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アニメづくりへの情熱

映画『ふれる。』監督&プロデューサーインタビュー――鑑賞前に“ふれて”おくとより楽しめる作品の魅力①

2024.10.04

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『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』の3作の映画を手がける、長井龍雪(監督)×岡田磨里(脚本)×田中将賀(キャラクターデザイン・総作画監督)のトリオ。彼らが新たに生み出したオリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』が10月4日(金)に公開される。

上京してきた青年3人のキャラクターの心のドラマをファンタジックな手法を交えて描いていく本作品。新境地に挑む映画『ふれる。』に込めた思いを、長井龍雪監督と本作の企画・プロデュースを務めるアニプレックス(以下、ANX)の清水博之に聞いた。

  • 長井龍雪プロフィール画像

    長井龍雪

    Nagai Tatsuyuki

    アニメーション監督、演出家。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』をはじめ、数々のアニメ作品の監督、演出を手がける。
  • 清水博之プロフィール画像

    清水博之

    Shimizu Hiroyuki

    アニプレックス
    執行役員常務
    映画『ふれる。』企画・プロデュース

映画『ふれる。』とは?

映画『ふれる。』キービジュアル

島で育った幼馴染、小野田秋と祖父江諒と井ノ原優太の3人は20歳になり上京。東京・高田馬場で共同生活を始めた。秋と諒はそれぞれの場所で働き始め、優太は専門学校に通い始めるが、島で暮らしていたときと変わらず親友同士のままだった。それは島から連れてきた不思議な生き物「ふれる」が3人の心を結びつけていたから……。20歳の若者がぶつかる現実と「ふれる」が導くファンタジーが交錯していく。長井龍雪監督の瑞々しい青春描写と、岡田磨里による生々しいドラマ、そして田中将賀による美しく表情豊かな作画。青春三部作で脚光を浴びたトップクリエイタートリオが、新境地を開くために再び集結して完成させた意欲作だ。

記事の後編はこちら: 映画『ふれる。』監督&プロデューサーインタビュー――鑑賞前に“ふれて”おくとより楽しめる作品の魅力②

スペインで始まった『ふれる。』の企画

――映画『ふれる。』は長井龍雪監督作品の新機軸となる、さまざまな挑戦が込められている作品だと思います。こちらの企画はどのような流れで立ち上がったのでしょうか。

長井:前作の『空の青さを知る人よ』(以下、『空青』)の制作が終わってすぐに岡田さん、田中さんと僕の3人と清水さんとでお話をさせていただく機会があって。まだ正式に次を作るかどうかわからない状態でありながら、もし作るとしたらどんな内容にしたいかという話をしたんです。あれは……どこでその話をしたんでしたっけ?

清水:確か……スペインですね。『シッチェス・カタロニア国際映画祭』(2019年10月開催)に行ったときだったと思います。

長井:思い出しました。スペインでみんなが揃ったので、そういう話をしたんですよね。そのときに“次は青年3人の話にしよう”というざっくりとした方向性を話して、それが本当の最初の一歩だったと記憶しています。

ふれるを手にとる長井龍雪

清水:私はお三方が足を運ばれた映画祭にはすべて帯同していたのですが、その時点で、また次もご一緒したいということを伝えていました。そう考えると、企画のスタートは2019年になりますね。

長井:そうですね。そのころは本当に雑談レベルでのスタートだったんです。ただこれまで僕らが作ってきた『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、『あの花』)も『心が叫びたがってるんだ。』(以下、『ここさけ』)も『空青』もヒロインを軸にしたストーリーだったので、今回は男の子視点の話にしてみようというのがあって。そこから青年3人が共同生活するビジュアルを田中さんに描いてもらい、話を膨らませていきました。

清水:私は、その後しばらくして長井さんたちから作品のコンセプトをお聞きして。プロットが固まってきたところで見せていただいて、これは面白いんじゃない? となり、ぜひこの方向で進めてほしいとお伝えしました。

黒いシャツを着た清水博之

――青年3人の物語というのは、これまでの長井さん、岡田さん、田中さんの作品では初めてのアプローチになりますね。清水さんはこの点についてどのように感じていましたか。

清水:これまでのヒロインを軸にした物語から、舞台が変わり、登場人物の年代も変わり、視点も女性から男性に変わるのであれば、必然的に描かれるものも大きく変わります。長井さんたちが、それをどのような作品に仕上げるのか、ワクワクと期待感がありましたね。

秩父から離れ、新しい舞台で描く新しい物語

――お三方が手がけてきた『あの花』『ここさけ』『空青』は秩父三部作と呼ばれ、埼玉県秩父市を舞台にした作品でした。今回の『ふれる。』の舞台は主人公3人の故郷である島、そして東京・高田馬場になりましたが秩父から離れ、新しいロケーションを舞台にした理由を教えてください。

長井:今回は設定から物語の視点まで大きく変えることを前提にしていたので、舞台も今までとは違う場所にしようというのは最初から決めていたんです。そして秩父から出るのであれば、“上京”もキーワードに加えようと。そこで東京を舞台にしようと思って、東京の街をあちこち調べたんです。結果、高田馬場を舞台にすることになりました。

――東京の高田馬場はどんな街だと思いましたか。

長井:岡田さんが高田馬場に土地勘を持っていることもあって、取材はスムーズに進みました。僕自身も上京したときに友だちを頼って共同生活をしていた時期があるんですけど、そのときは西武新宿線沿線に住んでいて。そのときから高田馬場は学生街で、若い街という印象がありました。高田馬場にはシナリオの取材だけでなく、そのあとも何度も通って、さまざまなところを参考にしています。

映画『ふれる。』高田馬場の街並み

映画『ふれる。』高田馬場の街並み

不思議な生き物「ふれる」誕生秘話

――今回、作品に大きなエッセンスを与えているのは、不思議な生き物「ふれる」の存在です。そもそも不思議な動物を出すことになったのはどんなことがきっかけだったのでしょうか。

長井:僕ら3人で作ってきた作品では、これまでマスコットキャラクターが登場する作品がなかったんです。今回は“マスコットを出す”というのがひとつのチャレンジであり、面白いところだったと思いました。

――「ふれる」がどのようにして作り込まれていったのかも教えてください。

清水:実は最初、「ふれる」は人間的なキャラクター設定だったんですよね。それがいろいろな変化を遂げていって、今のビジュアルになっていきました。

長井:この作品では3人の主人公を軸に描きたいと思っていたので、「ふれる」を人間的に描くのは違うなと思って。それで田中さんには、本当にいろいろな「ふれる」を描いてもらったんです。魚や動物といった「ふれる」の原型があって。そのなかに今の「ふれる」がありました。

ハリネズミのような見た目の”ふれる”

――一見するとハリネズミのようなキャラクターですよね。

長井:田中さんとしてはラフに描いたものだったと思うんですが、僕はこの「ふれる」が良いなと思ったんです。その後も、田中さんとしてはアニメーターとして描きやすいデザインを追求しながら、もっとハリネズミっぽいデザインを提案してくれたんですが、僕は不思議な生き物が既存の生き物になってしまってはいけないなと思って。「それだったら前のデザインの方が良いな」とひたすら差し戻しつづけて(笑)。それで生まれたのが、この子なんです。

「ふれる」に触ると痛いし、足もないし、鳴き声もない。それをどのようにアニメーションで描くのかというのは、田中さんもかなり悩まれたと思います。でも、そこにチャレンジしてもらって、いわゆるアニメ的なキャラクターとして成立させてくれました。

主人公の3人は頭身も高く、目も小さい、ちょっとリアル寄りのキャラクターデザインになっているのですが、そこに「ふれる」が入ることでリアルとアニメの対比がうまくできて良かったなと思っています。

映画『ふれる。』家での3人の場面写真

――アニメらしいキャラクターの象徴として「ふれる」がいる、と。

長井:「ふれる」をかわいいと思ってほしくて。ただ、「ふれる」そのものは怖い一面もあるし、いろいろな事件が起きる元凶でもある。かわいさと怖さというギャップのなかで、それでも最終的には愛されるキャラクターになってほしいと思っていたので、そこのバランスは注意しました。

清水:ダビング(音響編集)のときに、長井監督と音響効果の上野(励)さんがすごく試行錯誤されていたんですよ。どんな移動音にするかと。

長井:既存の動物だと感じてほしくないので、動物の鳴き声みたいなものは音としてつけたくなかったんです。上野さんには「とにかく、かわいいと思ってもらいたいんです」とお伝えして、いろいろなパターンを試してもらい、ちょっとリアルに寄せたほうが良いんじゃないか、もうちょっとかわいらしくしたほうが良いんじゃないか、それだとわかりづらいかもしれないよと、意見を交わしながら、かなり時間かけて決めていきました。

清水:ビジュアルも含めてすごく愛らしい存在になったので、より多くの人に届く、まさに作品のマスコットキャラクターに仕上がったなと感じています。

映画『ふれる。』ふれる場面写真

「ふれる」が持つ、人の心をつなぐ能力

――不思議な生き物「ふれる」は、言葉を発しなくても人の心をつなぐという能力を持っています。この能力が3人の青年を結びつけ、やがて事件を巻き起こしてしまう。「ふれる」の能力をどのようにお考えでしたか。

長井:めちゃめちゃ便利だと思うんですけどね。相手の考えていることがわかって、しかも、もうひとつ便利な機能もあって。使い方を間違えなければ、良いことしかないはずなんですけど。

清水:そうですよね。でも、使い方を間違っちゃうと大変なことになるのかな。コミュニケーションツールのはずなのに、コミュニケーションがうまくいかなくなってしまうという。

映画『ふれる。』3人で手を重ねる場面写真

――人の心をつなぐことで本音と建前が見えてくる。それでわかりあえることも、すれ違うこともある。不思議な生き物「ふれる」の能力は、現代のSNSやインターネット上のコミュニケーションを思わせるところがあります。そういったテーマを意識して「ふれる」の能力は考えられたのでしょうか。

長井:そういう気分は脚本の岡田さんのなかにあったと思います。今回の制作期間中にコロナ禍があって、人と人が直接触れ合うのがダメだとなるなかで、ネットやSNSでのコミュニケーションはすごく便利だけど、同時にいろいろな問題も浮彫りになって。それがより鮮明になるなかで書いてもらった脚本なので、そういう意図は織り込まれているんだろうなと。

ただ、僕自身がSNSをやっていないので、個人的にはそのあたりはあまり意識をしていなくて。あくまで客観的に描かせてもらったという感じです。なのでそこの部分は、作品をご覧になった方にいろいろな捉え方をしてもらえたらと思います。

映画『ふれる。』ふれる場面写真

――長井監督は岡田さん、田中さんとこれまで一緒に作品を手がけられてきました。そして、長井監督はおふたりが作ったものをとりまとめて、最終的にフィルムに仕上げるという立場でもあります。3人で打ち合わせをされているときに、不思議な生き物「ふれる」が実際にいてくれたら……と思ったことはありますか?

長井:相手の手に触れるだけで、その相手の気持ちがわかって、打ち合わせが順調に進むのであれば最高ですよね。打ち合わせも短時間で終わりますし!(笑) でも、実際にはそうはいかない。現実では、言葉を尽くして話し合わないと、なかなか折り合うことはできないですよね。

ふれるを手ににこやかに話す長井龍雪

――ときには、意見が折り合わず、ぶつかってしまうこともありますか?

長井:ぶつかり合う前に、ちゃんとたくさん話をして、ときには忖度もして、ちゃんとコミュニケーションは取れていると、僕は思ってます(笑)。

――「ふれる」がいなくても大丈夫なんですね。

長井:そうですね。「ふれる」がいなくてもちゃんとコミュニケーションを取っていける3人でありたいと思っています。いや、それよりも各自のなかに「ふれる」がいるっていうのが理想かな。相手への気持ちをしっかり伝えることができて、相手の気持ちを必要以上に害さない配慮もできる……。

長井:「ふれる」の能力をちゃんと使いこなすことができるのが、大人であるってことなのかもしれませんね(笑)。

赤い椅子に腰かけ、こちらをみつめる清水博之と長井龍雪

後編では、主人公たちの描き方やキャストの起用経緯、制作期間の約5年間について語る。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©2024 FURERU PROJECT

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