柔軟性と協調性と好きだという思い――ライブイベント「@JAM」スタッフが語る裏方に必要なもの①
2024.08.28
今年で開催10周年を迎えるフェス『@JAM EXPO』を含めた、アイドルやアーティストが共演する音楽ライブイベント「@JAM」シリーズを主催するライブエグザムの企画担当者と制作担当者がライブスタッフとしての仕事を語る。後編では、この仕事をするうえで大事なことや、職に就くためのアドバイスを聞く。
武藤秀之
Muto Hideyuki
ライブエグザム
太田 麗
Ota Urara
ライブエグザム
柴田純平
Shibata Junpei
ライブエグザム
記事の前編はこちら:柔軟性と協調性と好きだという思い――ライブイベント『@JAM』スタッフが語る裏方に必要なもの①
――この仕事の大変だと思うこと、苦労はどういったところにありますか?
太田:今ちょうどシリーズ最大規模のライブイベント、『@JAM EXPO 2024』に向けて準備をしてるんですけど、企画を担当している4人が出演者250組とやり取りをしている状態で、これがなかなかハードです。
毎日ものすごい量の連絡が来るし“うちのグループは当日こうしたい”みたいな希望も1組ずつ違うので、その辺りの管理が大変ですね。そのほかに出演者の発表や告知なんかも並行してやってるので、業務量が多くなるこの時期はちょっとしんどいです。
武藤:私もこの時期の出演者の皆さんの対応ですね。組数が増えるほど1組にかけられる時間がどうしても限られてしまうんですが、出演していただく以上は丁寧に対応したいという思いがあって、そこにジレンマが生まれるんです。
物量があるから速くやらなきゃいけないけど、なるべく丁寧にやっていきたい。その両方のバランスをうまく取らなきゃいけないっていうのは、いつも悩みどころです。
――武藤さんはマネージャー経験者なので、出演者側の状況や気持ちもよりわかりますよね。
武藤:出演者側の気持ちもわかるので、余計に気が抜けないというか。でもそこがわかっていることで良い関係を築きやすかったりもするので、その点では前職の経験に助けられてるなって思います。
柴田:自分は『@JAM EXPO』に限って言うと、苦労は……特に……ないです(笑)。小規模な公演だと、すべてを少人数でこなさなくてはならないですが、『@JAM EXPO』ぐらいの規模だと、主催、企画、技術、運営と、ほかにもさまざまなセクションのスタッフが大勢いて、細かい分業制になります。もちろん大変なことはありますが……辛くはないですね。
ただ、分業制だからこそ、各セクションの一人ひとりが責任をもってクオリティの高い公演にしなきゃいけないと常々思っています。
――関わる人数が多いと、各部署や担当とのやりとりが大変だったりはしないですか?
柴田:いちから公演を作る場合は、各セクションの連携が必要になるという意味では、少人数で手がけるよりも大変かとは思います。とはいえ、大きなイベントになるとある程度のシステムができていたりしますので、皆が無理なく働ける環境になっていると思います。
――ライブハウスでのハードな経験が、今につながっている感じでしょうか。
柴田:そうですね。無駄にはなっていないと思います。
武藤:柴田さんは、自分たちより長く「@JAM」に携わってるので、すごく助けてもらっています。私と太田さんはまだ関わって4年ほどで、コロナ禍の制限が多かった状況しか知らなかったので、ある程度通常に戻ってきた今、「前はこれができてたよ」とか言ってもらえると「じゃあこういう演出ができますね」みたいに話が進むんですよ。そういう面でも頼らせてもらってます。
太田:あと、ちゃんと円滑にまとめてくださったり、多少のわがままを聞いてもらえるのも心強くて。無理なことをお願いしてるなってときでも、柴田さんは「もうやるしかないっすよね。やりまーす」っていう感じで引き受けてくれるんです(笑)。
例えば、昨年の『@JAM EXPO』のときに、前日とか当日朝に、「熱が出て演者が来られません」ってことがあったんですね。でもタイムテーブルは決まっているから、そこに急遽別のグループを入れるか、前後の演者の持ち時間を増やして埋めるのかみたいな判断を、それこそ30分以内にして、すぐに対応しないといけない。そんなギリギリの状況でも、決まったことを手際良く淡々とこなす柴田さんを見たときは、本当に頼もしいなと思いました。
柴田:慌てても解決しないから、しょうがないかなと。川の流れのようですよ。ただただ流れに身を任せるっていう。
太田:それ大事ですよ。やっぱりライブっていつ何が起こるかわからないから、そのなかで“これが起こったらこうしよう”みたいなことに柔軟に対応できる人は、めっちゃ重宝されると思います。
――柔軟さのほかにも、ライブスタッフとして働くうえで大事なことはありますか?
太田:あとは協調性ですね。大きく括るとそのふたつかなと思います。やっぱりみんなで協力しながら1本のイベントができるんですよね。出てもらう人もいなきゃいけないし、良いステージにするために技術の皆さんがいて、柴田さんのような制作の方がいてできるものなので“みんなとうまくひとつのものを作ろう”という気持ちはあったほうが良いのかなと思います。
武藤:自分も同意見ですが、もう少し加えるとしたら体力かな。特に規模が大きいイベントになると、準備期間も長くなるし確認しなきゃいけないことも増えるので、基本的な体力はあったほうが有利だと思います。
あとは関わる人の話を聞くことが大事だなと。たくさんの方がいろんな思いを持ってやってくれてることなんで、まず相手の考えとか意思とかをちゃんと聞く。その意見を受け入れるのか、もう1回交渉するのかっていうのはその先の話になりますが、まずはしっかり相手と対峙するという姿勢は大切にしたほうが良いと思いますね。
柴田:ライブ当日は制作が現場に一番最初に入るから、寝坊しないことは大事だなと思います。朝が強いという意味ではなく、必ず起きるということですね。制作は「一番最初に現場に入れば仕事の半分以上は終わり」って言われてるぐらいなんで。あとは……うーん、なんだろう。
太田:やっぱり、何が起きても動じないというのは大事じゃないですか? 柴田さんを見ていて思います。簡単に身につくことじゃないですけど。
柴田:そうですね。大事だと思います。
――では、ライブの裏方や制作側のスタッフを目指している人に向けて、アドバイスをお願いします。
太田:まずはいっぱいライブに行くことだと思います。私が通っていた専門学校の現役生と最近お話をする機会があったんですが、ライブの仕事に就きたいと言いながら「ライブハウスに行ったことがないです」っていう人が結構いたんですよ。Zeppクラスのライブ会場のイベントにも行ったことがないし、そもそもリアルのライブイベントに参加したことがないという。
YouTubeやSNSでライブの動画を見るのも良いけど、現場に行かなきゃわからないことや味わえない気持ちって絶対にあるんですよ。1回でもいいからライブの現場を経験してみることが、とても大事だと思います。
――太田さんは今もプライベートでライブに行きますか?
太田:そうですね。自分の好きなアーティストのライブにも行くし、フェス系も好きでよく行きます。もちろん楽しむために行くんですけど、勉強になることも多いんですよ。お客さんの快適度が高いフェスだったら、その要素を「@JAM」にも取り入れられないかってヒントになったり。そういうお土産をもらって帰ることがよくありますね。
柴田:我々が若いころは「見る前に飛べ」みたいなことをよく言われてました。この仕事はそういう思い切りの良さが必要なときがあります。
社会のインフラに関わる仕事じゃないから絶対にやらなきゃいけないというものではないし、始めてすぐは給料も安いかもしれないけど、やりたい人たちが集まって一生懸命やっている仕事だと思うんですね。自分はそんなふうに思ってやってきて、気づけば20年経っていたという(笑)。
この仕事をやりたいかどうか迷ってる人には「やってみれば」としか言えないけど、もう「やるぞっ!」って決めてるんだったら「早くおいでよ」って感じですね。あまり難しく考えることではないと思っています。
武藤:自分も、決め手になるのは覚悟みたいなものかなと思います。私は中学生ぐらいのときからこの業界に入りたいと思ってたんですけど、そのころから気持ちの面は全然変わってないんです。“好き”とか“やりたい”っていう思いがブレなければ、大丈夫じゃないかと思いますね。
ライブの企画や制作の仕事は資格がなくてもできる仕事で、本当に気持ちがあって行動さえ起こせば入れる業界ではあるけど、もし不安な場合は1回アルバイトでもしてみると良いと思います。
自分も学生のときからマネージャー見習い的なバイトをしてみて、やってみたら想像以上に大変なことが多かったり、でもその先にすごく楽しいことが待っていたりして、やらないと知り得なかったことをたくさん経験しました。この道に進むか決めるときの良い判断材料になるので、迷っている人にはおすすめです。
記事の前編はこちら:柔軟性と協調性と好きだという思い――ライブイベント『@JAM』スタッフが語る裏方に必要なもの①
文・取材:諏訪圭伊子
撮影:荻原大志
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