イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

ヒットの活かし方

『monogatary.com』×宮本笑里×『image』──コラボコンテストが広げる音楽と物語の可能性【後編】

2023.07.19

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

今回取り上げるのは、小説投稿サイト『monogatary.com』とヴァイオリニストの宮本笑里、そしてコンピレーションアルバム『image』シリーズの3者のコラボレーションで実現した「宮本笑里 コラボコンテスト」だ。

今年3月から4月にかけて、『monogatary.com』では宮本笑里とのコラボコンテストを実施。“あなたにとって特別な場所・残したい風景”をテーマに物語を募集し、大賞に選ばれた作品のイメージ曲を宮本笑里が制作。7月19日(水)にはイラストをベースにしたミュージックビデオが公開され、さらに8月発売予定の『image23』にも同曲が収録される予定だ。

このプロジェクトについて、『monogatary.com』の運営担当者の正田宗大と野上栞、宮本笑里のマネージャー・江澤可南子、『image』シリーズの担当ディレクター・原賀豪に、それぞれの立場から見たコラボコンテストの意義、ヒットを掛け合わせることで生まれる相乗効果について語ってもらった。

後編では、大賞受賞作『ニライカナイ』(著:天野つばめ)から音楽を作り上げていく工程、インストゥルメンタル音楽と物語の親和性について話を聞いた。

  • 正田プロフィール画像

    正田宗大

    Shoda Sodai

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 野上プロフィール画像

    野上 栞

    Nogami Shiori

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 江澤プロフィール画像

    江澤可南子

    Ezawa Kanako

    ソニー・ミュージックアーティスツ

  • 原賀プロフィール画像

    原賀 豪

    Haraga Go

    ソニー・ミュージックレーベルズ

インストゥルメンタル音楽との親和性

──(前編からつづく)コラボコンテストの大賞受賞作『ニライカナイ』(著:天野つばめ)をもとに、宮本笑里さんが新たな曲を作りました。既にレコーディングまで進んでいるそうですが、どのような工程で曲ができ上がっていったのでしょう。

原賀:宮本笑里が作曲するときはいつも、ヴァイオリンとピアノでデモ音源を作るところから始めるのですが、その点は今回も変わりませんでした。最初のデモ音源がすぐに上がってきて、それが非常に良かったんですよね。シンプルな構成ですが、オーガニックなメロディでフックとなるパートもあって。

なので、当初はヴァイオリンとピアノでレコーディングすることを考えていたんですが、制作過程でヴァイオリンとアコースティックギターという編成に変わったのも面白かったですね。『ニライカナイ』の物語には少しだけギターが登場するのですが、宮本笑里は「そのシーンからインスピレーションを得た」と言っていました。ヴァイオリンとギターの二重奏は珍しいですし、ピアノバージョンと聴き比べてみてもなかなか良かったので、最終的にギターバージョンで録ることになりました。

宮本笑里画像

──物語から楽曲を作るという『monogatary.com』の取り組みでは、YOASOBIの「夜に駆ける」を筆頭に大ヒットが生まれています。そのなかで、これまでは歌詞のある楽曲を制作することが多かったわけですが、歌詞のないインストゥルメンタル音楽が制作されるのは初めてでしょうか。

正田:初めての試みです。曲が形になってきてから改めて気付いたのですが、物語とインストゥルメンタル音楽はとても相性が良いと思いました。

──『ニライカナイ』という物語から読者が映像を思い浮かべ、そこに宮本笑里さんの音楽が乗る。そんな絶妙のコラボレーションですし、物語、音楽、映像の3つが重なることでひとつの作品になっていますよね。原賀さんから見て、宮本笑里さんの曲制作はスムーズに進んでいたように見えましたか? 普段と異なると感じた点があれば教えてください。

原賀:作曲は普段以上にスムーズで、「もうできたの!?」と驚いたほどです。もともと宮本笑里はタスクを溜めないタイプですし、音楽に携わるときは特に集中力を発揮します。ただ、曲作りには魔物が棲んでいると言いますか、行き詰まってしまうことも往々にしてあるんですね。ですが今回に関しては、本当にスムーズで。それは、本人も大好きな海をテーマにした『ニライカナイ』を読んで、バチッとイメージが固まったからだと思います。

小説というテキストを読んだ上で、歌詞というテキストを書く作業になるので、クラシック音楽に携わる人間からすると、物語を題材にして歌詞のある楽曲を作るのは難しいように感じます。その点、今回は歌詞のないインストゥルメンタルの曲ですし、本人も選考に参加した小説を題材にしたので、作曲もスムーズだったのだと思います。

原賀画像1

──普段、宮本笑里さんが作曲をするときも、何か風景を思い浮かべながらメロディを作っているのでしょうか。

江澤:確かに「風景を思い浮かべながら作ることがある」と聞いたことがあります。それにしても今回は作曲のスピードがいつも以上に速く、この企画に対する関心の高さ、意欲的な姿勢がうかがえました。

江澤1

──宮本笑里さんにとっても、物語が良いインプットになったのですね。

原賀:モノづくりって、制約に縛られすぎてもやりづらいですが、「何でも自由にどうぞ」と言われても、それはそれで難しいんですよね。ですから今回のように、適度にイメージが限定されたほうが作りやすかったのかもしれません。

正田:お話を伺って、『monogatary.com』の仕組みも同じだなと感じました。我々がお題を出すのは、テーマを提示したほうがユーザーの皆さんが物語を書きやすいから。ある程度、的を絞ったほうが作品を生み出しやすいんですよね。作曲でも同じようなことが言えるのだなと思いました。

──宮本笑里さんの曲を聴いたとき、『monogatary.com』のおふたりはどう感じましたか?

正田:先ほども少しお話ししましたが、デモ音源が届いたとき、自分はちょうどプライベートで沖縄にいたので「まさにこの景色だ!」と感動しました。曲単体でも素晴らしいのですが、『ニライカナイ』という物語との親和性が高くて、「あのシーンがこのメロディ、こういう音色になっているんだろうな」と想像するのもすごく楽しかったです。

正田1

野上:私にとっても心に響く曲でした。アコースティックギターとヴァイオリンの二重奏ですが、ギターの音色がとても柔らかくて、ヴァイオリンの艶のある音色とすごくマッチしているんです。原作のノスタルジー、海から吹いてくる爽やかな風が感じられ、情景も思い浮かびました。曲が公開されたら、ぜひ『ニライカナイ』と一緒に読んで風景を思い浮かべていただけたらと思います。

野上1

リラクゼーション×映像音楽=『image』

──この楽曲は、8月に発売を予定しているコンピレーションアルバム『image23』に収録されます。そもそも『image』とは、どのようなシリーズなのでしょうか。改めてコンセプトや収録曲の選定基準についてお聞かせください。

imageロゴ画像

原賀:『image』は2000年に誕生したシリーズです。当時はヒーリングミュージックを集めたコンピレーションアルバムの百花繚乱時代で、『image』は後発企画でした。そこで、リラクゼーション音楽であると同時に、映画やドラマ、CMなどで使われている映像音楽を収録して差別化を図ることにしたんです。その結果、シリーズ累計350万枚に届くほどのヒットを記録しました。

このシリーズが20年以上つづいている大きな理由は、CDをリリースするたびに、CDと呼応した『live image』というコンサートを行なってきたことです。CDとコンサートツアーが両輪となり、相乗効果で『image』シリーズの人気がつづいてきました。

選曲基準は、リラクゼーション音楽であり、映像音楽であることですから、今回の企画にもぴったりでした。宮本笑里が作る曲はリラクゼーション音楽の範疇に入っていますし、それがミュージックビデオになってYouTubeで配信されれば映像音楽とも言えます。ですから正田さんからお話をもらったときに、すぐに賛同できたんです。

──『image』シリーズのディレクターであり、宮本笑里さんのレコーディングプロデューサーである原賀さんだからこそ、橋渡しがうまくいったんですね。

原賀:確かに『image』だけでなく、宮本笑里の音楽ディレクターも担当していたのは大きかったですね。そうでなければ、宮本笑里が読書家だとは知らず、この企画に結び付けることができなかったかもしれません。

正田:原賀さんから宮本笑里さんをご紹介いただけると聞いて、本当にびっくりしました。

原賀:お話をもらったときは“宮本笑里しかいない”と思いましたが、ほかにも『image』関連のアーティストと『monogatary.com』のコラボでシリーズ化できるかもしれませんね。

サステナビリティ活動の第一歩に

──お話を聞いていると、とても発展性のあるコラボコンテストだったように思います。今回のプロジェクトを通して、新たに得た気付きはありますか? また、今後挑戦したいことについてもお聞かせください。

正田:今回のコンテストは、皆さんのご協力のおかげで、とても良い企画になったと感じています。だからこそ、サステナビリティな視点を取り入れたテーマに、癒しという奥行きを持たせて物語を提供していく取り組みは、今後も継続していきたいと考えています。

ここ数年、『monogatary.com』では、アーティストはもちろん、外部企業とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。今後は外部企業や地方自治体とも、サステナビリティを軸にした企画を実現させていきたいです。

正田2

──よく電車内の広告などに、投稿コンテストで受賞した作文が掲載されていますよね。例えば、電鉄会社とのコラボで車内広告に投稿作品を載せ、その作品をもとに作ったリラクゼーション音楽を流すなど、空間的な広がりのある取り組みも考えられます。

正田:『monogatary.com』では、2021年末に東京メトロに作品を掲載するコラボコンテストを行なっています。大賞受賞作の冒頭を車内広告に貼り出し、QRコードでサイトにジャンプするとつづきが読めるという施策でした。挙げてもらった通り、今後は電車や屋外広告など、より広がりのある空間で物語を楽しんでいただく取り組みにもチャレンジしていきたいですね。

野上:今回のコラボコンテストでは、朗読動画を制作する案もありました。ですが、『monogatary.com』で歌詞のないインストゥルメンタル音楽を制作するのは初めての試みだったので、まずはコンテストを成功させることを第一に考えて、朗読の施策は行なわなかったんですね。でも、今後はそういった施策も考えられるのではないかと思います。

野上2

──マネジメントを担当する江澤さんは、宮本笑里さんがこのプロジェクトに参加したことで、どんなプラスの効果が生まれたと思いますか?

江澤:サステナビリティ活動は一般的にも関心が高いテーマですし、今回のような企画で間接的にでもアーティストが関わる方法を見出せたのは良かったと思います。また、宮本笑里本人としても作曲活動で、小説をベースに作るというのは新たな試みだったので、大いに刺激を受けたようです。

江澤画像2

──原賀さんは、『image』シリーズに『monogatary.com』とのコラボ曲が入ることで、どのような効果が生まれたと思いますか?

原賀:『image』シリーズはコンピレーションアルバムなので、既に発売された音源を収録するのが一般的ですが、この曲は初出になります。レアなケースですし、有難く思っています。

また、僕が今回の企画で素晴らしいと思ったのは、若い方々が小説を投稿しているという事実です。若者の活字離れが進んでいると言われますが、『monogatary.com』に投稿するのはプラットフォームとして使いこなせる若者層が中心。そこに魅力を感じますし、UGC(User Generated Contents)で生み出された物語を音楽と結び付けて多くの方に届けられるのは、ソニーミュージックグループらしい取り組みだと思います。

原賀画像2

正田:音楽とのコラボと並行して、サステナビリティ活動もつづけていきたいと思います。思い出の風景って、必ずしも海や山だけでなく、近所の公園、校舎裏の木陰、近所を流れる川など、いろいろなところにありますし、どんな人にも、そういった思い出、物語を呼び起こす風景はあると思います。それを掘り下げたのが、今回のコンテストでした。

今回、作品を書いて応募するにあたり、皆さん少なからず思い出の風景に思いを馳せられたと思います。私は、そのこと自体がサステナビリティな活動につながっていくのではないかと思っています。

目の前にある景色を、10年後、20年後も変わらないものにするためには、我々人間がそうなるように努力をしなくてはいけない。それは、人の手で変えてしまった景色に対しても同様です。そのために「今、自分たちが何をしなくてはいけないのか?」を考えるきっかけづくりを『monogatary.com』で継続して行なっていけたらと考えています。

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

『monogatary.com』
https://monogatary.com/(新しいタブで開く)
 
『monogatary.com』Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/c/monogatarycom(新しいタブで開く)
 
宮本笑里 オフィシャルサイト
https://www.emirimiyamoto.com/(新しいタブで開く)
 
宮本笑里 Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCCaH1FYyPfGn3J9DUbY-vMw(新しいタブで開く)
 
宮本笑里 公式Instagram
https://www.instagram.com/emirimiyamoto/(新しいタブで開く)
 
『image』シリーズ オフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/image/(新しいタブで開く)

連載ヒットの活かし方

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!