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連載Cocotame Series

サステナビリティ ~私たちにできること~

アーティスト、クリエイター、スタッフの心と身体をサポート――『B-side』という持続可能な取り組み【後編】

2022.04.05

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ソニーミュージックグループでは、持続可能な社会の発展を目指して、環境に配慮した活動や社会貢献活動、多様な社会に向けた活動など、エンタテインメントを通じたさまざまな取り組みを行なっている。連載企画「サステナビリティ~私たちにできること~」では、そんなサステナビリティ活動に取り組む人たちに話を聞いていく。

第2回は、アーティストやクリエイター、そして彼らを支えるスタッフの心と身体をサポートするプロジェクト、『B-side』をフィーチャーする。より良い社会の実現、持続可能な社会を発展させていくために、人の心を震わせ、ときには生きるための活力となるエンタテインメントは、なくてはならないもの。だからこそ、それを生み出すアーティストやクリエイターへのサポートは必要不可欠であるという考えから始まった『B-side』。このプロジェクトの具体的な取り組み、将来に見据えるビジョンついて、外部コンサルタントとしてプロジェクトに携わる石井由里氏と、プロジェクトリーダーを務める徳留愛理に話を聞いた。

後編では、『B-side』の役割と活用法、そして未来の展望を語ってもらう。

  • 石井由里氏

    Ishii Yuri

    ユリコンサルティング合同会社
    代表

  • 徳留愛理

    Tokutome Airi

    ソニー・ミュージックレーベルズ
    SML Management

どんなときもサポートする人がそばにいるという安心感を

──(前編(新しいタブで開く)からつづく)SNSを介したファンとの距離感というお話が挙がりましたが、確かにファンの方たちの熱量が簡単に届けられ、触れられるようになったいっぽうで、アーティストやクリエイターの心をえぐってしまうような言葉もSNS上にはたくさん投稿されているように感じます。

徳留:そうですね。また、どんな言葉に敏感になるのかは、それこそ一人ひとり違います。だからこそ、『B-side』は組織として存在する必要があるなと思っています。『B-side』を立ち上げた最大の目的は、アーティストやクリエイターに“悩んでいるとき、困ったときに、真剣にサポートしようとしているスタッフが身近にいると知ってもらうこと”です。

実際、問題を解決できるかどうかはわかりませんし、SNSで目に飛び込んでくるすべての言葉から守ることも不可能です。ただ、助けになりたいと思っている人がいること、助けになれるかもしれないサポート体制があることは知っておいてもらいたいです。

石井:アーティストに限らず、大きなプレッシャーと対峙されている方、経営者の方々はそうそう愚痴もこぼせず、孤独を感じるという方も少なくありません。先日も、これまでは「何があっても自分は大丈夫!」とおっしゃっていた経営者の方に「なにかあったときに話を聞いてくれる人がいると思うだけで、気が楽になる」と言われました。『B-side』は、セーフティネットのようなもの。転んだあとの治療も大事ですが、怪我をする前に「そう言えば『B-side』っていうのがあったなと」と思い出してもらうことが大事なんだと思います。

──『B-side』を立ち上げたときの反響はいかがでしたか?

徳留:最初に社内で声を挙げたときに、賛同し、すぐに一緒に動いてくれたスタッフがいたのがうれしかったですね。石井さんをはじめ、外部の方々に相談したときも「そういう取り組みは、エンタメ業界においても当たり前になっていくべきです」と反応していただけました。

取り組みとしてはまだまだ始まったばかりですが、同業他社の方からも良い反応をいただいています。実際にカウンセリングを受けたアーティストからも「行って良かった」「ほかのアーティストにも薦めたい」という声も聞こえました。ただ、そのいっぽう で「カウンセリングを受けても変わらないと思う」「自分は利用しない」というアーティストもいます。それで良いと思います。人によって考え方、捉え方は異なりますし、どちらが正しいも、間違っているもないと思っています。

石井:国内のエンタメ業界では、このような取り組みを会社として表明したのは『B-side』が初めてではないかと思いますが、海外では以前からアーティストのメンタルヘルスケアをサポートする取り組みと実例がいくつもありました。特にアメリカやヨーロッパの各国では、社会全体でアーティストを支えようという文化が根付いています。実際、コロナ禍になったときもアーティストへの金銭的なサポートが迅速かつ大々的に行なわれていました。

ただ、欧州のある会社がインディペンデントのミュージシャンを対象に調査を行なったところ、70%以上の人がメンタルヘルスに問題を抱えていると回答したそうです。この数字はかなりショッキングと言えます。

この数字の背景には、アーティスト活動に関する成功へのプレッシャー、経済的な不安、創作を行なう上での孤独感、SNSで矢面に立つことなど、さまざまな要因が挙げられます。しかも、これはコロナ禍前の調査だったので、今ならもっと数字が高くなるかもしれません。もし、人を感動させたり、勇気づけたり、人生を豊かにしてくれるアーティストが、安心して活動をつづけられないとしたら、そんな社会はサステナブルとは言えないでしょう。だからこそ、社会全体でサポートする必要があるのではないかと。

また、『B-side』が取り組む心と身体のケアは、「みんなを一様に健康にして、綺麗に同じ形に揃えましょう」というものではまったくありません。創作活動に支障が出るほど苦しくてたまらないという状態にはなってほしくない、自分らしさを維持しながら、自分自身が納得のできるアーティスト活動が持続できるように、それぞれの個性にあったサポートができればと考えています。

メンタルセルフケアの重要性

──アーティストやクリエイター、彼らを支えるスタッフが、自分自身でメンタルの不調に気付き、自分の心と身体を整えられるようにサポートする。そのためにも、『B-side』が存在するということですね。ただ、自分自身でメンタルの不調に気付くというのも難しいように思いますが、何か日ごろから意識しておけることはありますか。

石井:いわゆる“セルフケア”ですね。アーティストやクリエイターに限らず、誰だって落ち込むときがありますし、心を常に平穏にしておくのは簡単ではないですよね。まずは、「こういうことがあると、自分は落ち込みやすいな」と自分の傾向を理解しておくと、「落ち込んでいる自分」「いつもとちょっと違う自分」という変化にも気付きやすくなれるのではないでしょうか。客観的に自分の状態を知ることはとても重要です。

落ち込んだときにひとりで悶々と「これは自分が背負っていかなければならないんだ。楽にはならないんだ」と抱え込まず、自分なりのリラックス方法を持っておくことや、誰かに話したり、専門家の話を聞いたりすることでも対処法が見付かる可能性があります。気分が落ち込んだとしても対処法があれば回復につながります。

特に最近は、コロナ禍があり、世界情勢も大変な状況で、気分が落ち着かないという人が多いと思います。こんな状態が2年以上もつづけば、どんなにメンタルが強い人でも心がざわざわするのは当然のことなんです。そのざわつきを否定したり、自分だけがおかしいのではなどと考えず、まずは「今、自分の心はざわざわしているな。でも、こういう状況なんだから仕方ないよね」と受け入れる。その上で、苦しいときはSNSやニュースを見る時間を減らしたり、カウンセラーに話を聞いてもらったりと、少しでも気持ちが楽になるように、行動を変えてみるのが良いと思います。

徳留:カウンセリングのメリットは、普段の自分と接点のない人と話せることなんですよね。友達でも家族でもない、なんのしがらみもない人、しかも話を聞くプロが相手だからこそ、気兼ねなく自分の弱みを話せることがあります。私も『B-side』を立ち上げる上で、初めてカウンセラーの方に話を聞いてもらいましたが、とても良い経験でした。一度試す価値はあると思います。

石井:徳留さん、ご自身も変わりましたよね。最初のころは「『B-side』を立ち上げるのなら、試しにカウンセリングを受けてみたら?」と言っても、「いえ、私は大丈夫です!」という感じだったのに(笑)。

徳留:正直なことを言うと、カウンセリングに対して、鬱々としたイメージを持っていたんです。「実はこんなことがあって……」と秘密を打ち明けるような感じなのかなと思っていて、それは私には必要ないなと。

でも、実際にカウンセリングを受けてみたら、非常にロジカルでフラットで、話をしながら自分の思考が整理され、「あ、私はこういう風に感じていたんだな」と改めて気付くことがありました。その上で、的確なアドバイスをいただき、「確かにそうだな」と客観的に受け入れることができる部分もありましたね。

完全に気持ちが塞いでしまったときは、また違うのかもしれませんが、その手前、ちょっとバランスを失いかけたときにカウンセラーの方と話すと、気持ちが引き戻されるんじゃないかと個人的に思います。そういう利用の仕方もあるということを感じました。

──自分だけに限らず、心のバランスを失いかけたときには、一般的にどのようなサインが現われるのでしょう。

石井:「いつもと違う」というのが、最初のサインになることが多いですね。例えば「普段はこんなことでは怒らないのに、なんでこんなにイライラするんだろう」とか。普段明るい人が急に喋らなくなったり、逆に普段おとなしい人が饒舌になったりすれば、いつもと違うサインですね。あとは睡眠に出ることも多いです。眠れない、すぐ目が覚める、起きられない。こちらも普段との違いがチェックポイントです。

──今、挙げていただいたのはわかりやすい例ということですよね。

石井:そうですね。ですから、身近な人が「なにかいつもと違うな」と漠然とでも違和感を覚えたら、声を掛けてあげてほしいです。その際、気を付けたいのは、「大丈夫?」と聞かれると、大抵の人は「大丈夫」と返してしまうこと。だから、最初のひと声は、それ以外の言葉が良いですね。

──例えば、どういう選択肢がありますか?

石井:人それぞれ、相手との関係性や状況によっても異なるので、正解があるわけではないですが、「いつもと違う」という事実を、客観的に伝えてあげるのは最初のコミュニケーションとして大事だと思います。

あくまで一例ですけど、「最近元気が無いように見えて、ちょっと心配している。良ければ少し話を聞かせてくれない?」と聞けば、相手も話しやすくなり、「大丈夫?」「大丈夫!」のコミュニケーションだけでは終わらないのではないでしょうか。普段からちゃんと相手を見ておくこと、そして相手にもちゃんと見てくれているんだという安心感を持ってもらうことが大事ですね。

アーティストを支えるスタッフの『B-side』活用法

──メンタルヘルスケアが必要な人にどんな声掛けをすれば良いか知っておくことは、アーティストを支えるスタッフにとっても重要ことですね。

徳留:最初にお話しした通り、『B-side』の当初の目的としては、アーティストやクリエイターをサポートするために立ち上げましたが、彼らと直接関わるスタッフにこそ積極的に利用してほしいと思っています。身近なスタッフが「担当アーティストがこんなことを言っているんですが、大丈夫ですか」「すごく落ち込んでいて、どうやって話を聞けばいいんでしょうか」とカウンセラーに意見を求めるのも、『B-side』の活用法のひとつだと思います。

石井:その通りですね。アーティストを支えるスタッフの方々とは言え、必ずしも皆さんメンタルヘルスの知識が豊富とは限りません。正しい知識や理解を深めるためのワークショップも実施していますが、調子を崩したアーティストに対して「私が下手なことを言って、さらに不調になったらどうしよう」「間違った声の掛け方をしたら」と心配になることもあると思います。

さらには、アーティストにいきなり「カウンセリングを受けましょう」と提案しても、言われた側は戸惑うかもしれません。まずは、スタッフからカウンセラーに相談し、そういう不調が感じられる人に対処法を伝えるのはとても良い方法だと思います。また、スタッフの方にカウンセリングを受けた経験があれば、「実は自分も試してみたけど思ったよりスッキリした、もし良かったらいちど試してみない?」というつなぎ方もできます。

エンタメ業界全体に広がる取り組みにしたい

──最後に『B-side』の今後、プロジェクトを未来につなげていくために何が必要か、意見や展望を聞かせてください。

徳留:頼られたときに、いつでもしっかりとしたサービスが提供できるフレームはできたので、次は、これを先々にまで持続させるための強固な仕組みも作らないといけないなと思っています。仮に私がこのプロジェクトから離れたとしても、サポート体制は万全で、いつでも利用できるものにしておかなければいけません。

──サステナブルな取り組みにするわけですね。

徳留:そうですね。その上で周知を広げ、最終的には会社の枠を越えて、エンタメ業界全体にこのような取り組みを広げられたら良いなとも考えています。そのときは、各社から人が集まってサードパーティのような組織が作れたら、もっと良いアイデアや取り組みもできるのではないかと。なんて大きな風呂敷を広げていますが、本当にスタートしたばかりのプロジェクトなので、地道に取り組んでいくのが当面の目標です。

石井:ゆくゆくは誰でも参加できるものにしていきたいですよね。

徳留:アーティストやクリエイターは、私たちの文化を支える存在です。世界のカルチャーを担い、みんなを元気にしてくれるアーティストが、自分に合ったスタイルで、元気に長く活動をつづけられるよう、サポートしていけたらと思います。

石井:徳留さんは出会ってから1年も経たずに『B-side』を立ち上げました。とても難しいこともたくさんありましたが、ブレない志でメンバーの皆さんをリードし、ブルドーザーのように組織を動かして行くのを間近で見てきました。この先もずっと『B-side』は進化をつづけて行くでしょう。それはとても楽しみですし、プロジェクトを支える皆さんの力に少しでもなれたらうれしいです。

文・取材:野本由起
撮影:冨田望

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