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アニメづくりへの情熱

ENHYPENをモチーフにしたIPをHYBE×アニプレックスでアニメ化②──『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』で見つけたIP拡張の新しい可能性

2026.03.20

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韓国の総合エンタテインメント企業・HYBEが展開するアーティストとコラボレーションしたストーリーIP「HYBEオリジナルストーリー」。WEBTOON『黒の月: 月の祭壇』を原作としたアニメ『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』は、グローバルグループ・ENHYPENのコンセプトをモチーフに、少女とヴァンパイアたちとのロマンスストーリーを描き出し、閲覧数2億ビューを超える世界的ヒットとなっている。

本作のアニメ化から見えてくるエンタテインメントビジネスの新たな可能性について、HYBE Next Entertainment Business プレジデントのパク・テホ氏、本作を企画したプロデューサーの黒﨑静佳に話を聞いた。

※本インタビューは2026年2月上旬に実施したものです。

  • パク・テホ氏プロフィール画像

    パク・テホ氏

    Taeho Park

    HYBE Next Entertainment Business President

  • 黒﨑静佳プロフィール画像

    黒﨑静佳

    Kurosaki Shizuka

    Aniplex (Shanghai)代表

記事の前編はこちら:ENHYPENをモチーフにしたIPをHYBE×アニプレックスでアニメ化①──『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』グローバル展開の舞台裏

北米や中南米はもちろん、意外なあの地域でも人気?

──アニメ化における実務についても聞いていきます。キャラクターはどのように作り上げていきましたか?

黒﨑:画については、HYBEの皆さんや制作スタッフと何度も議論を重ねました。その結果、原作ファンの方々にも違和感なく見ていただけるように、WEBTOONに近いタッチを採用しながら、アニメの表現としても映えるようにバランスをとっています。

キャラクターの掘り下げについては、原作を読み込むのはもちろん、SNSに投稿されているミニキャラクターのエピソードも参考にしました。また、ENHYPENの動画やさまざまなコンテンツから各メンバーの口調や細かな仕草までチェックして、アニメの表現に取り入れています。

例えば、アニメ第6話に登場する誕生日ケーキは、独特なデザインですが、実はENHYPENの楽曲「Drunk-Dazed」のミュージックビデオに登場するケーキをモチーフにしているんです。ほかにも、エンディングの色設計や描かれるアイテムも、ENHYPENのミュージックビデオから着想を得た要素を散りばめています。

ENHYPEN (엔하이픈) 'Drunk-Dazed' Official MV

DARK MOON6話に登場する誕生日ケーキ

パク:そうした細かなこだわりに気づいてくださったファンの方もたくさんいました。キャラクターの解釈についても高く評価されていて、本当に有り難いです。グローバルでの反応も良く、特にアメリカやラテン地域ではキャラクターに関するコメントが多く寄せられています。ANXの皆さんの丁寧な取り組みに、とても感謝しています。

アニメ「DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-」ノンクレジットエンディング映像【ENHYPEN「Fatal Trouble」騎士Ver.】

──現在、どれくらいの国と地域で放送、配信されているのでしょうか。

黒﨑:吹き替え8言語、字幕9言語を同時配信しています。日本、韓国をはじめ、Crunchyrollがサービスを展開している北米、欧州、中南米、中東、東南アジアなど、幅広い地域で視聴いただいています。

そのうえで、パクさんがおっしゃる通り、ラテンアメリカでの人気はとても高く、北米でも視聴ランキングの上位に入っていますね。ラテンアメリカ地域はラブストーリーなどロマンチックな物語を好む視聴者が多い傾向にあるので、本作のようなひとりの少女と7人の少年たちというシチュエーションは多くのファンの支持を集めているのだと思います。

パク:シチュエーションが近しい作品として『ヴァンパイア男子寮』や『DIABOLIK LOVERS』といった作品は、2000年代初期から2010年代にかけて人気がありましたよね。今回のアニメ化で、当時の作品を思い出して懐かしく感じる方も多いのではないでしょうか。

黒﨑:そうですね。それと興味深いのは、インドでの人気が非常に高いことです。ENHYPENファンが多い地域なのでしょうか。

パク:インドでは、近年K-POPの関心が急速に高まっており、音楽ストリーミングサービスでも再生数の多い地域のひとつです。こうした流れを受けて、HYBEでも昨年、インド法人を設立しました。

また、グローバルの視聴データを見て感じたのは、ヴァンパイアという存在に親しみのある地域、ヴァンパイアにまつわる伝承が残る地域で視聴が伸びているという点です。もしかしたらインドにも、ヴァンパイアに類似する伝説があるのかもしれませんね。

笑顔で話すパク・テホ氏

──日本と韓国では、作品の受け止められ方に違いはありますか?

パク:韓国では、ENHYPENファン、そして「DARK MOON」シリーズファンの皆さんが、今回のアニメを“プレゼント”だと感じてくださっているようです。いっぽうで、アニメをきっかけに初めてこの作品に触れた方も多く、新規ファンの方々が「DARK MOON」の世界観を理解しやすいように、自主的に解説動画やまとめ動画を作って共有してくださる動きもあって、とても有り難いですね。

黒﨑:日本でも状況はよく似ています。非常にエンゲージメントの高いENHYPENのファンの皆さんが自ら情報を整理し、SNSなどで積極的に発信してくださっていて、本当に有り難いです。

グローバル市場を見据えたHYBEの戦略から学ぶ

──グローバルに展開され、多くの地域で広く支持されている本作ですが、作品が好評の要因は、どのような点だと考えていますか?

パク:エンタテインメントにおいて、もっとも難しい質問ですね(笑)。ただ、今回について言えば、作品全体を貫く明確なテーマ性が視聴者を強く惹きつけることにつながったのではないかと思います。

さらに、ANXのような素晴らしいパートナーとともに、グローバル市場を見据えた動線を確立して、ビジネスを展開できたことも非常に大きかったですね。そして、HYBEが持つグローバルなファンダムも、初期の拡散や視聴者の広がりに大きく貢献してくれました。

黒﨑:我々の視点からすれば、HYBEの皆さんのおかげとしか言えないですね。まず前提として、ヒットするコンテンツは原作に大きな魅力がなくてはいけない。そのうえで、原作のあるアニメというのはその魅力を、異なるメディアで視聴者の方々に届ける手段です。強いコンセプトを持つ原作があったことが何より大きかったと思います。

また、今回HYBEの皆さんとご一緒するなかで、企画の段階からグローバル市場を前提に考えるという姿勢を学びました。HYBEは、K-POP、K-Cultureの最先端を数多く生み出している企業ですから、地域ごとに何をすべきか非常に戦略的に判断されるんです。

私はこれまで日本でのヒットを起点にしたアニメビジネスを行なってきましたが、アニメがサブカルチャーからメインカルチャーへと広がり、HYBEの皆さんの思考に触れた今、企画段階からグローバルヒットを目標に設計する必要があると強く感じています。

そのため、今回の作品では“世界中で話題になるにはどうすればいいか”を強く意識しました。これまでは“日本でヒットしたものを高品質でアニメ化すれば世界でも受けるはず”という考え方でしたが、今回は“世界で人気のあるものを日本のクオリティでアニメ化したらどうなるか”という逆の発想で制作に臨んだんです。

パートナーであるCrunchyrollとも連携しながら、世界規模でのヒットを目指すという、ある意味、私たちにとって初めての本格的な挑戦でもありましたね。

微笑むクリス

主題歌、広告──作品愛から生まれた施策の数々

──今回HYBEとANXが協業するなかで、親和性や共通点は感じましたか?

黒﨑:作品を愛して制作に取り組んでいくという共通点をとても感じました。そのうえで、アニメ制作においては、私たちに任せていただいた部分も多く、キャラクターの設定などを確認する際も非常にスピーディーに対応していただきました。コンテンツの力を信じる姿勢、エンタテインメントを生み出すということへの深い愛情も随所で感じましたね。

パク:私も黒﨑さんとまったくの同意見ですね。企業同士のコラボではありましたが、どちらも“この作品が好き”という思いが根底にあり、そのおかげで生産的で活発な議論ができたのだと感じています。

例えば、ローンチ時の屋外広告をENHYPENのカムバック(楽曲リリース)と連動させた施策もそのひとつです。アニメでは前例のないプロモーションでしたが、“意味があることだし、面白そうだからやってみよう”と前向きに判断できたのは、ANXとHYBEに共通する価値観があったからだと思います。

黒﨑:放送開始時にはアメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアでのプロモーションビデオの放映や、韓国・ソウル、日本・渋谷でのENHYPENの7th Mini Album『THE SIN : VANISH』とのコラボ広告の掲出など、世界各地で大規模なキャンペーンを展開しました。

そういえば、オープニングテーマに関しても印象深いできごとがあって。当初はオープニングテーマも、ENHYPENが韓国語で歌っている既存の楽曲を使う予定だったんです。でも途中で「せっかくなら日本語バージョンを作りませんか?」とHYBEサイドからご提案いただいたんですよね。

パク:いい作品にしたいという気持ちが、つい出てしまいました(笑)。

黒﨑:その日本語バージョンの歌詞が、本当に素晴らしくて。アニメというある種、誇張された世界観にも寄り添ってくれる、詩的で非日常的な言葉選びが印象的でしたし、物語やキャラクターを深く掘り下げた歌詞になっていたんです。

パク:HYBEでは音楽にナラティブ(進行形で変化する物語)を付与する取り組みを長年行なってきました。詳しくは企業秘密ですが(笑)、社内にはストーリーや歌詞を手がけるチームもいて、原曲の企画意図や歌詞構造を踏まえたうえで翻訳できる体制があるんです。

黒﨑:なるほど! だからあの素晴らしい翻訳になったんですね。

アニメ「DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-」ノンクレジットオープニング映像【ENHYPEN「One In A Billion (Japanese Ver.)」】

スターシステムと共同制作、どちらを採用するべきか

──『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』はHYBEとANXの協業作品となりますが、両社がタッグを組んで制作に臨んだことで、どんな強みが生まれたと思いますか?

パク:今回のプロジェクトでは、それぞれが知見やノウハウを持ち寄り、お互いのストロングポイントを交換し、ウィークポイントは補完し合うことができました。また、マーケットの観点でも非常に意味があったと思います。K-POPファンがアニメに触れるきっかけになり、逆にアニメを通じて新しい物語に出合う方もいる。ANXが持つマーケットとHYBEが持つマーケットが重なり合い、共有できたことは、大きなシナジーにつながったと感じています。

黒﨑:私としては、グローバルエンタテインメントの最前線を走るHYBEの皆さんの考え方やアプローチを間近で体感できたことが、何よりの学びでした。もし次の機会があれば、今回得た知見を踏まえて、より良い提案ができると思います。

また、アーティストマネジメント会社という成り立ちでありながら、社内にコンテンツ創作への高い熱量と愛情を持つチームがあることも知り、強い親近感を覚えました。だからこそ、今後はまた違うかたちでのコラボレーションも生まれるのではないかと、と個人的に期待しています(笑)。

スハの首元をかじるヘリ

──日本でのコンテンツビジネスとは、また違った挑戦ができたということでしょうか。

黒﨑:HYBEの、アーティストにナラティブを付与するというアプローチ、そして“アーティスト自身がIPになる”という発想の転換を早い段階で実現している点が、とても先進的だと感じています。

HYBEではアーティストを核にしながらも、そこから新しい価値を創造していく。点ではなくて、面で展開する。日本でももちろん行なわれていることですが、そのダイナミクスは学ぶことが非常に多かったですね。これが、このスピード感でできるの? というのは、何度も体験しました。

パク:HYBEがアグレッシブなビジョンを持つ会社であるのは確かですが、同時に共同制作に慣れているということも大きいと思います。楽曲制作ではソングキャンプのように多くのクリエイターが参加しますし、振付やビジュアルも専門家が協業する体制です。ストーリーIPビジネスのように経験が浅い分野であれば、信頼できるパートナー企業と組む。そうした姿勢を評価していただけたのではないでしょうか。

黒﨑:K-POPが共同制作を前提としていることは知っていましたが、IP創出も同じ仕組みで行なわれているのは印象的でした。

日本の二次元コンテンツは、強力な原作者やクリエイターを中心に据え、その考えをかたちにするために周りのスタッフが力を尽くします。ですが、アニメやゲームが世界的に評価される今、誰かひとりに依存しないエコシステムを構築することも重要で、それが私たちの課題でもあると感じましたね。

身振り手振りで話す黒﨑

パク:K-POPでもスタープロデューサーを中心としたプロジェクトもありますから、私たちのような共同制作が必ずしも正解とは限りません。ただ、HYBEのビジョンを、スピード感をもって実現するには、才能あるパートナーの存在が不可欠です。今回の協業は、その好例だったと思います。

黒﨑:私自身、とても楽しく取り組めたプロジェクトでした。アニメの製作を通してENHYPENのCD、ミュージックビデオ、動画などさまざまなコンテンツに触れるのも楽しくて。この感覚は、まさに今、視聴者の皆さんが感じているものに近いのではないかと思います。ひとつの作品を入り口に、派生コンテンツやアーティストへと関心が広がっていく。従来のアニメ化プロジェクトに加えて、さらに大きな拡張性を感じました。

パク:その通りですね。音楽コンテンツは、アニメやストーリーIP作品に比べるとサイクルが短い側面があります。ですが、アニメなどの大きなコンテンツをイベント的に作ることで、アーティストの過去のミュージックビデオが再び注目される機会が生まれる、という事象も発生します。

さらに、その過程でアーティストの成長を知り、より深く好きになってくださる方も増えていく。そうした好循環が生まれた点でも、とても意義のあるプロジェクトだったと感じています。

──「DARK MOON」シリーズは、ほかにも作品がありますが、今回の経験を踏まえ、今後の協業も考えていますか?

黒﨑:ANXとしては、ぜひ今後もご一緒したいと思っています!

パク:私たちも今回のアニメの成果を前向きに受け止めています。今後どのようなかたちで拡張していくべきか、社内でも常に議論しています。またご一緒できるのを楽しみにしています。

向かい合って微笑むパク・テホ氏と黒﨑

記事の前編はこちら:ENHYPENをモチーフにしたIPをHYBE×アニプレックスでアニメ化①──『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』グローバル展開の舞台裏

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

©HYBE/Project DARK MOON

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