音楽で子どもたちを応援――ソニー・ミュージックレーベルズが今、小中学生に向き合う理由②
2025.05.22


2025年3月、ソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)は、音楽で子どもたちを応援するプロジェクトをスタート。子どもたちの体験格差など社会課題に取り組む団体の協力を得ながら、小中学生を対象に音楽の楽しさ、音を奏でる感動を提供していく。
このプロジェクトが立ち上がった経緯と現時点での手応え、そして今後の展望について、運営に携わるSMLの武哲也、丸子由佳に話を聞いた。
目次

武 哲也
Take Tetsuya
ソニー・ミュージックレーベルズ

丸子由佳
Maruko Yuka
ソニー・ミュージックレーベルズ
記事の後編はこちら:音楽で子どもたちを応援――ソニー・ミュージックレーベルズが今、小中学生に向き合う理由②
──家庭環境など、さまざまな事情によって生じる子どもたちの体験格差。SMLでは、この社会課題にフォーカスし、子どもたちの支援団体と連携して音楽の楽しさを伝える教育支援活動をスタートさせました。まずは、この取り組みが立ち上げられた経緯を教えてください。
武:近年、多くの企業と同様に、ソニーミュージックグループでも持続可能な社会の実現に向けてサステナブルな取り組みを一層推進しており、SMLを含むグループ各社の事業ロードマップの重点項目に、サステナビリティ活動が組み込まれるようになりました。
そのうえで、SMLには社会貢献活動に力を入れているアーティストが多数在籍しており、そんなアーティストと非常に近しい関係にある我々にもできることがあるのではないかと、SMLなりのサステナブルプロジェクトを模索していたんです。
ただ、具体的に何ができるのか、何をするべきなのかという話になると、ぼんやりしてしまって……なかなかプロジェクトとして立ち上げることができなかったんです。
そんななか、SMLの代表取締役である辻野(学)から“いろいろな事情で困っている子どもたちを音楽の力で応援できないか”というテーマを受け取りまして。
これについてスタッフの間で議論したところ、“SMLが音楽に関するワークショップを提供し、そこに参加してくれた子どもたちが、将来アーティストや音楽クリエイター、音楽業界で働くことを志望してくれたら、こんなに幸せなことはないよね”という話になりました。それで、子どもたちに音楽の楽しさを伝えるプロジェクトを立ち上げることになったんです。
──武さん、丸子さんが今回のプロジェクトに携わることになった経緯も教えてください。
武:自分はSMLのA&R(アーティスト&レパートリー:音楽アーティストをさまざまな面でサポートしながらヒットへ導く音楽業界の業種)を経て、現在は新人アーティストのコンベンションやスタッフの勉強会などを取り仕切る企画戦略部という部門に在籍しています。
この部門は、辻野をはじめとする経営陣との距離が近く、SMLのマネジメント層がサステナブルな活動に対して、どのような考え、想いを持っているのかを直接聞くことができます。そこで、我々の部署が中心となって、今回のプロジェクトを立ち上げることになりました。
丸子:私は子どもたちと接点のある仕事がしたいと思っていて。中途採用でソニーミュージックグループを志望したのも、エデュケーション事業が立ち上がると知ってのことでした。
残念ながら、エデュケーション事業はしばらくして会社の基幹事業から外れてしまったのですが、その後も何かしらの形で子どもたちにエンタテインメントを届ける仕事に携わりたいと思い、誰もが音楽の楽しさを体験できる「ゆるミュージック」のプロジェクト推進に携わったり、官民共同のエンタテインメント教育プログラムを制作したりしていました。
その後、SMLに異動してきたときに、武さんたちが、この学生支援プロジェクトを立ち上げようとしているということで、「私もやりたいです!」と自分から手を挙げて参加しました。
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──具体的にプロジェクトが動き出したのは、いつごろですか。
武:1年ぐらい前だったと思います。まずは、丸子さんが持つネットワークの力に頼り、子どもたちをサポートするいくつかの団体にアポを取って、ご相談に伺いました。
「子どもたちを音楽の力で応援する」と言っても、押しつけになってしまっては意味がありません。現場のリアルを知るために、各団体の方々にヒアリングを行なったのが最初の一歩でしたね。
丸子:そこから、どんなニーズがあるのか、どういう内容だったら喜んでもらえるのかを具体的に詰めていき、全国に拠点をお持ちの公益財団法人 日本財団と、子どもの支援活動に特化した認定NPO法人キッズドアの皆さんに、まずはご協力いただくことになりました。
ちなみに、今回のターゲットは小中学生になっていますが、小学生の部で日本財団、中学生の部でキッズドアの皆さんにそれぞれご協力をいただいています。
──ターゲットを小中学生にしているのはなぜですか?
武:子どものころの体験は、一生ものだと考えたからです。例えば少年野球チームにプロ野球選手やそれに関わるスタッフが来てくれたら、子どもたちの記憶に残るかもしれないし、その選手の活躍を見てプロ野球やメジャーリーグの選手、さらにはその選手を支えるスタッフを目指す子どもたちがいるかもしれません。このように、子どものころの体験によって将来の道が広がる可能性があると思ったからです。
今回、高校生を対象にしなかったのは、この年ごろになると具体的かつ現実的な進路を考えるようになって、そのタイミングで触れる音楽体験というのは、初期衝動とは違うものになりそうだと思ったから。まずは音楽のシンプルな力を全身で感じてほしくて、対象を小中学生に絞りました。
ただし、これは現時点での話で、今後ターゲットを広げる可能性もあるので、高校生の年代を完全に対象外にしているわけではありません。
──では、小学生向けのプログラムについて概要を教えてください。
丸子:グループにわかれて、身近なものから音や言葉を想像して、グループでひとつの音楽づくりをする「クアトロミュージック」というプログラムを実施しました。
このプログラムでは、まず音楽の楽しさを知ってもらいたかったので、身近な音や言葉を使って音楽を作り、奏でるプログラムにしました。そのうえで、“音楽を通した表現は楽しい”“みんなに聴いてもらえてうれしい”と、表現することの喜びを感じたり、できたという成功体験につながることも目標としています。
──プログラムづくりには、外部の有識者も参加しています。
武:小学生向けのプログラムづくりに力を貸してくださったのは、MITSURUさんです。MITSURUさんはプロのドラマーでありつつ、MUSIC FACILITATORとして全国の保育園、小学校、福祉施設などで音楽を楽しむイベントを開催されています。
──2025年3月に開催したイベント第1弾では、「認定NPO法人さいたまユースサポートネット あそぼっくす・ほりさき」という子どもの居場所に15人の小学生を集め、ワークショップを実施しました。どのようなプログラムだったのか詳しい内容を教えてください。
丸子:グループに1台タブレットを渡し、音声の録音、再生、編集ができるアプリ『Koala Sampler』を使って音楽を作ってもらいました。
まず、アプリに慣れてもらうために、早口言葉や足踏みの音などを録音する簡単なミッションを提示して、ゲーム感覚で取り組んでもらいました。その後、各グループで音楽づくりに進みますが、そのテーマを「あそぼっくす・ほりさき」としました。
子どもたちが「あそぼっくす・ほりさき」から連想する言葉や音を探して録音し、こちらで用意したリズムと組み合わせ、音楽を作るという内容です。最後には、作った音楽をグループごとに発表するプレゼンの時間も設けました。
──ワークショップを実施した感想は?
武:実際にやってみるまでは、どこまで盛り上がるのか、正直、不安もありました。また、『Koala Sampler』というアプリを初めて使うお子さんばかりなので、使いこなせるのかという心配もあったんですが、予想以上に盛り上がりましたし、心配していたアプリの操作もみんなスイスイ使いこなしていて驚きました。
丸子:作る音楽を「あそぼっくす・ほりさき」のテーマソングにしたことで、子どもたちが施設について考えるきっかけを作れたのが、良かったなと思いました。録音する音や言葉を見つけるため、慣れ親しんでいる「あそぼっくす・ほりさき」から連想するワードをたくさん書いてもらったのですが、“楽しい”“友達”といった言葉以外にも“お菓子がおいしい”“先生が優しい”“イベントがたくさんある”などの言葉が出てきて、子どもたちや先生方も気づいていなかった魅力が再発見できました。
──音を録音する過程でも、子どもならではの発想が飛び出していましたね。
丸子:紙をくしゃくしゃと丸めることで、お菓子を食べる音を表現していたグループがあって、発想力の豊かさに驚きましたね。ほかにも、普段遊んでいる輪投げを使って音を録るなど、ユニークなアイデアで、みんな音づくりを楽しんでいました。
武:ドミノを並べて倒す音を録っていたグループもありました。いつも遊んでいる場所だからこそのアイデアですよね。
── 一度録り終えた音を「もう1回録る!」と言ってやり直しているグループもありました。自分たちが納得のいく音楽を作ろうという意欲を感じましたね。
丸子:同じ小学生でも、やはり高学年のグループは一つひとつの音づくりにこだわっていました。低学年のグループは楽しく演奏すること、スムーズにワークを進めることに力を入れていましたね。そういった個性の違いも見ていて面白かったです。
──ワークショップの最後にはプレゼンがありましたが、作って終わりにしなかったことにはどんな意図があったのでしょうか。
武:発表の場を設けることで、子どもたちに自信がつき、自己肯定感が高まるのではないかと考えました。みんなの前で話したり、前に出てきて演奏したりするのが苦手な子もいるかなと思いましたが、お互いに知っている顔ぶれということもあってか、みんな積極的に発表していましたね。
──ファシリテーターとして、SMLのスタッフが各グループにひとりずつ参加していました。子どもたちとどういったコミュニケーションを図るのか、接し方について事前にどのような話をしましたか?
武:小さなことでも「いいな」と感じたことは、率直に伝えようと、スタッフ全員で心がけました。音を録り、音楽を作って“楽しかったね”で終わってしまうのではなく、自分自身の新たな魅力や得意なことに気づいてもらえたらという思いで接するようにしました。
実はこれって音楽レーベルのスタッフの視点で言うと、アーティストと向き合うときと一緒なんですよね。いい音楽を作るには気持ちやモチベーションというのは非常に大事で、それは、アーティストでも子どもでも同じなんだと、やっていて気づきました。いいと感じたところは素直に伝え、気分を盛り上げてもらう。シンプルだけど大事なことですよね。
ちなみに、過度な持ち上げは見抜かれるというのもアーティストと同じでした(苦笑)。
──難しさを感じた点はありますか?
武:いろいろなお子さんがいますから、なかには途中退出する子やほかの遊びを始める子もいました。自分の出番があまりなくて飽きてしまったのかなと、この点に関してはグループワークの難しさを感じましたね。ひとりにひとつ、何らかの役割を持ってもらったほうが“自分も参加している”という意識をもっと高められたのかもしれません。
丸子:確かに、グループワークにはメリットとデメリットの両方がありますよね。当初はひとり1台タブレットを渡し、個人ワークにする予定だったんです。ですが、操作に慣れていない子もいるでしょうし、スタッフの数も限られているので、それぞれに対応するのは難しいと判断しました。
グループにすることで、操作に不慣れな子はほかの子にフォローしてもらえますし、自分が考えた音をほかのお友達と協力して録ることもできます。ただ、なかには手持ちぶさたになってしまう子や、初対面の大人がいることで発言しづらい子もいたかもしれません。
──プログラムを通して、武さん、丸子さんが気づいたこと、学んだことはありましたか?
武:実のところ、個人的にはこういった取り組みに対して少し抵抗感もありました。このプログラムで我々は“子どもの体験格差をなくす”というテーマを掲げていますが、「自分はどの立場からものを言っているのだろう」と思ってしまって……。これまで、こういった取り組みに参加したこともないのに、「困っている子どもたちの役に立ちたい」だなんて軽はずみに言っていいのかという、迷いがあったんです。
ですが、ワークショップを開催してみると、自分が考えすぎていたことに気づきました。参加してくれた子どもたちは、“楽しかった”“またやりたい”と笑顔で喜んでくれて。もしかしたら今後ネガティブな意見をいただくこともあるかもしれませんが、それを恐れていても仕方がないと思いました。
ただ、“音楽体験を提供してあげる”という目線にだけは絶対にならないように注意しなければと感じています。我々は、子どもたちに何かを“してあげる”わけではなく、単に音楽に触れてもらうきっかけを作るだけ。そこで何を感じるのかは、子どもたち次第です。
それと、先ほども言った通り、この取り組みの根幹には参加してくれた子どもたちが、将来アーティストや音楽クリエイター、音楽業界で働くことを志望してほしいという、自分たちとしてのテーマもありますからね。
でも、だからこそ、中途半端ではなく本気で取り組まなければいけないなとも感じました。
──今後はどんなマインドでプログラムに向き合っていくのでしょうか。
武:ワークショップで、僕はモニターやマイクなど機材のセッティングも担当していたんですが、その様子を見たMITSURUさんが、「武さんがそうやって機材のケーブルを抜いたり差したりするのを見るだけで、楽しい子もいるんですよ」と言ってくださって。
こちらは子どもたちに“教える”のではなく“見せる”。普段やっているようなことを見せるだけでも、子どもたちにとっては刺激になり「こういう仕事もあるんだ」と思ってもらえると気づきました。“何かを教えなきゃ、伝えなきゃ”と力みすぎず、視野を広げてこのプログラムに向き合っていけたらと思っています。
後編では、中学生に向けて開催したワークショップの内容と、教育支援プロジェクトに関する展望を語る。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修(インタビュー)/千々岩 友美(ワークショップ)
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