映画『国宝』から始まる新たな実写作品への挑戦――ミリアゴンスタジオが描く未来②
2025.06.06


歌舞伎役者の壮大な一代記を描いた吉田修一の原作小説を、李相日監督が映像化。吉沢亮、横浜流星の鬼気迫る演技が既に話題を呼んでいる映画『国宝』。カンヌ国際映画祭の監督週間でも上映され、観客から6分間のスタンディングオベーションを受けた本作は、アニメーションを中心に幅広いビジネスを手がけるアニプレックス(以下、ANX)が、実写映像の可能性を広げるために設立したコンテンツ企画会社・ミリアゴンスタジオが製作幹事を務めている。
“万角形(ミリアゴン)”を社名に冠し、クリエイターの個性と思いに寄り添い、クリエイティビティの最大化を目指すミリアゴンスタジオが求めていくものとは? 同社設立のキーパーソンのひとりである村田千恵子に話を聞いた。
目次

村田千恵子
Murata Chieko
ミリアゴンスタジオ
記事の後編はこちら:映画『国宝』から始まる新たな実写作品への挑戦――ミリアゴンスタジオが描く未来②
――ミリアゴンスタジオは2023年6月に設立されました。まずは、主な事業内容と設立の経緯を教えてください。
ミリアゴンスタジオは、ANXがオリガミクスパートナーズを完全子会社化し、それまでにオリガミクスパートナーズが手がけていたエージェント事業、IP開発事業を引き継ぎつつ、新たに実写作品の企画・プロデュース事業にも取り組むために設立したコンテンツスタジオです。
私は、前職のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントを含めて長年映像業界に身を置いたうえで、2020年にANXに入社したのですが、ANXは私が入社する前から実写作品を手がけていました。入社当初は映画事業を行なっていたのですが、昨今、ドラマ制作の状況が世界中で変化してきていることを鑑みて、映画だけではなくドラマ作品の企画・プロデュースができる組織があれば良いのではないかという話になりました。
そんななか、オリガミクスパートナーズの創業者であり、ミリアゴンスタジオの代表でもある伊藤伸彦さんや、オリガミクスパートナーズ時代からエージェント契約している佐藤信介監督(代表作『キングダム』『今際の国のアリス』『アイアムアヒーロー』など)と以前から知り合いで。
あるとき、お話を聞いたら、伊藤さんが「佐藤監督と一緒に映像作品を企画したい、もっと作品づくりに携わっていきたい」ということだったので、それであればご一緒しましょう、という経緯でミリアゴンスタジオを設立することになりました。
――伊藤さんの思いとANXの考えが合致したということですね。
伊藤さんは、日本の映像業界においてクリエイターをサポートするエージェント業務を、エージェント会社という存在が今のように根づく前から活動をされていました。監督や脚本家などが雇用されて作品を作るのではなく、それぞれのクリエイティビティを存分に発揮できるような環境づくりに思いがあったので、そういったところの考えの一致も、ミリアゴンスタジオ設立に大きく関わっていたと思います。
――ミリアゴンスタジオの名前がクレジットされる最初の作品として、6月6日に映画『国宝』が公開されます。本作では、製作幹事という役割ですが、今後、実写映画やドラマを制作する際は、どのようなかたちで関わっていくことになるのでしょうか。
音楽業界でいうところの“レーベル”に近いと思うのですが、ANXという大きな組織のなかで、ミリアゴンスタジオがいわゆる“実写レーベル”として、実写の映画・ドラマ作品を企画・プロデュースしていくというほうがニュアンスが近いかもしれません。
例えば、ANXが手がけるアニメ作品を実写化するという企画で、ミリアゴン以外の会社が企画・製作をするのであれば、当然、ミリアゴンスタジオではなく、ANXとして製作に参加します。何か縛りがあるわけではないので、場合によって異なることもあるかもしれませんが。
――音楽レーベルというと、それぞれのレーベルにはカラーや音楽の方向性などがありますが、ミリアゴンスタジオにもそういったものはありますか?
ジャンル的なカラーはないのですが、フィロソフィーや共通する思考というものはあります。例えば、日本でしか受けない作品はあまり考えていないというのは、社内で共有していることです。
設立の経緯でも触れましたが、アメリカのソニー・ピクチャーズ テレビジョンや韓国のスタジオドラゴンなどが企画・プロデュースした作品が、自国だけではなく世界的なヒットを生み出している現状を鑑みての立ち上げなので、ミリアゴンスタジオとしても、そこを目指していきたいと考えています。
――そういう意味では、ミリアゴンスタジオとして初めて携わった『国宝』は、カンヌ国際映画祭の監督週間に招待されたので、狙い通りと言えるのかもしれませんが、村田さん自身は日本の実写作品が世界でヒットするためには、どういったことが必要だと考えていますか。
私自身の経験やいろいろな方のお話を聞いてきたなかで、大きく影響を受けていることがふたつあります。ひとつはアニメーションの世界からです。
ある有名なアニメーションスタジオの方と10年程前にお話ししていたとき、「日本の手描きアニメーションの現場はどんどん厳しい状況になっている、だからこそ、自分たちは手描きアニメーションをとことん究めることにした」とおっしゃっていました。「日本の手描きアニメを、伝統工芸のように芸術の域にまで持っていき、芸を極めることで、作品の価値を最大化したい」と語っていらっしゃったんです。
このお話を聞いたあと、実際、そのスタジオから世界的なヒット作が生まれたのですが、感慨深かったのと同時に、実写作品でも同じことが言えるのではないかと思いました。国内だけで受けるものを安く、短期間で作るのではなく、ファッションで言えばオートクチュールのように、技術とお金をかけて、クオリティの高いものを作ることができれば、世界に通じる作品が生み出せるのではないかと考えていました。
そしてもうひとつ影響を受けたのがインド映画です。今までの職歴から、いろいろな国と地域の映画を見る機会に恵まれたのですが、そのなかでもインドの映画は、商業的に成功しているうえにクオリティが非常に高い作品が多いと思っていました。
日本でも近年では、『きっと、うまくいく』(2013年日本公開)や『RRR』(2022年)など、インドの映画が見られるようになってきましたが、歌と踊りでストーリーを描いていくど真ん中のエンタテインメント映画でありながら、脚本、演出、芝居、カメラワークなどのクオリティが非常に高い作品が多くあります。
そのようなインド映画は、インド国内で興行的に成功しているだけではなく、アメリカの映画興行収入ランキングのトップ10に入る作品も増えていて、商業性とクオリティの高さが両立するということを証明しているいいお手本だと思っていました。メロドラマが世界で受けるということも、インド映画から教わりました。
――その視点で言うと『国宝』という作品にもメロドラマ要素がしっかり盛り込まれていますね。
はい。『国宝』は、歌舞伎という古典芸能として格式高いものを扱っているわけですが、物語の本質としてはメロドラマです。そこが『国宝』という作品が普遍的である要素だと、吉田修一さんが書かれた原作を読んだときに思いました。
――海外でも通用する作品づくりというテーマにおいて、こういうものが海外では受けるという方向性はありますか。
これを作れば海外でうける、という考えで作品の企画を立てることはしません。そうではなくて、プロデューサーや監督、脚本家などが目指すクリエイティブを追及するなかで、その作品が海外でいかに排除されないか、海外のお客さんの見たい気持ちをそがずにいられるかというところを考えています。
例えば、日本ではOKでも大きなマーケットである日本以外のある地域でNGの表現があれば、そういった表現は削って、その地域の人に楽しんでもらえるように配慮する。逆で考えるとわかりやすいのですが、海外の作品が日本で上映されるときに、日本の文化を傷つけてしまうような表現が入っていたら、内容が素晴らしくても、受け入れてもらうことはできませんよね。
ちなみに、この点においてもインド映画から学ぶことが多かったです。例えば、インドでは女性が額につけるビンディという装飾があるのですが、これは既婚女性がつけるもので、当然インドの観客は皆さん知っている背景となります。でも、海外の観客にはそれがわからない。ですから、そういった海外の観客に配慮して、脚本上でそれがわかるように補足していると、インドの脚本家の方から聞いたことがありました。
近年では、海外展開を目指した日本のアニメもそういった配慮をしている作品が増えていますが、実写ドラマや映画でも、必要な配慮だと思っています。今後、海外に展開していくうえで、ミリアゴンスタジオが持つノウハウもいかされると思います。
――『国宝』以降のミリアゴンスタジオの展望を教えてください。
まだ、具体的な作品名をお伝えできる段階ではありませんが、動いているプロジェクトはいくつかあるので、これから順にかたちにしていければと思っています。
ミリアゴンスタジオとしては、マーケティング主導ではなく、クリエイターのビジョンに寄り添うものづくりを目指しています。クリエイターが作りたいものを、しっかりと商業ベースに乗せて発表していくことが私たちの使命。優秀なプロデューサーが揃っているので、多くのクリエイターと一緒に、見るべき価値のある作品を作り、多くの方に新しい映像体験を提供していきたいと考えています。
後編では、映画『国宝』の企画の経緯や見どころを語る。
文・取材:志田英邦
撮影:干川 修
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025 映画「国宝」製作委員会
※お詫びと訂正:記事内にある作品名の表記に一部誤りがありました。訂正してお詫びいたします。(修正日:2025年6月8日)
原作:「国宝」吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
脚本:奥寺佐渡子
監督:李相日
出演:吉沢亮
横浜流星/高畑充希 寺島しのぶ
森七菜 三浦貴大 見上愛 黒川想矢 越山敬達
永瀬正敏
嶋田久作 宮澤エマ 中村鴈治郎/田中泯
渡辺謙
製作幹事:MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
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