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音楽朗読劇「READING HIGH」を中心に、さまざまなクリエイティブに挑戦する演劇人・藤沢文翁のインタビュー。後編では、「READING HIGH」を含む自身のクリエイティブ活動への思いと、未来への展望について語る。
目次
藤沢文翁 Fujisawa Bun-o
劇作家、作詞家、舞台演出家、クリエイティブディレクター。英国 ロンドン大学 ゴールドスミス演劇学部卒。能楽・喜多流(公益財団法人 十四世六平太記念財団)理事。ミュージカル、ストレートプレイ、アニメ、ゲーム、音楽朗読劇の原作、脚本、演出を手がけるマルチクリエイターで、特に音楽朗読劇のクリエイティブに関しては、日本の第一人者と言われている。2023年には、ソニーミュージックグループのグループ会社・room NBとエージェント契約を締結し、さらに活動の場を広げている。
人形浄瑠璃や歌舞伎の演目のひとつとして有名な『義経千本桜』。その物語の4年後、“誰も知らない本当の義経の最期”を描く音楽朗読劇が『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』だ。源義経役・杉田智和、金売り吉次役・石田彰、源九郎狐役・佐倉綾音、藤原泰衡役・岡本信彦、武蔵坊弁慶役・諏訪部順一といった実力派豪華声優陣が出演。新宿・歌舞伎町にあるTHEATER MILANO-Zaにて5月31日、6月1日で上演。
【あらすじ】
源義経が兄・源頼朝の軍に追われていたとき、一匹の子狐が義経の家臣に化けて名器と謳われる“初音の鼓”を盗みだそうとする。しかし、義経はその正体を見破り、子狐を取り押さえて「なぜ鼓を盗んだのか」を問う。すると子狐は、鼓が両親の皮でできた形見であることを明かし、その場で泣き崩れてしまう。それを見た義経や家臣も、これには同情を禁じえず、結局、“初音の鼓”を子狐に返してやることにした。このことを喜んだ子狐は、その後、源頼朝軍を妖術で追い払い、義経に恩返しをするのだった――。それから4年後、奥州の地で藤原の一族にかくまわれている義経のもとを子狐が再び訪れる。しかし、4年の逃亡生活のなかで多くの家臣が命を落とし、あの武蔵坊弁慶も流行病で既にこの世にはいなかった。仲間を失い、咲かぬ桜の木を眺めながら自暴自棄となり、酒に溺れる義経を目の当たりにして子狐は、「僕が義経様を守る! 弁慶様に化けて! 僕が守る!」と誓うのだった――。
記事の前編はこちら:藤沢文翁インタビュー:『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の世界観を紐解きながら演劇人としての覚悟を語る①
2023年4月、藤沢文翁はソニーミュージックグループでネットコンテンツ周辺ビジネスや多彩なクリエイターのエージェントビジネスなどを手がけるroom NB(以下、RNB)とエージェント契約を結んだ。契約から丸2年が経ち、今はどんな活動をしているのだろうか。
「RNBは、仕事にまつわること、まつわらないこと関係なく、フレンドリーにいろいろなことを相談できる相手です。いろいろなところへ私を引っ張っていってくれますし、いろいろな方と巡り会わせてもらっています。
また、『READING HIGH』の製作母体もRNBなので、次の公演は何をやるかという企画の話と、今、面白いこと、世の中でトピックになっていることはどんなことかということを織り交ぜながら、かなり密な相談ができています。新しいお仕事としてWOWOWで製作が決定した『北方謙三「水滸伝」』の脚本も担当させていただくことになりました。
『北方謙三「水滸伝」』は、作家の北方謙三さんが5年10カ月の歳月を費やして書き上げた歴史大河小説を原作とする連続ドラマ。織田裕二さんを主演に迎え、監督は『Fukushima 50』で第44回日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた若松節朗さんが務められます。かなり大がかりなプロジェクトなので、こちらについても全身全霊をかけて挑みたいと考えています」
今回の取材に同席した「READING HIGH」のプロデューサーは、藤沢文翁を“いろいろな意味で前例のないクリエイター”だと表現する。「頭のなかがどうなっているのかをのぞかせてほしいぐらい、日常的にいろいろなことを考え、エンタテインメントのアイデアを生み出しているクリエイター。だからこそ前例がないことが、どんどん生まれてくる。そんな藤沢さんだからこそ、音楽、アニメ、ゲーム、キャラクター、ソリューションなど、さまざまなエンタテインメントを手がけるソニーミュージックグループと化学反応を起こしてもらい、ゼロから新たなエンタテインメントを一緒に生み出していきたい」と語った。
藤沢文翁自身も既に次なる可能性へと動き出している。彼がRNBとともにやろうとしていることは、まさに新しいエンタテインメントを生み出すことだ。
「日本の歌舞伎や能楽、海外で言えばギリシャ悲劇やシェークスピアの演劇は、どれも古典と呼ばれ、時を越えて語り継がれてきた素晴らしい作品ばかりです。ただ、現代の我々が見ると『あの伏線は回収されなかったな』とか、『感情の流れがいまいちわかりにくいな』と思うところはやっぱりあるんですよね。
古典芸能とは我々の祖先がゼロイチで生み出してきた偉大なる文化なのですが、だからといって、それを神格化して神棚に飾っておくだけではもったいない。古典のエッセンスは残しながら、現代の方程式に当てはめていくことで、その素晴らしさをよりわかりやすく伝えることもできるのではないかと私は考えています。
実際、『READING HIGH』の『YOUNG WIZARDS ~Story from 蘆屋道満大内鑑~』という作品では、歌舞伎の世界と能楽の世界を組み合わせたことがあって。歌舞伎の『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』という演目では、陰陽師の安倍晴明が人間と狐の間に生まれた子だという話が出てくるんですが、能楽の『殺生石』という演目には、同じく陰陽師の安倍泰成が狐の正体を見破ったことで『殺生石』が生まれたという話が登場します。
『蘆屋道満大内鑑』と『殺生石』は、それぞれ生まれた時代は違うのですが、物語を組み合わせると“自分の先祖を生んだもの(狐=妖狐)を倒さなくてはいけない宿命”が浮かび上がってくる。この段階で既に物語のエッセンスに心を揺さぶられる土台を築くことができました。
歌舞伎と能楽は日本人の間で長く愛されてきた古典芸能。それゆえに、正しく伝承していかなくてはいけない作法や決まりがあるのは事実です。しかし、古典を現代のエンタテインメントに訳すときには、その限りではありません。
歌舞伎と能楽を融合させることで新たな物語を生み出し、古典と現代をクロスオーバーさせることで、新たなファンを生み出す。クリエイティブにおいては、そんなふうに境界線をどんどんなくしていきたいというのが、私がチャレンジしていきたいことです」
「READING HIGH」では『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の上演を控え、既に次回作として『HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~』の再演も発表、「北方謙三『水滸伝』」というビッグプロジェクトも始動した。そのほかにも複数の脚本や演出を手がけている藤沢文翁……その尽きぬクリエイティビティはどこから来ているのだろうか。
「私のなかで忘れられない記憶がありまして……。2011年、東日本大震災が起きた日は、私の演劇人としてのデビュー作『HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~』(SOUND THEATR版)を日本橋三井ホールで再演する前日だったんです。
あのときは、まず電気を使ってはいけないと言われ、さらに、出演者のなかに東北に親族がいらっしゃる方がいるのに、公演を実施するなんて不謹慎だというご批判をいただきました。
そして2020年2月、今度はコロナ禍が拡大したとき、私はプレミアム音楽朗読劇『VOICARION VII』で『龍馬のくつ』と『女王がいた客室』の連続公演中でした。当時、『龍馬のくつ』までは、何とか上演できたものの『女王がいた客室』のほうは、初日以降、感染防止対策のために公演が中止になってしまったんです。
このとき、東宝の舞台関係者の方が私の楽屋にいらっしゃって『これまでは人を喜ばせたい、勇気づけたいという大義名分でやってきましたが、今回はそれすらも奪われてしまいました……』とおっしゃったんですね。
私はそれを聞いたときに、本当にせつなくなりました。もちろん人命が大事であること、生きるために衣食住が必要であることは当然のことです。それは大前提のうえで、苦しいときに人を笑顔にすること、感動を提供するということは、人が人として生きていくためには絶対に必要なものだと私は思うのです。
震災とコロナ禍を経験して、私には“どんなことがあろうと、人にとって必要不可欠なエンタテインメントを作り続けていく”という覚悟ができました。もちろん、私の考え方とは異なる意見があるでしょうし、何かの折にはお叱りを受けることもあるかもしれない。
ただ、これから先の未来でどんなことが起きようとも、自分には人を楽しませることしかできないからこそ、これだけは絶対に続けていこうという覚悟になりました。それが自分のクリエイティビティの源泉になっていると思います」
作り続けることの覚悟、そして創り手であり続ける意志。その強い思いを抱く藤沢文翁がこれから挑戦したいこととは……。
「オリジナルの作品をこれからもどんどんと生み出していきたいなと思っています。そのうえで演劇のジャンルでは、自分は人形劇を手がけたことがないので、いつかは挑戦したいと考えています。
コンセプトも考えていて、“人間には絶対にできないことが繰り広げられる人形劇”。海外の人形劇も、日本の文楽(人形浄瑠璃文楽:日本の伝統芸能のひとつで、太夫、三味線、人形が一体となった舞台劇)も、人形劇の誉め言葉というのは“まるで人間のように見える”なんですが、自分はその真逆なことをやってみたい。
アクションシーンも、ファンタジックなシーンも、舞台上でいろいろな仕掛けを使ってできたら面白そうだと思いますね。人形だから壊れてもいいなんて考えてはいませんが、それぐらいギリギリを攻める演出で皆さんを楽しませたいですね(笑)。加えて、人形劇というジャンルも、古代ローマ時代からある古典芸能なわけなので、それを現代とクロスオーバーさせることができたらいいなとも考えています。
人形劇はひとつの例ですが、ともかく人から『バカバカしい』と言われるようなこと、思われるようなことをたくさん考え、それをエンタテインメントとして形にしていきたいですね。それぐらい振り切ってやらないと、新しいものや感動を生むものは作れないと思いますから。
これまで誰もやったことのない、轍のない道を進んでいきたい。1年、2年で実現できるものではないとい思いますが、実現するときまでずっと考え、歩み続けていきたいと思います」
記事の前編はこちら:藤沢文翁インタビュー:『TAIL to TALE ~Story from 義経千本桜~』の世界観を紐解きながら演劇人としての覚悟を語る①
文・取材:志田英邦
撮影:干川 修
©READING HIGH

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