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連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

今、アンディ・ウォーホルの大回顧展を京都だけで開催する理由【前編】

2022.11.02

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連載企画「ミュージアム ~アートとエンタメが交差する場所」では、アーティストや作品の魅力を最大限に演出し、観る者の心に何かを訴えかける空間を創り出す人々にスポットを当てる。

今回は、2022年9月17日(土)から2023年2月12日(日)まで「京都市京セラ美術館」で開催中の『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』(以下、『アンディ・ウォーホル・キョウト』)をクローズアップする。

1960年代から1980年代のニューヨークで、大衆文化や消費社会のイメージを主題とするポップ・アートの旗手として活躍したアンディ・ウォーホル。本展では、門外不出の「三つのマリリン」、大型作品「最後の晩餐」ほか、日本初公開作品100点以上を含む約200点がアメリカ、ピッツバーグにある「アンディ・ウォーホル美術館」から来日している。

今、なぜアンディ・ウォーホルの回顧展を京都で単館開催するのか? そしてそこではどんな体験が待っているのか? 企画の発端から展示内容、京都の街を挙げて行なわれるプロジェクトまで、『アンディ・ウォーホル・キョウト』の企画・運営にあたるソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のスタッフとともに紐解いていく。

前編では『アンディ・ウォーホル・キョウト』の開催経緯と、目玉になる展示について話を聞いた。

  • 『アンディ・ウォーホル・キョウト』担当スタッフ

『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』

アンディ・ウォーホル(1928~1987年)はアメリカ、ペンシルベニア州ピッツバーグ出身。商業デザイナーとしてニューヨークでキャリアをスタートさせ、30代でアーティストとして本格的に制作を開始。1960年代以降はニューヨークに「ファクトリー」と称するスタジオを設け、目覚ましい経済成長の最中にあったアメリカの大量消費社会を背景に、版画技法のシルクスクリーンを用いた「大量生産」のアジテーションとも呼べる作品を次々と発表する。キャンベル・スープ、コカ・コーラなど当時広く普及していた人気商品や、マリリン・モンロー、エルヴィス・プレスリーなど数多くの有名人をモチーフに作品を制作し、“ポップ・アートの旗手”として活動するとともに、芸術をポップカルチャーのフィールドにまで拡張。アートのみならず音楽、ファッション、マスメディアなどさまざまなジャンルの表現に影響を与えた。2022年9月17日(土)から2023年2月12日(日)まで「京都市京セラ美術館」で開催される『アンディ・ウォーホル・キョウト』は、ピッツバーグにある「アンディ・ウォーホル美術館」の所蔵作品のみで構成される日本初の展覧会。絵画、彫刻などの約200点と映像15点の展示作品のうち、100点以上が日本初公開となる。京都のみの開催で、巡回はないという異例の大回顧展となっている。

エンタテインメントの思考を取り入れた展覧会

──はじめに『アンディ・ウォーホル・キョウト』の開催経緯を教えてください。

『アンディ・ウォーホル・キョウト』は、もともと2020年秋の開催を予定していました。同年春に「京都市美術館」が「京都市京セラ美術館」に生まれ変わり、コンテンポラリーアートの展示を行なう新館「東山キューブ」が新設されることをきっかけに、このスペースで初の海外アーティストの展覧会として企画をスタートさせたのです。

そして、京都と東京に拠点となるギャラリーを持ち、美術界の第一線で活躍するアーティストを数多く紹介するイムラアートギャラリーとともに企画制作を行ない、私たちSMEは展覧会の運営全般に携わることになりました。そして、2017年ごろからピッツバーグの「アンディ・ウォーホル美術館」に足を運び、準備を進めてきたのです。しかし、コロナ禍によって2年の延期を余儀なくされ、2022年の今年、ようやく開催することができたという経緯です。

2022年9月17日(土)から2023年2月12日(日)まで『アンディ・ウォーホル・キョウト』が開催されている「京都市京セラ美術館」。

また、展覧会のタイトルを『アンディ・ウォーホル・キョウト』としていることからもわかる通り、京都のみでの開催となり、ほかの都市での巡回展は行ないません。当初は巡回も検討していたのですが、東京では2014年に六本木の森美術館で大規模なアンディ・ウォーホル展(「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」)が開催されていたこともあり、特に関東のほうでは「数年前にアンディ・ウォーホル展を観た」という方も多いのではないかと考えました。そこで今回は、関西でアートの振興に積極的な京都にターゲットを絞り、この地で開催する意味と意義を考えながら、企画を練りあげていったのです。

「清水寺」や「三十三間堂」など、アンディ・ウォーホルが来日した際に訪れた京都の幾つかのスポットを巡る『ウォーホル・ウォーキング』が展覧会と連動する形で行なわれている。

その際、浮かびあがってきたのが、1956年と1974年にアンディ・ウォーホルが京都を訪れていたという史実です。情報を集めるうちに、ウォーホルの京都の旅の足跡や京都の来訪を受けて、のちの作品作りに影響を受けたとされている事象が多く残っていることがわかってきたため、『アンディ・ウォーホル・キョウト』として京都のみでの単館開催にしました。

私たちSMEはアートのフィールドを専門にしてきたプロフェッショナルではありません。しかし、私たちならではのエンタテインメント性やソニーグループとのシナジーをいかしたテクノロジーを加えれば、アート業界の方々とは違った視点、切り口の展覧会にできるのではないかと考えたのです。

エキシビションビジネスへの挑戦

──ソニーミュージックグループが、なぜアート展を手掛けるのかと不思議に感じる方も多いと思います。SMEがこれまで手掛けてきた展覧会についても教えてください。

『アンディ・ウォーホル・キョウト』の運営の中心を担当しているのが、SMEのコーポレートビジネスマーケティンググループという部門になりますが、ここはソニーミュージックグループ内に新たなエンタテインメント事業を創出する役割も担っています。例えばeスポーツ、スポーツエンタテインメント、YouTuber、VTuberプロジェクトなどさまざまな事業を通して、新たなビジネスの可能性を探っています。

そのなかで立ち上がったのが、エキシビションに関する取り組みです。これまでにデヴィッド・ボウイの大回顧展『DAVID BOWIE is』(2017年)や、乃木坂46のアートワークを取り上げた『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』(2019年)、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの軌跡を辿った『DOUBLE FANTASY - John & Yoko』(2020年)などを実施してきました。

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──ソニーミュージックグループでは、グループ内でキャラクタービジネスを中心に展開するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)も「六本木ミュージアム」の運営をはじめとするミュージアムビジネスに力を入れています。SCPとは違う立ち位置で、エキシビションビジネスを展開されているのでしょうか。

はい。とは言え、同じグループの会社ですから両社で連携を図りながら事業を進めていますし、「スヌーピーミュージアム」の立ち上げと成功によって積みあげられたマーチャンダイジングのノウハウが今回の『アンディ・ウォーホル・キョウト』にもいかされています。SCPは、2024年に東京・京橋にオープンする「新TODA BUILDING(仮称)」内に、情報発信型ミュージアムの開設も予定していますが、今後よりいっそう連携を深めながら、さまざまな取り組みを展開していくつもりです。

──ほかにも、『アンディ・ウォーホル・キョウト』についてグループ内の連携はあったのでしょうか。

グッズはソニー・ミュージックソリューションズ、プロモーションはソニー・ミュージックマーケティングユナイテッドのサポートを受け、協業体制で取り組んでいます。また、展覧会のテーマソングにソニー・ミュージックレーベルズに所属する常田大希がDaiki Tsuneta Millennium Paradeとして活動していた時期に、アンディ・ウォーホルをイメージして制作した楽曲「Mannequin」を採用したり、オーディオガイドのナビゲーターとして乃木坂46の齋藤飛鳥を起用するといったグループ内連携もあります。さらに話を広げると、特別協賛、技術協力としてソニーグループ株式会社も名を連ね、テクノロジー領域で協力をお願いしています。

グループ内の知見やネットワークをいかしつつ、将来的にビジネスとしてさらに発展しうるよう、現段階から幅広いカンパニーと手を携えて今回の展覧会に臨んでいます。

門外不出の「三つのマリリン」が京都にやってきた

──それでは改めて『アンディ・ウォーホル・キョウト』の見どころを教えてください。

今回は「アンディ・ウォーホル美術館」の所蔵作品のみで構成される日本初の展覧会であり、展示作品は絵画、写真、立体物など約200点に映像作品が15点、そのうち100点以上が日本初公開で、今まで観たことのないウォーホル作品が目白押しです。そして、これまでウォーホル作品を観たことのない方にも楽しんでもらえるよう、代表作品も多く展示されています。

──日本初公開の作品のなかで、目玉と言える作品はなんでしょうか。

まずは今回の展覧会のキービジュアルにもなっている「三つのマリリン」です。アンディ・ウォーホルの作品には、版画印刷技法のシルクスクリーンで何百点も複製されている作品がありますが、この作品はキャンバスに描かれた一点もの。「アンディ・ウォーホル美術館」に所蔵され、門外不出と言われていたこの「三つのマリリン」が、海を渡って京都にやってきました。

門外不出と言われていた「三つのマリリン」が日本で初公開されている。

また、レオナルド・ダ・ヴィンチの同名絵画をモチーフにした大型作品「最後の晩餐」も注目です。こちらは全幅が10m近い巨大な作品で、ウォーホルが亡くなる1年前に発表された遺作でもあります。展覧会の最後を締めくくるような形で、この作品が展示されています。

あとは、アンディ・ウォーホルと言えば、俳優などの肖像を描いた華やかなシルクスクリーン作品が有名ですが、今回の展覧会では、ウォーホルの「光と影」と題して、もうひとつの彼の作品性を伝えるべく、「死と惨事」シリーズという事故や死を想起させる作品群も展示しています。作品「ツナ缶の惨事」や「ギャングの葬式」のような当時の新聞記事を題材にした作品も日本初公開で展示しています。先日、マリリン・モンローの肖像画がオークションに出品され約253億円で落札されましたが、こうした作品に劣らず「死と惨事」シリーズも市場価値が非常に高い作品群です。ぜひ京都でご覧いただきたいですね。

アンディ・ウォーホルの遺作と言われる「最後の晩餐」。

京都で描き残したスケッチを展示

──京都ゆかりの作品も展示されるそうですが、こちらについても教えてください。

アンディ・ウォーホルは1956年と1974年に来日していて、2回とも京都を訪れています。最初の旅は、彼が商業デザイナーとして成功を収め始めていた28歳のとき。初めてアメリカを出て、世界一周旅行をしたウォーホルは、日本、そして京都に足を運び、街を精力的に巡って、そのときに見た光景を大量のスケッチに残しています。これらのスケッチは、もともとはスケッチブックに描きためていたものですが、現在は1枚ずつバラバラになり世界中に散逸しています。今回は、「アンディ・ウォーホル美術館」に所蔵されている4点を展示することができました。

「三十三間堂」で特別展示されているアンディ・ウォーホルが描き残した千手観音菩薩立像のスケッチ。※観覧するには「三十三間堂」の拝観料が必要。

──京都からインスピレーションを受けて制作した作品もあるのでしょうか。

ウォーホルが京都を訪れ、この街からどのようなインスピレーションを受けたのか、彼自身の言葉が残っているわけではないので、明確ではない部分が多くあります。

アンディ・ウォーホルは自分の本質を見透かされることを非常に嫌っていた人物だと言われています。幼少時代、病弱だった彼は家のベッドでほとんどの時間を過ごしていました。また、自分の容姿についてもさまざまなコンプレックスを抱えていたと言われ、そうしたことから強い劣等感を持ち、アーティストとして成功を収めてからもインタビューでは毎回違うことを言っては、質問に対する答えの核心をはぐらかしていました。そのため人物像を定義するのが非常に難しいアーティストのひとりなんです。

ただ今回、我々は本展のキュレーターであるホセ・カルロス・ディアズ氏の協力も得ながら、ウォーホルが「三十三間堂」で、千手観音菩薩立像を目の当たりにし、仏像が1,001体並んでいるのを観て、同じモチーフを繰り返す“リピート”という表現の着想を得たのではないかとの見解、文献も得ています。

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また、ウォーホルは「金閣寺」にも足を運び、その神々しさからインスピレーションを得て金をモチーフにした作品を残したとされています。ただ、彼は敬虔なカトリック信徒だったため、絢爛豪華な教会の装飾からの影響を多分に含んでいるとも言われているのと同時に、ウォーホルが実際に「金閣寺」を訪れたという正確な記録や証言が残っていないのも事実です。

ですが、ウォーホルには収集癖があって、いろいろなものをタイムカプセルというBOXにしまい込んでいたのですが、そのなかから「金閣寺」のポストカードが出てきました。そこから彼が「金閣寺」を訪れたこと、その体験が何らかのスイッチになったであろうことが推察できるかと思います。

また今回の展示には、約8時間に及ぶ映像作品「エンパイア」も含まれていますが、この作品はニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングを定点で撮りつづけた作品であり、「龍安寺」を訪れた際に禅の思想から着想を得て、制作されたと言われています。1974年の来日時の取材で「龍安寺」を訪れたことがあるという話をしていたため、おそらく1956年に足を運んだのではないかと考えられています。

私たちはこうした史実とそれに関連する資料を集めながら、『アンディ・ウォーホル・キョウト』を作りあげていきました。そして、史実と推論を混同しないよう細心の注意を払いつつ、新しい切り口でアンディ・ウォーホルを見つめ直しました。彼がどのようにしてイマジネーションをクリエイティブに転化していったのか、この展覧会で提示できればと考えています。

後編につづく

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

開催情報

『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』

開催期間:2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)
休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日(水)~1月2日(月)
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
入館料:一般・土日祝:2,200円(当日)
一般・平日:2,000円(当日)
大学・高校生:1,400円(当日)
中学・小学生:800円(当日)
※すべて税込
※20人以上の団体割引料金は当日券より200円引き
※障がい者手帳等をお持ちの方(要証明)と同伴される介護者1名は無料
※未就学児は無料(要保護者同伴)
※会場内混雑の際は、今後、日時予約をお願いする場合や入場までお待ちいただく場合がございます。

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