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アニメづくりへの情熱

A-1 Picturesの20年を振り返りながら見えてくるアニメ制作現場の未来像②

2025.07.05

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2005年5月9日に設立され、2025年で20周年を迎える、アニプレックス(以下、ANX)傘下のアニメーション制作スタジオ・A-1 Pictures(以下、A1P)。同社の設立に携わりながら、現在はスタジオの運営を任される3人のキーパーソンが、これまでの歩みを振り返りながら、アニメ制作現場の変遷と今後を展望する。

後編では、コロナ禍以降のアニメ制作現場のDX化やA1Pが目指すアニメ制作スタジオの理想像を語る。

  • 落越友則プロフィール画像

    落越友則

    Ochikoshi Tomonori

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    執行役員

    アニプレックス
    取締役執行役員専務

    A-1 Pictures
    代表取締役会長

    CloverWorks
    代表取締役会長

  • 清水暁プロフィール画像

    清水 暁

    Shimizu Akira

    A-1 Pictures
    代表取締役 執行役員社長

    CloverWorks
    代表取締役 執行役員社長

  • 加藤淳プロフィール画像

    加藤 淳

    Kato Jun

    A-1 Pictures
    執行役員専務

記事の前編はこちら:A-1 Picturesの20年を振り返りながら見えてくるアニメ制作現場の未来像①

幅広いジャンルの作品が生まれた“A-1 Pictures奇跡の年”

――『おおきく振りかぶって』(以下、おお振り)以降、A1Pは幅広いジャンルの作品を制作しています。例えば、『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』(以下、うた☆プリ)や『THE IDOLM@STER』(以下、アイドルマスター)などアイドルものもそのひとつです。

加藤:自分は当時、『うた☆プリ』を担当、いっぽうで清水さんは『アイドルマスター』を担当していました。2011年の7月クールという放送時期も同じで、アイドルものを2本同時に作っていたんです。

制作する以上はヒットさせたいと思っていたので、当時は自分なりにいろいろと考えながらやっていました。

『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』キービジュアル

『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』(2011年)©UTA☆PRI PROJECT

『THE IDOLM@STER』キービジュアル

『THE IDOLM@STER』(2011年)©BNEI/PROJECT iM@S

――どちらも多くのファンに愛される作品となりました。両作品ともアイドルがテーマということで、ライブシーンなど見どころが多かったと思います。

清水:それぞれアプローチの仕方が違うのが面白かったですよね。見せ方は違うけれど、どちらもアニメーションの作り込みとしては、大変なことをやっているという(笑)。

加藤:私の感覚だと、当時、女性層をメインターゲットにしたアニメというのは、止めの絵の美しさを重視している作品が多かったように感じていて。でも、自分には『おお振り』のときの経験があったので、ゴリゴリ動かすぞ、という感じで始めたんですね。ほかにもいろいろな要因があったかと思うんですが、それが視聴者の皆さんに受け入れられたのかなと。

清水:両作品が放送された2011年は、“A-1 Pictures奇跡の年”って言われていたんですよ。『アイドルマスター』『うた☆プリ』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、あの花。)『青の祓魔師』『WORKING’!!』もあって。当時発表した作品が軒並み注目を集めました。それもあって、さらなる拡大路線に踏み込んでいきましたね。

身振り手振りで話す清水 暁

――2011年以降の拡大路線にあるA1Pの姿を落越さんはどのように見ていましたか?

落越:このころ、私は作品づくりにはできる限りプロデューサーに任せて口を出さないようにしていました。だから、作品が上手くいったかどうかよりも、作品を生み出しやすい環境づくりに注力していたという感じですね。

アニメに限らずですが、作ったものはヒットしたほうがもちろんいいわけですけど、スタジオの成長という意味では、それだけの価値観で測りたくなくて。作品として面白いものになったり、スタッフの頑張りがわかるものになったり、誰かの記憶に残るものになったり、そうやって何か手応えがあって次につながれば、それもいいことだと思っていました。

そのうえでスタジオとしては、どの作品でも、クオリティに関して高いアベレージを守り続けることが大事。それをブレずにやっていくことで、クライアントやファンから信頼してもらえることになり、それがブランディングにつながる。なので、不安定な作品が出ないようにするための環境づくりが大事だなと思っていました。

――この時期に発表された作品には、現在も続く長期シリーズになった作品もたくさんあります。

加藤:そうですね。『うた☆プリ』も第4期まで続き、劇場版も制作しました。

清水:続編を望まれるということは、次はもっといいものを見せてほしいという期待の表われでもあるから、現場のプレッシャーは大きいですが、とても名誉なことですよね。

――10年続いた作品も数多くありますね。

加藤:10年続いたタイトルというと……『うた☆プリ』、『ソードアート・オンライン』(2012年)、『黒執事』など(2008年)……。

『ソードアート・オンライン』キービジュアル

『ソードアート・オンライン』(2012年)©川原 礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project

『黒執事』キービジュアル

『黒執事』(2008年)©枢やな/スクウェアエニックス・女王の番犬・MBS

あとは、先ほども話に挙がった『あの花。』ですかね。『あの花。』は、長井龍雪さん(監督)、岡田磨里さん(脚本)、田中将賀さん(キャラクターデザイン)という3人のクリエイターが、引き続き同じ座組でオリジナル作品に挑戦し続けているという意味でも大事なシリーズになりましたね。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』キービジュアル

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』©ANOHANA PROJECT

『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』キービジュアル

『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』©ANOHANA PROJECT

コロナ禍で一気に進んだアニメ制作現場のDX

――A1Pの20年を振り返るうえで、近年、最大のトピックとして挙げられるのがコロナ禍だと思います。当時、アニメの制作現場もソーシャルディスタンスを守るために、さまざまな対策を行なっていたことを、以前、清水さんに取材させてもらいました。改めて、あのときはどのような状況だったのでしょうか。

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清水:コロナ禍の影響は本当に大きくて。当時は、終わりが見えないような緊迫感があったじゃないですか。この先どうなってしまうのだろう……という不安のなかで、どうにか対策を打たないといけない。特にアニメ番組は放送が止まらなかったから、大変でしたね。

加藤:映画の上映やドラマ、バラエティ番組の放送はいったん止まったのに、なぜかアニメだけはずっと放送されるものだと思われていた節がありましたね。

清水:コロナ禍のときにTVCMやミュージックビデオもアニメ調の表現が増えたりして。逆に、アニメの需要が増えたような感覚がありました。

加藤:今だから言えますが、正直、現場は大変でしたからね。出社制限もしたし、リモートの環境も整えて……。

――コロナ禍を経たことで、アニメの制作現場におけるリモート、デジタル環境への変化が起きたと聞きます。

加藤:アニメクリエイターのデジタル化がコロナ禍をきっかけに、特に若い世代を中心に進んだというのは確かにありますね。

実は、10年以上前からずっと、手描きの作画をデジタルにシフトしようというのは課題としてあったので、これはコロナ禍において、アニメ業界が獲得できた数少ない良かったことのひとつだと捉えています。

落越:世界中のアニメクリエイターたちが知恵を絞って、それぞれが頑張った結果ですよね。

――アニメ制作現場の改善としては、DX化を図るアニメ制作ソフト「AnimeCanvas」の開発も発表。このソフトの制作はコロナ禍のなかで進められていたわけですね。

清水:「AnimeCanvas」の開発にも取り組んでいる「APDXプロジェクト(アニメ制作DXプロジェクト)」の元となったプロジェクトは、落越さんがコロナ禍の少し前に立ち上げていたんです。

落越:立ち上げたのは2020年2月ぐらいですね。それ以前から、アニメ制作現場のDX化は課題になっていたので。

清水:ソニーグループのエンジニアの方々はコロナ禍でも開発を続けてくださっていましたし、A1PとCloverWorks、そしてソニー・ミュージックエンタテインメントも協力して、新しいアニメ制作環境を生み出そうと、現在も現場スタッフが頑張ってくれています。

落越:その成果が、もう少しすると本格的に見えてくるという状況ですね。

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アニメ業界の今

――現在、アニメ制作現場はDXのみならず、人材登用や人材育成なども含めて大きな変革期を迎えています。A1Pもまた体制が変わっているようですね。

清水:アニメの制作本数が増えて、人手が足りないという現実の問題は、引き続きありますね。

加藤:人手不足は昔からずっとあった課題ですが、やはり2017~2018年くらいから顕著になってきたという印象があります。

要因のひとつとしては、作品の制作本数が増えたこと。また、同時に、ここ5年ぐらいでアニメ業界の労働状況の改善が進んでいることです。これまでアニメクリエイターはフリーランスで活動されている方が多かったのですが、人材確保のために多くの制作会社が社員登用するようになりました。そのほか複合的な要因もあって、アニメ業界のクリエイター不足はかなり深刻な状況になってきています。

清水:そういった状況で作品を作り続けるためには、人材育成が欠かせません。ただ、アニメクリエイターとして一人前になるにはどうしても時間がかかります。それを見越した長期的な戦略が今、我々アニメ制作スタジオにも求められていて、それに対する投資も行なっている状況です。

加藤:そのうえで近年の作品では、以前、新卒で入社した世代がメインのスタッフに名を連ねるようになってきたので、頼もしさを感じるとともに、着実に進めてきて良かったなと実感しているところです。ただ、そうはいっても、まだまだ人手は足りない状況ではありますが……。

落越:労働環境の改善を含めて、時代に合わせたやり方をしていくしかないんですよね。そして、経営を任される側としてはスタッフの皆さんが幸せややりがいを感じられる仕組みを考えていかなくてはいけない。働きやすくかついい作品が生み出せる環境づくりというのは、まだまだ試行錯誤が必要だと思っています。

身振り手振りで話す落越友則

A1Pの新たな制作環境

――昨年オンエアされた『負けヒロインが多すぎる!』(2024年)の第1話は、社内の原画スタッフでほとんど制作を行なっています。現在のA1Pでは、社内に仕上げスタッフ(彩色)や美術スタッフ、CGスタッフ、撮影スタッフも在籍し、アニメ制作を自社で完結できる体制になっているのでしょうか。

清水:若手スタッフも含めて、みんなが努力して環境づくりに励んでいるんですが、まだまだ複数話、シリーズ全体をA1Pだけで作ることはできていません。

これは我々マネジメント側の課題でもあるので、それが1話、2話……と増えていくように環境を整えていく必要があると思っています。

加藤:全話を自社で作ることができたら理想ですね。ただ、シリーズを社員で全部をまかなえるようになったとしたら、今度はフリーランスのアニメーターやクリエイターに余剰が出てくるんだと思うんです。

そうなったときにはまた、違うアニメの作り方が出てくるような気がしています。だから、さっき落越さんが言った通り、時代に合わせたやり方を模索し続けることが重要なんだと感じます。

落越:だからこそ、スタジオのスタイルというのは自分たちで決めない方がいいと思うんですよ。今はA1P志望のアニメーターも増えてきていますが、長い目で見たら若者の人口は減ってしまういっぽうなので。そうなったときに、その時代のアニメ制作を志す若者がA1Pを選んでもらえるような環境にしていかないといけないなと思いますね。

『負けヒロインが多すぎる!』キービジュアル

『負けヒロインが多すぎる!』(2024年)©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

A1Pが目指すアニメ制作スタジオの未来像

――コロナ禍を経て、試行錯誤も繰り返しながらではありますが、近年もA1Pを代表する作品が生まれています。

清水:近年だと『リコリス・リコイル』(2022年)が、まず挙げられますね。

『リコリス・リコイル』キービジュアル

『リコリス・リコイル』(2022年)©Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

加藤:『ソードアート・オンライン』で10年にわたりキャラクターデザインをされてきた足立(慎吾)さんが監督を務め、オリジナル作品という意味でも、A1Pを代表する作品になりましたね。

清水:それと『俺だけレベルアップな件』(2024年)ですね。これほどまでに世界で注目を集める作品になるとは思っていませんでした。

『俺だけレベルアップな件』キービジュアル

『俺だけレベルアップな件』(2024年)© Solo Leveling Animation Partners

『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』キービジュアル

『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』(2025年)© Solo Leveling Animation Partners

――『俺だけレベルアップな件』はアニメーションのクオリティについても高く評価されていましたね。

加藤:みんな意地になってやっていたと思いますね。だって嫌じゃないですか、自分の担当のところで、「なんかここだけクオリティ下がってない?」なんて言われたら(笑)。そういうスタッフ間の切磋琢磨が、相乗効果となりファンの皆さんに届いたのかなと思います。

微笑みながら話す加藤淳

――それでは最後に、A1Pとしての今後の展望を教えてください。

加藤:自分としては、これからもいい作品を作っていく、シンプルにそれが目標ですね。若いスタッフによく言っているのは“結局スタジオの存在価値は、いい作品を作れるかどうかで決まる”ということ。

みんな、いい作品を作りたくてスタジオに集まっているので、お互いが刺激しあっていければ、きっとスタジオも成長していく。そして会社としては制作体制や環境をより良くして、スタッフのみんながより作品を作りやすい状況にしていければいいなと。その考えはおそらく20年前から変わっていないだろうと思います。

それをこれからも続けていって、ひとりでも多く人の心を震わせる作品を作っていきたいと思います。

清水:会社としては長く続くことが大事ですよね。若い世代が育つ環境を作り、次の世代に我々が持つ技術や経験をうまくパスしていって、20年と言わず、50年、100年と、サステナブルな会社にするというのが私の目標です。

それと、最初に“色がないのがA1Pのカラー”というお話をしましたが、これからも何かに捉われることなく、そのときのトレンドに合わせて作品を作っていくことが重要だと考えています。身近にANXというパートナーもいるので、ANXのビジネスとも連動しながら、A1Pとしてベストなかたちを考えていきたいと思っています。

落越:ANXの立場で言うと、A1Pにはもう安心感があるんですよね。『俺だけレベルアップな件』のような、世界的に注目を集める作品も作れているし、制作本数も安定している。むしろANXがどうやって、A1Pというアニメ制作スタジオをいかす企画を作れるのかということが問われているようにも思います。

現在のアニメ業界を見ると、個々のスタジオに対する期待感も大きくなっているように感じるんです。その視点で言うならANXが企画を考えるだけでなく、A1Pが独自に企画を考えてもいい。

これまでのANXとA1Pの関係性がいいのか、もっとお互い独立したほうがいいのか、はたまた融合したほうがいいのか。お互いがよりいきいきと活動できる体制づくりについても、これからの課題ですね。あとは、1本でも多く、ひとりでも多く、新しい作品や才能が出てきてくれることを願っています。

A-1 Pictures20周年キービジュアル

記事の前編はこちら:A-1 Picturesの20年を振り返りながら見えてくるアニメ制作現場の未来像①

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

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