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連載Cocotame Series

ヒットの活かし方

『monogatary.com』×宮本笑里×『image』──コラボコンテストが広げる音楽と物語の可能性【前編】

2023.07.18

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“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

今回取り上げるのは、小説投稿サイト『monogatary.com』とヴァイオリニストの宮本笑里、そしてコンピレーションアルバム『image』シリーズの3者のコラボレーションで実現した『宮本笑里 コラボコンテスト』だ。

今年3月から4月にかけて、『monogatary.com』では宮本笑里とのコラボコンテストを実施。“あなたにとって特別な場所・残したい風景”をテーマに物語を募集し、大賞に選ばれた作品のイメージ曲を宮本笑里が制作。7月19日(水)にはイラストをベースにしたミュージックビデオが公開され、さらに8月発売予定の『image23』にも同曲が収録される予定だ。

このプロジェクトについて、『monogatary.com』の運営担当の正田宗大と野上栞、宮本笑里のマネージャー・江澤可南子、『image』シリーズの担当ディレクター・原賀豪に、それぞれの立場から見たコラボコンテストの意義、ヒットを掛け合わせることで生まれる相乗効果について語ってもらった。

前編では、コラボコンテストの企画意図、実現に至るまでの経緯、大賞受賞作『ニライカナイ』(著:天野つばめ)の魅力について紐解いていこう。

  • 正田プロフィール画像

    正田宗大

    Shoda Sodai

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 野上プロフィール画像

    野上 栞

    Nogami Shiori

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 江澤プロフィール画像

    江澤可南子

    Ezawa Kanako

    ソニー・ミュージックアーティスツ

  • 原賀プロフィール画像

    原賀 豪

    Haraga Go

    ソニー・ミュージックレーベルズ

癒しの音楽、物語、映像を結び付ける

──今年3月から4月にかけて、小説投稿サイト『monogatary.com』とヴァイオリニストの宮本笑里さんによるコラボコンテストが開催されました。そもそも今回のプロジェクトは、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

正田:昨今、持続可能な社会の実現に向けたサステナブルな取り組みというのは、業種を問わずすべての企業に求められていて、それはエンタテインメント領域でビジネスを展開するソニーミュージックグループも同様だと感じています。では、そのテーマや課題に対して、『monogatary.com』なら何ができるのかと考えたことが、今回のコラボコンテストを企画したきっかけになります。

『monogatary.com』では、これまでにもアーティストや企業、イベント、メディアなどと、さまざまなコラボコンテストを開催してきました。その上で、今までのコラボコンテストは、大賞を受賞した作品をモチーフにしてアーティストが楽曲を制作したり、大賞作品と企業やイベントを紐付けた取り組みを展開するなど、コラボ内容を起点とした企画が主だったんですね。

しかし、今回のコンテストでは、小説投稿サイトである『monogatary.com』にできるサステナブルな取り組みは何か? というテーマがあってスタートしたので、今までのコラボコンテストとは少し発想が異なる企画の組み立て方になりました。

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野上:コラボコンテストありきではなかったので、チーム内で企画を話し合いながら、SDGsについても調べたり、何かその文脈で『monogatary.com』にできることがないかと議論を重ねました。その結果として生まれたのが“あなたにとって特別な場所・残したい風景”というテーマだったんです。

──アーティストとのコラボを軸にした企画なのかと思っていましたが、サステナビリティがきっかけで取り組まれたものだったんですね。

正田:はい。ただ、サステナビリティやSDGsというワードはあまり前面に押し出したくなかったんです。小説を投稿する方にとっても、物語にサステナビリティの啓発的な内容を盛り込むとなるとハードルが高くなってしまいますし、SDGsに対しても本気で語ろうと思ったらしっかりと知識を得ないと難しい。

ですから、このコラボコンテストのリリースには趣旨説明として入れつつも、実際の募集時にはサステナビリティについてはほぼ触れませんでした。

野上:“押し付けがましいものになってはいけない”というのを最初からチームで話し合っていたんですよね。あとから振り返ったときに、投稿者の方もそれを読んでくださった方も「実はこのコンテストに参加したことや作品を読んだことが、サステナビリティとかSDGsについて考える“きっかけ”になったな」と思ってもらえるぐらいの距離感がベストだと考えていました。

──そこからどういういきさつで宮本笑里さんとのコラボにつながっていったのでしょうか。

正田:発想としては単純で、“あなたにとって特別な場所・残したい風景”というテーマで募集をすると、やはり自然の綺麗な景観を想起させるような癒しが求められる物語が多くなるだろうと思って。であれば、そういうビジュアルとインストゥルメンタルの曲を組み合わせて、このテーマをきっかけにYouTubeなどでよく活用されているチルミュージック的なコンテンツができないかと考えたんです。

──それで、原賀さんがディレクターを務めている人気コンピレーションシリーズの『image』とつながるわけですね。

野上:ソニーミュージックでリラクゼーション音楽やインストゥルメンタルの曲について聞こうと思ったら、『image』シリーズがまず挙げられるので。しかも、私たちの上長が原賀さんと長年のお付き合いがあって、「だったら、つなげてあげるよ」とスムーズにご相談までの流れができ上がっていきました。

──原賀さんは、長年『image』の制作を担当していらっしゃいますが、提案を聞いてどんな印象を受けましたか?

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原賀:『image』シリーズは、毎年アルバムをリリースしているので、収録するのにふさわしい音源を常に探しています。正田さん、野上さんからの相談を受け、せっかく小説×音楽で、YOASOBIをはじめとする大ヒットを世に送り出してきた『monogatary.com』と一緒に取り組ませてもらうなら、投稿された作品をもとに新しい曲を作り、『image』にも収録したいと考えました。

そこでまっさきに思い浮かんだのが、私がレコーディングプロデューサーを務めているヴァイオリニストの宮本笑里です。彼女は本を読むのが大好きな“活字アーティスト”。Instagramにも読了した本をたくさん載せていますし、私も本人からよくおすすめや感動した本の話を聞いていました。そこで「宮本笑里がコンテストの大賞に選ばれた作品からインスパイアされた曲を制作し、『image』でフィーチャーするのはどうでしょう?」と逆提案したんです。

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──『monogatary.com』チームは、この提案を受けてどういった反応だったんですか?

野上:いや、もう感謝しかないですよね。この企画で、宮本笑里さんとコラボできるなんて思ってもいなかったので。「ぜひ、お願いします!」とお返事しました。

──江澤さんは、宮本笑里さんのマネジメント業務を務めています。この企画を宮本笑里さんに提案したとき、ご本人はどんな反応でしたか?

江澤:原賀さんからもあった通り、宮本笑里は読書が大好きで、サスペンス、ファンタジー、エッセイなど日ごろから幅広いジャンルの本を読んでいます。ただ、小説からインスピレーションを受けて楽曲を制作するというのは初めてのオファーだったので、どういうリアクションが返ってくるのか予想できない部分もありました。

ですが、宮本笑里は近年、作曲活動にも力を入れているので「自分へのすごく良い刺激にもなるし、ぜひ挑戦したい」と前向きな答えがすぐに返ってきました。テーマに沿ってエントリーされたいろいろな小説が読めるのも、シンプルにうれしかったようです(笑)。

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──ここまでお話を伺うと、非常にスムーズに企画が進んでいったようですが、『monogatary.com』 、『image』、宮本笑里さんという3者が連携してひとつのプロジェクトに取り組むにあたり、苦労もあったのではないでしょうか。

正田:なんだか空気が読めない感じで申し訳ないんですけど……結論から言うと、苦労らしい苦労はなかったですね(笑)。最初に原賀さんにご相談したのが、今年の2月ごろで、3月には、もう作品の募集を開始していたくらいですから。本当にとんとん拍子で話が進みました。3者の役割が明確で、しかも、それぞれの得意分野に取り組めばよかったので、混乱を生む要素がなかったんだと思います。

執筆意欲をかきたてるテーマ設定

──改めて、今回のコンテストでは“あなたにとって特別な場所・残したい風景”というテーマで作品を募集しました。なぜ、このお題になったのか、もう少し詳しく教えてもらえますか。

野上:毎日、普通に生活していると、自然環境について考える機会ってあまりないですよね。ですが、自分にとって特別な場所を思い浮かべれば、自然豊かな風景をイメージする人がいると思いますし、その風景を壊さず未来に残したいと思えば、それを実現するために必要なことが何かを考えるきっかけづくりになるんじゃないかと思ったんです。

場所や風景にまつわる思い出は、誰にでもひとつはあるはず。小説を書いたことがない人にも気軽に参加していただきたかったので、執筆へのハードルを上げずに、意欲をかきたてることができればと考えて、このテーマを提案しました。

また、小説を投稿する方だけでなく、投稿された小説を読んだ方にも、その作品のなかの風景を追体験していただきたいと考えていました。今回のコンテストが、物語を書いた人、読んだ人双方にとって、自然や環境保護、そしてその先にあるサステナビリティについて考えるきっかけになってもらえていたらうれしいですね。

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──確かに、このお題なら「私にも書けるかも、書いてみようかな」と思えますし、自然と山や海を思い浮かべますね。

野上:これまでさまざまなコンテストを開催してきましたが、そのたびに小説を書く、物語を創作するということにはハードルがあることを痛感しました。小説を書く=特別な行為だと思っている方は、まだまだ多いと感じます。だからこそ身近に感じていただけるテーマが必要だと思いました。

正田:このテーマの一番のポイントは、“あなたにとって”という言葉が入っていることです。小説はフィクションですから、設定や構想を用意しなきゃいけないと皆さん考えると思うんです。でも、今回は“あなたが過ごした街や近所の公園の思い出を書いてみませんか”というお題の出し方だったので、気軽に投稿しやすかったんだと思います。

野上:実際、小説に限らず、自分の思い出や実体験を綴ったエッセイを投稿した方もいらっしゃいました。あとは地元の風景や、子どものころによく遊んでいた森の写真を投稿した方もいらっしゃいます。結果、今まで開催してきたコンテストのなかでも、応募作品がかなり多い回になりました。

──宮本笑里さんとのコラボコンテストだからということで、初めて投稿された方もいらっしゃったのでしょうか。

野上:そうですね。普段から宮本笑里さんの音楽を聴いていらっしゃるんだろうなと感じられるものや、宮本笑里さんを軸に考えられた物語もありました。また、日本だけでなくイタリアの街並みについて書かれた物語などもあり、『monogatary.com』としても、これまでにない広がりを感じましたね。

宮本笑里コラボコンテストバナー

──運営側の意図、テーマの狙いがしっかりユーザーの方々に届いたということですね。

野上:今回、特に私たちがうれしかったのは、ユーザーコミュニティがさらに活発化したことです。『monogatary.com』には投稿作品にコメントを書き込む機能があるのですが、作品を読んだ方が「〇〇さんの地元って、こんなに素敵な場所なんですね」「この場所、すごく良いですよね」とコメントを付けたり、ユーザーの皆さんがそれぞれ自分の思い出の場所を共有したりしていました。そういったやり取りを見て、改めて今回のコンテストを開催して良かったなと思いましたね。

大賞受賞作は、沖縄の海が舞台の恋愛小説

──最終的には、天野つばめさんが執筆した『ニライカナイ』が大賞に選ばれました。選考過程としては『monogatary.com』のチームがすべての作品に目を通して、そのなかから甲乙つけがたい作品を宮本笑里さんにも読んでもらったということですが、江澤さんはご本人とこの件で話をされましたか?

大賞受賞作『ニライカナイ』全文はこちら(新しいタブで開く)

江澤:最終的に宮本笑里の手元に届いたのは20作品ほどだったと思いますが、数百ページに及ぶ長編小説じゃないとはいえ、一つひとつの作品がそれなりのボリュームなので、すべてを読んでレビューを戻してもらうのには、それなりの時間がかかると思っていたんですが、すぐに全作品を読んで翌日にはメールで返答がありました。あまりにも速かったので驚きましたね(笑)。全作品、没頭して読んだようです。

その上で、宮本笑里からは「曲のイメージが一番膨らみやすかったのは『ニライカナイ』でした」というレビューがありました。

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──それでは、皆さんが『ニライカナイ』を読んだ感想もお願いできますか?

正田:チームで行なう下読みの段階から、自分も『ニライカナイ』が印象に残っていました。沖縄の海を舞台に出会いがあり、登場人物たちが月日を重ねていく物語ですが、その海を大切に思う人の心が込められている気がして。しかも、それが啓発的に語られるのではなく、純粋な恋愛をベースに描かれているのが良いなと感じました。そのさり気なさも良かったですし、海に対する思いも自分にはしっかり伝わってきました。

実はちょうどこの取材を受けるちょっと前まで、プライベートで沖縄を旅行していたんです。海を眺めながら、改めてこの小説を五感で味わったところ、物語の奥行きがさらに深まった気がします。私自身は沖縄の海のそばで生まれ育ったわけではありませんが、この景色はやっぱりこのままであってほしいなと強く感じましたね。

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野上:シンプルでまっすぐな恋心が描かれながら、家族の愛にも触れ、最後はまた恋の物語に戻っていく。沖縄の海のように、透明度が高い作品だと感じました。情景が鮮明に浮かぶような描写で、爽やかさも演出されている素敵な作品です。この作品を読んで、こんな青春に憧れる人もいるのではないでしょうか。

江澤:テーマが普遍的でわかりやすく、作者が考える“残したい風景”も具体的に描かれているから、それがどんな景色なのか、読み手側にも想像しやすい作品だなと思いました。

原賀:私は立場上、宮本笑里が音楽にしやすい作品はどれだろうという視点で候補作を拝読しました。宮本笑里は海が好きで、休日を使ってよく海に行っているようですし、これまでにも海にインスパイアされた曲をいくつか書いています。なので、海をテーマにした『ニライカナイ』は、宮本笑里の音楽と親和性が高いだろうなと思いながら読みました。

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──大賞は逃したものの、ほかにも優れた作品が多かったのではないかと思います。おすすめの作品があれば、いくつか教えてください。

野上:本当に素晴らしい作品が多かったのですが、私が個人的に好きだったのは、『紡ぐ』(著:八川羚)です。静岡の浜辺で、ゴミ拾いをきっかけに結ばれたカップルの出会いと別れ、その後の成長を描いた物語でした。「砂浜でゴミ拾いをしていたら、こんなことに!?」とびっくりするようなストーリーで、印象に残っています。

『紡ぐ』全文はこちら(新しいタブで開く)

ほかには、淀川を舞台にした『オレンジなワルツ』(著:カロマージ)。母と娘の親子愛あふれる物語で、守りたい景色がありつつ、隣にいる守りたい家族の存在を再認識できる作品でした。

『オレンジなワルツ』全文はこちら(新しいタブで開く)

私たちがイメージしていた懐かしい場所、美しい自然、そういった風景への思い入れをさまざまなジャンルの作品にしていただき、とてもうれしかったです。

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正田:受賞作『ニライカナイ』は恋愛を描いた作品ですが、祖母と孫の関係性を描いた作品、友情を感じさせる作品など、幅広い物語が集まりました。最終候補に選んだ作品のバリエーションも、とても広かったですね。

後編につづく

文・取材:野本由起
撮影:干川修

関連サイト

『monogatary.com』
https://monogatary.com/(新しいタブで開く)
 
『monogatary.com』Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/c/monogatarycom(新しいタブで開く)

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