テクニカルエンジニア:音楽や映像の制作現場を“縁の下”で支える、スタジオメンテナンスという職人技
2026.05.25


2026.06.25
さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。
第30回は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)でストリーミングサービスやSNSなどのデータを分析し、新たな施策の提案を行なうデータアナリストに話を聞いた。
目次

Taiyo
ソニー・ミュージックエンタテインメント
──SMEのアナリティクス部は、どのような業務を行なう部署なのでしょうか。
アナリティクス部の業務は、大きくふたつあります。ひとつはデータを活用した分析と提案。もうひとつは、その分析を進めやすくするための環境整備です。
分析業務は、音楽レーベルの関連部署やアニプレックス(以下、ANX)などから依頼を受けるところから始まります。依頼内容は、“この楽曲はどのようにヒットしたのか”や“プロモーション施策でどんな効果が生まれたのか”など多岐に渡ります。ストリーミングサービスが提供するリスナー属性データや再生数、さらに業界で公開されているオープンソースデータなど、社内外のさまざまなデータを組み合わせて分析します。
その分析結果をもとに、現在抱えている課題解決に向けたアプローチや施策の提案を行ないます。イメージとしては、コンサルティングに近い役割かもしれません。
もうひとつの環境整備は、分析を行なううえで重要な業務です。社内外に散在するデータを整理することで、分析しやすい環境を構築。ときには、分析担当者がデータを扱いやすくするために、部内向けのツールを開発することもあります。
部内では、それぞれの適性に応じて役割を分担していて、分析中心の業務を担当する人もいれば、環境整備や提案業務をメインに担当する人もいます。そのなかで、私は分析と環境整備の両方を担当しています。
──再生回数だったり、サイト上での滞在時間だったり、ユーザーのさまざまな動向が数字として表われてくる時代なので、分析の依頼は多いのではないでしょうか。
そうですね。年々、相談件数は増えています。そのうえで、データアナリストの関わり方としては、施策の実施前から分析を始め、一つひとつの項目に仮説を立てて検証していくのが理想です。
しかし、現場ではスピード感が求められるので、我々が事前段階から加わるのは難しいケースが多くあります。それでも、アナリティクス部としては、企画段階から施策終了後の検証まで一気通貫で並走していけるよう、引き続き各部署とのコミュニケーションを深めていきたいと考えています。
──Taiyoさんは、いつソニーミュージックグループに入社したのでしょうか。
2024年に新卒で入社し、今年で3年目です。入社以来、アナリティクス部に在籍しています。
──もともとデータ分析やエンジニアリングに興味があったのでしょうか。
大学で専門的に学んでいたわけではありませんが、幼いころからパソコンやテクノロジーには興味がありました。父がシステム関連に詳しいので、小学生のころから自分専用のノートパソコンを与えられていて、身近な遊び道具のような存在でした。
なかでも、最初に興味を持ったのが映像制作です。パソコンで映像編集をしているうちに、“ここを自動化できたら面白そうだな”と考えるようになり、独学でプログラミングを勉強し始めました。
──どのような映像作品を作っていんですか。
小学生のころに作っていたのは、コマ撮りアニメです。もともと漫画を描くのが好きで、“この絵が動いたら面白いな”と思い、作り始めました。
ただ、制作には大量の絵を撮影する必要があり、とても手間がかかるんですね。そこで“CGだったら、もっと楽に作れるはず!”と考え、今度はCGでアニメを制作するようになりました。CGを本格的に始めたのは高校生のころで、同時に実写映像にも挑戦していました。
──将来的には映像クリエイターを目指していたのでしょうか。
そこまで明確な目標を持っていたわけではないのですが、中学2年生のころに出会ったあるCGアニメ映画がきっかけで、エンタメ業界で働くことを意識し始めました。
その作品のCG技術に圧倒されたのはもちろんですが、メイキング映像に映っていた監督や、スタッフの方々が協力し合って作品を作り上げている姿にとても感動したんです。そこから、“人を感動させるものづくりに携わりたい”と強く思うようになり、ソニーミュージックグループを志望しました。
──大学ではどのような分野を学んでいましたか。
生物学と工学をかけ合わせて、さまざまな分野に応用する“生物工学”を学びました。スマートウォッチに搭載されている、工学技術を用いて健康状態やバイタルデータを計測する機能もこの研究領域に含まれます。
一見、現在の業務に関係ないように思われるかもしれませんが、生物に関する膨大なデータを整理、解析したり、その結果をどうしたら他分野でいかせるかを探求したりと通じる部分があって。そのときに学んだことは、現在の業務にも十分いかせていると感じています。
──これまで、携わったプロジェクトのなかで、特に印象に残っているものはありますか?
ソニーミュージックグループ所属のアーティストが、海外公演を行なった際の“現地での反響を調べてほしい”という依頼ですね。
このときは、ストリーミングサービスの事業者から提供されているリスニング層やリスニング時期などのデータを用いて、そのアーティストの楽曲ごとのリスニング傾向の比較と分析を行なうことにしたんです。
例えば、アニメの主題歌に使用されている楽曲であれば、“この曲はアニメ作品のファン層と同じ若年層がよく聴いている”“この曲は、アニメ作品のファン層とは異なり、アーティストのコアファン層に好まれている可能性がある”といったように、楽曲ごとに分析を行ない、その結果をレポートにまとめました。
ここまでは普段の業務なのですが、その後、担当したアーティストのライブに招待してもらい、実際にライブ会場でファンの方々の様子を生で見ることができたんです。このとき、分析結果と現場の熱量がどうつながっているのかを確かめることができ、今後にもいかせるような学びの場となりました。とても貴重な経験でしたし、このような機会を設けてもらったことが、モチベーションの向上にもつながりましたね。
──仕事をするうえで大事にしている考え方や、迷ったときに立ち返るポリシーはありますか。
“これが自分のベストか?”という問いを、常に投げかけるようにしています。相手の期待に応えることはもちろんですが、それを少しでも超えたいという気持ちがあって。
例えば、“ファンの属性を知りたい”という依頼に対して、求められたデータを出して終わりではなく、課題解決やアクションにつながるような、別の角度から見える傾向や汲み取れる情報もプラスするようにしています。ただ要望に応えるのではなく、“ここまでできるのか”と思ってもらえるような、相手の想像の一歩先をいくものを返したいですね。
こうした姿勢は、幼いころから続けてきた映像制作などの創作活動とも地続きにあり、自分なりのエンタテインメント精神なのかもしれません。
──Taiyoさんは、ソニーミュージックグループでデータアナリストの道を選択しましたが、情報工学を専攻したり、IT企業で知見を蓄えたりした人からすると、エンタメ業界で働く姿をイメージしづらい部分もあると思います。Taiyoさんが感じる、エンタメ業界の仕事の面白さは、どんなところにありますか?
エンタテインメントは、誰かの喜びや支えになるものですよね。だからこそ、自分の仕事も誰かの喜びや支えにつながっていると実感できるところが、魅力のひとつだと感じます。
例えば、自分が担当したアーティストのライブ会場で、ファンの方々が楽しんでいる姿を見たときや、SNSのコメントでファンの方が喜んでいる声を見ると、この仕事に関われて良かったなと思います。自分が作品を作っているわけではないので、間接的ではありますが、作品をより多くの人に届ける役割の一部を担っている実感を得ています。
また、データアナリストという立場から見ても、エンタメ業界は非常に面白い領域だと思います。というのも、エンタメ業界のデータ分析は、本当に予測できないことが多いんです。あるコンテンツのヒットの裏には、文化的背景や時代性などさまざまな要因が複雑に絡み合っていて、データだけでは説明しきれないことも多くて。だからこそ、“データを見て、どこまで根拠のある説明ができるか”という挑戦に面白さを感じています。
さらに、エンタテインメントは定量的な分析だけではなく、経験や知見に基づいた定性的な分析も求められる分野です。日々の業務を行なうことで、そのスキルを磨くことができるので、自分自身の成長にもつながっていると感じます。
──エンタメ業界では、ヒットの再現性を生むのが難しいと言われます。将来的には、データ分析である程度ヒットを再現できるようになるのでしょうか。
ヒットの背景にはさまざまな要素が複雑に絡み合っており、分析でその要因を導き出せると断言するのは難しいですが、データ分析から読み取れることは、まだまだあると感じています。
そのためには、"このデータでこういう分析をしたい"と思ったときにすぐ動ける環境が不可欠ですが、この部署はまさにその環境が整っています。
また既に存在しているデータであっても、活用に踏み切れていないものも少なくありません。そうしたデータを一つひとつ整備し、扱えるデータの幅が広がれば、ヒットの輪郭がより鮮明に見えてくるはずだと考えています。
──SMEのデータアナリストに向いているのは、どのような人だと思いますか?
3つあると思っていて、まずは興味の幅が広い人ですね。アナリティクス部では、さまざまなアーティストやIPの案件を扱います。分析をする際には、そのアーティストやIPのファンコミュニティの空気感を掴んでいると、“こういうことかな”と予測を立てることができるのですが、何もない状態からは難しいんです。そのため、幅広いコンテンツに対して、ある程度ベースとなる知識や興味を持っていると、応用が効くと思います。
ふたつ目は“これだけは誰にも負けない”という好きなものがある人です。特定ジャンルへの深い知識があると、自分が分析する際にも、一歩踏み込んだ提案ができますし、周りのスタッフが困ったときにサポートすることもできます。実際、部内でも“アニメならこの人に聞いてみよう”となりますし、自分が助けてもらっている場面も多いです。
最後は探求意欲がある人ですね。私自身、もともと“なぜだろう”と考えるのが好きなタイプなのですが、この仕事に携わるようになってからは、街で広告を見かけたときも、“この広告はどういう意図で、なぜこのタイミングで打ったんだろう”などと考えるようになりました。
これはエンタテインメントに限らず習慣化させていて、ヒットしているものがあると“なぜ売れているんだろう”と考えるようにしています。一見すると関係ないようなことでも、ほかの業界の成功事例から得た新しい視点が提案につながることもあるんです。常に疑問を持ち、探求できる人もこの仕事には向いていると思います。
──スキル面では、入社前に学んでおくべきことはありますか?
プログラミングやツールの使い方については、入社後でも十分学べるので、そこまで構えなくてもいいと思いますが、何かひとつでもプログラミング言語に触れた経験があるというのは強みになりますね。
プログラミング言語はいろいろありますが、基本的な考え方は共通している部分が多いので、ベースを理解しておけば応用が効きますし、触れてみて損はないと思います。
──今後のキャリアについてはどのような展望がありますか?
まずは、データアナリストとして、より自信を持ってアウトプットを出せるようになりたいですね。
今はまだ学ぶことが多く、“この分析方法で本当に良かったのか?”“別のアプローチがあったのではないか?”と試行錯誤の日々です。いっぽうで、先輩方は豊富な経験をもとに、最適な方法をスムーズに導き出していて。さらに、ヒットに関する分析をしているときも、“これって2年前のあのケースに似ているよね”という視点も持っています。
こうした引き出しがあると、当然、分析の精度もスピードも大きく変わります。なので、自分自身も過去の事例や経験を蓄積し、早くそれらを結びつけながら考えられるようになりたいですね。
また、個人的な課題として、コミュニケーション力を向上させたいです。データ分析業務では、まず相手が本当に求めているものを正しく理解することが不可欠です。“依頼ではこの情報が欲しいといっていたけど、こっちの情報の方がニーズに近いのではないか”とコミュニケーションを通じて、相手の意図を引き出す必要があるんです。分析スキルだけではなく、こういった対話力も伸ばしていきたいですね。
──今後も、データアナリストの仕事を続けていきたいですか?
はい。アナリティクスの仕事自体が面白いですし、自分の得意分野にも合っていると感じています。
そのうえで、今後は海外との接点をさらに増やしていきたいです。海外にあるソニーミュージックグループ各社のブランチにもそれぞれアナリティクス部門があります。拠点ごとに独自のノウハウや分析手法があると思いますし、逆に日本側にしかない知見もあるはず。社内で始動している、海外のグループ会社との情報交換会や人材交流にも興味があります。
アナリティクス部には、ソニーグループ株式会社の業務を兼務しているスタッフもいて、その縁でソニーグループのグローバルフォーラムなどに参加する機会もあります。実際に海外のグループ各社のデータアナリティクスの事例について学ぶことができ、大きな刺激を受けています。今後は、こうした学びの機会をさらに増やし、自分のスキルをもっともっと磨いていきたいですね。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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