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アーティスト・プロファイル

高木正勝が読み解く「スタジオ地図」の作品と音楽――5人の女性アーティストと紡ぎ出した奇跡の音①

2025.07.04

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映画やドラマの音楽からCM、各種アートとのコラボレーションまで、ジャンルを超えて活躍する高木正勝。生命力あふれるメロディと映像喚起力に満ちたサウンドスケープで、世界中に熱心なファンを持つ音楽家だ。

2025年4月には、自身が手がけた「スタジオ地図」作品の音楽に新たな詞をのせた作品集『スタジオ地図 Music Journey Vol. 2 - 高木正勝 うたの時間』と、里山にある自宅の窓を開け、雨音や鳥の声などと即興セッションしたシリーズの最新作『マージナリア VII』を同時にリリース。年齢や生活とともに変わってきたという自身の創作への想いを聞いた。

高木正勝プロフィール画像

高木正勝 Takagi Masakatsu

音楽家・映像作家。1979年京都生まれ。12歳から親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した「動く絵画」のような映像、両方を手がける作家。NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』のドラマ音楽、『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』の映画音楽、CM音楽やエッセイ執筆など幅広く活動。近年は山村にある自宅の窓を開け自然豊かな環境をそのまま切り取ったピアノ曲集『マージナリア』を継続して発表している。

記事の後編はこちら:高木正勝が読み解く「スタジオ地図」の作品と音楽――5人の女性アーティストと紡ぎ出した奇跡の音②

5人の女性アーティストによる歌詞とうた

日本を代表するアニメーション映画監督・細田守が2011年に仲間と立ち上げたアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」。これまで劇場公開された4本のうち、高木正勝は3作品で音楽を任されている。

2012年の『おおかみこどもの雨と雪』、2015年の『バケモノの子』、そして2018年の『未来のミライ』。いずれも観客の心を深く揺さぶり、大ヒットを記録した名作ばかりだ。

今回リリースされたアルバム『スタジオ地図 Music Journey Vol. 2 - 高木正勝 うたの時間』では、その劇中を彩った印象深いメロディに、5人の女性アーティストが歌詞を書き下ろした。Hana Hope、クレモンティーヌ、寺尾紗穂、アン・サリー、角銅真実。才能豊かな歌い手によって新たな生命を吹き込まれた、13曲のみずみずしい“うた”たち。

「企画そのものは、『スタジオ地図』の人たちと結構前から話し合っていました。でもゲストや選曲の方向性が固まらなかったり、コロナ禍が挟まったりして、なかなか実現しなかった。

それが、一昨年の秋だったかな。ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルで『マージナリア』シリーズを担当してくれている小山(哲史)プロデューサーが事情を知って。『一度クレモンティーヌさんと会ってみたらいかがですか?』と提案してくれたんですね。そこからはトントンと話が進みました」

微笑みながら話す高木正勝

クレモンティーヌは、40年近いキャリアを持つフランスのシンガーソングライター。一度聴いたら忘れられないウィスパーボイスと、ジャズやボサノヴァなども取り入れた洗練された作風で、日本でも根強い人気を持つ。

2023年10月、高木正勝はフランシス・レイ オーケストラのゲストとして来日した彼女と、初めて挨拶を交わした。「歌はもちろん、チャーミングな人柄にも深く惹かれました」と当時を振り返る。

「最初のアイデアにはなかったけれど、この人となら風通しのいいものが作れるんじゃないかって。漠然と、そんな予感があったんですね。彼女もすぐ作品のコンセプトを飲み込んで、参加を快諾してくださった。

そして、ちょっとあとにフランスから送られてきたデモ音源を聴いて確信しました。歌とアコースティックギターだけの、本当にシンプルな演奏で。たぶんご本人的には『ここから自由に手を加えてください』という叩き台のつもりだったと思います(笑)。

でも僕には、いろんなものを削ぎ落とした隙間だらけの音がとても気持ち良かった。なので変に再構築したりせずに、このままの感じを録音したいなと」

開かれた公園のようなアルバムにしたい

もともと「スタジオ地図」というネーミングには“まっ白な紙に自分たちで新しい地図を描きたい”という、クリエイターの願いが込められているそうだ。強力なリーダーが示したビジョンに、周りの大勢が付き従うのではない。

むしろいろんな個性の人たちが集まり、それぞれの持ち味をいかしつつ想いを共有できる“開かれた公園”のような場所──。クレモンティーヌとのセッションは、高木正勝にとって映画音楽の初心を思い出すきっかけにもなったという。

「思い返してみれば、細田さんとの仕事はずっとそうでした。1本目の『おおかみこどもの雨と雪』から、劇伴経験がほぼなかった僕を好きに遊ばせてくれて。物語と響き合うところを見つけては、作品に取り込んでくださった。

もちろん制作の過程では、細かい作業もたくさん出てきます。多くの観客に向けたエンタテインメント大作ですから、すべてにおいて自分のイメージを通せるわけじゃない。でも根本の部分では、関わらせていただいた3作はすべて同じ。細田さんの脚本や絵コンテから受け取った“うた”を、僕なりのやり方で紡ぎ出せた実感があるんですよ。

クレモンティーヌさんとのレコーディングで、その感覚を思い出せたのは、今振り返るとすごく良かったと思う。1日で3曲録ったんですが、現場は結構緊張感があったんですね。

というのも最小編成のアレンジなので、ごまかしが一切きかない。クレモンティーヌさんの歌、彼女と付き合いの長いギター(ロブソン・ガルディノ)、僕のピアノという基本3要素だけなので。余計なことをすると一瞬でバレちゃう(笑)。でも、だからこそ自分では想像していなかった、素敵な音の余白が生まれたんじゃないかなと」

身振り手振りで話す高木正勝

山奥の小さな村での暮らしがもたらした変化

そこから一気に、作りたいアルバムの方向性が固まった。まずは自分が大好きな歌い手たちに“スタジオ地図作品の音楽”という素材をまるごと託し、自由に詞を書き下ろしてもらう。

一番大事にしたいのは、相手に降りてきたイメージとインスピレーション。それを最大限に引き出すため、細かいアレンジはなるべく施さない。むしろシンプルなデモの雰囲気をいかして、何なら自分はスタジオの片隅にいるだけでいい。

「要は、とことん流れに身を任せてみようと(笑)。細部に至るまで自作をコントロールしたいって気持ちは、多かれ少なかれどのクリエイターも持っていると思うんです。

今回の『うたの時間』では、そういう願望とか執着心みたいなものから、かなり意識的に距離を取ることができた。その結果、今の自分の肌感覚ともごく自然に馴染む、とても好きなアルバムになった気がします。

たぶん年齢とか、仕事スタイルの変化も影響しているんでしょうね。この10年ちょっと、ずっと丹波篠山(兵庫県)の山奥の小さな村で家族と暮らしてきて。いただいた仕事とは別に、自分で『マージナリア』というシリーズのアルバムを出し続けてきました。

そこでは窓から入ってくる風の音や鳥の声に合わせて、ピアノの旋律もどんどん変わっていきます。ときには外で遊んでいる子どもの声も入るし、最近はもうひとり、赤ん坊も加わって。そうなるとすべての条件が、自分の意思ではまったくままならない(笑)。

ただ面白いのは、何かをコントロールしなきゃっていう意識が薄れて消えていくほど、生まれてくる楽曲は自分の聴きたい音に近かったりするんですよ」

穏やかな表情で話す高木正勝

もちろんそれだけで仕事は立ちゆかない。特に映画やドラマの仕事では、音楽のちょっとしたトーンが印象を大きく左右する。作り手の意図を正しく伝えるためには、それを微調整する作業がどうしても必要。

高木正勝自身、「細部にこだわってしまうこと、今も普通にありますよ」と笑う。と同時に「パートナーやクライアントとの関係性は、やっぱりここ数年で変わってきた気がする」とも言う。

「たとえ自分のテイストとは違っても、相手の出した要望やアイデアをいったん飲み込んでみようと。それを時間をかけて身体に馴染ませたうえで、自分の発想ではまず出てこない未知の可能性を模索すること──。ここ数年、誰かと仕事をする際に、よくそんなことを考えていたりしたんですよね。

今回の『うたの時間』では、それがいいかたちで実ってくれた。もしかしたら『マージナリア』の創作を通じて、僕自身が作りたい音楽と聴きたい音楽が合わさってきたのかもしれませんね。

なので正直なところ、『うたの時間』は僕名義のアルバムにしたくなかった(笑)。スタッフともいろいろ相談した結果、現行のタイトルに落ち着きましたが、みんなが自由に集う“公園”みたいなアルバムという気持ちは、ずっと変わっていません。

アルバムのアートワークやブックレットのデザインに、どこか空き地や原っぱを思わせるイラストを使っていただいたのも、その思いをビジュアルで見せたかったからなんです」

インタビュー時の高木正勝の手元

細田作品屈指の名シーンと「きときと」

ここからは、収められた13の“うた”に耳を澄ませてみよう。

アルバム冒頭を飾るのは、Hana Hopeの歌う「きときと」。『おおかみこどもの雨と雪』で、都会から田舎に越してきた花(母)と雪(姉)と雨(弟)の3人が初めての雪におおはしゃぎするシーンで流れる。「絵に生命を吹き込む」というアニメーション本来の醍醐味を凝縮したような、細田作品屈指の名シーンだ。

日本とアメリカにルーツを持つ19歳の歌い手は、生命輝くこの名曲の出だしに、こんな言葉をのせてみせた。

〈♪We leap into a world/Made with fires and stone/Now we forge a new path/Howls are mighty and strong:わたしたちは世界に飛び込む/炎と岩で形作られた世界に/そして新しい道を切り拓く/うなり声は高らかに力強く響く〉。

思えば細田守監督は、これまでずっと“今の困難な世の中で子ども(若者)たちがどう成長し、生き抜くか”という物語を描き続けてきた。見知らぬ世界に、たったひとり投げ出される孤独感。荒れ地に立って、自分の足で駆け出す高揚感。そうやって育ち巣立っていく者たちと、彼ら彼女らを送り出す世代の切なくもやさしい眼差し。

高木正勝が関わった『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』を見返しても、テーマの主調音は見事なまでにブレていない。そしてHana Hopeが歌う〈♪We Leap into a world〉という言葉は、その本質をワンフレーズで射抜いている。

「最初にデモを聴いたときは、ちょっと震えるような感動がありました。実はこの曲は、最初は候補リストに入れてなかったんです。

細田さんの作品に音楽をつけるとき、僕のなかでは、言葉こそなくても“うた”が流れています。登場人物の感情と呼応したそのメロディから組み立てていくのが、基本の作曲パターンなんですね。

でも『きときと』はほぼ唯一、ピアノ鍵盤に置いた指の動きから作っていきました。明確な主旋律が存在せず、いろんな要素が折り重なって音像を作っていく構成で。だからライブで披露するときも、弾くたびにメロディが変わっていた。それもあって歌詞をのせるのは難しい気がしていたんですが……。

Hanaさんの仮歌に接して、『そうか、この曲はこんな“うた”だったんだ』と初めて腑に落ちた。それこそ自分が主導でプロデュースしていたら、絶対この景色には辿り着けなかったと思います」

笑顔で話す高木正勝

アレンジは高木正勝本人が担当した。オリジナルと聴き比べると構成要素はかなり少ない。劇伴バージョンでは感情の昂りをダイナミックに表現していたピアノに変わり、ヴァイオリンとシュヴィ(アルメニアの縦笛)が流れるような旋律を奏で、音の余白が“うた”を引き立てる。

「もともとこの曲は、細田さんの絵コンテだけ見て作ったんですよね。ラッシュ映像などはまったくなくて。ただ手描きのレイアウト画の横に『このカットが10秒続く』みたいな注釈が入っているだけ(笑)。だけどすごいのは、それで僕みたいな素人の頭のなかにも映像が浮かんでくるんです。作曲時には絵コンテをいったん閉じて、雨と雪の姿を思い浮かべました。

小さな狼の四本足が、前のめりに雪の斜面を駆け下りる。どんどん加速し、うれしさがマックスになって思わず遠吠えしてしまう。そのイメージから、4つの音が循環する最初のフレーズと、オクターブを越えて駆け上がるクライマックスの展開が生まれました。今回Hanaさんと一緒に作業できて、あのときの新鮮な気持ちに戻れた。曲が若々しく生まれ変わった気がします」

後編では、引き続き『うたの時間』に参加したアーティストと楽曲の魅力を深掘りしていく。

後編に続く

文・取材:大谷隆之
撮影:冨田 望

リリース情報

『スタジオ地図 Music Journey Vol. 2 - 高木正勝 うたの時間』ジャケット写真

『スタジオ地図 Music Journey Vol. 2 - 高木正勝 うたの時間』
価格:3,300円
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『マージナリア VII』ジャケット写真

『マージナリア VII』
価格:3,300円
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関連サイト

高木正勝 ソニーミュージックオフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/takagimasakatsu/(新しいタブを開く)

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