとうげ」、Kanaria & LAM 「Kanaria MV 360°VR Edition(demo)」、はるまきごはん「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」、FZMZ「FZMZ LIVE “DEEP:DAWN”」、TORIENA「FRACTURE: REBORN」、キヌ「VTUBER GO TO CITY」、Beyond a bit「Beyond a bit」、月白 累「please, keep my ghost.」といった、ボカロPやメタバース上で活躍するアーティスト、VTuberの音楽映像作品。さらに、月白 累のライブステージではリアル会場の『PULSE DOME』と「VRChat」内のバーチャル会場に同時配信を行なう技術検証ライブも行なった。
記事の前編はこちら:映画監督・西山将貴氏と考える、全天周ドーム型シアター『PULSE DOME』の可能性①
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イベント制作チームと考える、全天周特設ドーム型シアター『PULSE DOME』の可能性②
――西山さんが映像監督として『PULSE DOME』を使った作品を作るとしたら、どんなものを作ってみたいですか。
西山:本当にいろいろ考えられますよね。先ほども言った通り、僕も実写がメインではありますが、CGを使ったVFX映画もやってきていますし、フル3DCG作品も作ったことがあります。そういうCG作品に実写を融合させたり、音楽と融合させたりするのも面白そうです。あとは、ミュージックビデオ(以下、MV)や、ライブ演出など、そういうかけ算も興味深いですね。
赤林:MVなら、どういう表現が考えられそうですか?
西山:そうですね……どういう曲かにもよりますが、音楽軸で360度見渡す体験を作るとすれば、CGとか実写といった表現手法は関係なく、ファンの人の気持ちにとことん寄り添うことが重要だと思うんですね。
映像として見せる、聴かせるというだけでなく、そのアーティストの世界観をプラスして、画面からアーティストが飛び出してきたと錯覚するようなリアリティを感じてもらえる作品にしたいです。それが、音楽作品にとっては大切な価値になると思います。
赤林:先ほどおっしゃっていた「ハードに合わせてコンテンツを作るわけではない」ということに通じますよね。
西山:はい。音楽作品ならなおさらだと思うんです。メタバースライブだからと言って、派手な映像がマストなわけではない。その楽曲やアーティストのイメージに合わせた映像が必要ですよね。
――では、西山さんが得意とするホラージャンルでの映像作品だとしたらどうでしょうか。
西山:『PULSE DOME』で考えるなら“天井”があることをいかしたいですね。これは、ホラーに限った話ではないのですが、例えば、人間の視点で見て全長50mとか100mもある怪獣が目の前を通り過ぎる映像であれば、平面のスクリーンにはない圧倒的な臨場感が生まれます。大きなものを映し出すことで、あえて天井を見上げさせることができると、面白いなと思いました。
赤林:巨大なものを目のあたりにするというのは、体験価値としてひとつの正義ですよね。
西山:はい。あと大事なことは、見上げるという姿勢です。メタバース空間の価値のひとつに没入感があると思いますが、没入感のある映像体験には身体性とのリンクというのは欠かせないと考えています。
その映像に見上げる必然性があるから、人は没入感を感じる。身体性を伴った映像、音響体験を『PULSE DOME』というハードに落とし込むのが、作品性を向上させる近道になるのではないでしょうか。
それを踏まえて、巨大でおぞましい何かがゆっくりと頭上を通り過ぎていけば、否が応でも見ている人はそれを目で追い、振り返る。すると、“後ろにまた別の巨大な何かが現われて……”といった視線の動線をデザインすれば、かなり面白いパニックホラーが作れそうです。
――そうすると、観客が立って見ている状態にも、必然性が出ますね。
西山:そうだと思います。同じ半球型でも、プラネタリウムのようにリクライニングの姿勢で見上げる状態だと、星を見るということでは必然性がありますが、日常生活で我々が何かを見る体験とは、少し離れる気がします。
天井を仰がせるという演出がきっちりできれば、違和感がなくなり没入感が増していく。“立った状態で見上げている”という行動にも理由がきちんとつきますからね。
中居:実は、今後上映予定のデモでは、お客様の声の方向や身体の向きによって演出を変えていくインタラクティブなコンテンツにもトライしていきます。例えば、映像で見ている人の注意を引きながら、後ろからも音を出して振り向かせる、という手法です。
西山:それは、めちゃくちゃ面白いと思います。お客さんが、その作品にダイレクトに参加できることになるのでより楽しいですし、VR体験としての価値も上がりますね。
赤林:音楽ライブ的な映像では、歌や演奏が始まる前や合間に、アーティストとファンが一緒に何かをするような演出もできますね。実は、あるアーティストのコンテンツでプロトタイプはもう作っていますので、インタラクティブな演出がどういうものになるのか、楽しみにしていてください。
赤林:僕からも西山さんに質問させてください。西山さんは、ホラー作品における衝撃のバランスや、恐怖のタイミングをどうやって計算されていますか。
西山:僕は海外作品からかなり影響を受けていて、一番シンプルでわかりやすいものでいうと……“ジャンプスケア”と呼ばれる手法ですね。
赤林:大きな音と恐怖映像を急に発して、見ている人を驚かせる演出方法ですね。
西山:海外ホラーは、それをバンバン使う作品が多いのですが、なかでもすごいと思うのが、ジャンプスケアのタイミングを意図的にズラす演出です。それをマスターレベルで駆使するのが、ジェームス・ワン監督。今やその世界観がユニバースを形成している「死霊館」シリーズの最初の作品を監督した人で、『ソウ』の監督としても知られています。彼の作品は、この演出が巧みに取り入れられていて、特に怖いんです。僕はそれをかなり参考にさせてもらっています。
赤林:具体的にどういった点ですか。
西山:作品内で“ここで大きな音が来るはず”と思うシーンがあるじゃないですか。そこであえて“来ない”という演出を取り入れているんです。そのうえで、観客が“来ないんだ”と思ってしまう時間までも、ワン監督は設計しています。
観客のイマジネーションがより働く方向に誘導し、そのうえで期待を裏切ると、それ自体でホラーが成立するんです。大きな音が鳴る瞬間よりも、何も起きない“静寂”の時間をいかに効果的に体験させるか。逆に“静寂”が続きすぎると変な間が生まれて、観客の没入度が下がってしまうので、そこも上手にコントロールされています。
赤林:音響を効果的に使うということでは、西山さんなら立体音響をどのように使いますか?
西山:そうですね。例えば、日本では夏に公開(7月31日公開予定)する『インビジブルハーフ』という映画があるのですが。
――レインダンス映画祭ほか世界の映画祭に選出された、西山さん初の長編監督作品ですね。
西山:この映画では5.1chサラウンドを使っているのですが、主人公が常にスマホにイヤホンを繋いでいて。イヤホンをつけていると怪物が近づいてくる音が聞こえるという設定なんですが、もし立体音響技術があれば、イヤホンをつけているときの音の立体感を、もっと出せただろうなと思いますね。
赤林:ちなみに、公開中の短編映画『インフルエンサーゴースト』にも、特殊な音響演出はあるのですか?
西山:音響演出ではないのですが、見ている人たちに向けたゲーム的、エクスペリエンス的なものを提供するシーンを作りました。とはいえ、これ以上話すとネタバレになってしまうので、詳しいことは話せないのですが(苦笑)。この作品のクリーチャーのコンセプトも一風変わっていますし……改めて考えると、変な映画ばかり作っていますね(笑)。
ホラー作品においても、没入感というのは非常に重要な要素です。だからこそ『PULSE DOME』との親和性も高いと思うので、今後、自分でもメタバースのホラー企画を考えてみたいと思います。
――『PULSE DOME』の今後の可能性についても聞かせてください。例えば、半球ではなく全球のスクリーンにするということは考えられますか。
中居:既に、上野の国立科学博物館に全球型映像施設「シアター36○(シアター・サン・ロク・マル)」があるので、技術的には可能だと思います。ただ、全天球にすると、よほど大きな施設を作らない限り、一度に体験できる人数がかなり制限されます。そうなるとビジネス的な視点で、厳しくなってきますね。
赤林:透明素材の床を作って、映像を観客の足の下にも投影するやり方なら、キャパシティを下げずに実現できるかもしれないですが、設置の利便性やそこにかかるコストを考えると、今は半球型のほうが現実的だと思います。
西山:確かに、全球型は実現が難しいですし、半球型でも十分に新しい映像体験は可能だと思います。Cocotameでも取り上げてもらいましたが、ゲームデザイナーで脚本家の佐藤直子さんと小説家の背筋さん、そして自分の3人で結成したホラークリエイティブユニット・バミューダ3が制作して、昨年7月に開催した展覧会『1999展 ―存在しないあの日の記憶―』でも、理想を言えば、下から見上げる体験を入れたかったんです。
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来ていただいた方なら覚えていらっしゃると思うんですが、世界の終わりに空が赤くなって、上から光が降り注ぐ体験を提供したかったんです。しかし、会場の制約があって、平面のスクリーンを正面から見る形にせざるを得なくて。
もし、あのとき『PULSE DOME』が存在していれば、会場に設営して新しいレベルの体験価値にできたと思います。先ほども言いましたが、天井があることの価値はめちゃくちゃ大きいですよ。
赤林:そういう風に捉えていただけると、我々としても心強いです。映像をよりクリアにしたり、色の減退を押さえたり、まだ課題は残していますが、コンテンツの内容をさらに工夫して、クオリティを高めていきたいです。
西山:それと『PULSE DOME』は、今まではひとりで体験していたVR体験を、その場にいる多くの人と共有できるのもメリットです。その共有体験は、海外でも受け入れられそうだと思いました。
中居:海外展開は、将来的に我々も目指したいところです。
西山:きっと向いていると思います。あとは、見た目ですね。現状は白いシンプルなドームですが、アメリカ・ラスベガスのドーム型のアリーナ施設「Sphere(スフィア)」が、外観に巨大なニコちゃんマークを投影しているように、『PULSE DOME』もパッケージングでIPを使ったりして親しみやすい印象を提供できると、より面白いと思います。
――この取材がご縁となって、西山さんと『PULSE DOME』のコラボレーションなども見られるといいですね。
西山:お伝えした通り、僕は今、バミューダ3としても活動していて、『1999展 ―存在しないあの日の記憶―』は、その最初の作品でした。目指す世界観を作り上げることはできましたが、それでも会場のスペースの問題や技術的な制約で、実現できないアイデアもたくさんありました。
僕らはテクノロジーを使った展示や体験価値を作っていきたいユニットなので、今後、展示の規模を大きくしていくには、やはり技術チームの力が必要になってくる。個人的にも、バミューダ3としても、『PULSE DOME』のプロジェクトには大変興味を持っているので、どこかのタイミングでご一緒できるようなことになったら面白いですね。
中居:我々も『PULSE DOME』で、さまざまなエンタテインメントとコラボレーションしていきたいので、今後もぜひご意見やご要望を伺わせてください。
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文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
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