藤沢文翁インタビュー:『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の世界観を紐解きながら演劇人としての覚悟を語る②
2025.05.16


2025.05.16
音楽朗読劇「READING HIGH」をはじめ、さまざまなクリエイティブに挑戦し続ける演劇人・藤沢文翁。今から約4年半前、コロナ禍のさなかに行なったインタビューでは、常に“人を驚かせたい”と語っていた彼は、今、何を思い、そして未来に向けて何を考えているのか。「READING HIGH」の最新作『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の見どころを紐解きつつ、藤沢文翁の今に迫る。
前編では、「READING HIGH」のこれまでと『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の見どころについて語る。
目次
藤沢文翁 Fujisawa Bun-o
劇作家、作詞家、舞台演出家、クリエイティブディレクター。英国 ロンドン大学 ゴールドスミス演劇学部卒。能楽・喜多流(公益財団法人 十四世六平太記念財団)理事。ミュージカル、ストレートプレイ、アニメ、ゲーム、音楽朗読劇の原作、脚本、演出を手がけるマルチクリエイターで、特に音楽朗読劇のクリエイティブに関しては、日本の第一人者と言われている。2023年には、ソニーミュージックグループのグループ会社・room NBとエージェント契約を締結し、さらに活動の場を広げている。
人形浄瑠璃や歌舞伎の演目のひとつとして有名な『義経千本桜』。その物語の4年後、“誰も知らない本当の義経の最期”を描く音楽朗読劇が『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』だ。源義経役・杉田智和、金売り吉次役・石田彰、源九郎狐役・佐倉綾音、藤原泰衡役・岡本信彦、武蔵坊弁慶役・諏訪部順一といった実力派豪華声優陣が出演。新宿・歌舞伎町にあるTHEATER MILANO-Zaにて5月31日、6月1日で上演。
【あらすじ】
源義経が兄・源頼朝の軍に追われていたとき、一匹の子狐が義経の家臣に化けて名器と謳われる“初音の鼓”を盗みだそうとする。しかし、義経はその正体を見破り、子狐を取り押さえて「なぜ鼓を盗んだのか」を問う。すると子狐は、鼓が両親の皮でできた形見であることを明かし、その場で泣き崩れてしまう。それを見た義経や家臣も、これには同情を禁じえず、結局、“初音の鼓”を子狐に返してやることにした。このことを喜んだ子狐は、その後、源頼朝軍を妖術で追い払い、義経に恩返しをするのだった――。それから4年後、奥州の地で藤原の一族にかくまわれている義経のもとを子狐が再び訪れる。しかし、4年の逃亡生活のなかで多くの家臣が命を落とし、あの武蔵坊弁慶も流行病で既にこの世にはいなかった。仲間を失い、咲かぬ桜の木を眺めながら自暴自棄となり、酒に溺れる義経を目の当たりにして子狐は、「僕が義経様を守る! 弁慶様に化けて! 僕が守る!」と誓うのだった――。
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劇作家・演出家の藤沢文翁とroom NBが手がける音楽朗読劇「READING HIGH」の最新作がTHEATER MILANO-Zaで上演される。
「READING HIGH」は2017年に上演した『HOMUNCULUS ~ホムンクルス~』を皮切りにさまざまなタイプの作品を生みだし、これまで10回以上の公演を重ねてきた。
東京国際フォーラムホールAや日本武道館など大型ホールで公演を行ない、朗読劇ではなかなかお目にかからない豪華な舞台演出、人気、実力ともに折り紙つきの声優陣の出演、村中俊之を中心とした音楽家たちが奏でる生演奏が話題を呼び、公演が発表されるたびに、注目を集める音楽朗読劇シリーズに成長。そんな「READING HIGH」について、藤沢文翁は約5年前に転機が訪れたと語る。
「『READING HIGH』にとって大きな転機になったのは、実はコロナ禍だったのではないかと思っています。私たちのように朗読劇をメインに公演している人々とっては飛躍した時期だったと思います」
2019年末より国内でも拡大した新型コロナウイルス感染症は、演劇業界にも大打撃を与えた。当時、新型コロナウイルス感染症の拡大によって稽古場や舞台上でソーシャルディスタンスの保持が求められ、その活動は大きく制限されることになった。
次々と公演の中止や延期、配信への切り替えなどが行なわれ“役者の魂が込められた生の演技を客席で鑑賞する”というエンタテインメントは、在り方の変化を求められることになる。そんなとき、大きな注目を集めたのが“朗読劇”だったという。
「演劇やミュージカルはだいたい1カ月前後の稽古期間があって、それが長ければ長いほど感染リスクが高まりますし、会場ではお客様の感染リスクもある。そのためにコロナ禍ではライブを前提とした舞台公演を開催するのが難しくなりました。
でも、本を手にしながら演じる朗読劇は、そこまでの稽古を必要としません。また、プロの声優の皆さんは、アフレコ現場で数回のテイクで収録を進められている。そういう高い瞬発力と集中力が求められるなかで、常に役づくりをされている方々ですから、必然的に稽古の時間も短くすることができ、それによって感染リスクを抑えることができました。
舞台上でも、演者の接触が少ないということが功を奏して、結果、朗読劇に関してはほかのライブエンタテインメントに比べると公演を実施することができたんです。もちろんすべてではなく、緊急事態宣言が発出されたときには、『READING HIGH』でも『THANATOS ~タナトス~ 2021』の公演が中止になりました。
それでも世の中が自粛続きで暗くなっているときに、朗読劇が小さいながらも灯をともせたこと、そしてそのときに朗読劇の魅力をより多くの方に知っていただけたのが、現在につながっているのではないかと考えています」
コロナ禍に本格的に突入した2020年、「READING HIGH」では『El Galleon~エルガレオン~』(東京国際フォーラム ホールA)、『THANATOS~タナトス~』(生配信)、『ALCHEMIST RENATUS~アルケミスト レナトス~』(日本武道館)、2021年に『Chevre Note~シェーヴルノート~ 2021』(舞浜アンフィシアター)と公演を重ねている。ソーシャルディスタンスを守ったまま、楽しめるライブエンタテインメントとして「READING HIGH」はファンに受け入れられたのである。
「その時期は、私にとっても朗読劇というものを見つめ直すいい機会になりました。朗読劇は立ちでも、座りでも、演者の立ち位置が決まっているので、舞台上の照明や特殊効果を多彩に使うことができます。炎や煙を舞台の中央に発生させたり、照明の灯体をステージの床に置いたりすることもできる。舞台上を動き回る演劇とは違う演出ができるところが魅力のひとつなのだと、このときに改めて認識しました」
藤沢文翁が手がける朗読劇の特徴は演出だけではない。その洗練された語り口も特徴のひとつと言える。イギリスで学び、日本の古典芸能である落語や歌舞伎、能楽にも精通する藤沢文翁は、和と洋のカルチャーをエッセンスとして取り入れて、朗読劇ならではの魅力を生み出している。
「私が書いている朗読劇の台本は、基本的にナレーションを排除した書き方をしています。例えばふたりのサラリーマンが居酒屋でしゃべっているシチュエーションだったとしたら『それとってくれよ、割り箸じゃなくて醤油だよ。そうそう爪楊枝の隣にある……』というセリフがあるだけで、その居酒屋の状況がわかりますよね。
こういう手法を私は“落語的手法”と呼んでいます。話芸だけで空間を感じさせるというのは、新しいことをやっているようで、実は古典的であり、日本人の文化に根差したものなのではないかと思っています」
5月31日から上演される「READING HIGH」の新作『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』は、人形浄瑠璃や歌舞伎の演目として知られる「義経千本桜」の4年後を描く物語。「READING HIGH」では、これまでヨーロッパを舞台にしたファンタジックな作品が多かったが、本作は『YOUNG WIZARDS ~Story from 蘆屋道満大内鑑~』(2022年)以来の純和風作品となる。
「子どものころから能楽や歌舞伎に触れてきて、今は能楽・喜多流(公益財団法人 十四世六平太記念財団)の理事も務めさせていただいています。友人にも歌舞伎役者がいて、最近は日本の古典について話をする機会が増えていました。それらを振り返ったときに、以前『シアトリカル・ライブ』というシリーズで書いた『新・義経千本桜』を日本人の哲学や発想を交えて再構築してみるのも面白いなと思いついたんです」
本作の物語は源義経と、義経の鼓を盗もうとした子狐が4年後に再会するところから始まる。義経が武蔵坊弁慶をはじめとする大事な仲間たちを失ってしまったことを知った子狐は、義経のために恩返しを果たそうとする……。“異類恩返し譚”とも呼べるこの作品には、日本のエンタテインメントのエッセンスが詰まっていると藤沢文翁は言う。
「そもそも『義経千本桜』という作品は天下の名将・源義経がかわいそうな子狐に鼓を返してあげると、子狐が守ってくれる。いわば“狐の恩返し”という日本のファンタジー作品なんです。
西洋だと、妖精やゴブリンは人里から隔絶された洞窟や森に棲んでいるという設定が多いですが、日本では、妖怪や獣は人間に寄り添って人里の近くで生きていると表現されるものが多い。
そのうえで、日本人は“狐の恩返し”のような不思議な物語を200年以上語り継いでいるわけです。荒唐無稽かもしれないけれど、そこにはかけがえのない何かがある。日本向きのエンタテインメントとは何だろうと考えたときに、そういう動物と人間のおとぎ話を改めてやってみたいと思いました」
2017年に「シアトリカル・ライブ」シリーズの第3弾として初演された本作。「READING HIGH」として演じられる『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』では、どんな進化を遂げているのだろうのか。
「初演のときはほとんど天然で書いていたんですよね。当時、僕の作品の作り方は、思いついた物語をそのまま脚本にするというスタイルで。でも、作品というのは、熟成することで味わい深くなることがあります。
『新・義経千本桜』では、思いつきで書いたフレッシュさや勢いが味になっていましたが、今の自分が客観的に作品を見直し、物語としての面白いポイントを引き立たせることで、作品全体に深みを持たせることができたのではないかと思います。
脚本に関しても、客観的に見ることで、このセリフは必要、これはいらない、これは足したほうがいいというのが見えてくるので、伏線も張りめぐらせて物語を構成し直しました。なので、自分のなかでは再演ではなく、新作をお届けするという感じが強いですね」
“音楽朗読劇”を冠する「READING HIGH」には、生演奏によって作品を彩る音楽も欠かせない。藤沢文翁の脚本、演出による朗読劇に、音楽監督も担う村中俊之が作曲した音楽が加わることによって、「READING HIGH」の作品はよりドラマチックに膨らんでいく。『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』においても、村中俊之の音楽が作品を彩っているという。
「今回は村中くんが、また新しい試みに挑戦してくれています。今回、演奏メンバーは楽器ふたり、ボーカルがふたりという編成なので、半分が人の声という編成なんですね。そして、人の声というのはメロディ次第で洋風にも和風にもなる。そこをアイデアの源泉にしながら彼は『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の音楽制作に励んでくれています。ラフマニノフの『ヴォカリーズ』や、北欧のバイキングの歌のように、声を楽器にして、物語を彩ってくれると思います」
もうひとつ「READING HIGH」のシリーズにおいて忘れていけないのが、アニメ作品や映画作品で活躍する人気声優が多数出演すること。『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』でも、杉田智和、石田彰、佐倉綾音、岡本信彦、諏訪部順一と豪華な顔ぶれが出演する。今回のキャスティングはどのようにして決まったのだろうか。
「いつも脚本を書いているときに、自然と顔が思い浮かんできます。今回のキャスティングでひょっとしたら驚いた方がいるかもしれないと思うのは、諏訪部さんが武蔵坊弁慶役を演じること。
『新・義経千本桜』では、井上(和彦)さんに務めていただいたのですが、多くの方のイメージに定着した弁慶を演じてくださったと思います。破戒僧と呼ばれる、力強い弁慶像ですね。でも、実は弁慶は学識が非常に高い人物であったとも言われています。
当時の寺院は最高学府でしたし、作り話も含めてですが武蔵坊弁慶には、知性的な一面を感じるんです。そのニュアンスを上手に表現してくれるのは誰かと考えたときに、パッと顔が浮かんだのが諏訪部さんでした。
結果的に、今回のキャスティングは『READING HIGH』ではもはや常連の声優さんばかりになっていますが、これまでの信頼関係のうえでなりたったキャスティングになっていると思います」
後編では、演劇人・藤沢文翁として作品づくりにかける覚悟を語る。
文・取材:志田英邦
撮影:干川 修
©READING HIGH

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