AnimeCanvasの開発関係者3人が並んでいる写真
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「AnimeCanvas」から始めるアニメ制作現場のDX②――開発の進捗は? 搭載機能の一部も紹介

2024.10.21

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ソニーグループ(以下、SGC)とソニーミュージックグループがアニメ制作環境のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指して立ち上げた「APDXプロジェクト(アニメ制作DXプロジェクト)」。本プロジェクトの取り組みのひとつとして、開発が進められているアニメ制作ソフト「AnimeCanvas(アニメキャンバス)」の関係者に集まってもらい、本プロジェクトの開発経緯と最新の進捗状況を語ってもらった。後編では、「AnimeCanvas」の具体的な機能を解説する。

  • 髙橋学のプロフィール写真

    高橋 学

    Takahashi Manabu

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 髙橋剛史のプロフィール写真

    髙橋剛史

    Takahashi Tsuyoshi

    A-1 Pictures

  • 倉澤太一のプロフィール写真

    倉澤太一

    Kurasawa Taichi

    CloverWorks

記事の前編はこちら:「AnimeCanvas」から始めるアニメ制作現場のDX①――目指すは業界のデファクトスタンダード

エンジニアたちを動かす、アニメが好きだという思い

――ここからは「AnimeCanvas」の特徴を聞いていきます。高橋(学)さんは「AnimeCanvas」の強みはどこにあると考えていますか。

高橋(学):ひとことで言うと、アニメ制作に特化したソフトウェアだということです。「AnimeCanvas」のなかには原画、動画作成用の作画ソフト「AnimeCanvas KEY/DO」(以下、KEY/DO)と、動画の彩色作業用の仕上げソフト「AnimeCanvas COLOR」(以下、COLOR)という2つのソフトがあります。

前者の「KEY/DO」はこれまで紙で作業をしてきた方が紙の作業に近しい感覚で作業できるものを、後者の「COLOR」は既存のソフトを使っていらっしゃる方が移行しやすいものを目指しています。

アニメキャンバスの操作画面

仕上げ用ソフト「AnimeCanvas COLOR」(※画面は開発中のものです)

――開発の実作業を行なうSGCやソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のエンジニアの皆さんとは、どのようなコミュニケーションをしていますか。

高橋(学):これはソニーグループの強みと言えると思いますが、開発途中の「AnimeCanvas」をA-1 Pictures(以下、A1P)、CloverWorks(以下、CLW)の現場の方々に使ってもらって、使用感をヒアリングして課題を洗い出し、機能をブラッシュアップするということを日々行なっています。このサイクルをかなり頻度高く行なうことができているので実用的な仕上がりになるのではないかと思っています。

これもアニプレックス(以下、ANX)とA1P、CLWが同じソニーミュージックグループであるからこそ実現できた開発環境です。

真剣な表情で話す高橋学

倉澤:エンジニアの皆さんがA1Pの制作現場に入って、動画と仕上げの作業を実際に最後まで体験するといったこともありましたね。

高橋(学):ありました。エンジニアの皆さんが動画・仕上げ研修を受ける機会を作ってもらったんですよね。動画と仕上げを合わせて1カ月くらい、でしたね。

髙橋(剛):最初の作業依頼を受けた状態から、最後の納品までひと通り現場に張りついてもらって、アニメの制作現場がどのように動いているのかを肌で感じてもらったんです。合わせて実際の原画作業は別途で作業風景の撮影も行いました。アニメ制作に特化したソフトを作る以上は、アニメーターが日常的にどんなことで困っているのかを体感してもらったほうが絶対に共通言語が増えると思ったので、我々としてもありがたかったです。

コミュニケーションを図るにしても、一つひとつを細かく説明していては、それだけ時間もかかりますし、改善してほしいことが違っていたら、またやり直しになってしまいます。開発の齟齬をなくす意味でも重要な研修だったと思います。

高橋(学):ほかにも、CLWの制作現場で制作進行業務を体験したエンジニアもいました。

倉澤:アニメの現場では用語の使い方が独特で。同じ単語を使っていても、別のセクションでは違う意味になっていたりするので、現場に入らないとわからないことが多いんですよね。そういうところはやっぱりスタジオに入ってもらって、体験してもらうのが一番でした。

高橋(学):エンジニアにも研修の感想を聞きましたが、総じて体験できて良かったというポジティブな感想でしたね。研修前とあとでは、解像感がまったく違うと。ただ、SMEのEdgeTechプロジェクト本部にエンジニアとして入って、最初の仕事がアニメ制作現場の研修という人間もいたので、面食らった人もいましたが(笑)。

――そうやってエンジニアの皆さんが現場を知ったあと、開発はどのように進みましたか。

高橋(学):まずは「AnimeCanvas」のプロトタイプを制作しました。それを現場のクリエイターの方々に触ってもらって、厳しいコメントをたくさんいただく。それを持ち帰って、次のバージョンを作って、また現場に見てもらう……。もうひたすらこれの繰り返しですね。

髙橋(剛):通常のソフト開発に比べたらすごいやり取りの回数ですよね。

高橋(学):月に一度は「ちょっと触ってもらって良いですか?」とテストをしてもらっていますからね。

――倉澤さん、髙橋(剛)さんは、SGCやSMEのEdgeTechプロジェクト本部のエンジニアの皆さんにどんな印象を持ちましたか。

髙橋(剛):現場に対する理解も早かったですし、論理的に会話も進めてくれるので、打ち合わせの効率がすごく良いなと思いました。

アニメ業界のクリエイターは会話のコミュニケーションより、絵で表現したい人も多いのですが、エンジニアの皆さんがアニメの作り方を必死で勉強してくださったおかげで、そういったクリエイターたちの言いたいことを汲み取ってもらえるようになり、本質を理解してもらえた。先ほども出ましたが、これは、こうした開発環境じゃないと生まれなかったと思います。

倉澤:今回のプロジェクトに参加しているエンジニアの皆さんは、かなりアニメ好きなんですよ(笑)。アニメが好きだから、頑張ってくれている感じもすごくあって。こちらが無茶なことを言ってもやってくださる。アニメというものにこちらも助けてもらっているなと感じています。みんなが好きなものでつながっているからこそ、スムーズに開発が進んでいるのだと思います。

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倉澤太一が真剣に話している様子

「AnimeCanvas」に実装される機能

――この「AnimeCanvas」でSGCのどのような技術が使われているのでしょうか。

高橋(学):実のところ、SGCで研究しているさまざまなテクノロジーを転用しているというよりも、フルスクラッチでアニメクリエイター向けに技術開発を行なっています。例えば、「AnimeCanvas」ではペンタブレットで絵を描くわけですが、作画のソフトである以上は、画面にスタイラスでタッチしたら瞬時に反応してほしいわけです。

作画ソフトにとって、書き味は命ですから。そして、その反応速度のわずかな違いで書きやすさは全然違ってくる。そこの調整をエンジニアが突き詰めてくれています。

──「AnimeCanvas」を通して、アニメの制作現場にどのような貢献ができるのでしょうか。このツールで、どんなことを実現したいですか。

高橋(学):アニメ制作現場は工程ごとに分業化されていますが、各工程のなかで、あまりクオリティに寄与しない、単純に手間がかかる作業もたくさんあります。そういった作業をなるべく自動化し、こだわりや作る楽しみは保ちながら作業を効率化できたらと考えています。

──クリエイティビティよりも効率化が優先される作業を最適化するツールということですね。つづいて「AnimeCanvas」ならではの機能も教えてください。

高橋(学):仕上げ用ソフト「AnimeCanvas COLOR」のなかに、「スマートフィル」という機能があります。仕上げは主に動画(線画)の各領域を塗りつぶしツールで色をつける作業なんですが、これまでのソフトでは、塗りつぶしで色をつける際、「ここからここまで塗りたい」と思っても、途中で線画が切れていたり、領域が1ピクセルでもつながっていなかったりすると、思い通りに塗りつぶされてないんです。塗れなかったところを再度タップしないといけないんですね。

これに対して、「スマートフィル」では「きっとここも同じ色で塗りたいですよね?」と自動的に判定してくれて、ワンクリックでより効率的に仕上げ作業をしていくことができます。

髙橋(剛):仕上げ作業ではドット抜けがあると塗りミスになってしまいます。もちろん、何度もチェックをしてそういうミスを潰していくんですが、「スマートフィル」を使うことでそういうミスが減っていくので、ありがたい機能だと思っています。

――2024年5月23日のSGCの経営方針説明会で「AnimeCanvas」の開発が発表されました。反響はありましたか。

高橋(学):大変ありがたいことに、反響は大きかったです。アニメ業界のいろいろなスタジオさんからお問い合わせもいただいています。

ソニーの経営方針説明会でAnimeCanvasが紹介されている写真

髙橋(剛):まだ実際のUI(ユーザーインターフェイス)も公開されていないので、漠然とした情報しかないというのもありますが、「AnimeCanvasってどういうものなんですか?」といった問い合わせを個人的に受けることも多いです。

倉澤:CLWは今年の4月に社屋を引っ越したんですね。他社の方々から、新社屋を見学させてほしいという申し出を受けることが多いのですが、そのときに「AnimeCanvas」の話題にもなるんですよ。みんなちゃんとニュースを見ているんだなと。

思った以上に、皆さんが気にしてくださっているので、これを機に「AnimeCanvas」を業界全体に認知してもらえるような足がかりになれば良いなと思っています。

「AnimeCanvas」が変える、これからのアニメ制作の現場

――ビジネスとして考えたときに「AnimeCanvas」はどんなビジネスモデルを考えているのでしょうか。

高橋(学):「AnimeCanvas」はアニメ制作に特化したソフトなので、アニメ業界のみなさんにご提供するものです。アニメ業界のなかでスタジオに所属されている方、フリーランスの方々を含めて考えても、おそらくユーザーは1~2万人程度です。それを考えると、収益を継続して確保していくことは難しい。ソフトウェアビジネスとして大きな利益を上げることは少なくとも現時点では考えておらず、まずはソフトのメンテナンス、改善、サポートがつづけられる最低限の収益を確保し、安定運用できるラインを目指しています。

「APDXプロジェクト」の目的は「AnimeCanvas」で制作現場の効率化を図り、そのことでアニメ作品の制作スピードの向上や、アニメーターの方たちのクリエイティビティが刺激されアニメビジネス自体が活性化することで、結果的にソニーグループでもビジネスの機会が増えていくこと、という大きな枠組みで捉えています。

――「AnimeCanvas」が登場することで、アニメ制作はどのように変わっていくと思いますか。今後のビジョンを教えてください。

高橋(学):「AnimeCanvas」を使っていただくことによって、現場の作業効率は現状のソフトよりも向上させられると考えています。やはり現場のみなさんには、クリエイティブな作業に集中していただけるようにしたい。不要なことはやらずに、作業に没頭できるようなソフトにするべく現在、鋭意開発進行中です。最新のUIも10月19日に開催された「あにつく2024」のセミナーでご紹介しました。アーカイブ映像が後日公開される予定とのことですので、そちらも合わせてご覧ください。

倉澤:従来のソフトだと仕様的に使用できるメモリの制限があって、解像度を上げられないという制約がありました。「AnimeCanvas」はそういった制限がなくなる予定なので、HD以上の映像が作りやすくなるというメリットもあります。

ただ、すぐに4Kの映像が作れるかというと作業者の作業量という問題が出てくるので難しいかなと思っていますが、スペック的には可能になっている。この先にアニメ業界でも4K映像の制作などが行なわれる未来もあるのかなと思っています。ただ、現時点ではまず効率化ですよね。現場の効率化が「AnimeCanvas」の一番のメリットです。

髙橋(剛):現時点のアニメーション制作環境は時代に追いついていない状況です。そこに「AnimeCanvas」があって初めてプラマイゼロに転じるくらいのイメージです。まずは時代に追いついて、正常な環境で仕事ができるようにするということを考えています。

うつむき加減に話す髙橋剛史

高橋(学):ゆくゆくは社外のスタジオの皆さんにも「AnimeCanvas」を提供していくことを想定しています。アニメ作品は、ひとつのシリーズ作品においても複数の会社が制作協力として入ることで作られています。いわゆるグロスの会社(一話分を制作を受ける制作会社)が入っていたり、海外の会社にアウトソーシングしている工程があったりもします。

各社が同じソフトを使っていないと、どうしても作業効率は上がらない。本当の意味で、作業効率を上げるためにも、業界内に幅広く「AnimeCanvas」をご提供して、統一した制作環境を作っていけたら良いなと。ゆくゆくは「AnimeCanvas」が業界のデファクトスタンダードになれたら良いなと思いますね。

AnimeCanvasの開発関係者3人が並んで座り笑っている

記事の前編はこちら:「AnimeCanvas」から始めるアニメ制作現場のDX①――目指すは業界のデファクトスタンダード

取材・文:志田英邦
撮影:干川 修

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