ENHYPENをモチーフにしたIPをHYBE×アニプレックスでアニメ化①──『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』グローバル展開の舞台裏
2026.03.20


2025年7月、アニメーション制作スタジオのA-1 Pictures(以下、A1P)が、自社内に新レーベル・Psyde Kick Studio(サイドキックスタジオ)を設立。A1Pが持つ制作ノウハウを基盤にしながら、若手クリエイターを積極的に起用し、既存の枠組みにとらわれない斬新な企画や独創的な作品を届けていくという。
日本のアニメーション作品の需要が世界で加速するなか、クリエイターの育成が急務であることが叫ばれるアニメ業界において、Psyde Kick Studioが果たそうとする役割とは? 新レーベルの現在とこれからについて、Psyde Kick Studioの代表者である加藤淳と、レーベル第1弾作品である『クスノキの番人』のアニメーションプロデューサー・藤井翔太に話を聞いた。
目次

加藤 淳
Kato Jun
A-1 Pictures
執行役員専務
Psyde Kick Studio
レーベル代表

藤井翔太
Fujii Shouta
Psyde Kick Studio
『クスノキの番人』アニメーションプロデューサー
――A1P内に、アニメーション制作レーベルとして立ち上がったPsyde Kick Studio。まずは、その目的を教えてください。
加藤:設立発表の際に公式プレスリリースでもお伝えした通り、まず重要視しているのは、アニメーションにおける、より自由で独創的な表現の追求です。A1Pが約20年間で蓄積してきた制作のノウハウを土台としながら、既存の枠組みにとらわれない自由で独創的な表現を模索していきます。
そのためにPsyde Kick Studioでは、若手クリエイターとの挑戦的な取り組みを積極的に実施し、アニメーションの新たな可能性を探求していきたいと考えています。プレスリリースでは“斬新な企画、制作フローの開発を通じて、既存の枠組みにとらわれることなく、アニメーションの新たな可能性を探求”と表現しましたが、“斬新な企画=オリジナルアニメーション”と捉えていただけると、より分かりやすいと思います。
そのうえで、Psyde Kick Studioが担っていきたいのは、アニメーション制作業界において、現在、大きな課題となっている次代の担い手の育成です。アニメーションの制作に、時間とコストがますますかかるようになってきている今だからこそ、若手クリエイターたちが実践で学び、成長できる場をPsyde Kick Studioが提供していければと考えています。
――Psyde Kick Studioというレーベル名の由来も教えてください。
加藤:これは、アニメ『リコリス・リコイル』などを手がけられた、足立慎吾さんにアイデアをもらって名づけたものですが、“自由な発想で新たな楽しみをともに創造する相棒”というチームコンセプトに由来します。
英語の“sidekick(サイドキック)”には、“相棒”という意味があるのですが、インパクトのある語感をいかしつつ、そこに既成概念を打ち破るような響きを加えたかった。そこで“Psycho(サイコ)”や“Psychedelic(サイケデリック)”という単語からイメージを拝借し、“Psyde Kick”という造語を作りました。
なぜ“相棒”を強調したかったかというと、私がPsyde Kick Studioチームに意識してほしかったのが、“挑戦する意識”と“チームワーク”のふたつなんです。個人としては監督やプロデューサーになってこんな作品を作りたい! というモチベーションを持ってもらいたい。
ただし、アニメーション制作は作品によっては数百名のスタッフが携わる集団作業なので、チームワークも必要。このふたつの理念を浸透させたいというイメージを、“相棒”という言葉に込めています。
――レーベルロゴもユニークなデザインですね。
加藤:これは、ソニーにも在籍の経歴を持つ、デザイナーの細田育英さんにお願いしました。私がプロデューサーを務めた『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』で、ウェアラブルなAR型情報端末“オーグマー”をデザインされた方です。
細田さんの考える、フレンドリーで、若干の遊び心があるデザインというのをイメージして進めていただき、最終的にこのロゴになりました。エンタテインメント、アニメーションにはやはり、遊び心がないと面白くないですからね。
――現在、Psyde Kick Studioはどのような体制なのでしょうか?
加藤:Psyde Kick Studioの名前を出して発表済み、鋭意制作中のタイトルは、1月30日に全国公開した映画『クスノキの番人』と、2026年登場とアナウンスしている新作オリジナルアニメーション『グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~』の2作。ほかにも企画としてはいろいろ動いていますが、実働している作品は少ないので、まだまだスタッフは少数です。
現状は制作のみのチームなので、ここにいる藤井くんのほかにもプロデューサーがひとり、制作スタッフは総勢30人くらいでしょうか。メンバーの選考については、清水社長(A-1 Pictures/CloverWorks 代表取締役社長)や管理職のメンバーと相談して決めました。個人的には若手の多い班を選んだ感じです。ちなみに、現在の制作スタッフの平均年齢は20歳代で、30歳を超えているスタッフは数人しかいないですね。
作画に関しても、現在はA1P作画部と社内クリエイターを共有している状況なので、今後は若いクリエイターを含めて、仲間を増やしていきたいと思っています。
――Psyde Kick Studioでは若い世代に作品づくりを託したいと?
加藤:はい。例えばプロデューサー。私がプロデューサーになったのは31歳だったのですが、今の若い世代はプロデューサーになるのに、どうしても時間がかかる傾向にあります。早くても30代半ばくらいですね。
その理由は、アニメーション制作の期間が長期化しているから。今、TVシリーズを1本作ろうとすると場合によっては制作期間が2年ほどかかってしまうこともあるので、以前と比べて経験を積むのに時間がかかるんですよね。
私が若いころは、1、2年の間に3、4作品手がけることもありましたから、大変ではありましたがいろいろなジャンルの作品に携わることでスキルアップができました。好きな作品を担当する機会も多かったです。
ですのでPsyde Kick Studioでは、若い人たちの技術や経験の少なさをフォローしながら、自分がやりたい作品を自由に楽しく作れる環境を作るための方法論を、模索したいと考えています。
――Psyde Kick Studio を立ち上げるにあたり、A1Pとして次の世代にバトンを渡すような動きも求められていたのでしょうか。
加藤:A1Pも設立から20年経って、制作だけでも約100人近くが在籍しています。主に40代ぐらいのプロデューサーを中心にした制作チームがA1Pを支えているんです。
そのなかで、数年前から会社として考えてきたひとつのミッションというのが、世代交代です。会社の設立初期から活躍していたプロデューサー世代がいまだにプロデュースを続けていると、40代以下のスタッフがなかなか上のポジションに上がれません。そうなると、モチベーションを保つのも難しいし、会社の成長にも限界が来てしまいます。優秀な人材を育てていくためにも、早い段階から代替わりをやるべきだと思っていました。
この10年ほどかけて、A1P内で組織体制の見直しを進めてきました。その結果、ようやく変化が見られ、変わりつつある今だからこそ、新レーベルの立ち上げにも最適なタイミングなのではないかと感じています。
――世代交代に関しても、レーベル代表である加藤さん自身がこれまでのキャリアで実感してきたことが反映されているのですね。
加藤:組織は規模が大きくなるとまとまるのが大変なので、ものづくりはミニマムな方がいいと思っています。ものづくりはミニマムのチームで個性を出しつつ、会社経営的にはグループとしてのスケールメリットをいかす。そういった組織のいいとこ取りをしながら成長していくべきだと考えていました。
Psyde Kick Studioの立ち上げについても影響したのが、私が企画開発に関わった2022年の『リコリス・リコイル』でした。原作があるアニメーションが世界的にも結果が出ている現状で、オリジナルタイトルを世に出すハードルが高くなっているなか、『リコリス・リコイル』というオリジナル作品がヒットしたことが、とても大きかったですね。
――オリジナルアニメーションを作る若いクリエイターの“場”であるPsyde Kick Studioでは、具体的にどのような作品を生み出していきたいですか。
加藤:以前の取材で、私はA1Pの特徴は、突出した色がないことだと言ったことがあるのですが、逆にPsyde Kick Studioが手がける作品には、色をつけたいんですね。ここにいる藤井くんがヒットを飛ばしたら、“藤井作品”であることを前面に出していきたいですし。
■関連記事
A-1 Picturesの20年を振り返りながら見えてくるアニメ制作現場の未来像①
A-1 Picturesの20年を振り返りながら見えてくるアニメ制作現場の未来像②
藤井:小規模な制作スタジオ作品が、爆発的なヒットを生み出す例は少なくないですし、スタジオの印象も残りやすいですよね。
加藤:ジャンルや作品の傾向ではなく、もっと属人的な色ですね。人に紐づいたかたちでの個性、作家性みたいなものはぜひ出していけたらと思っています。作品ごとにクリエイターが集まって、作って、チームを解散してまた次、と繰り返すのではなく、理想はなるべく同じチームで2作目、3作目と積み重ねて、個性を作り上げていくこと。
今、藤井くんのチームで取り組んでいる最新作が『グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~』なのですが、この作品もかなりチャレンジングです。オリジナルアニメーションだからできることでもありますが、そういったクリエイターも含めたチームのブランド化を図って個性を出していきたいと考えています。
――監督の作家性だけでなく、チームとしての色ですね。
加藤:そうですね。クリエイターである監督だけでなくプロデューサーもセットですね。例えば、2021年のTVアニメーション『86―エイティシックス―』は、藤井くんがプロデュースした石井俊匡監督作品。石井さんの監督作品はまだ少ないですが、クリエイターとしてすごく可能性を感じる。そういうクリエイターの価値をチームカラーとして最大化していくことをやりたいですね。
――そんなPsyde Kick Studioが制作に名を連ねた第1号作品として『クスノキの番人』が世に出たわけですが、この作品にはレーベルとしてどんな意義を感じていますか?
藤井:『クスノキの番人』は、Psyde Kick Studio設立前からA-1 Pictures作品として伊藤智彦監督のもとで立ち上がった作品なので、若干成り立ちは違いましたが、Psyde Kick Studioとしての特徴も、きちんと反映された作品になっています。
キャラクターデザイナーとしてクレジットされている板垣彰子さんのほかにもメインで入っている若いクリエイターが多数います。そこに、劇場版を手がけてくださるのにふさわしい実力派のベテランが加わることで、技術的な継承も行なわれていました。
――Psyde Kick Studioの未来については、どのように考えていますか?
加藤:レーベルとしては“何かやりたい、作りたい”という若い人たちの感性をいかして、みんなでワイワイ言いながらやっていけるような場所にするのが理想です。藤井くんと若手の監督が“こういうの面白いじゃん!”と話し合いながら、“じゃあ、こんなものを作りたいよね”と発想していけるような。
――プロデューサー、クリエイターの“好き”をかたちにできるレーベルですね。
加藤:好きなものを表に出して人に伝えるのって、意外と気恥ずかしかったりしますよね。でもそういうことを自由に言い合えるのが、クリエイティブとしては一番面白いし、そういう雰囲気が作れたらいい。私は若いスタッフによく、自分が面白いと感じるものを、とにかくいっぱい見つけてほしいと話しています。
映画でもTVでも小説、音楽、舞台……なんでもいいのですが、流行に流されずに自分のなかで面白いと感じた心は、他人が何と言おうが絶対じゃないですか。その“面白い”の感覚をユーザーにちゃんと伝えられたら、共感してくれる人は必ずいますから。
できたらこのチームではオリジナル作品を作ることをひとつの目標にしたいので、その“面白い”をどこまで追求できるかが大切。自分たちの“面白さ”を、忖度無くお互い語り合える仲間が増えることが、Psyde Kick Studioのベースになるのではないかと思っています。
藤井:アニメーション作品はエンタテインメントですから、コメディでも感動作でも、何かの方向でエンタテインメントをしていないと絶対に誰も見てくれないんですね。だからこそ、作り手が“これが面白いんだ”と思って作らないと成立しない。そこはブレずに、ずっと続けていきたいです。
加藤:最近のアニメーションは原作もの、シリーズものが圧倒的に多いので、自分たちで企画をゼロから作るという意識や、それを成立させるために必要な経験を、制作側が得られにくい環境になっていると思うんですよね。
オリジナル作品を手がけることで、監督もプロデューサーも大きく成長する気がしています。またオリジナルを作るのはビジネス的にもハードルが高いですが、そこでヒットが生まれることで、クリエイターの皆さんに経済的にしっかりお返しできるかたちも作りやすくなります。その一歩に、Psyde Kick Studioが貢献できたらいいなと思います。
――『クスノキの番人』に続いては、『グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~』がラインナップされていますが、今後の展開としては?
加藤:今は『グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~』に注力しているところなので、具体的にお話しできる段階には至っていませんが、先ほどお話しした『リコリス・リコイル』の新作もぜひPsyde Kick Studioとして手がけていきたいですし、ほかの作品に関しても仕込みを行なっています。『クスノキの番人』『グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~』を含めて、今後の情報にぜひご期待いただければと思います。
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
2026.07.06
2026.07.05
2026.07.04
2026.07.03

2026.07.02
2026.07.01
ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!