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連載Cocotame Series

ヒットの活かし方

VTuberというIPを生み出す『にじさんじ』の歩みとこれから【前編】

2021.06.01

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“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

今年2月にオンライン配信で開催された、バーチャルライバー(VTuber)プロジェクト『にじさんじ』の3周年記念フェス『にじさんじ Anniversary Festival 2021(以下、にじさんじフェス)』。

フェスを共同主催した『にじさんじ』プロジェクトを展開するANYCOLOR株式会社(2021年5月よりいちから株式会社から社名変更。以下、ANYCOLOR)と、ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の2社は、2019年からイベントとライブ制作を中心にさまざまな協業を行なっている。

今回はそのなかでも『にじさんじ』のイベントの企画、制作と、マーチャンダイジング(以下、MD)、いわゆるイベントグッズの企画、制作、販売でのパートナーシップに焦点を当てながら2社の担当者に話を聞いていく。

前編では両社が協業を始めたきっかけと、過去のイベントでの取り組みについて語ってもらった。

  • 鈴木貴都氏

    Suzuki Takato

    ANYCOLOR株式会社
    執行役員

  • 根立紗妃氏

    Nedachi Saki

    ANYCOLOR株式会社

  • 椎根 剛

    Shiine Tsuyoshi

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    アシスタント・マネージャー

  • 佐藤 暢

    Sato Nobu

    ソニー・ミュージックソリューションズ

ともに試行錯誤してくれるパートナーシップ

──ANYCOLORとSMSは、今年2月にオンラインで開催された『にじさんじ』の3周年記念フェス『にじさんじフェス』を筆頭に、これまで共催というかたちで多くのイベント制作を手がけてきました。2社のコラボレーションはどのような経緯で実現したのでしょうか?

椎根:SMSは、数々のアーティストやキャラクター、アニメ作品に関連するイベント制作、グッズのMDを長年やってきましたが、VTuberのイベントを手がけるのは『にじさんじ』が初めてでした。

出会いのきっかけとしては、SMS内にVTuberのムーブメントに注目する人間がいて。「今、VTuberがメチャクチャ熱いです! なかでも『にじさんじ』の勢いがすごいので、何か一緒にできないでしょうか?」と社内会議で嘆願し、それがきっかけでSMSからアプローチさせていただいたのが始まりです。

そこから2019年1月にZepp Osaka Baysideで開催された『にじさんじ』の1期生、樋口楓さんの1stライブ『Kaede Higuchi 1st Live “KANA-DERO”』のライブ制作をご一緒させていただいて、本格的な取り組みがスタートしました。

樋口楓

樋口楓の1stライブ『Kaede Higuchi 1st Live “KANA-DERO”』。

鈴木:ANYCOLORは、代表取締役/CEOの田角(陸)が2017年に創業したベンチャー企業で、“誰もがVTuberになれる”をコンセプトにしたアプリを開発していました。そのアプリの名前が『にじさんじ』だったんです。

そこから、2018年にはバーチャルライバープロジェクト『にじさんじ』へと発展し、『にじさんじ』所属のバーチャルライバー/タレント(以下、ライバー)のマネジメントも行なうようになった経緯があります。

その上で、2019年までは『にじさんじ』にまつわるすべてを弊社社員が手弁当の状態で運営していて、外部の企業に制作を委託したのは、樋口楓のライブでSMSの皆さんにお願いしたのがほぼ初めてだったんです。

椎根:その段階ではシンプルにステージ制作を受注するかたちでサポートさせていただいたのですが、樋口楓さんのイベントを通じて、『にじさんじ』のイベントには大きな可能性があると僕らも改めて理解しました。

そこで、SMSが事務局を務めていた2019年9月開催の『京都国際マンガ・アニメフェア(以下、京まふ)』で初めて、共催のイベントを企画させていただきたいとお声がけしたんです。

鈴木:「京まふおこしやす大使」として樋口楓、本間ひまわりなど『にじさんじ』のライバーを宣伝大使に起用してもらって、主催、企画、制作というかたちで『京まふ』内でリアルイベントとライブイベントを開催しましたね。

そこから、ほかの企業ともいくつかイベント制作を行なったんですが、最終的にSMSの皆さんに『にじさんじ』を一緒に盛り上げていただきたいと決めたのは、2019年12月に開催した『Virtual to LIVE in 両国国技館 2019』での共催でした。

──そのときの決め手というのは何だったのでしょうか。

鈴木:大前提として、『にじさんじ』のライバーはバーチャルな存在なので、生身のタレントの方々と異なる点がいくつかあります。そのなかで重要なのが映像表現。彼らのビジュアルが崩れて見えてしまうようなことは、絶対に避けなければいけません。

そのためにテクニカルな面では、毎回かなりの機材費を投入することになるんですが、ほかの企業と共催した際、我々が実現したいことに対して、「機材費をこれ以上かけることはできません」と言われたことがあります。しかし、SMSの皆さんはそこを受け入れてくれました。その意気込みと熱量は『Virtual to LIVE in 両国国技館 2019』の開催において、大きな支えになったんです。

少しでも良いものをファンの皆様に提供するために、私たちは常に試行錯誤を繰り返していますが、SMSの皆さんもそれに寄り添って、付き合ってくださる。決め手という意味で、そのパートナーシップはすごく大きかったですね。

椎根:SMS側としては、本当に何もかもが手探りでした。ライバーという存在も、正直、最初はアニメ声優の延長線上にいるような存在だと勝手に解釈していたんです。

でも、今は認識を完全に改めていて。ライバーの方たちは、イラストやCGで描かれたビジュアル的なキャラクター性に、生身の人間としての個性が融合した新しいタレント像を構築していることがわかりました。だからこそ新たな取り組みに挑戦できることに、我々もやりがいを感じています。

──確かにライバーの方たちと作るライブやイベントは新たな取り組みですね。しかし、新しいがゆえに、難しいこともたくさんあると思いますが、『にじさんじ』の運営ではどういったことに気を配られているのでしょうか。

鈴木:私たちが『にじさんじ』の運営で最も大事にしているのは“生の感覚”です。

椎根さんがおっしゃる通りで、我々は『にじさんじ』のライバーたちをキャラクターとタレントが融合した存在とお伝えしています。その上で、彼らはアニメやゲームの登場人物のように作られたモノではなく、人格を有しています。そこには当然“心”があり、喜ぶことも、悲しむことも、傷つくこともある。彼らをマネジメントする際、この生きた感情を大切にすることを忘れてはいけないと考えています。

──画面だけを見ていると、確かにそういった感覚が欠落してしまうかもしれませんね。

鈴木:そうですね。それと彼らの将来についても考えていて。彼らが人生の次のステージに向かうとき、その先にある環境がどういった場所でもしっかりと適応できるように、彼らの人間としての成長も促せる運営でありたいと考えています。これが『にじさんじ』をマネジメントする上で大事にしていることです。

──ライブやイベントの運営ではいかがでしょうか?

鈴木:テクニカルな面としては、ライブやイベントでは現地にスタジオを組み、ライバー本人がその場でパフォーマンスを行なうことを徹底しています。実施する側としては、手間もコストもかかり決して楽ではありませんが、ファンの方々にライバーたちの生のパフォーマンスをお届けすることは、『にじさんじ』の最大の強みだと考えています。

──以前、ライバーの緑仙さんにお話を伺ったとき、緑仙さんもファンの方たちと直接触れ合えるライブやイベントは大事にしていきたいとおっしゃっていました。

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鈴木:彼らのチャンネルには何十万という登録者がいて、1本の動画が何百万という再生回数を記録することもあります。それは彼らが積み重ねた努力の結果であり、ビジネスにも直結している重要なライフラインですが、どれだけの方から応援していただいていても、ネット上ではそれをテキスト情報でしか確認することができません。

しかし、実際にライブやイベントで会場を埋め尽くし、大きな声で声援を送ってくれるファンの方々の姿を目の前にすると、「こんなに多くの人に応援してもらっているんだ」という実感が湧きます。その実感が、彼らをエンタテインメントのプロとして確実に成長させているのを、我々も感じています。

日ごろのYouTubeの配信でファンと交流しつつ、ライブやイベントでアーティストとしてのパフォーマンスを披露する。その循環も非常に重要なことだと考えています。

ファンの熱量に応えるためのMD

──共催イベントにおけるパートナーシップとしては、MD、いわゆるイベントグッズの企画、制作、販売も重要な役割を果たしていると思います。両社でMDを担当されている根立さん、佐藤さんはこれまでの施策について、どんな手応えを感じていますか?

佐藤:椎根がお話ししたのと同様で、SMSはMDでもVTuber関連の実績がほぼゼロだったので、まずは過去に企画、制作を手がけてきた業界やジャンルとどういった相違点があるのかの洗い出しから始めました。MDについても本当に手探りの状態でしたね。

根立:そこに関しては、実はANYCOLORも同じ状況だったんです。MDに関して佐藤さんたちとご一緒したのは『Virtual to LIVE in 両国国技館 2019』が初めてで、それまでは全てを自社で行なっていました。しかし、イベントが回を重ねるごとに、グッズを欲しいと思ってくださっているファンの方たちに、行き届かなくなってきてしまいました。そこで、『Virtual to LIVE in 両国国技館 2019』からは、MDに対する知見が高く、実績も豊富なSMSの皆さんのお力を借りることになったんです。

『Virtual to LIVE in 両国国技館 2019』グッズ売り場。『にじさんじ』のイベントでは、どの会場でもグッズの販売が盛況だ。

佐藤:『にじさんじ』のイベントでのグッズ販売データを拝見してまず驚くのが、ファンの方々のグッズ購入意欲の高さです。皆さん、本当に熱量が高いので、どの会場でも非常に多くのお客様が物販に並ばれます。

根立:それは私たちも感じていました。『にじさんじ』を応援してくださるのは、中高生から大学生を中心にした若年層の方も非常に多いんです。さらに『にじさんじ』が初めてのライブ体験だという方も多いので、グッズに対する愛着がとても深いのだと考えています。

佐藤:特に衝撃的だったのは、ペンライトの購入率の高さですね。SMSはさまざまなアーティストのMDを担当させていただいていますが、『にじさんじ』のライブでのペンライト購入率は、過去の数値を大きく上回っています。

しかも、ライブのチケットは購入できなかったけど、グッズだけを買いにイベント会場に来られるお客様も多く、グッズ購入率が観客数のキャパシティを超える現象も起きていました。そこは『にじさんじ』ならではの特長で、強みだと思いますし、ライバーの方たちのキャラクター性が強く影響しているのではないでしょうか。

グッズは思い出として残るもの、本当に欲しいと思えるものを提供したい

──両社のパートナーシップによって、グッズの企画自体にも変化はありましたか?

鈴木:自社でMDの全てを行なっていたときは、商品の発注ルートから開拓を始めなくてはいけなくて、販売価格の設定や納期にも苦労していましたが、佐藤さんたちに入っていただいて、現場は大きく変わりました。

商品のバリエーションやコラボ先となるブランドも増えましたし、商品の品質も向上しています。その上で、製造単価や販売価格を抑えることができたのは、大きなメリットですね。

佐藤:『にじさんじ』だと、缶バッジ、アクリルキーホルダーのほかに、1枚絵のイラストが映えるグッズの伸びがすごいなと感じました。印象的だったのは、両国国技館公演で作ったタペストリー。ライバーさんが並んだ公演のキービジュアルをプリントしたもので、見た目も素晴らしいんですよ。

また、2020年の2月には、『にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!』と題した初の全国Zeppツアーがありましたが、そこでも同じようにライブのキービジュアルを使ったクリアポスターを販売したのですが、これも非常に評判が良くて。それ以来、缶バッジやアクリルキーホルダーなどと並んで、クリアポスターも定番グッズ化することができました。




根立:ファンの皆さんは限られた予算のなかでグッズを買ってくださっていますから、思い出に残るものにしたいし、欲しいと思えるものをできる限り手に入れやすい販売価格にしたいんです。その弊社のポリシーに、佐藤さんたちはしっかり応えてくださっているので、心強いですね。

後編につづく

文・取材:阿部美香
撮影:干川 修

©ANYCOLOR, Inc.

関連サイト

にじさんじ公式サイト
https://www.nijisanji.jp/(新しいタブで開く)
 
にじさんじ YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCX7YkU9nEeaoZbkVLVajcMg(新しいタブで開く)
 
ANYCOLOR株式会社
https://www.anycolor.co.jp(新しいタブで開く)
 
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/(新しいタブで開く)

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