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音楽ビジネスの未来

角野隼斗、藤田真央のワールドワイド契約の舞台裏 ――Sony Classicalのグローバル統括スタッフに聞く①

2024.11.21

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グローバルに展開するSony Musicのクラシック部門を統括するスタッフが来日。ピアニストの藤田真央や角野隼斗がSony Classical International(以下、Sony Classical)とワールドワイド契約を結んだことが話題を呼んでいるが、その背景や狙い、クラシック音楽の新たな聴衆を獲得するための戦略について話を聞いた。

  • アレクサンダー・ブール プロフィール画像

    アレクサンダー・ブール

    Alexander Buhr

    Sony Music Masterworks/Sony Classical International
    Executive Vice President, International A&R and Business Opportunities

  • アレクサンダー・ベッシュ プロフィール画像

    アレクサンダー・ベッシュ

    Alexander Boesch

    Sony Music Masterworks/Sony Classical International
    Senior Vice President, Commercial Operations and International Marketing

記事の後編はこちら:クラシック音楽を次世代につなぐために必要なこととは?――Sony Classicalのグローバル統括スタッフに聞く②

角野隼斗の武道館リサイタルを観るために来日

――Sony Musicのクラシック部門としては、Sony ClassicalやSony Music Masterworks(以下、Masterworks)といったレーベルがありますが、ブールさんとベッシュさんの担当業務を教えてください。

ブール:Masterworks、Sony Classical、それから新しく立ち上げたXXIM RecordsといったレーベルのグローバルのA&R (アーティスト&レパートリー:音楽アーティストをさまざまな面でサポートしながらヒットへ導く音楽業界の業種)として全体を統括しています。

私たちのオフィスはベルリンにありますが、フランス、イギリス、アメリカなど世界各地のスタッフと日々意見交換をしながら、どういったアーティストがそれぞれのレーベルにふさわしいか、どうやったら面白いレコードが作れるか、世界に向けてどういうメッセージを発信していくか、アーティストの最高の一面を引き出すためには何をすればいいのか、といったことを検討しています。そして、実際にアーティストと一緒に作品を作って、世に送り出す仕事をしています。

紺のポロシャツを着たアレクサンダー・ブール

ベッシュ:私はグローバルのマーケティングとコマーシャルオペレーションを担当しています。コマーシャルオペレーションとは商品を開発し、CDやデジタルストリーミング、ダウンロード、LPといった各メディアでの制作を管理する仕事で、ジャケットのアートワークやブックレットの制作なども含まれます。

マーケティングに関しては、SNSや映像のコンテンツを制作し、世界中の現地スタッフにPRやマーケティングの素材を提供しています。

紺のトップスを着たアレクサンダー・ベッシュ

――今回、来日した目的のひとつが『角野隼斗ピアノリサイタル at 日本武道館』(2024年7月14日)ということですが、パフォーマンスをどのように感じましたか?

ブール:角野さんにはヨーロッパでお会いしたことがあり、向こうで彼の演奏を聴いて素晴らしいパフォーマーだとは思っていました。でも実際日本に来て、日本武道館をいっぱいに埋めた13,000人のお客さんを熱狂させたショウを観て、本当にびっくりしました。

カメラに向かって話しかけながらのYouTube中継を取り入れたステージも興味深かったですね。角野さんは自身でも作曲をしますが、新しいクラシック音楽というものが、こんなにも多くの人々に伝わるのだということに感銘を受けました。

ベッシュ:私たちにとって大きなインパクトだったのは、クラシックのピアノ演奏家である角野さんが、リサイタルを日本武道館で行なったということです。日本武道館という場所は、ヨーロッパをはじめ世界でも有名で、日本の方たちにとって、とても重要な意味を持つ場所であることを私たちも知っています。

多くのロック、ポップスのアーティストたちが“Live at Budokan”と銘打ったアルバムを作っていますからね。そこでピアニストがたったひとりでリサイタルをする、しかもチケットは完売という話を聞いたとき、これは私たちも観に行かなければ! と思ったんです。

『角野隼斗ピアノリサイタル at 日本武道館』の様子

『角野隼斗ピアノリサイタル at 日本武道館』(2024年7月14日)
(C) Ryuya Amao

独特の表現力を持つ、クラシック界では稀有な存在

――角野隼斗さんは、今年3月にSony Classicalと専属レコーディングのワールドワイド契約を結んだことが日本でも話題になりましたが、契約の決め手となったのはどのようなことだったのでしょうか?

ブール:初めて角野さんのことを知ったのは、2021年のショパン国際ピアノコンクールでした。彼はこの大きなコンクールでセミファイナルまで勝ち進んだわけですが、YouTubeで配信されているコンテスタントの映像を見たときから、彼は面白いアーティストだなと思っていました。

彼には独特の表現力があり、自分を見せることができる。ご存じのようにクラシック音楽というのは、みんなが同じ曲を、似たような格好で演奏するものですから、そのなかで角野さんのような存在は非常に稀有なのです。

その後、Cateen(かてぃん)という名でYouTuberとしても活動していることを知り、彼がアレンジしたポップス曲や、作曲した曲を聴いてますます興味を持ちました。そして実際に会って、やはり角野さんは唯一無二の存在だなと感じました。

クラシックのコンサートホールで演奏したかと思えば、次の日にはジャズのブルーノートで演奏している。フィールドの異なるさまざまなアーティストともコラボレーションし、それらをいつもポジティブなエネルギーを持ってやっている。そのような姿を見て、彼のようなアーティストがグローバルに活躍する場があるべきだと思ったんです。

――10月末に角野隼斗さんの世界デビューアルバム『Human Universe』がリリースされました。自身のオリジナル曲をはじめ、ショパンやラヴェル、坂本龍一、ハンス・ジマーまで、バラエティに富んだ内容になっていますが、コンセプトや選曲はSony Classicalの皆さんと相談して決まったのでしょうか?

角野隼斗『Human Universe』ジャケット画像

角野隼斗『Human Universe』

ブール:アルバム制作において、最初から私たちは角野さんの作曲家としての面を大切にしたいと考えました。彼自身も、作曲することをとても大切にしていますし、実際に優れた作曲家でもあります。

いっぽうで、彼の持っているさまざまな側面を、どういった形でアルバムとして表現するかということも課題でした。多様性を打ち出しつつ、ある程度のまとまりも必要だと思ったんです。

角野さんの存在がまだ知られていない世界の国々で、人々に彼を発見してもらうためにはどうしたらいいか? もちろん彼のことを知らなければ、YouTubeで彼の名前が検索されることもありません。

そこで私たちは、話す言葉が異なる国々に角野さんをプロモーションするにあたって、まずはクラシック音楽の聴衆が最初に興味を持つのではないかと判断しました。ですからアルバムは、クラシック音楽として成立するものでなくてはいけなかったのです。

この考え方をベースにしながら、彼自身のオリジナル曲、坂本龍一などのコンテンポラリー曲、そしてユニークかつワイルドなアレンジ曲といった選曲をまとめていきました。いわゆる“定番”のクラシックの演奏家ではないこともアピールしようと。

真剣な面持ちで話すアレクサンダー・ブール

藤田真央によって世界に“発見”される作品

――そしてもうひとり、2021年にSony Classicalと専属レコーディングのワールドワイド契約を結んだピアニストの藤田真央さんについても聞いていきます。藤田真央さんは以前、Cocotameのインタビューで「ソニー・クラシカルから熱烈なオファーをいただいて契約に至った」とお話しされていました。

■関連記事はこちら:世界を魅了するピアニスト、藤田真央――その才能はいかにして生まれたのか【前編】【後編】

ベッシュ:藤田さんは我々がアプローチした時点で、既に国際的な舞台で活躍をし、高い評価を得ていましたから、きっと引く手あまただっただろうと思います。

そのなかでSony Classicalと仕事をしたいと感じてもらえたのは、モーツァルトのピアノ・ソナタ全曲を録音するというオファーがあったからではないでしょうか。CDにすると5枚組にもなる全集を、デビューアルバムとしてリリースするというのは極めて珍しいことですから。振り返ってみれば、あれが良い判断だったと思います。

藤田さんは皆さんご存じのように、本当に才能のあるピアニストです。それだけではなく、彼はいろいろな作曲家の作品を発見して、世に送り出したいという気持ちを持っているところも素晴らしいと思います。

9月にリリースしたニューアルバムには、 ショパンとスクリャービン、そして矢代秋雄の「24の前奏曲」が収録されています。1945年、矢代秋雄が15歳のときに書いた作品を世界に紹介したいという藤田さんの希望で録音されましたが、私たちにとっても興味深いプロジェクトでした。

さらに言うと、音楽家としての個性だけでなく、誰からも愛される彼のチャーミングなキャラクターも魅力的でしたね。

藤田真央『72 Preludes』ジャケット画像

藤田真央『72 Preludes』

――藤田真央さんのSony Classicalとのワールドワイド契約は、日本人アーティストとしては22年ぶりとなる快挙でした。そして今回、角野隼斗さんが加わりましたが、Sony Classicalとしては日本のアーティストを世界に紹介したいという意識があってのことだったのしょうか?

ブール:日本のアーティストをつづけて世界に送り出すことになったのは偶然で、予期していなかったことです。私たちは常に世界中で特別なアーティストを探していて、そこに角野さんと藤田さんという、まったく違った魅力を持つアーティストが現われたということです。

ベッシュ:今回、ふたりの素晴らしいアーティストと出会ったことで、日本のアーティストがもっとワールドワイドに活躍していけたらいいなと思いました。そうしたら私たちも日本のチームともっと一緒に仕事ができますし、ロサンゼルスにはアニメやサウンドトラックの部門もありますから、Sony Music Groupのネットワークをいかして、日本発のアーティストや作品を世界に紹介していくことも可能だと思います。

手を使って話すアレクサンダー・ベッシュ

――ここまでは“日本から世界へ”というテーマでしたが、“世界から見た日本”についても聞いていきます。ブールさん、ベッシュさんは日本のクラシック音楽シーンやマーケットについて、どのような印象を持っていますか?

ベッシュ:日本のクラシック音楽の聴衆が非常に熱心であるということは以前から知っていました。コンサートにおける静寂さは特筆すべきものがありますし、終演後にCDを買ったり、サインを求めて長い列を作ったりするのも日本ならではですよね。

そして、私たちと同様にアーティストたちも日本が大好きです。Sony Classicalはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のサマーナイト・コンサートやニューイヤー・コンサートの録音を多く手がけていますが、彼らは毎年秋にツアーで日本を訪れていますよね。彼らはもちろん、ほかのアーティストたちもみんな日本に行くのを楽しみにしていて、歓迎してくれるファンの熱意に感激しています。

後編では、若い世代にクラシック音楽を届けるために考えていること、求められるアーティスト像について語る。

後編につづく

文・取材:原 典子
撮影:増田 慶
通訳:井上裕佳子

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