『The Wakey Show』の人気を支えるパペット操演者――その操演術を未来につなげなければいけない深い理由①
2026.05.14


2026.05.14
NHK Eテレのエデュテインメントショウ番組『The Wakey Show ~ ザ・ウェイキー・ショウ』(以下、『The Wakey Show』)の制作関係者と出演者による座談会。
後編では、パペットに命を吹き込む秘訣や操演術の奥深さ、そして番組が操演という芸能に対して独自に行なっているサステナブルな取り組みについて、現時点での手応えを語り合った。
目次

佐藤正和氏
Sato Masakazu
NHKエデュケーショナル こども幼児グループ
チーフプロデューサー

松本健太氏
Matsumoto Kenta
株式会社パペモ 代表
声優・パペティア

助川真蔵
Sukegawa Magura
声優・俳優
『The Wakey Show』ヴィーテ役

早希
Saki
シンガーソングライター・俳優
『The Wakey Show』マリーゴール役
NHK“放送100年”の節目に誕生した、NHK、NHKエデュケーショナル、ソニー・ミュージックエンタテインメントの3社で制作する子ども向け番組。着ぐるみやパペットのキャラクターが、科学、自然、芸術、歴史など、さまざまな“知のとびら”を開くエデュテインメントショウだ。ゲーム、ダンス、音楽ライブ、料理、コント、街探検、マンガなど、楽しいコーナー満載で人気を集め、NHK Eテレで月曜から金曜まで朝7:00~7:20に放送中。さらに、番組から派生したコンサート『The Wakey Show LIVE』など、ステージイベントも随時開催している。
【放送情報】
Eテレ 月~金曜日
午前7:00~7:20
午後5:10~5:30(再放送)
記事の前編はこちら:『The Wakey Show』の人気を支えるパペット操演者――その操演術を未来につなげなければいけない深い理由①
――出演者全員がパペットで登場するトーク番組「ねほりんぱほりん」での操演を見ていると痛感しますが、パペットの操演でも“演じる”ということが非常に大切だと感じます。声優、俳優としても活動する助川さんは、これまでに演じてきた経験を、どのようにパペット操演に落とし込んでいるのでしょうか。
助川:僕は役を“演じる”という視点では、声優、俳優、操演、どれも根幹は変わらないと思っています。大事なのは見てくださる方に何かを感じとってもらうということで、それが表現の本質だと思うんです。音楽でも芝居でも、僕が表現したものを受け取っていただき、その反応を糧にして、僕もまた頑張れる。そういう循環は、どの立場でも変わらないなと。
もちろん、これまでの経験がいきる部分もたくさんありました。例えば、蹴込みに隠れてパペットを操作する“隠れ操演”のときは、モニターと台本を見ながら操演を行なうんですが、このときは声優の現場で映像を見ながらアフレコ収録する経験がいきました。また、もともとダンスをやっていたので、その経験も“顔出し操演”でのダンスの動きや見せ方に応用できていると思います。
振り返ると、番組が始まった当初は、先ほど松本さんが説明してくれた操演の技術面で“ああしなきゃ、こうしなきゃ”と、そればかりを意識してしまっていたんですが、今は少し余裕が生まれて、パペットでも相手を見て会話できるようになってきました。そうなってくるとよりいっそう、お芝居をするうえでの感覚と変わらないように感じています。
――早希さんはどうですか? 歌やダンスの経験と、パペット操演とのつながりについて何か共通していると感じることはありますか?
早希:私は、これまでやってきたことが、全部いかせているなと思います。もともと全身で表現することが好きなので、歌って踊って、さらにパペットを操るという今のスタイルはすごく自分に合っているような気がしています。
なかでも好きなのは“顔出し操演”。自分の表情も含めて、よりマリーゴールというキャラクターになりきれる気がしますし、パペットと私、両方でひとつのキャラクターを表現するのがすごく面白いんです。そうやって気持ちがしっかり乗って、パペットと一体化できたときに一番パワーが出ます。“今、演じられているな”と実感できる瞬間がとても楽しいし、やりがいにもつながっていますね。
――そもそもパペット操演は、人形を扱う技術なのか、それとも演劇なのか。早希さんとしては、どう感じていますか?
早希:どちらの要素も大切だと思うんですけど、今の私のなかでは“顔出し操演”で演じるときは、より演劇的になる気がしています。もちろん事前に動きとかも決めますが、実際には相手の動きや場の流れを受けて感情が動きますよね。その結果として、自然とマリーの動きが出てきたときに、演じているという実感があります。
ただ、蹴込みでの“隠れ操演”は、まだそこまで余裕がなくて……。もちろん演じられているなと思う瞬間も少しはありますが、“ちゃんとカメラに目線を合わせて動かせているかな”とか、技術寄りの視点になってしまうことのほうが多いです。パペットと一心同体で演じるためには、もっともっと鍛錬するしかないなと毎回反省しています。
――特に“隠れ操演”において、指導にあたった松本さんと、自身の技術や演技の違いを感じることはありますか?
早希:そうですね。4月2日の世界自閉症啓発デーに合わせた『The Wakey Show』の放送にエルモが来てくれたときには、松本さんの演技をWakeysのみんなで見学させていただきました。
そのときに感じたのは、松本さんの操演は迷いがないということ。かと言って、当たり前ですけどパターン化された演技でもなく、本当にエルモが生きているように見えたんです。
私もこれまでに「マリーが生きているみたいだったよ」と言っていただけたことはあるんですが、自分としては、まだまだ迷いがあるなと感じていて。しっかり迷いをなくして、マリーに気持ちを宿せるようになりたいと思っています。
――松本さんは、Wakeysの指導者にあたるわけですが、助川さん、早希さんの成長、トレーニング期間から現在に至るまでの変化をどのように感じていますか?
松本:先ほど早希ちゃんが、パイロット版の撮影で「壁を越えたかもしれない」と話していましたよね。そのときのことを僕も鮮明に覚えていて。僕が、明確に“壁を越えたな”と感じたのは、撮影2日目のことでした。
トレーニング期間は、とにかく技術を増やすために、徹底して基礎を学んでもらいました。キャラクターらしい動きや感情表現、例えばジャンプひとつをとっても、うれしくて飛び跳ねているのか、楽しくてスキップしているのかで表現は大きく変わってくる。そういうことも伝えてはいましたが、正直まだまだ時間が足りないと感じていたんです。
そんななか、撮影2日目に、マリーがウェイキーと会話するシーンがあって。そのときマリーが、“……うんッ!”と、上にグーッと溜めを作ってから大きくうなずく芝居をしたんです。その動きから、マリーのうれしさとか期待感がすごく伝わってきました。
“えっ、そんなこと教えてないのに!”と驚きましたし、撮影2日目にして早希ちゃんから出てきたその感情表現が、マリーというキャラクターにしっかり乗っていることに感動しました。
ヴィーテに関しては、ラップ系の歌を披露する場面で衝撃を受けましたね。操演者として“とんでもない人が出てきたな”と、悔しさを通り越して完全に観客として楽しんでしまいました。
僕は普段Eテレの番組を見るとき、つい仕事目線で分析的になってしまうのですが、ヴィーテがラップをしているときはお客さんになれる。僕とは違うジャンルをパペット操演にミックスして、ひとつのエンタテインメントとして成立させているなと感じました。
もちろん収録時は指導係の顔に戻って、改善点があればしっかり伝えますが、ヴィーテのパフォーマンスは楽しくて思わず見入ってしまうんですよね。これまで声優や歌手活動で培ってきたスキルとパペット操演のマッシュアップにより、まぐさん(助川さん)にしかできない表現になっていると感じています。
――松本さんが考える“魂のこもったパペット操演”とはどんなものですか?
松本:大きな基準は、生きているように見えるかどうか。その鍵になるのが“呼吸”です。
人間は呼吸があるから生きているし、息遣いによって身体が動きますよね。緊張すると息が詰まり、“次のセリフはなんだっけ?”と言葉が出にくくなりますが、パペットでも同じことが起きる。レッスンの最初にリップシンクや発声を徹底するのは、その“呼吸”を意識させるためなんです。
パペットにも器官があって、吸った息を吐くときに発音している。だから、例えば走るお芝居なら、ハッハッハッと荒い息遣いになったうえで、唾を飲むようなしぐさを入れると、一気にパペットに“生”が宿る。そういう魂の入った演技をするには、“キャラクターの身体がここにある”と操演者が信じられるかどうかがポイントです。
技術も大事ですが、それに加えて脳内でキャラクターと自分を一体化できるか。パペットに手を入れた瞬間、自分とキャラクターがパッとひとつになれたときに魂が宿るのだと思います。
僕自身は、声優としてアフレコに参加し、舞台にも立ち、パペット操演が始まって……といろいろな表現ジャンルを経験してきました。そこで感じたのは、パペットは舞台とアニメが融合したものだということです。
どれも身体で表現して息遣いを乗せるお芝居ですが、パペットとアニメの場合は、見た目がリアルの自分とはまったく違います。けれど、パペットは自分の手を通じて確かにその場に存在する。ふわふわな赤毛のモンスターの子どもが自分の手にいて、その子が僕の感覚と一緒に動いてくれるというのが舞台演劇と近いんです。
ジャンルの境界を越えた表現だからこそ、パペットにのめり込みましたし、そのキャラクターが確かに存在するという“魔法”を信じられれば、生きた操演につながるように思います。
早希:今のお話、深いですね。マリーが生きていると信じることって、すごく大事。キャラクターなのに確かにそこに実在するという、新しい表現に関わっていることを改めて実感しました。
助川:アニメでは動きに合わせてセリフを話しますが、パペットは自分の手を動かして声を出します。その違いはあるけれど、根幹は同じなんですね。
――番組プロデューサーである佐藤さんは、ふたりの成長をどう見ていますか?
佐藤:このスタイルでやると決めたとき、正直、批判もあるだろうと思っていました。これまで顔を出さずに“隠れ操演”に徹してきた方々には、「何をやっているんだ」と思われてもおかしくないなと。それでも、ここで挑戦しなければ後継者は生まれないという思いで“顔出し操演”に踏み切りました。
だから、パイロット版を作っていたときは本当に不安で、「子どもたちに伝わるだろうか」「これで受け入れられなかったら本番を制作する前に終わるかも」と思っていたんです。
でも、パイロット版を収録したとき、会場にWakeysが登場した瞬間から、子どもたちはスッと人形に集中していました。その瞬間、“いける”と確信しましたね。
さらに、今のキャストの表現力は、僕の想像を超えていました。パペットミュージカル『アベニューQ』ともまた違う領域で、Wakeysは完全に“ふたりで一体のキャラクター”というパフォーマンスを確立できたなと。しかも動き回って歌い、踊り、コントもこなす。こんなにわずかな時間で、ここまでのレベルに到達するとは思っていませんでしたね。
驚くべきは、操演と同時に“喋る”点です。従来の人形劇では、音声は事前収録やアテレコで、操演者は人形を操ることに専念していました。でも、Wakeysはパペットを動かしながら同時に喋っている。それがパペットも生きているという感覚につながり、子どもたちにも自然に届いたのではないかと思います。
最初は「操演の技術を少しでも継承してくれるだけで有り難い」と思っていましたが、今では、ここから優れたパフォーマーが次々と生まれていく可能性を感じています。
――番組が始まって1年が経過しましたが、操演の後継者問題の解決という面で手応えは感じていますか。
佐藤:確実に前進はしていると思います。ただ、やはりスターがいないと裾野は広がらないので、まずはWakeysをスターにすることが番組のミッションですね。
今の番組の反響を踏まえると、きっと次のオーディションにはより多くの出演希望者に集まってもらえると思いますし、そこで新しい表現が生まれてくることも期待しています。
――松本さんは、操演者の活躍の場を広げるために何が必要だと考えていますか。
松本:日本では“パペット=子ども向け”というイメージが強いですが、海外ではホラーやSFなど幅広いジャンルで使われ、パペットは大人向けの作品においても重要な表現手法になっています。
日本でも、子ども向けの教育コンテンツに限らず、もっと多様な作品でパペットが使われるようになれば、操演の仕事がもっと成立しやすくなるはずです。そのためにも裾野を広げ、スターを生み、文化として定着させることが大事だと考えています。
個人的には、『The Wakey Show』を見て育った子どもたちが、中学、高校で“パペット操演部”を作り、将来的には全国大会が開かれるくらいの文化になってもらいたいというのが夢ですね。プロを目指す人だけでなく、趣味として楽しむ人も増えてくれれば、パペットが登場する大人向け作品も自然と成立していくはずです。
最初の動機は“スターになりたい”とか“面白そうだから”でいいんです。そう思ってもらえるだけの魅力が、この仕事にはあると僕は確信しています。そのことを知ってもらうきっかけを増やしていきたいですね。
――最後に、『The Wakey Show』を通して伝えたいことを教えてください。
佐藤:最初に言った通り、この番組のテーマは、ポジティブシャワーを日々お茶の間と子どもたちに浴びせ続けること。戦争もいじめもなく、誰かと比較することもない。“これ、面白いね”“これ、いいね”と、どんなものでも否定しない。そういう番組を毎日届け続けることで、きっと少しずつでも何かが変わっていくはずだと私は信じています。
“世の中には面白いことがたくさんあるんだよ”とひたすら伝え、その入り口を提示し続ける。歌でもダンスでも科学でも歴史でも、どんな分野でもいい。何かに興味を持つきっかけになれるような番組を作り続けていきたいと考えています。
そのためにも、番組の核であるパペット操演という芸能の灯を消すわけにはいきません。
子どもたちが目を輝かせながら手を振り、その言葉に集中して、なおかつ記憶にも残り続ける。そんな素晴らしいパペット操演という文化、表現を、絶対に未来に遺していかなければいけないし、だからこそ操演術の継承が必要だと考えています。
今の演者たちが、この番組をきっかけにさらに飛躍してくれたら、“自分もWakeysになりたい!”“操演をやってみたい”という人がどんどん増えていくはず。番組を起点にパペット操演者が生まれ、その人たちが、また次のきっかけを生み出していく。そんな循環を『The Wakey Show』で作っていくことが理想ですね。
だから、『The Wakey Show』という番組の真価が問われるのは、少し先の未来なのかもしれません。それでも、僕らがまき続ける種が、20年後、30年後、大きく花開くことを願っています。
記事の前編はこちら:『The Wakey Show』の人気を支えるパペット操演者――その操演術を未来につなげなければいけない深い理由①
文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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