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エンタメビジネスのタネ

街とともに育てるエンタメのタネ――『東急歌舞伎町タワー』が創るベニュービジネスの未来【後編】

2023.04.06

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最初は小さなタネが、やがて大樹に育つ──。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。

エンタテインメントを育てることが、ビルを、街を活性化するトリガーになる──。

今回フィーチャーするのは、2023年4月14日、東京・新宿にオープンする『東急歌舞伎町タワー』。高さ約225mの建物に、劇場、ライブホール、映画館などの複合エンターテインメント施設とホテル、レストランなどを備えたこのタワーは、“歌舞伎町の街とともに、エンターテインメントを通して新たな観光拠点を創りあげていきたい”という思いが詰まった新たなランドマークだ。街の活性化、ひいてはインバウンドの高付加価値化にもつながる拠点として、国内外から注目を集めている。

ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)は、東急株式会社、株式会社東急レクリエーションとともに株式会社TSTエンタテイメント(以下、TSTエンタテイメント)という合弁会社を設立。総合エンタテインメント企業の知見をいかし、同タワー内の一部のエンターテインメント施設の運営に携わっている。『東急歌舞伎町タワー』というベニューから生まれる新たなエンタテインメントの可能性について、TSTエンタテイメント代表取締役社長 木村知郎氏と、SMEからの出向で同社の運営事業本部長を務める萩原要に話を聞いた。

後編では、『東急歌舞伎町タワー』のコンセプトに込められた思いを語ってもらいながら、コロナ禍を経てリアルの場でエンタテインメントを体感することの重要性について、話を深めていこう。

  • 木村知郎氏

    Kimura Tomoo

    TSTエンタテイメント
    代表取締役社長

  • 萩原 要

    Hagiwara Kaname

    TSTエンタテイメント
    運営事業本部長

コンセプトは“好きを極める”

──『東急歌舞伎町タワー』のコンセプトは、“好きを極める”ということですが、このメッセージに込めた思いを詳しくお聞かせください。

木村:新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年3月、世間に広がったのは「若者が出歩くからコロナ禍が収まらない」という声でした。私は当時、「SHIBUYA109」の運営を統括していたのですが、「SHIBUYA109」は若者向けの商業施設なので、彼らに向けて“この困難を社会全体で乗り越える”というメッセージを発信することも重要な責務だと考えました。そこで、まずは土日だけ施設を休業することにしたのです。

その後、新型コロナウイルス感染拡大の第一波が終わり、若者は「SHIBUYA109」に帰ってきてくれました。「SHIBUYA109」はファッションビルだと思われていますが、実は現在3割以上がエンタテインメントに関するテナントで、訪れるお客様の熱量は凄まじいものがあります。「SHIBUYA109」を運営する株式会社SHIBUYA109エンタテイメントのマーケティング研究機関「SHIBUYA109 lab」ではZ世代の調査を行なっていますが、彼らは好きなものに対する年間支出額がとても多いんですね。コロナ禍においても、その消費が落ちることはありませんでした。

TST木村社長写真

なおかつ、彼らは自宅にいながらでも好きなものを多面的に楽しむようになりました。コロナ禍前はライブなどリアルの場に出向いていましたが、コロナ禍に突入してからは配信やネットの情報、グッズなどさまざまにエンタテインメントを楽しんでいるんです。ある意味、楽しみ方を自分たちで掘り起こしているようにも感じられました。それに応えるように、コンテンツホルダー側もさまざまな楽しみ方を提供しています。つまり、より多面的で立体的に“好き”を極められる時代になってきたんですね。

しかも、それは若者に限った話ではありません。私自身の生活を顧みても、妻と私、夫婦がそれぞれ好きなことをして、それぞれの好きを極めている。そこに世代格差はないと感じました。そして、こうした“好きを極める”時代は、まさしくこれから、さらに拡大すると予想しています。もちろん波はあるかもしれませんが、どんなことが起きようと、人間が好きを極める欲求は収まらないのではないかと思います。そんな話をしたところ、萩原さんたちも賛同してくださいました。そこで、このたびオープンする『東急歌舞伎町タワー』も、“好きを極める”をコンセプトにしたのです。

──ソニーミュージックグループでは、日ごろからファンエンゲージメントを高め、ファンの方々に好きを極めていただくために事業を展開しています。このメッセージには、萩原さんご自身も強く共感したのではないでしょうか。

萩原:そうですね。しかも『東急歌舞伎町タワー』というリアルな場、ひとつのタワーのなかで“好きを極める”というのは、我々にとっても今までにない試みです。ソニーミュージックグループが手掛けるほかのベニューでは、ここまでの立体的な展開はなかなかできないことですし、我々スタッフもこの場を作ることを極めていきたいと考えています。そして、皆さんに好きを極めてもらえるようなIPと施策を展開していきたいと思います。

コロナ禍を経て、需要が高まるリアルの場

──コロナ禍で外出自粛が要請された際、ネットを介したコミュニケーションやECサイトでのショッピングが促進されました。とはいえ、Zeppも「SHIBUYA109」も休業せざるを得ない事態になり、「エンタテインメントは不要不急なのか」という声もあがりました。それでも、リアルでしか得られない感動は必ずあると思います。その点について、おふたりのご意見をお聞かせください。

木村:私はエンタテインメント業界を外側から見る立場でしたが、以前から「この業界は変革を迫られているな」と感じていました。CDが売れなくなるとライブビジネスが伸びていき、コロナ禍でライブができなくなると、今度は配信やサブスクリプションサービスが急速に伸びていく。

逆に言えば、コロナ禍で背中を押されて幅広いテクノロジーを取り入れ始めたようにも見えました。ライブの配信もそうですよね。これまでも望まれていましたが、リスクのあるチャレンジをしなくてもマーケットが成立していたため、そこまで積極的に取り組む必要がなかったのだと思います。しかし、コロナ禍によって事態が逼迫し、やらなければならない状況になった。そして大きく前進し、マルチアングルのカメラを取り入れたライブ配信なども行なわれるようになりました。これはこれで、良い傾向だと思います。

その上で、コロナ禍が落ち着いて、少しずつリアルイベントが戻ってくると「やっぱり配信よりもリアルだよね」という声が高まってきました。もちろん配信などで極められる“好き”もありますし、それは今後さらなる進化を遂げて、より利便性を高めたり、新しいコンテンツを生み出していくと思います。しかし、ライブが再開すれば映像とはまったく違う生の感動、体験を味わえる。ライブ配信の市場が伸びたことで、ユーザーは五感を震わす場の大切さを、より強く感じることになったのではないかと思います。

また、アーティスト側も無観客の時期を乗り越え、ファンの大切さを実感しているのではないでしょうか。ライブパフォーマンスは、アーティストだけでは成り立ちません。目の前にファンの方々がいてこそ、アーティストのパフォーマンスも向上します。一度リアルの場が失われたことで、改めてその重要性を実感し、エンタテインメント業界全体が良い方向に進むきっかけになったとも言えるのではないでしょうか。

──全国のZeppの稼働率もあがってきているのではないでしょうか。

萩原:はい。既に、稼働率はコロナ禍前よりも高くなっています。コロナ禍になる前から、ライブエンタテインメントの需要は、どんどん右肩上がりになっていました。それが突然ほぼゼロになったことで、リアルのライブ、生の体験に対するファンの欲求はさらに強くなったのではないかと思います。

最近は声出しもOKになり、「やっぱりライブはこうでないと!」と感じることがさらに増えています。東急グループ出身のTSTエンタテイメント社員も、ライブを視察して「こういう現場に携われることがとてもうれしいです」と興奮した面持ちで話していました。『東急歌舞伎町タワー』という場で、より多くの人たちにリアルだからこそ味わえる感動を体感していただきたいと思っています。

萩原本部長写真

──まだまだ油断はできませんが、コロナ禍のピークは脱し次のステップに突入しました。しかし、この先、またこのようなことがないとも限りません。そのなかで、ライブホール、劇場、映画館などベニュービジネスの未来をどう作りあげていきたいとお考えでしょうか。

萩原:私は、Zeppを通じて約15年間、エンタテインメントのベニュービジネスに取り組んできました。Zeppは収容人数1,500~3,000人の“ライブホール”です。その先にはアリーナ、ドーム、スタジアムがあり、5万人、6万人が一緒にライブを体感することになりますが、ライブホールはステージとの距離が近く、会場全体でアーティストと一体となって、よりグッと盛りあがれるのが良いんですよね。

こういったべニュー・ビジネスをつづけてきたなかで、今、都心で1,500人規模の「Zepp Shinjuku (TOKYO)」に取り組むのは、ソニーミュージックグループにとっても大きな意義があります。ホテルや劇場などとも縦連携ができ、街とも横連携でつながれる。これまでにないチャレンジができる、重要な施設になると考えています。

今秋には現在開発中の非常に低コストで配信が可能になる自動ライブ撮影配信システムも設置予定なので、リアルと配信のハイブリッドという部分にも注目してほしいですね。さらに「ZEROTOKYO」でのナイトエンターテインメントへの挑戦、その先にはインバウンドを狙ったビジネスも見据えていきたいと思っています。

実際に開業し、さまざまな施設と連携を深めることで、「あ、こういうやり方もできるんだ」と新しいライブエンタテインメントの可能性が見えてくるのではないかと。頑張らなければと気が引き締まりますし、期待も大きいですね。

木村:これまで東急グループは、「Bunkamura」をはじめ大人を対象としたビジネスを渋谷で展開してきました。もちろん「SHIBUYA109」のように若者向けの商業施設もありますが、若者が集まる街とオーチャードホール、シアターコクーンのような檜舞台との間のギャップをもう少し埋めたい、東急グループとしてエンタテインメントの裾野をさらに広げたいと考えていました。

実際パリ、ロンドン、ニューヨークは、エンタテインメントの裾野がとても広いですよね。街全体に夢を抱く人が集まり、夢を叶える機会を提供し、将来は檜舞台に立つ。そういった流れができています。

こうした取り組みは、街づくりと一緒に行なっていくことが重要です。夢を持つ若者が集まり、路上パフォーマンスから近隣のライブハウス、Zeppとステップアップし、歌舞伎町から世界へ羽ばたいていく。そして、いつかまた歌舞伎町に戻ってきてくれるようなサイクルのエンタテインメントビジネスを手掛けるのが我々の目標です。

歌舞伎町の魅力を高め、世界から選ばれる街に

──『東急歌舞伎町タワー』は、街を360度エンタテインメントで包み込む、ワクワクする場を提供しようとしているのだと感じました。おふたりは、『東急歌舞伎町タワー』を通じて今後どのような街づくりを目指していきますか?

木村:街づくりは、ハードを作れば終わりではありません。先ほど挙げたような取り組みを通じて、さまざまなカルチャーの発信拠点にしていきたいと考えています。それを具現化するために、このタイミングでひとつ仕掛けているのがクラフトジンです。

繁華街という括りで見たときに、歌舞伎町で一晩に消費されるアルコールの量は、おそらく世界トップレベルでしょう(笑)。そんな街のカルチャーに根差して、お酒を消費すればするほど街にとってプラスになる施策を考えた結果、蒸留酒メーカー「エシカル・スピリッツ」の皆さんとともに新宿名産の「内藤とうがらし」を使ったクラフトジン「Ne10」を製造しました。そして、「Ne10」の売り上げの一部は歌舞伎町に還元してもらう形で、「シネシティ広場」などで行なうライブやイベントのサポートに活用されることになっています。

歌舞伎町の名物として、『東急歌舞伎町タワー』内のライブホールやナイトエンターテインメント施設、ホテル、レストランで提供しますし、お土産にもしていただきたい。こうした取り組みが、街の人々をつなげることにもなると思っています。

クラフトジンNe10写真

クラフトジン「Ne10」

──ジンで街を盛りあげるというのは、歌舞伎町ならではのアイデアですね。

木村:味も非常に美味しいですよ。ぜひ一度、試していただきたいです。内藤とうがらしの辛味が「エシカル・スピリッツ」の皆さんが手掛けるクラフトジンと相まって、キリッとした味わいになっています。ちなみに、新宿の名産がとうがらし? という方も多いと思いますが、その辺りの歴史的背景は江戸時代までさかのぼるので、ぜひ興味を持っていただけたら「内藤とうがらし」のキーワードで検索してみてください。

──言われてみるとジンというお酒と辛味というのは相性が良さそうです。『東急歌舞伎町タワー』で味わえるのを楽しみにしています。つづいて萩原さんはいかがですか?

萩原:私はやはりライブエンタテインメントの視点でお伝えしたいのですが、1990年代までの新宿は「新宿厚生年金会館」「日清パワーステーション」「リキッドルーム」などのライブハウスやホールがありました。当時は、ライブと言えば新宿に行く機会が多かったですし、「新宿コマ劇場」「シアターアプル」もありましたから“新宿=エンタメの街”というイメージも強かったんです。

しかし、こうした場が移転したり、なくなったりで新宿という街のエンタテインメント感が薄れていたように感じます。そこへ2015年に「新宿東宝ビル」がオープンして、今年は『東急歌舞伎町タワー』がオープンします。新宿がエンタテインメントの街へと一気に戻っていくのではないかと期待していますし、我々がその核となれるよう頑張りたいと思います。

──それでは最後に、『東急歌舞伎町タワー』の可能性について、メッセージをお願いします。

木村:新宿は、2046年をめどに再開発が進んでいます。西口は「小田急百貨店新宿本館」がその役目を終えて、複合施設が建設される予定。また、今後は「京王百貨店新宿店」も建て替えられ、高層ビルが建設される予定です。さらに、東口側では、新宿3丁目の伊勢丹新宿本店周辺の再開発計画も進んでいます。

街にはそれぞれ歴史があり、さまざま魅力があります。新宿は巨大な街ですから、それぞれの地域がそれぞれの役割を果たすことが非常に重要です。そのなかで、歌舞伎町という街に求められるのは世界一の繁華街であること。『東急歌舞伎町タワー』がオープンすることで、国内外からより多くのお客様に足を運んでいただき、そこから新たなビジネスを創出して街自体を進化させるお手伝いができたらと思います。

こうした役割を果たせれば、新宿の街全体の魅力も必ず高まります。海外の方からすれば、新大久保、新宿、原宿、渋谷あたりは東京都城南部というひとつのエリアですから、新宿の魅力が高まれば東京全体の魅力も高まることになるはず。インバウンド需要が増すなか、東京が海外から選ばれる街、指名される街になっていく。その第一歩として、『東急歌舞伎町タワー』を盛り立てていきたいと考えています。

TST木村社長&萩原本部長写真

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

東急歌舞伎町タワー
https://tokyu-kabukicho-tower.jp/(新しいタブを開く)
 
TSTエンタテイメント
https://tst-ent.co.jp/(新しいタブを開く)
 
Zepp Shinjuku (TOKYO)
https://www.zepp.co.jp/hall/shinjuku/(新しいタブを開く)
 
ZEROTOKYO
https://zerotokyo.jp/(新しいタブを開く)
 
THEATER MILANO-Za
https://milano-za.jp/(新しいタブを開く)
 
109シネマズプレミアム新宿
https://109cinemas.net/premiumshinjuku/(新しいタブを開く)

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