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連載Cocotame Series

サステナビリティ ~私たちにできること~

YOASOBIが楽曲「ツバメ」に込めた想い――“ともに生きる”というメッセージをどのように伝えたのか【後編】

2023.03.16

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ソニーミュージックグループでは、持続可能な社会の発展を目指して、環境に配慮した活動や社会貢献活動、多様な社会に向けた活動など、エンタテインメントを通じたさまざまな取り組みを行なっている。連載企画「サステナビリティ ~私たちにできること~」では、そんなサステナビリティ活動に取り組む人たちに話を聞いていく。

今回は、SDGsを楽しく学ぶNHK Eテレの番組シリーズ『ひろがれ!いろとりどり』のテーマソング「ツバメ」にスポットを当てるインタビューの第2弾。希望に満ちたメロディと心躍るダンスはテレビの枠を超えて圧倒的に支持され、2021年のリリースから1年以上が経った今も、学びの現場からSNSまでさまざまなシーンでシェアされつづけている。

SDGsやサステナビリティというテーマを子どもたちに伝えるため、作り手たちは何を考え、どういう手法を用いたのだろうか。制作スタッフにインタビューをした第1弾につづき、第2弾ではYOASOBIのふたりに、アーティスト、作り手の視点で創作の現場を語ってもらった。

後編では、「ツバメ」の制作過程やレコーディングの様子、小説を楽曲にする際に考えていることについて話を聞いた。

  • Ayaseプロフィール

    Ayase

    アヤセ

    1994年4月4日生まれ、山口県出身。ボカロP、YOASOBIのコンポーザーとしての活動に加え、さまざまなアーティストへの楽曲提供も行なっており、2021年と2022年の2年連続で「年間Billboard JAPAN作曲家チャート“TOP Composers”」、「年間Billboard JAPAN作詞家チャート“TOP Lyricists”」にて1位を達成。

  • ikuraプロフィール

    ikura

    イクラ

    2000年9月25日生まれ、東京都出身。YOASOBIのボーカルikuraとしての活動に加え、シンガーソングライター・幾田りらとしても活躍。その歌声には業界内外から注目が集まっており、Google PixelのCMで「(THEY LONG TO BE) Close to you」や「Winter Wonderland」のカバーをはじめ、さまざまなCMやドラマのタイアップ曲を歌う。

シンプルさとかっこ良さの最適バランス

――(前編からつづく) 「YOASOBIとつくる 未来のうた」プロジェクトのグランプリ受賞作『小さなツバメの大きな夢』から、どのようにして歌のイメージを広げていったのですか?

Ayase:最初に浮かんだのは曲の冒頭、「煌く水面の上を/夢中で風切り翔る」という部分です。先ほどもお話ししたように、原作を読んだとき、まず海面を滑るように飛んでいくツバメの映像が浮かんで、そこからこのメロディが立ちあがってきました。ツバメって、春の訪れとともに長い長い距離を旅してやってくるじゃないですか。そのイメージが、物語の幕開けにぴったりだなと。

しかも小さい存在でありながら、どこか人間たちの営みを俯瞰で見ている感じもするでしょう。SDGsで大切なのは、自分の日常と地球全体、生き物全体をリアルに繋げる視点だと自分は思うので、まず冒頭に大きな海と小さな渡り鳥の対比を置いて、そこから次の展開へと繋げていきました。

Ayaseインタビュー写真

ikura:小説を楽曲にする際、原作の持つ質感やトーンをそのままいかす場合と、あえてギャップを狙う場合があるんですね。それで言うと「ツバメ」は前者。初めてデモ音源を聴かせてもらった瞬間、何の違和感もなく、心にすーっと入ってきたのを憶えています。

それと今回の企画では、Eテレの子ども向け番組や『みんなのうた』で流れることがあらかじめ決まっていたので、シンプルだけど飽きのこないアレンジも重要だったと思います。その部分では、実はAyaseさんのテクニックがいきているのかなと。

Ayase:うん、そこはすごく意識しましたね。小さな子どもでも簡単に口ずさめて、同時に音楽的な遊び心も感じられること。加えて思わず身体を動かしたくなる、ダンスミュージック的な躍動感。全体の隠し味として、ikuraの声質と相性の良い琉球音楽っぽいテイストも散りばめたりして。制作的には、このバランス感がすべてだった気がします。

「ツバメ」/ YOASOBI with ミドリーズ Official Music Video

──ボーカル面で意識されたことは何でしょう?

ikura:Ayaseさんの曲作りと同じで、やっぱりシンプルさとかっこ良さの最適バランスですね。もともと私自身の歌い方はわりと癖が強い方だと思うんですね。その気配をすべて消してしまったら面白くないですし、YOASOBIが参加している意味が薄れてしまいます。でも、子どもからお年寄りまで幅広い方に「ツバメ」を歌ってもらいたいという思いも、同じくらい強かったので、その中間の一番良いポイントを見付けたいなと。

ikura インタビュー写真

Ayase:実際のレコーディングは予想以上にスムーズだったよね。

ikura:はい。今回、ミドリーズという『ひろがれ!いろとりどり』のマスコットキャラクターの子どもたちと一緒にレコーディングしたんですね。あの5人に引っ張ってもらった部分が、私のなかではすごく大きかったです。とにかく一生懸命なパワーに満ちていて。私自身もヘンに小細工をせず、真っ直ぐな気持ちで歌と向き合えました。

Ayase:スタジオに入るまでは、僕もikuraもどうやって子どもたちにディレクションするか、いろいろ考えていたんです。でもいざレコーディングに立ち会ってみると、ただもう可愛くて(笑)。たぶん事前にめちゃめちゃ練習してくれたんでしょうね。直すところはほぼありませんでした。個人的に面白かったのは、ミドリーズの声と合わさると、ikuraのボーカルがちゃんと“歌のお姉さん”みたいに聞こえることでした(笑)。

ikura:ははは(笑)。そういう話、確かに現場でしてましたね。

――仕上がった音源を聴いて、いかがでしたか?

Ayase:僕としては、ikuraとリスナーの距離感が、いつもよりほんの少し近くなってほしかったんです。それによって“ともに生きる”というテーマが、歌詞だけじゃなく、サウンドとしても伝われば最高だなと。

歌入れの際、それをどうディレクションすれば良いか考えていたんですが、実際、その必要はありませんでした。ikuraとミドリーズの声がうまく混じりつつ、メインの歌詞はすっと耳に入ってくるでしょう。“歌のお姉さん”と言っても、大人の立ち位置から見下ろす目線ではなく、同じ目線で一緒に走っている感覚で。結果的に、すごく良いバランスに落ち着いたと思っています。

ikura:一緒にスタジオ入りしていなければ、あの距離感は出せなかったかもしれませんね。子どもの持っている根源的なパワーが現場にあって、改めてすごいなと。

ミドリーズ写真

©NHK

誰かの自己犠牲ではなく、みんなで幸せを追求する

──ところで原作『小さなツバメの大きな夢』のラストでは、主人公のツバメたちが、街で暮らす子どもの家に花束を届けます。とても印象的で美しいシーンですが、曲では描かれていません。何か理由があるのですか?

Ayase:これはすごくシンプルな話で、あのシーンを描こうと思うと、そこに到るプロセスもすべて説明する必要が出てくるからです。3分強という曲の尺にそれを詰め込むのは無理がありますよね。だったら物語は物語として楽しんでもらった方がずっと良い。そうすることで曲の味わいも深まりますし、小説もよりカラフルに感じられると思うんです。

YOASOBIの表現手法において、確かに小説と音楽は切り離せません。でもそれは、両方がコンテンツとしてちゃんと独立し、完結していることが大前提。原作を読まないと真のメッセージが伝わらないのでは、曲にする意味がない。その見極めは、今回の「ツバメ」でも重要でした。

Ayaseインタビュー写真2

──そこはプロの技ですね。逆に、歌詞のなかで非常に重要な役割を果たしている“仲間”という言葉は、原作にはほとんど出てきません。貧しい少年や、未来に絶望している友達のツバメなど、物語で描かれるさまざまなキャラクターのイメージが、このひとつの単語に凝縮されていて、見事だと感じました。

Ayase:ありがとうございます。どういう言い回しを使えば原作のメッセージが伝わるかちょっと悩みましたが、やっぱりシンプルな言葉が一番強いのかなと。乙月さんの書いた物語では、立場の違うもの──もっと言えば利害が対立するもの同士の思いやりが大事なテーマになっています。それって要は、地球上にいるすべての生き物を“仲間”と感じることだと思うんですね。人も鳥も、花も草木もすべてそう。

ikura:そういえば年末の『紅白歌合戦』でこの曲を歌わせていただいたとき、ステージに出演者がバーッと出てこられて、一緒に踊ってくださったんですね。その光景が、私が「ツバメ」に抱いているイメージとぴったりで。しみじみこれは、仲間について歌った曲なんだなって。そう感じながら歌っていたことを、今思い出しました。

──ちなみに『小さなツバメの大きな夢』が下敷きにしているオスカー・ワイルドの児童文学『幸福な王子』では、宝石や金箔で彩られた王子の像が、貧しい庶民の暮らしに心を痛め、自分の身を分け与えることにします。そして友達のツバメが寒空のもと、像にはめ込まれた宝石を運ぶ。乙月さんの原作はそのストーリーを引用しつつ、結末を現代的にアップデートしているところも興味深いなと。

Ayase:本当にそうですね。誰かの自己犠牲ではなく、みんなで支え合い、受け容れ合うことで大きな幸せを追求するという発想。先ほどお話しした「SDGsを制約ととらえたくない」という方向性と繋がる部分ですよね。ストーリーの着地の仕方としても見事だと思います。「ツバメ」という楽曲を作る上でも、すごく刺激を受けました。

ikura:私自身、『幸福な王子』の物語は子どものころから読んでいました。あそこに描かれた王子とツバメは決して不幸ではないと思います。誰かの助けになりたいという願いが叶い、最後は天国に召されるわけですから。でも大人になって現実を見つめたとき、誰かを悲しませたくないという気持ちと、自分自身も幸せでありつづけたいという願いは、矛盾するものではないとも感じるんですね。だからこそ15歳の乙月さんの読み替えは、新たな視点を見せてもらったようでハッとさせられました。

ikuraインタビュー写真2

よりサステナブルなほうを選択するのが気持ち良い

──最後にもうひとつ。このプロジェクトを進めるなかで、SDGsやサステナビリティに対するご自身の意識にも変化はありましたか?

Ayase:あったと思います。僕自身は誰かを啓発するようなことや、説得したりするのはあまり得意じゃないんですね。そういう根っこは、今も変わりません。ただ、今回のプロジェクトを通じてSDGsに関する知識をたくさん得られたことは、自分にとってすごくプラスになりました。やっぱり知ることって大きいですから。

例えば日常のなかでいくつか選択肢があったとき、先ほど言ったように「よりサステナブルなほうを選んだほうが気持ち良い、そうしないとちょっと居心地が悪い」というマインドセットに、だんだんと変わってきた気がします。たぶん誰かから強制されているうちは、物事って変わらない。そういった意味では「ツバメ」という楽曲が、みんながSDGsを楽しくポジティブにとらえるきっかけのひとつになってくれればうれしいなと。そんなふうに思っています。

ikura:私も今回の「ツバメ」プロジェクトを通じて、自分の生活スタイルを前より少し俯瞰的な目で見られるようになった気がします。例えば、母の影響でつづけていた募金や寄付にしてもそう。深く考えずにやっていた習慣でしたが、最近は自分の行動がどんな効果をもたらすのか、具体的に想像してみるようになりました。そういう視点で世界を眺めると、身近な生活のなかにも気付きのポイントってたくさんあるんですよね。そう思えるようになったのが、一番大きな変化かもしれません。

今、テレビで「ツバメ」を見ながら歌ったり無心で踊っている子どもたちも、いつか成長し、飛び立っていきますよね。そのとき、できるだけ柔らかい心で世界を見つめ、同じ地球で生きている仲間に目を向けてもらいたい。ふと「ツバメ」で踊った幼いころを思い出して、歌に込められたメッセージを自分なりに思い出してもらえたら、こんなに幸せなことはないですね。

YOASOBI2ショット写真

文・取材:大谷隆之
撮影:干川 修

関連サイト

NHK Eテレ『ひろがれ!いろとりどり』番組公式サイト
https://www.nhk.or.jp/irotoridori/(新しいタブで開く)
 
YOASOBI 公式サイト
https://www.yoasobi-music.jp(新しいタブで開く)
 
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Ayase / YOASOBI YouTube
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