音楽で子どもたちを応援――ソニー・ミュージックレーベルズが今、小中学生に向き合う理由①
2025.05.22


2025.04.25
東急歌舞伎町タワーで、ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)が運営する屋内体験型アトラクション施設『THE TOKYO MATRIX』。今年3月のリニューアルオープンに伴い、SMSとソニーグループ内のアクセシビリティ、インクルーシブデザインを推進するチームの体験やヒアリングを通じて、新たに「車いすモード」を導入した。
車いすユーザーも気軽に参加できる“生身で遊ぶアクションRPG”は、どういった経緯で生まれ、どのような内容になっているのか? 本プロジェクトで、車いすのリードユーザーとしてリニューアルの開発に深く携わったソニーグループ株式会社(以下、ソニーグループ)の小島佑子と、『THE TOKYO MATRIX』のチーフプロデューサー・松平恒幸に語ってもらった。
目次

小島佑子
Kojima Yuko
ソニーグループ株式会社
工学博士

松平恒幸
Matsudaira Tsuneyuki
ソニー・ミュージックソリューションズ
2023年4月、新宿・東急歌舞伎町タワーの4階にオープンした体験型アトラクション施設『THE TOKYO MATRIX』が、アトラクションをフルリニューアル。“生身で遊ぶアクションRPG”をテーマにする「ダンジョン∞スパイラル」の運営を開始した。今回のリニューアルでは、施設、設備の改修に加え、ソニーグループや外部のリードユーザーの意見を取り入れ、車いすの来場者も快適にアトラクションを楽しめる「車いすモード」を実装。多様性のるつぼとも言える新宿・歌舞伎町という街で、ロケーションベースエンタテインメントの新しい形を提案している。
『THE TOKYO MATRIX』概要
コンテンツ:生身で遊ぶアクションRPG「ダンジョン∞スパイラル」
住所:東急歌舞伎町タワー4階(東京都新宿区歌舞伎町一丁目29番1号)
営業時間:11時~23時(平日)/10時~23時(土日祝日)※最終エントリーは22時
プレイ時間:約40~60分
料金:2,250円(大人)/1,250円(子ども※13歳未満)
※推奨年齢は小学生以上(身長120cm以上)、漢字を含む説明が読める方がパーティーに入っていること
――『THE TOKYO MATRIX』の新アトラクション「ダンジョン∞スパイラル」に、「車いすモード」が導入された経緯を教えてください。
松平:さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループでも、それぞれのビジネス領域においてインクルーシブへの取り組みが一層重視され、社内でも啓発が活発になっていました。そのうえで『THE TOKYO MATRIX』では、そのゲーム性から対応を諦めていたところがあったんです。
しかし、今回、設備も含めてゲーム内容をいちから見直すリニューアルを行なうことになり、それであれば『THE TOKYO MATRIX』においても、何かできることがないかと考えていたところ、昨年末ごろにソニーグループでアクセシビリティやインクルーシブデザインに取り組むチームの皆さんとお話をする機会をいただきました。そのときに、小島さんともご挨拶させていただいたのが、ことの発端になります。
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――昨年末というと、リニューアル前のアトラクション『ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-』(以下、SAO -アノマリー・クエスト-)が稼働中でしたね。小島さんも体験されましたか?
小島:はい。私は普段から義足と車いすを併用しているので、そのときは義足でプレイをさせてもらったのですが、車いすユーザーの目線で見ると、部屋と部屋の移動中に障害物があって、そこを乗り越えたり、ハードルをくぐったりと、車いすでは物理的にプレイできない仕かけがあることに気づきました。
ですが2~3人でチームを組んで遊ぶのがこの施設のコンセプト。車いすユーザーができないことを助けてもらいながら、チームで補い合ってプレイできるというのであれば、それはすごく面白いなと感じました。
また、身体を使ってプレイするアトラクションは、きっと自分ひとりなら敬遠してしまいますし、それは多くの車いすユーザーの方も同じだと思うのです。ですが、松平さんたちからリニューアルのコンセプトを伺い、そこに車いすユーザーの目線がインクルーシブデザインとして入れることができれば、車いすユーザーと健常者が一緒になって夢中になれるアトラクションができるのではないかと思ったのです。
松平:小島さんとお話しするなかで出てきたのが“生身で体験する運動型アトラクションを車いすユーザーでも手軽にプレイしたい”という要望。なかでも印象的だったのが、車いすユーザーの方々は“車いすに最適化されたものではなく、健常者の方に向けて作られたものを遊ぶほうが面白い”というご意見でした。
それならば『THE TOKYO MATRIX』のリニューアルコンテンツにひと工夫すれば、車いすユーザーの方を含めた、より多くの方にプレイしてもらえるのではないか? と考え、改良点を探ることになりました。
――『THE TOKYO MATRIX』に限らず、全国のアトラクション施設では、車いすユーザーの方に対してどのような対応しているのでしょうか。
小島:大型テーマパークでは車いすユーザー用の導線が用意されていて、ホスピタリティ面でかなり工夫されているところもありますが、それはごく一部に限られています。
また、私の場合は義足を使って、自分でジェットコースターなどに座ることができますが、義足が取れてしまう可能性を考慮して搭乗を断られる施設があることも事実です。安全面を踏まえてのことなので仕方がないことなのですが、違うかたちで楽しめる施設があれば、それは素晴らしいことだなと思います。
松平:先ほど小島さんからもご指摘を受けた通り、『THE TOKYO MATRIX』でも前回のアトラクションでは、遊んでみたいとおっしゃってくれた障がいのある方のニーズに物理的にお応えできず、入場をお断りしなくてはならない場合がありました。それを少しでも改善するために、取り組んだのが今回のリニューアルに伴う「車いすモード」の実装です。
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小島:現実的な課題としてあるのが、多くのアトラクション施設は、車いすユーザーへの対応が施設情報として明文化されていないということ。おそらく大丈夫そうだけど本当に車いすで行けるのかな? というのは、いつも悩みどころではあるので、こうして「車いすモード」の存在を知っていただくお手伝いができるのは、私としてもうれしいです。
――今回は、小島さんと旦那さま、そしてお子さまのご家族3名のチームで「ダンジョン∞スパイラル」の「車いすモード」に挑戦してもらいました。まずは、松平さんから「車いすモード」の内容を紹介してください。
松平:「ダンジョン∞スパイラル」は通常、1~4のクエストごとに自動的にアクション性の高いアトラクションが提示され、それをクリアして次のクエストに進むシステムになっています。
受付でプレイヤー登録をする際に「車いすモード」を選んでいただくと、各クエストのなかで車いすに乗ってプレイするのは困難だと思われるもの……例えばジャンプをしたり、自転車を漕いだり、足さばきをセンシングするようないくつかのゲームは、割り当てられないようになっています。
――各クエストの難易度が下がるわけではないんですね。
松平:はい。「ダンジョン∞スパイラル」はもともと、プレイヤーのゲーム結果が1クエストごとにランクづけされ、制限時間内にプレイした結果に応じてメダルが貯まっていくシステムなので、難易度という概念が最初からないんです。なので、誰もが同じ条件で遊ぶことができます。
小島:そこがとてもいいなと思いました。先ほど松平さんは、「車いすユーザーは健常者向けに作られたものを遊ぶほうが面白いという意見が印象的だった」とおっしゃいましたが、まさにそれなんです。
「ダンジョン∞スパイラル」をプレイしている間、私は自分にある障がいのこと、車いすを使っているということを忘れていたというか、プレイする楽しさのほうが圧倒的に勝っていました。
次はコレをやらなきゃ! ボールを投げなきゃ! 仲間を応援しなきゃ! と、家族と一緒にワーワーキャーキャー言いながら遊べるのが、すごく楽しかったですね。
松平:それは本当にうれしい感想ですね……。僕も車いすユーザーの方たちがチームを組んだテストプレイに同席した際、皆さんがお互いをフォローしながら楽しそうにクエストに挑戦されているのを見て安心しましたし、皆さんの信頼関係やチーム内での絆を感じて、非常に感銘を受けました。
「車いすモード」は車いすユーザーの方たちだけでも楽しめますし、健常者の方を交えても楽しめる。それぞれの得手不得手を協力してカバーしあうことが、「ダンジョン∞スパイラル」というアトラクションの大きなコンセプトなので、それを車いすユーザーの方たちにも感じていただけたというのは、取り組みが正しい方向に進んでいるという実感を得られます。
――小島さんが特に面白いと感じたクエストはどれでしたか?
小島:一直線の通路を走って、制限時間内に進めるところまで進み、壁にデバイスをタッチできるか? のクエストは、すごく斬新で面白かったです。
松平:見ていた僕らも、かなり熱くなりました(笑)。
小島:私もです(笑)。制限時間が迫るとカウントダウンが始まるのにもドキドキしましたし、うちの家族の場合、子どもはまだ走るのが遅いですが、夫はそれなりに速いので、高得点は夫に稼いでもらおうと、応援にも熱が入りましたね(笑)。
松平:車いすでのプレイ感はどうでしたか?
小島:コースが真っ直ぐなので、想像以上にスムーズにできました。ただ、車いすを走らせて壁のマークにデバイスをタッチするには、ブレーキをかけて壁沿いに止まらなくてはならない。そうすると壁に駆動輪やハンドリムを回す手がぶつかりそうになるんですね。なので、そこにクッション性のあるガードなどを置いてもらえると、もっと安心して遊べるなと思いました。
ちなみにガードは、車いすユーザーを守る意味に加えて、施設の保全にも役立ちます。車いすユーザーの“あるある”なんですが、車いすを壁などにぶつけて傷つけてしまったという経験があって、そういうことを気にしないで済むためのガードでもあります。
松平:確かにそうですね。先ほどプレイを拝見して僕らが新鮮に感じたのは、小島さんの車いすを旦那さまが押してプレイされた回があったことですね。
小島:ひとりずつプレイするのがルールだと、ちょっとズルをさせてもらった感じでしたが……(苦笑)。
松平:いえ、あれこそが協力プレイですよね。プレイヤー協力型を謳っている「ダンジョン∞スパイラル」としては、車いすユーザーの方ならではの遊び方があるのだと、目からウロコでした。
小島:あの走るクエストは1回プレイして終わりではなく、何度かトライできるので、1回目は自分で車いすを走らせてやってみよう、2回目はちょっと押してもらおうとか、工夫できるのがまた楽しかったですね。ボールを投げるゲームも、意外と手が届いて当てることができたので、それほど困ることはなかったです。
――逆に、プレイしづらかったクエストはありましたか?
小島:クエスト5のゲームですね。ゲームの設備上、普通にプレイするならボールを蹴って敵に当てるクエストは、少し難儀しました。私はボールを蹴ることができないので、床のボールを手で転がしてプレイしたのですが、跳ね返るボールが必ず自分のいる場所に戻ってくるわけではないので、投げる回数を増やすというのは難しかったです。
でも、夫や子どもも蹴ってボールをコントロールするというのは不慣れだったので、トータルでいうと、そこまで大きな差はないのかもしれないですね。
あとは、プレイが終わってから気づいたのですが、そのクエストはチームメンバー3人が壁に向かって横並びになってスタートするんですね。そこで私が真ん中のポジションに入っていれば、両脇から中央の私の足元に、ボールを集めてもらうこともできたんじゃないかと……。
松平:そうだと思います。そういうチーム内の戦略立ても「ダンジョン∞スパイラル」の面白いポイントなんです。3人チームでテストプレイをしてもらったときは、ふたりがボール蹴りを担当し、ひとりがそのふたりの元にひたすらボールを集めるという分業制で、かなりの得点を稼いでいました。
小島:いいアイデアですね! 位置取りや分業も戦術になるんだと思うと……もう一度、挑戦したくなってきました(笑)。ほかにも、車いすに乗っていると手が届くか届かないかギリギリのクエストもありますが、そのギリギリ届くか届かないかを頑張るからやりがいがあって楽しいし、みんなでクリアできたときの喜びも大きくなる。
車いすユーザー向けに作られていないゲームが「車いすモード」で楽しめるのは、何度も挑戦したくなるモチベーションにもつながると思います。もちろん同じ車いすユーザーでも、障がいの内容によってできること、できないことが変わってくるので、すべてを一緒くたにはできない部分もありますが、取り組みの方向性という意味では、間違ってはいないと思います。
――車いすユーザーの方に快適に楽しんでいただくには、施設全体のアクセシビリティも重要です。そこに関してはいかがでしたか。
小島:ビル全体のことでいうと、今日、私たちは車で来たんですが、東急歌舞伎町タワーの地下駐車場には車いすユーザー専用の駐車スペースも用意されていて、車いす対応のエレベーターでそのまま『THE TOKYO MATRIX』のある4階に上がれました。4階にはこの施設しかないので、ほかのお店とかを通らず真っ直ぐ受付のある入口に辿り着けるのも快適でしたね。
松平:『THE TOKYO MATRIX』内部で何か気になるところはありましたか?
小島:通路も車いすで通れるだけの幅がありますし、施設内には段差もないので、導線に関してはとてもスムーズだと感じました。入場を待つロビーにもゆとりがありますし、グッズ売り場も車いすに乗っていながら手が届く範囲で低めにディスプレイされているので、買い物をしたいときにも不便は感じませんでした。手が届きづらいものがあっても、同行者やスタッフの方にお願いできるので、これくらいは問題ありません。
トイレも確認させてもらったのですが、広さや設備ともに快適でした。
――各クエストは複数の部屋を行き来して楽しむ仕様になっていますが、そちらで気になることはありますか?
小島:そうですね。強いて言えば、部屋の入り口が片開きドアを押して入るタイプなので……。
松平:車いすでひとりだと、開け閉めがしにくいですよね……。
小島:確かに自分ひとりだとそうですね。でも、私は逆に「ダンジョン∞スパイラル」のコンセプトには沿っているなと思ったんですよ。ドアを同じチームの人に開けてもらって入るというのも、協力プレイなので! もともとふたり以上で一緒に遊ぶことが前提ですから、そこはゲーム性と併せて楽しめましたね。
あとは、これも強いて言えばですが、受付のタブレットが車いすユーザーだとちょっと起こしの角度が足りなくて画面が見づらいというのはありました。
松平:それは高さを足せばいいので対応できると思います。やっぱり、細かいところは体験していただかないと、我々には気づけないところが出てきますね。
――先ほど、ほかのアトラクション施設でのホスピタリティについてお話いただきましたが、小島さんの経験上で、『THE TOKYO MATRIX』に採り入れてもらいたい要素はありますか?
小島:私としては、昨年のテストプレイでお話しさせていただいたことを、かなり採り入れてくださっているなと感じました。
例えば、前回来たときには通路の障害物をくぐるゲームの際、ユーザーがケガをしないように床が柔らかい素材でできていました。でも、車いすで移動をするときは、床が柔らかいと操作がしにくいというか、ほぼ不可能なんですね。そこも改良されてフラットになっていたので通行しやすかったです。
安心して遊べる施設だなと実感しましたし、私たち車いすユーザーが本気で挑んで面白さを感じられる、アトラクションだと思います。クエストのルールも直感的に理解しやすいものばかりですし。
松平:そう感じていただけると、僕らも本当にうれしいです。車いすユーザーの方にとっては、身体を動かして遊べるアトラクションというのはあまり多くはないと思うので、ストレス発散にも使っていただければ(笑)。
小島:そうですね。確かにすごくストレス発散になります(笑)。
松平:思い立ったときに来ていただければ、「車いすモード」をいつでもすぐにプレイできますので。
小島:予約なしでも遊べるのもとてもいいですね! 車いすを使っていると、どこに行くにも何をするにも、事前に確認が必要です。そのレストランには車いすは入れるか? とか。ですがここは、お友達と遊びに行った帰りに、予約をしなくてもフラッと来られるので、とてもありがたいです。私もいろいろな方にすすめたいと思います。
――改めて『THE TOKYO MATRIX』として、今回「車いすモード」を導入したことで、得られたものは何だったでしょうか。
松平:『THE TOKYO MATRIX』を運営して丸2年が経ちましたが、今回の「車いすモード」の導入によって、リニューアルで目指していた、子どもから大人までより多くの層が楽しめる体験型アトラクションの提供というビジネス観点と、インクルーシブにエンタテインメントを楽しんでもらいたいという社会的観点が、ある程度合致できたという手応えを感じています。
小島:私は、ここに来る直前に1週間ほどアメリカに出張していて、向こうで開催されたアクシビリティのカンファレンスに参加してきました。そこでも感じたのですが、障がいのある人たちの大半は「頑張ればできる」「頑張ればやれるんだ」という気持ちになれることが喜びにもつながります。
そのうえで、協力してくれる人が「何か手伝いましょうか」とみんなで声をかけあうのが、当たり前の社会。その縮図が、今日、この『THE TOKYO MATRIX』のアトラクションにあるなと感じました。これからもそういう視点を大事にしてくださるエンタテインメントコンテンツが増えてくれたらうれしいなと思いました。
松平:その通りですね。正直なところ、企業の観点からすると、インクルーシブを頑張るとは言っても、それを完璧にする施設設計、運営を行なうには、大きなコストがかかります。ですが小島さんたちが教えてくださったように、すべてを障がいのある方に最適化せずとも、お互いが満足できるラインがあるということがよくわかりました。今後も、この視点の存在を忘れないように取り組んでいきたいと思います。
――例えば、どういった今後が考えられますか?
松平:今回は車いすへの対応でしたが、これまでも視覚障がい、聴覚障がいのある方からのお問い合わせをいただいたことがあります。現時点では、視覚に関してはまだ対策が思いついていないのですが、聴覚に関してはゲーム中にテキストメッセージは確実に出せていますので、そこをもっと工夫する方法がないか、我々も考えていければと思っています。
小島:「車いすモード」に関しても、私たちの要望に応えて導入していただけたのがとてもうれしかったので、ソニーグループ全体で連携しながら、これからもインクルーシブなエンタテインメントを一緒に考えていけたらいいですね。
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
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