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技術者たち ~エンタメ業界が求めるエンジニアの力~

システムエンジニア:転職先にあったのはエンジニアの意志を存分に応援してくれる環境だった

2024.12.25

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さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。

第12回は音楽、アニメ、キャラクタービジネスで使用する業務システムの開発から運用、保守にも携わるシステムエンジニアの波夛野隆浩に話を聞いた。

  • 波夛野隆浩プロフィール画像

    波夛野隆浩

    Hatano Takahiro

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

アニメやキャラクターの権利者と会社をつなぐ業務システムを担当

──波夛野さんの在籍するソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のエンタプライズシステム本部では、どのような業務を行なっているのですか。

我々の部門では、ソニーミュージックグループのスタッフが業務で使用するシステムの開発や保守、運用を担っています。

白いTシャツに黒のジャケットを着た波夛野隆浩

ソニーミュージックグループは20社以上のグループ会社で構成される総合エンタテインメント企業で、アーティスト&ミュージック、ビジュアル&キャラクター、エンタテインメント・ソリューション・ビジネスという3つのビジネスセグメントに分かれています。

私はそのなかでビジュアル&キャラクターのセグメントに属するグループ会社が使用する業務システムの担当で、チームを統括する立場になります。

──ビジュアル&キャラクターを扱うグループ会社について、具体的に教えてください。

アニメ、ゲームを中心としたエンタテインメントビジネスを展開するアニプレックスや、キャラクターのプロパティビジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツなどです。ふたつの会社の共通点は、ライセンスビジネスを手がける比重が高いということ。そのため、社内のスタッフだけではなく、取引先やIPの権利者などの社外のビジネスパートナーも使用する業務システムが必要になります。

例えば、ソニーミュージックグループが権利を管理するIPを使用した商品が大ヒットしたときに、入金されたライセンス料から原作者にいくら支払い、権利元にはいくら支払うという流れになるのですが、そのパーセンテージは状況によって異なります。

それを個別に対応するのは現場の作業として非効率なので、ここをシステムで開発して、さまざまな状況に対応できるようにするのが、私たちのチームの役割ですね。

新卒入社から3年でIT企業を退職した理由

──波夛野さんは中途入社ということですが、これまでの経歴を教えてください。

大学卒業後は、ITベンダー系のシステム開発会社に勤めていました。学生時代、ITエンジニアリングに興味があったことに加えて、当時はあらゆる業界にITが導入されていったので、この分野に将来性を感じたことから、就職活動ではITエンジニアの職に特化して会社を志望していました。

ただ、入社から3年ほど経ったときに「自分が興味のある業界で働きたい」と思い、2007年にソニーミュージックグループに入社しました。

──最初からエンタテインメント系の会社に就職するイメージはなかったのでしょうか。

大学では法学部に在籍していた、いわゆる文系出身で、ITエンジニアリングに興味があったといっても、簡単なプログラムを書けるくらいのスキルでした。なので、最初の就職先には“ITスキルが身につく環境”を求めていたこともあり、その会社への入社を決めました。

実際、前職の会社は技術研修が充実していて、資格も取得できましたし、しっかりスキルを身につけられたからこそ、興味のある業界に転職したいと考えられるようになったんだと思います。

会社のサポートでIT技術の資格取得や海外研修も

──ソニーミュージックグループのITエンジニア職には、スキルを磨ける環境は用意されているのでしょうか。

もちろんあります。資格については、会社から言われて取得するものはありませんが、自主的に学びたい、取得したい資格があれば、申請することでサポートしてもらえます。研修も同様ですね。

私自身もソニーミュージックグループがクラウドコンピューティング・プラットフォームであるAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を導入するタイミングで、『AWS re:Invent』に2回行きました。

手を使って話す波夛野隆浩

──アメリカ・ラスベガスで年1回開催されている、AWS主催の世界最大級クラウドコンピューティング・カンファレンスですね。

はい。このカンファレンスでは、ラスベガスの街全体に散らばる各会場で、1週間にわたって2,000以上ものセッションが開催されます。ここでも会社から「このセッションに参加してきなさい」と言われることはなく、自由に動き回り自分が興味のあるものを吸収してくる感じです。こうした海外のイベントにも積極的に送り出してくれますし、“このスキルを磨きたい”というエンジニアの意志を存分に応援してくれます。

音楽出版業界に必要だったシステムをゼロから構築

──これまで携わったプロジェクトのなかで、特に印象に残っているものは何ですか?

2018年にソニー・ミュージックパブリッシング(以下、SMP)がリリースした「ROANSY」という、国内外の音楽著作権利者向けのWeb版分配明細システムの開発プロジェクトです。

SMPは音楽作品の著作権管理などを行なう会社で、楽曲の売り上げに応じて国内外の作詞家や作曲家といった権利者に印税を分配しています。かつては、その分配明細書を紙に印刷して権利者に郵送していましたが、これには当然、多大な郵送コスト、人的コストがかかっていて、さらには膨大な紙を消費するので、環境問題という視点でも課題に挙げられていました。

ただ、著作権の仕組みには複雑なところがあって、音楽出版業界ではそうしたアナログなやり取りがまだまだ主流だったんです。それをWeb上のポータルサイトで閲覧できるようにしたのは、業界ではかなり画期的なことで、その開発に携われたのはいい経験になりましたね。

──仕組みが複雑ということは、開発で苦労もあったのでは。

そうですね。「ROANSY」では、作品ごとの著作権使用料の明細のほか、分配額ランキング、配信、録音、放送などといった利用用途のカテゴリ別にシェア率、対前年、対前期比の情報などを簡単な操作で統計、グラフ化することができ、さらにはデータのアーカイブ化も可能にしました。

そのうえで、やはりニッチな領域ですので、これらの機能を網羅するには、既存のプログラムやパッケージソフトの転用では難しく、設計から開発までオリジナルで作ることになりました。

さらに、「ROANSY」は私たちの部署では初めてクラウドで構築したシステムだったこともあり、企画からリリースまでに1年ほどかかりましたね。ですが、そのころからクラウドの普及が急拡大したこともあって、この開発をきっかけに知見や新しい技術を吸収できたのはありがたかったです。このときの経験が今に生きていることは多いですね。

ITエンジニアとしての達成感ややりがいとは?

──波夛野さんは、どんなときに仕事での達成感を感じますか?

社内用業務システムというのは、基本的に業務環境を改善するために導入するものなので、実際に使用しているスタッフの皆さんからいいフィードバックをもらえたときが一番うれしいですね。

過去には、これまで物理的、人的要因で手が回らなかった業務をシステム化したことで、「取引件数が増えた」という声をもらったこともあって。やって良かったなと達成感が得られました。

──エンタテインメントの企業で、ITエンジニアとして働くやりがいはどんなところにあると感じますか?

個人的な趣味や興味関心が、仕事のアウトプットにつながることが多いところですね。ソニーミュージックグループで働いている人は趣味を極めていることが多くて、同じ部署のスタッフにも頻繁に韓国までライブを見に行くK-POP好きがいます。

そういう人が海外のチケットサイトやECサイトを利用すると、ユーザー目線とエンジニア目線、両方の視点で使い勝手をチェックしていて、それを仕事にも役立てようとしています。

趣味の延長線上に自分の仕事があって、日々気づきや学びを得られるというのは、ITエンジニアとして面白い環境なのではないかと考えています。

手で表現する波夛野隆浩

──波夛野さん自身はどうですか?

学生時代からライブに行くのが好きなので、今でもよく行っていますが、最近は子どもに合わせることも増えました。私の好きな暴れる系ロックは子どもの趣味には合わないようで(苦笑)。そういう意味では昔に比べて行くライブのジャンルが広がりましたね。

ただ、それもこれまで触れてこなかったジャンルの会場運営や、ライブの流れを見られるいい機会になっていて、とても興味深いです。それがITエンジニアとして何の役に立つのか? と思われそうですが、私たちが日々対峙しているのはエンタテインメントを生み出す人たちですから、現場を知っておくことは大事だと思っています。

エンタテインメント業界のITエンジニアはどんな人が向いてる?

──それでは、ソニーミュージックグループのITエンジニアにはどんな人が向いていると思いますか?

関わる人が多岐にわたりますので、誰とでも物怖じせず会話できる人ですね。エンジニア視点で“こうすれば便利になる”と考えていても、現場の人間からすると“そこじゃないんだよな”といった認識差異が起こることは意外と多いので、相手の要望を汲み取ろうとする気持ちは大切ですね。

──いわゆる“コミュニケーション能力”の高さということでしょうか?

私のなかでは、それとはちょっと違う気がしていて。わからないことはストレートに質問できる素直さですかね。私も含め、ITエンジニアはバックヤード志向が強い人も多いですし、一見華やかに見えるエンタテインメントの会社は性に合わないのでは? という先入観もあると思うんですよ。もちろん賑やかなタイプの人も実際にいますが、エンタテインメントの会社で働いている人は基本的に裏方ですし、そこのマインドは近いと思うんですよね。

いい音楽を作りたい、楽しいアニメ、面白いゲームを作りたい、イベントで人を楽しませたいなど、どうにかして人の心を震わせるものを作って、ヒットを生み出したいという人たちが集まっている会社なので、熱量のある人だったら絶対にソニーミュージックグループという会社は楽しめると思います。

ITエンジニアとしての今後の展望は?

──波夛野さんは、今後、エンジニアとしてどのような展望を持っていますか?

私たちの仕事は、それぞれの現場の皆さんが“本業”に専念できる環境を整えることです。それこそ経費や交通費を手入力するといった作業も、カードの使用履歴からAIが自動入力してくれるみたいことができれば、もっと本業に時間を割けますよね。残念ながら、今はまだ無理ですが……。

でも、新しい技術はどんどん出てきますし、進化もしていきます。それらを常にキャッチアップしながら現場をサポートしていきたいですね。

腕を組みこちらを見つめる波夛野隆浩

文・取材:児玉澄子
撮影:干川 修

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