TrySail結成10周年──突然告げられたユニット結成。ここから物語が始まった
2025.09.06


自身が手がけた「スタジオ地図」作品の音楽に新たな詞をのせた作品集『スタジオ地図 Music Journey Vol. 2 - 高木正勝 うたの時間』。5人の女性アーティストとのコラボレーションを通して見えてくる高木正勝の音楽性に迫る。
目次
高木正勝 Takagi Masakatsu
音楽家・映像作家。1979年京都生まれ。12歳から親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した「動く絵画」のような映像、両方を手がける作家。NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』のドラマ音楽、『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』の映画音楽、CM音楽やエッセイ執筆など幅広く活動。近年は山村にある自宅の窓を開け自然豊かな環境をそのまま切り取ったピアノ曲集『マージナリア』を継続して発表している。
記事の前編はこちら:高木正勝が読み解く「スタジオ地図」の作品と音楽――5人の女性アーティストと紡ぎ出した奇跡の音①
音楽家・高木正勝が手がけた「スタジオ地図」作品の音楽に、5人の女性シンガーが新たな詞をのせた作品集『うたの時間』。最年少のHana Hopeはもう1曲、「おかあさんの唄」も歌っている。
これは『おおかみこどもの雨と雪』のエンディングで流れる主題歌。公開時には高木正勝のメロディに細田守監督自身が歌詞をつけ、歌手のアン・サリーが観客を包み込むような、柔らかく慈愛に満ちたボーカルをのせた。「東日本大震災の記憶が強くこだました曲ですね。アンさんの声なしにこの旋律は出てこなかったと思う」と高木正勝は語る。
「阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた、ソウル・フラワー・ユニオンの『満月の夕』という名曲があるんですね。多くのアーティストにカバーされて歌い継がれていますが、実はアンさんもそのひとりだった。
ちょうど『おおかみこどもの雨と雪』の制作に入るころかな。たまたまYouTubeでライブ映像を見まして。すごく心に響きました。声の素晴らしさはもちろん、彼女の“うた”がアーティストの自己表現を超えたコモンズ(共有物)になっている気がして。これから作る『おおかみこども』の音楽もそうあるべきだなと。
2011年の東日本大震災を契機に、例えば社会のあり方だったり、自分の暮らしを見つめ直した人って、意外に多いと思うんです。少なくとも僕はそうだったし、個人的には『おおかみこどもの雨と雪』の根底にもそういう監督の想いを感じていました。それもあって『おかあさんの唄』は自分のなかでアンさんの声を響かせながら書きましたし、ほかの方にお願いするつもりも一切なかった。
その曲を今回、若い世代のHanaさんに引き継いでもらえたのはすごくうれしいです。Hanaさん自身はお母さんではないけれど、ご自分の家族に引き寄せて、彼女の母語である英語で等身大の言葉をつけてくれました」
高木正勝×Hana Hope「スタジオ地図 Music Journey vol.2 うたの時間」
「おかあさんの唄」では若い世代にバトンを渡したアン・サリーも、別の曲で参加している。ふくよかな声質で、ジャズ、ポップス、昭和歌謡から童謡まで歌いこなすシンガーだ。2021年には高木正勝が音楽を手がけたNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の挿入歌も担当するなど、関係性は深い。今回は「ほしぼしのはら」「風は飛んだ」「雨上がりの家」の3曲を取り上げた。
どれも滋味深い仕上がりだが、とりわけアルバム終盤に収められた「雨上がりの家」が耳に残る。『おおかみこどもの雨と雪』のクライマックス、立派な狼に成長した雨が母親のもとを去り、山へと駆けていくシーンで流れる美しいバラッド。
朝日に照らされた雨の遠吠えと、見送る花の「元気で……しっかり生きて!」というセリフを覚えている人は多いのではないだろうか。ただ今回のバージョンでは壮大なオーケストレーションを思い切って取り去り、控えめな弦楽四重奏とピアノ伴奏だけで簡潔にまとめている。
「レコーディングの際、アンさんには『声が途切れてしまってもいいから、最弱音で歌ってみてください』とお願いしました。自分のスタイルを確立しているプロ相手に、普通そんなこと言えませんよね(笑)。楽器にしても歌にしても、実は小さい音をちゃんと伝えるのが一番難しいですから。でも自分はどうしてもそれが聴きたかったし、彼女も快くトライしてくれました。
この曲のアレンジって、映画ではラストですごく力強く、エモーショナルに響くじゃないですか。だけど正直に言うと、僕が最初に思い描いたのは今回のバージョンに近い気がする。
もちろん、ああいう分厚いストリングスを否定しているわけじゃないんです。ストーリーの流れで見れば違和感がないし、多くの観客に届けるには必要なものだとも思います。
でもアンさんと、こういう小さな祈りにも似た“うた”を録音できたのは、このうえない歓びでした。13年ぐるっとひと回りして、ようやく映画にお返しができたっていうのかな」
高木正勝×アン・サリー「スタジオ地図 Music Journey vol.2 うたの時間」
前述のクレモンティーヌは今回、「Tanana」「少年と獣」「コスモス」の3曲を選んだ。アレンジはすべて、彼女と長年活動をともにするギタリストのロブソン・ガルディノが担当。どれもアコースティックギターの弾き語りをベースに、ピアノがミニマムな装飾音を奏でる。オーガニックな手触りとゆったり流れるタイム感が好ましい。
「クレモンティーヌさんは、細田さんの長編をおそらく、このタイミングで初めてご覧になったんじゃないかな。それもあって、作詞はかなり苦労されたみたいですね。逆に言うと今回の5人のなかでは、もっともストレートに映画に寄り添ってくださった。
『Tanana』なら『未来のミライ』、『少年と獣』『コスモス』なら『バケモノの子』。それぞれ曲に対応するシーン内容をしっかり言葉で紐解いて。しかも心地良い響きとリズムでメロディにのせてくれています。レコーディング終了後、緊張からふっと開放され涙ぐまれていたのも印象的でした」
高木正勝×クレモンティーヌ「スタジオ地図 Music Journey vol.2 うたの時間」
「たねめみ」「まだ生まれてもいない大地から」「Rainy Steps」で凛とした声とピアノを響かせているのは、寺尾紗穂。ときに凄みすら感じさせる透徹した眼差しで、プロのミュージシャンからも尊敬を集めるシンガーソングライターだ。この社会で掻き消されがちな小さな声に耳を傾けるエッセイ、ノンフィクションの書き手としても評価が高い。熱心なファンだという高木正勝の希望で、今回のコラボが実現した。
「最初のやりとりから、すごく刺激的な経験でした。寺尾さんの演奏って、言葉・歌・ピアノという要素には分解できないんですね。デモを聴くと痛感しますが、最初の1音が鳴った瞬間、もう寺尾ワールドが出現している。すべてがひとつの塊となって生まれてくる驚きがありました。
なので、自分が手を入れる余地はまったくなかった(笑)。ほぼ寺尾さんが送ってくださったかたちのまま、レコーディングに臨みました」
歌詞も奥深い。例えば「たねめみ」。この曲は『おおかみこどもの雨と雪』の中盤、慣れない田舎暮らしで苦労する花、雪、雨の家族が、初めて野菜(芋)を収穫するシーンで使われた。高木正勝はそれとは別に、自分が作曲時に思い浮かべた情景などを、ごく簡単に寺尾紗穂に伝えたという。
「どこか田舎の風景、夕暮れ、遊ぶ子ども、遠くを走っていく汽車……そんな断片的なイメージです。寺尾さんの“うた”はそれを踏まえつつ、時空がぐっと広がっていた。子どもを見守る母親の眼差しにも思えるし、それが一転、亡くなった親たちに話しかけてるような瞬間もあったりして。
何だろう、時間も世代も超えて循環する大きな繋がりみたいなものが滲んでくる。それもまた、細田さんがずっと描いてきたモチーフだと思うんですよ。日常の言葉で、そんな普遍的な“うた”の世界を紡げるのはやっぱりすごいなと」
高木正勝×寺尾紗穂「スタジオ地図 Music Journey vol.2 うたの時間」
最後のひとり、角銅真実はシンガー、コンポーザー、アレンジャー、打楽器奏者など多面的な顔を持つ。自身のプロジェクトに加え、トップミュージシャンのセッションにも引っ張りだこの若きパフォーマーだ。
高木正勝とは初共演だが、共通の友人は多い。また即興演奏や現代音楽(ミニマリズム)との親和性など、音楽的志向にも重なる部分が感じられる。事実、彼女が参加した「朝には星を辿って」「祝祭」の2曲は、本作でも突出してエクスペリメンタル(実験的)な仕上がりだと言えるだろう。
「特に『祝祭』のデモを聴いたときは、スタッフと一緒にどよめきました(笑)。原曲は『バケモノの子』の冒頭、舞台となる異世界“渋天街”を一気に駆け抜けるシーンで流れます。オーケストレーションも駆使して、割と晴れがましい雰囲気のアレンジなんですね。
それが角銅さんの手にかかると、テンポといいグルーヴといい、まったく違う曲に生まれ変わっていた。一度バラバラに解体されたうえで、ランダムな言葉を織り込みながら再構築された感覚で。それでいて角銅さんなりの“うたのありか”がはっきり伝わってくるんですね。聴き込めば聴き込むほど、さすがだなと」
5曲目「朝には星を辿って」は『未来のミライ』の劇中曲。主人公のくんちゃんが時空を遡り、ひいじいじに遊んでもらうシーンで流れていた浮遊感のあるナンバーだ。サントラ盤では「Marginalia Song」という題名で収録されている。
興味深いのは現代ジャズシーンを牽引する超人気ドラマーの石若駿が、ドラムではなく電気ピアノ(フェンダー・ローズ)で参加していること。全体を包み込むような音のヴェールから、角銅真実の温かいボーカルが浮かび上がり、輪郭を滲ませながらまた音のなかに溶けていく。
「石若さんはセッションも多数こなしておられますが、ご自身のソロアルバムも本当に素晴らしい。自作ではいろんな楽器をマルチに演奏されていて、なかでも彼のフェンダー・ローズが僕は大好きなんです。
角銅さんは石若さんのSONGBOOK PROJECTのメンバーでもあるので、その繋がりで今回、レコーディングに連れてきてくださった。ふたりだけでプレイする時間もあって、もう最高のプレゼントでしたね。
実はもとになった『Marginalia Song』は、僕のなかでちょっといわくのある曲だったんです。『未来のミライ』という作品のなかで、結果的に自分が当初思ったような使われ方をされなかったというか……。アニメーションは多くの人が関わる芸術なので、仕方ないことではある。でも正直、ちょっとしたわだかまりは抱き続けていました。
そんな呪縛みたいなものが、角銅さんの柔らかい“うた”でふっと溶けた気がする。あそこで歌われている景色って、どこか母の胎内から生まれる前の記憶にも思えたりして。それこそぐるっと回って、最初の場所に帰ってこられた気がしたんですよね」
高木正勝×角銅真実「スタジオ地図 Music Journey vol.2 うたの時間」
映画のために書いた「Marginalia Song」から、ライフワーク的なプロジェクト『マージナリア』へ。今回のソングブック『うたの時間』は、音楽家・高木正勝の変化と成熟もそのまま映す内容となった。
家族と暮らす里山で日々、雨や音や鳥の声と向き合っているように、相手を受け入れること。そこから自分の“内なる旋律=うた”を紡ぎ出すこと──。そう考えたときと、私たちの手に『うたの時間』とシリーズ最新作『マージナリア VII』が2枚同じタイミングで届いたこと自体、偶然を超えた意味を持っているように思える。
「去年から新しい家族も加わって。より賑やかで、よりままならない日々を送っていますから(笑)。頭の半分以上は常にそっちに持っていかれてて、自分のペースではなかなか創作できません。でも、そのなかでパッと浮かんだものを録っていく面白さも、確実にあるんですよね。
子どもが窓の外で遊んでいる声が入っても、そういう瞬間の記録として編集せず残していく。新しい『マージナリア VII』には、今まで以上にそんな色合いが強く出ているんじゃないかなと。
その意味でも今回の『うたの時間』は、自分にとってうれしい作品集になってくれました。いろいろ寄り道をして、やりたかったことがひとつに重なってきた気が今はしています」
記事の前編はこちら:高木正勝が読み解く「スタジオ地図」の作品と音楽――5人の女性アーティストと紡ぎ出した奇跡の音①
文・取材:大谷隆之
撮影:冨田 望
高木正勝 ソニーミュージックオフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/takagimasakatsu/

2026.07.11
2026.06.30
2026.07.04
2026.07.03

2026.07.02
2026.07.01
ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!