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サステナビリティ ~私たちにできること~

つながって、広がる――ソニーグループ内のインクルーシブな共創が、エンタメの未来をゆっくりと変えていく①

2026.05.08

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ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)は、“誰もが楽しめる未来を、デザインする”をテーマに、障がいのあるクリエイターや多様な感性、背景を持つ人々と共創し、エンタテインメントの視点、ビジネスの視点、双方で新たな価値の創出を目指す『Creative Vision Project』に取り組んでいる。

その取り組みの一環として、2025年8月にソニーグループ株式会社の特例子会社であるソニー希望・光(以下、SKH)との共創プロジェクトを実施。知的障がいや精神障がいのあるSKHスタッフとともに、インクルーシブアートワークショップを開催して、ソニーグループ内でのネットワークも強化させた。

本記事では、SKHとの共創をフィーチャーしながら、『Creative Vision Project』がソニーグループ内で生み出すシナジーが、エンタテインメント業界や持続可能な社会にどのような影響をもたらすことができるのかを、担当者たちの声で紐解いてく。

前編では、SKHが展開する事業の解説を求めつつ『Creative Vision Project』とともに開催したワークショップの企画主旨と、その手応えについて語る。

  • 三村薫のプロフィール写真

    三村 薫

    Mimura Kaoru

    ソニー希望・光

  • 小泉剛のプロフィール写真

    小泉 剛

    Koizumi Takeshi

    ソニー希望・光

  • 太田隆之のプロフィール写真

    太田隆之

    Ohta Takayuki

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 村上亜希子のプロフィール写真

    村上亜紀子

    Murakami Akiko

    ソニー・ミュージックソリューションズ

『Creative Vision Project』とは?

クリエイティビティビジョンプロジェクトに参加したクリエイターとSMSのスタッフの集合写真

エンタテインメントビジネスにおいて、さまざまなソリューションを提供するソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)。そのクリエイティブプロデュース部門が、インクルーシブデザインの手法をベースに、障がいのあるクリエイターや多様な感性、背景を持つ人々との共創を通じて、新たな表現やビジネスの可能性を探るプロジェクト。2024年のプロジェクト発足以降、ソニーグループ内や外部企業、関連団体との連携によって、既に複数の実績を残しつつ、ビジネスへの展開も進行している。

記事の後編はこちら:つながって、広がる――ソニーグループ内のインクルーシブな共創が、エンタメの未来をゆっくりと変えていく②

ソニー希望・光の事業は福祉ではなく、企業としてプロフェッショナルであることを目指す

──はじめに、SKHの設立経緯を教えてください。

三村:SKHは、2002年に設立されたソニーグループ内では2社目となる特例子会社です。その背景には、ソニーグループの創業者のひとりである井深大の強い思いがありました。

約50年前に障がい者雇用を始め、最初の特例子会社であるソニー・太陽を1978年に設立した際、井深は「福祉ではなく、ソニーの社会人として、仕事を通じた自立を追求する」という思いを語りました。

ソニー・太陽設立時には「“障がい者だからという特権なしの厳しさで、健丈者※の仕事よりも優れたものを”という信念をもって」という言葉も残しています。私たちSKHのスタッフもその精神を受け継ぎ、福祉ではなく企業としてプロフェッショナルであることを目指して働いています。

※障がいがなく“丈夫”な人はいるが、“常に”健康な人はいないという井深大の考え方を踏まえて表記したもの。

──組織体制についても教えてください。

三村:2026年4月1日現在、社員数は275名。そのうちの190名が何らかの障がいのあるスタッフになります。

私たちは、障がい者手帳を持つ社員を“スタッフ”、彼らを支える社員を“サポーター”と呼んでいます。スタッフをサポーターが支えつつ、サポーターだけでは解決できない問題は、心理士などが在籍する社員サポート課が支えるという体制をとっています。

会社のことを説明する三村

──現在、どのような事業を展開しているのでしょうか。

三村:①オフィス環境整備、②事務サポート、③IT/映像の3つのコア事業でソニーグループを支えています。

①オフィス環境整備では、品川のソニーシティ、ソニーシティ大崎、ソニーシティみなとみらい、厚木テクノロジーセンターなどの清掃を担当しています。

オフィスを清掃している男性

②事務サポートでは、総務業務、メール集配、名刺印刷、経理資料の作成に加え、ソニーグループ約20社、約19,000人の年末調整業務も請け負っています。

事務作業で受付を行なっている男性

③IT/映像では、画像アノテーション、設計サポート業務やWebアクセシビリティ対応の検証など、ソニーグループの事業を下支えする重要な業務を行なっています。

設立当初、障がいのあるスタッフは15名でしたが、24年間で190名にまで増加、2016年からは精神障がいのある人材の採用もスタートさせています。それに伴って、業務を拡大し、IT/映像事業にも力を入れるようになっていきました。

3人のメンバーがノートPCを前に会議を行なっている

──IT/映像事業の柱のひとつ、画像アノテーションとはどのような業務でしょうか。

小泉:カメラのオートフォーカスが機能する仕組みをご存じでしょうか。膨大な枚数の画像をAIに学習させ、瞳や顔の輪郭といった部位をラベルづけすることで、AIが学習して自動的にピントを合わせられるようになっています。このラベルづけ作業がアノテーションです。

はっきり写っている画像のアノテーションはAIでも処理できますが、例えば飛び立つ鳥のブレた羽、水面に着水したときの飛沫と羽の区別など、判断が難しいケースは人間が確認しながら対応しなければなりません。しかも、こうした作業を1日に数百枚こなす必要があります。ひとつの作業にこだわりを持って取り組み、細部に気づき、飽きずに継続して行なえるというスタッフの特性が、この仕事にマッチしました。

身振り手振り真剣な表情で話小泉

──ほかの業務もスタッフの特性をいかしたものが多いのでしょうか。

小泉:ソニーグループの製品に関わる業務では、スタッフの特性をいかしています。例えば設計サポート業務では、機器の耐久性を確認するために、ボタンを約1万回動作させることがあります。

このテストは機械で行なうケースもありますが、なかには指先や爪でなければ押せない小さいボタンもあって。以前はエンジニアが耐久テストを行なっていましたが、SKHのスタッフなら高い集中力を持続させながら取り組むことができます。「ソニー製品の開発、製造に関わりたい」という思いを抱くスタッフも多いので、こうした業務をSKHで請け負うことは職場環境のやりがい向上にもつながっています。

共創のきっかけはインクルーシブデザインのビジネス活用

──SMSでは、2024年から障がいのあるクリエイターとインクルーシブデザインに取り組む『Creative Vision Project』を実施しています。SKHとの共創が始まった経緯を教えてください。

村上:私たちの活動を知っていただくため、ソニーグループ本社で展示を行なったところ、SKHの皆さんからお声がけいただいたのがきっかけです。

小泉:SKHにはイラストを得意とするスタッフもいて、業務用製品の販促ステッカー、展示ポップなどに添える絵を制作していました。こうした業務との親和性が高いと感じ、デザインにいかせないか、もしくは一緒に何か取り組みができないかと思い、ご連絡させていただきました。

太田:『Creative Vision Project』は、エンタテインメント領域でインクルーシブデザインをどのように活用していくか、どうやってクリエイティブに多様な視点を取り入れるかというコンセプトで始めた取り組みです。そのうえで、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の観点とは異なり、“どうすればビジネスとして発展させることができるか”という視点を強く持っています。

SKHも“福祉ではなくて一流のものを生み出す”という理念から生まれた企業なので、プロジェクトの根幹との親和性を感じました。そこで、2025年8月にSKHのスタッフの方々とインクルーシブアートワークショップを実施し、2社での共創が始まりました。

真剣な表情で話す太田

──SMSのおふたりは、SKHについて以前からご存じでしたか?

太田:いえ、実はほとんど接点がありませんでした。だからこそ、可能性を感じたとも言えます。私たちには、“自分たちが制作に携わるライブやイベントは、本当にインクルーシブだろうか”という課題意識を持っていました。

この先、少子高齢化が進めば、エンタテインメントのマーケットもどんどん様変わりしていきます。例えば、こうした社会では、高齢者がライブに足を運ぶことも増えていくと想定されますが、はたして今のライブ会場、イベント設計は誰もがアクセスしやすいものになっているかという問いがありました。

物事を行なううえで、何らかのやりにくさを抱えている方が多く在籍するSKHの皆さんとこうした課題を一緒に考えることができれば、より多くの人が楽しめるライブやイベントを作れるのではないか。現時点では、まだそこまで到達できていませんが、今後はそうしたワークショップも検討していきたいと思います。

──障がいの有無にかかわらず、より高い価値を生み出す仕事をするという考えをベースに設立したSKH、サステナブルな取り組みには、ビジネスの視点が必要だと考えているSMS。両社の考え方が一致していたわけですね。

太田:はい。私たちは『Creative Vision Project』を、クリエイティブに新たな価値を生み出す手法にしていきたいと考えています。この取り組みから何らかの新しい領域が生まれ、それがビジネスとして大きく育つ。そういった未来を描いていきたいですね。

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3つのワークショップで、障がいのあるスタッフがアートを制作

──2025年8月に行なわれたSKH、SMS合同のインクルーシブアートワークショップの内容を教えてください。

太田:ワークショップを通して障がいのあるクリエイターの方々と一緒にアートワークを作り、私たちのデザイン業務に活用していくプログラムでした。

村上:8月のワークショップでは、3つのプログラムを実施しました。

優しい笑顔で話す村上

ひとつ目は、私たちとともに軽井沢でワークショップを実施している一般社団法人konstが考案した「コエのカタチ」です。まずはボウルに黒いビニールを張り、カラーサンドを撒きます。そのボウルに向かって“ワーッ!”と大きな声を上げると、その振動で砂が動いて模様ができるんです。

男性が黒いビニールに向かって大きな声を出して砂を動かしている

「コエのカタチ」

そして、その模様を写し取ると、声で描いた絵が生まれます。“普段オフィスで働いているときは、大きな声を出す機会というのは限られている。こうしたスタッフに、自分を解放する場を提供したい”という小泉さんのリクエストを受けて、このプログラムを実施しました。

ふたつ目の「ハートビート・アート」は、ソニー・ミュージックスタジオから廃棄予定のスピーカーを提供してもらって実施しました。

参加者はまず自分の脈拍を計測し、そのBPMに合わせたビートをスピーカーで流します。そして、スピーカーのうえに白い紙を置き、インクを染み込ませたスポンジを並べると、振動に合わせてスポンジが転がる。こうして紙に模様が描かれるというワークショップです。

スポンジを振動で動かしている様子

「ハートビート・アート」

3つ目は、SKHの社名にちなんで、“光”を特徴的に捉えた写真を使ったワークショップです。写真からイメージを膨らませ、写真のうえに重ねた透明フィルムに絵の具でカラフルな絵を描いてもらいました。

太田:ワークショップで生まれた作品は、2025年9月に開催された社内イベント「All Sony Festival 2025 ファミリーデー」で活用しました。SKHのスタッフの皆さんが創作したアートをアイロンプリントシールにして、イベントに招待されたソニー社員のお子さんたちにトートバッグを作ってもらいました。お子さんたちにもダイバーシティやインクルージョンを体感してもらう機会となり、意義ある取り組みになったと感じています。

女性と子供が楽しそうに作業をしている

「All Sony Festival 2025 ファミリーデー」の様子

三村:後日、SMSの皆さんに協力してもらって、SKHのスタッフにも自分たちの作品を使ってサコッシュを作ってもらいました。アートを生み出し、皆さんに活用してもらい、自分でも活用する。スタッフがこうした一連の経験ができたことは、とても大きな意義があったと思います。

開催したワークショップへのリアルな感想

──普段からSKHのスタッフの皆さんと接している小泉さん、三村さんは、このワークショップを見てどんな感想を持ちましたか?

小泉:このときは、「コエのカタチ」といったプログラムもあったので、普段あまり声を発しない物静かなスタッフにあえて声をかけて参加してもらいました。最初は大丈夫かなと少し不安もあったのですが、いざ始まってみると普段パソコンに向かっている姿からは想像できないくらい、みんな生き生きとしていましたね。楽しんでいる様子が、こちらにも伝わってきました。

印象に残っているのは、写真に重ねた透明フィルムに自由に絵を描くワークショップです。普段はあまり感情を表に出さないスタッフも、写真からインスピレーションを得て、自分の内面からの声に耳をすませ、工夫しながら思い思いにアートを創作していました。話を聞いてみると、その人なりにテーマもしっかりあって、素晴らしい作品が生まれていましたね。

また、SMSの皆さんがプログラムの設計も工夫してくださって。まったく何もない状態から絵を描くように促しても、おそらく難しかったと思いますが、“写真からイメージを広げよう”というテーマがあると、そこから一気に発想が広がる。そうやって手が動き始めると楽しくなり、もう迷うことはありません。こうした工夫により、スタッフの高い集中力が引き出されていました。

三村:SKHのスタッフは、自分の感情をまっすぐ、強く捉える人が多いと感じています。こうした力を、いかに引き出すかは我々の大きな課題でもありました。今回のようなインクルーシブワークショップは初めての試みだったので、どのようなことがスタッフの負担になるのか、どうすれば安心して表現できるのか、我々も手探りで考えていきましたね。

例えば、事前の案内方法にも工夫を重ねました。ワークショップの約1週間前にしおりを用意して丁寧に説明することで、不安よりもワクワクする気持ちを持ってもらえたようです。ほかにも、会場までのルートをどのように辿るのか、何時に始まり何時に終わるのかといった情報もしっかり伝えて、参加者の心の負担を軽減するようにしました。

──こうした段取りやプログラム構成には、SMSが『Creative Vision Project』の取り組みで培った知見がいきているのではないでしょうか。

村上:そうですね。SMSでは、2024年3月から軽井沢の福祉施設で障がいのあるクリエイターとの共創プロジェクトに取り組んできました。回を重ねるごとに“こういうところに注意したほうがいいな”“こういうときには、こう対処したほうがいいな”と知見が蓄積されてきたため、プログラム構成や使用する道具などには、多少気を配れるようになってきていると思います。

参加者たちの声から見えてくる課題

──参加したSKHのスタッフからは、どんな声が届いていますか?

三村:ワークショップでは、始まる前、実施中、終わったあとの気持ちを表現するアンケートを実施しました。参加前は“ワクワクする”というスタッフが多かったのですが、なかには会場に向かうルートで少し迷ってしまい、気持ちがザワザワしたというスタッフもいましたね。

また、ワークショップ会場では参加者が座る席を決めていなかったのですが、そのことに戸惑う人もいて。ちょっとしたできごとが創作にも影響を及ぼすと思うので、スタッフの要望や困りごとは、一つひとつ丁寧に聞き取りながらワークショップを運営することが、今後の課題だと感じました。

──プログラム内容については、どんな反応がありましたか?

三村:声を出すワークショップ「コエのカタチ」では、“どうやって声を出せばいいかわからない”“ほかの人が声を出しているのを聞いて恥ずかしいと感じた”という人も。ですが、最初は戸惑いを感じていたスタッフも、だんだん気持ちを開放することに慣れていったようです。“大きな声が出せて楽しかった”“自分を思い切り表現できた”という人もいましたし、結果的に“次の機会があればまた挑戦したい”という声が多くなりました。

後編に続く

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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