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連載Cocotame Series

50年の歩み~meets the 50th Anniversary~

『ゴルゴ13』など数多くの傑作を生んだ「ビッグコミック」創刊秘話を訊く

2018.07.18

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2018年は、ソニーミュージックグループが生まれて50年という節目の年。本連載「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、同じく50年目を迎える企業、商品、サービスを取り上げ、その歴史を紐解くことで、「時代」を浮き彫りにするという特別企画だ。

シリーズ4となる今回は、今年で創刊50周年を迎えた小学館の漫画誌「ビッグコミック」。『ゴルゴ13』など、歴史的傑作を多数生み出してきたこの漫画誌がどのようにして誕生したのかを、現編集長・由田和人さんに語ってもらった。

    • 由田和人氏

      Yoshida Kazuto

      株式会社小学館
      ビッグコミック編集部
      編集長

青年漫画誌ラッシュのなか、産声を上げた「ビッグコミック」

――「ビッグコミック」が創刊された1968年は、まだ“漫画=子供の読み物”というイメージが強かったと思うのですが、そんななか、あえて青年向け漫画誌を創刊された意図を教えてください。

由田:当時は、「ビッグコミック」以外にも多くの出版社から青年向け漫画誌が創刊されています。1966年に「週刊漫画TIMES」(芳文社)が登場したのを皮切りに、1967年に「週刊漫画アクション」(双葉社)、「ヤングコミック」(少年画報社)、そして「ビッグコミック」と同じ1968年には「プレイコミック」(秋田書店)が創刊されています。

そうした動きが起きた最も大きな理由と言われているのが、1959年に創刊された「週刊少年サンデー」(小学館)、「週刊少年マガジン」(講談社)の存在。その初期からの読者が、当時、既に「少年」ではなくなっており、彼らが読むべき漫画雑誌が望まれていたという背景がありました。

―― そうした創刊ラッシュのなか、「ビッグコミック」はどういった位置付けの青年向け漫画誌として企画されたのでしょうか?

由田:それはもう、創刊号の表紙を見ていただければわかると思います。白土三平先生、手塚治虫先生、石森章太郎先生、水木しげる先生、さいとう・たかを先生……そうそうたる執筆陣ですよね。当時人気のあった作家の方々に、順番に声をかけていったらこうなるのではないか、という(笑)。ちばてつや先生、横山光輝先生が抜けていますが、おふたりにもその年の秋には執筆していただいています。

── 読者の反応はどのようなものだったのでしょうか?

由田:50年前のことなので、社内にも当時のことを知る人間はいないのですが、単純に記録に残っている数字を見ると、創刊号の実売が13万部なので、“大成功”とは言えなかったようです。ただ、その後、徐々に数字は伸びていって、3年後の1971年に50万部を達成しています。創刊時の部数だけで言うと、『ルパン三世』のモンキー・パンチ先生や、『柔侠伝』のバロン吉元先生ら、新しい才能を前面に押し出していた週刊漫画アクションの方が若者に支持されていたようですね。

ビッグコミック
発売日:毎月10日、25日発売
判型:B5

創刊50周年記念号の表紙イラストは矢沢永吉が飾った。

創刊50周年記念号の表紙イラストは矢沢永吉が飾った。

白土三平、石森章太郎ら、少年誌の人気作家陣が大人漫画に挑戦!

── 創刊当時のエピソードで、今でも語り草になっているようなできごとはありますか?

由田:ビッグコミックの編集長もつとめた佐藤敏章が、著書『手塚番 神様の伴走者』にも書いていますが、創刊編集長である小西湧之助と手塚治虫先生とのやり取りが面白いんですよ。小西編集長が、創刊に向けていろいろな作家さんに声をかけて回って準備を進めていたら、ある日、手塚先生ご本人から「漫画雑誌を起ち上げるそうだけど、僕は、描かなくていいの?」と電話がかかってきたそうです。とっさに「描くに決まってるじゃない。あなた、『ビッグコミック』の同人なんだから」と慌てて取り繕ったそうですが、畏れ多いですよね、手塚先生から直接お電話をいただくなんて。もちろん創刊に際して、小西編集長もご挨拶はしていたそうなんですが、詳しいことを伝え忘れていたそうです(笑)。(編集部注:事件の詳細は『手塚番 神様の伴走者(小学館文庫)』収録の「神様を忘れていた男」にまとめられています)。

手塚番 神様の伴走者(小学館文庫)

── 手塚治虫先生とそんなやりとりがあったんですね(笑)。そんな事件を経て発売された創刊号が、先日、50周年記念で復刻されましたが(2018年2月24日に発売された創刊50周年記念号の「特別限定セット」に付属)、こちらの反響はいかがでしたか?

由田:非常に好評で、完売でした。読んでいただければわかると思いますが、当時、この雑誌を作った人間たちの熱い想いがものすごく詰まっています。私も復刻にあたり改めて目を通したのですが、非常に感心し、驚かされました。表紙をめくるといきなり、胸をあらわにした女性の写真が飛び込んできたり(笑)、極めて挑戦的。漫画だけでなく、文章を主体とした記事モノにも力が入っているんですよね。

株式会社小学館 ビッグコミック編集部 由田和人編集長

そして何より、作家陣の熱量がすごい。さいとう・たかを先生をのぞくと、皆さん、ほぼ初の青年向け作品でしたから、チャレンジ精神に溢れているんです。溢れ過ぎて、やり過ぎてしまっているくらい(笑)。たとえば、石森先生の『佐武と市捕物控』は、少年漫画ではあり得ないくらい会話中心でストーリーが進んでいきますし、白土先生の『野犬』は主人公の少年が、最後に走っている電車に飛び込んでしまいます。こんなのありかよ!? という内容のものばかりで、タブーの多い少年誌でたまったストレスを発散するかのような、何をやってもいいんだという作家としての喜びが伝わってきますね。編集者も、デザイナーも、作家もワクワクして作っている。今の我々も、この気持ちを忘れちゃいけない。本当にそう思います。

「ビッグコミック」は手塚治虫にとっても特別な存在だった

── 当時の連載作品で、初期の「ビッグコミック」を支えた作品、ビッグコミックの代表作と言えばどちらになるのでしょうか?

由田:それはもう、創刊から半年後の11月に連載がスタートした、さいとう・たかを先生の『ゴルゴ13』でしょう。しかも、いまだに連載中という恐ろしい作品です。今年の11月にはその50周年を記念した特集を行なう予定なのでご期待ください。

そして、手塚治虫先生の作品群も素晴らしいものばかり。創刊号の読み切り『地球を呑む』を皮切りに、『きりひと讃歌』(1970年~1971年)、『奇子』(1972年~1973年)、『シュマリ』(1974年~1976年)など、数々の名作を生み出してくださっています。どれも少年誌では描けない重厚なテーマのものばかりで、手塚先生としても、そういった作品を自由に発表できる「ビッグコミック」を特別に考えてくださっていたようです。

あと、初期の10年で言うと、ちばてつや先生の『のたり松太郎』も外せませんね。『あしたのジョー』(1968年~1973年/週刊少年マガジン)完結後、1973年から1998年まで長期にわたって連載され、ちば先生のもうひとつの代表作になりました。

『のたり松太郎』ちばてつや ©ちばてつや

『のたり松太郎』
ちばてつや ©ちばてつや

── ちば先生も、「ビッグコミック」では少年誌でできないことをやりたかったようで『のたり松太郎』では過激な表現も多く見られますよね。現在連載中の自伝的作品『ひねもすのたり日記』では、そういった表現をお母様に叱られるというエピソードもありました(笑)。

由田:先ほど、「ビッグコミック」の出だしは「大成功」ではなかったと言いましたが、こうした名作を歴代の作家・編集者がタッグを組んで、丁寧に作り込んでいったことで、徐々に安定した支持を得るようになっていきます。だからこそ、同時期に発売した青年向け漫画誌のほとんどが、現在では休刊あるいは、路線を大きく変えているなか、「ビッグコミック」は青年誌の雄として50周年を迎えられたのではないでしょうか。

マンガファンに受け入れられ、飛躍していく「ビッグコミック」。次回はその成長期、80〜90年代の伝説的エピソードを紐解く。

「ビッグコミック50周年展」でその歩みを確認しよう!!

「ビッグコミック」の50周年を記念した展覧会「ビッグコミック50周年展 ‐半世紀のビッグな足跡‐」がこの6月よりスタート。京都府・京都国際マンガミュージアムでの展示(9月2日まで)を皮切りに、神奈川、宮城、新潟の各地を巡回する(入場無料)。会場では、「ビッグコミック」50年間の誌面を飾った約200点の名作原画(複製含む)など、さまざまな歴史的資料が惜しげもなく展示されるほか、ポストカードや複製原画など、ここだけの限定グッズも販売されている。

イベントの詳細はこちら(新しいタブで開く)

ビッグコミック50周年展

ビッグコミックの公式サイト(新しいタブで開く)

取材/文:山下達也(ジアスワークス)
撮影:増田慶

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